第59話 怠惰との戦い、そして生きるか死ぬか#5
「交わる縁」――マークベルト命名のノアの魔技である。
その能力は、本来譲渡不可な魔力をノアが受け取ることで、武器を属性強化するというものだ。
故に、「交わる縁・弐式」と命名されたノアのショットガン銃剣は、属性効果として水と氷が扱える。
氷を使うことが多いのは、単純に使い勝手がいいという理由からだ。
ちなみに、「壱式」は無属性魔力強化を受けた単純強化のマグナム銃を指す。
そんなノアの魔技は、能力から見ても威力の高さから見ても切り札と言っていい。
つまり、相手を殺すためだけの全力の攻撃であり、それを耐えられた時点でほぼ詰み。
その性能を誇るノアの最大の一撃が――耐えられた。
マチスの氷の破片から魔力を奪い、一発分の属性魔力を使い切った銃は右手で元の形に戻っている。
もう一度使うには、現状で起きているアストレアから魔力の譲渡してもらうことが必要。
ただし、問題はその隙を作れて、しっかりと当てられるか。
「――っ!」
視線の先、瓦礫となった建物から出てきたリュドルが魔力を全開放した。
それに伴って発生した空気の衝撃と淀みが一斉に充満し、吹き飛ばされそうな勢いに耐えながら、胸の底が気持ち悪くなるという二重苦がノアを襲う。
この魔力と瘴気の濃度、普通なら一発で発狂してもおかしくないレベルだ。
しかし、それでも耐えれているのは、ひとえに手の甲にある模様のおかげだろう。
瘴気に触れた瞬間、それがより一層に輝き、さながら力を与えているように光を放って。
「んだ、ありゃ......?」
腕で庇を作り、正面を見るライカが片眉を上げた。
それはリュドルの周囲を取り巻く緑の瘴気が、竜巻のように上昇気流を起こし、体を包んだからだ。
そして束の間の魔力解放の末に、爆散した竜巻の奥から現れたのは一人の漆黒の戦士。
「罪禍ノ呪鎧・勤速黒手腕」
全体的な容姿は、先ほどと変わらないが所々変化があるリュドルの形態変化。
全体的に黒色で忍者のような装いになり、長かった袖は手が出るようになり、首元には長い黒のマフラーを風に靡かせている。
そして最大の特徴は、やはり背中から生える二つの副腕であろうか。
ただし、その副腕も人間らしい腕というよりかは、ロボットのような装甲に近い。
肩甲骨から肘まで伸びる腕は細く、そこからはまるで太い筒を取り付けたように無骨で大きい。
副腕の拳に至っては、リュドルの頭ほどの大きさがある。
そんな姿になったリュドルの殺意の闇を纏わせた緑の双眸がノアの目を射抜いた。
これがリュドル、否、アビスが本気形態になった時の状態だ。
確かに、アビゲイルのギャリーが言っていたように、同じ「罪禍ノ呪鎧」でも若干違うようだ。
あの時、ギャリーは「元の姿に戻っただけ」と言っていたから。
となれば、これが本来の「罪禍ノ呪鎧」の在り方と言うのだろうか。
「まさかここまで使わされるなんて。一体いつぶりか。
いや、そんな時があったのかもわからないが......もはやどうでもいいことか。面倒だし」
そう言うと、リュドルは首を覆うマフラーの一部で口元を覆った。
瞬間、まるで懐かしさを感じるように瞑目すると、少ししてゆっくり目を開け、
「この姿になってしまったけど、一応兄として最後の忠告はしておく。
お前ら、これ以上無駄に苦しむことを止めて楽になれ。
アビスは核を壊されない限り死ぬことは無し、斬られても、潰されても痛みも無い。
これ以上、お前らが必死に生きる道を探すという面倒なことをしなくて済むんだ」
口元を覆ったまま、リュドルが視線だけを向け、言葉を紡ぐ。
そのあまりに身勝手で一方的な要求に、ノアの眉間にしわが寄った。
一体誰のせいでこんな世界になっているのか、まるで理解してない発言だ。
だからこそ、その言葉に怒りを感じ、額に青筋が走る。
しかし、感情的になれば動きに乱れが出て、相手の思う壺だ。
こんな時こそ冷静に、胸の内に抱えた熱を口から排出させると、
「なら、お前はどうして人間を殺す?」
「ノア......?」
今更、問答するだけも無駄な時間。
それを察しているからこそ、後ろのライカから疑問の声が聞こえた。
しかし、それでもノアは口を開き、
「お前が弟妹を求めているというなら、人間世界には『人類は皆兄弟』って素敵な言葉がある。
要するに、認識次第でお前の目の前にいる俺様達も、この場で倒れた人達も、もうすでに死んでしまった人達も全てお前の弟妹ってことだ。
だが、その弟妹達をお前は殺した。散々可愛がろうとしていた弟妹達を、な」
当然ながら、ノアも何も考えずに、言い返したわけではない。
目の前から感じる圧迫感、とてもじゃないが普通に相手してはいけない存在だ。
だからこそ、愚策でも策を練るための時間が必要だった。
もっとも、リュドルの言葉に何か皮肉でも良いから言い返したい気持ちがなくはなかったが。
(考えろ、考えろ......)
この状況を打破する何か。ひいては、リュドルを倒すための絶対的な策。
まずリュドルの強固な肉体からして生半可な攻撃はダメだ。
先程使った「交わる縁」の超絶破壊力が必要になる。
つまり、それを使うことは絶対であり、当てることも絶対。
なら、確実に当てる策をどうやって作るか。どうやって相手の思惑を搔い潜るか。
思い返せ、これまでのリュドルの動きを、その全てを。
(リュドルの攻撃は全てが一撃必殺に近かったけど、どうして避けれた?
それはリュドルの動きが、直観的に避けられるものが多かったからだ)
脳内で自問自答をし、見落としていそうな解をノアは探す。
直観的に動ける――言い換えれば、相手の動きはフィジカル頼りの単調ということだ。
ライカと違い、洗練された動きが無かったからこそ、ここまでやり合えたし、生き延びられた。
となれば、恐らくそこが付け入る隙になる。ただし、頭は悪く無い。
だから――、
「ライカ、アストレア、二人に少し頼みたいことが――」
「ハハ、ハハハハ!」
ノアが口を開こうとした瞬間、その意識をリュドルの笑い声がかき消す。
初めて聞くような笑い声に、ノアの意識もリュドルに向いてしまった。
すると、リュドルは虚ろな目をノア達に向け、
「全人類が兄弟? それは、それだけは絶対ない。
あんなクソ野郎が、妹を死なせる原因を作ったクソ野郎が兄弟!?
ハハッ、そんなことあってたまるか。あってはいけない。
あってはならない! 絶対に!!」
最後の一言、それが爆発したように大きな声で叫ばれ、衝撃がノアの頬を殴った。
もちろん、空気に当てられただけで痛みはない。
しかし、判断を誤ったとは思わされた。
先の問答の最中、一つだけ策を思いついたノア。
しかし、その代償として、今確実にリュドルの地雷らしきものを踏んだ。
それは目の前の怒気から容易にわかることで。
「ノア、お前は良い弟になれる。そんな弟にオイラも兄として優しくしたいとは思う。
だが、だがな、人間誰しも触れたらいけない領域ってのがあるもんさ。
それを無意識にでも触れてしまったなら、それ相応の罰があるもんだ」
そう言って、さらにリュドルは「だから」と言葉を入れると、
「お前には罰を受けてもらう。同じく反抗的な後ろの二人に対してもな。
弟妹達の悪行を正すのも兄の仕事。行くぞ、弟妹達。この罰は痛いぞ」
瞬間、目の前のリュドルの姿消えた――否、頭が弾かれた。
辛うじて頭と胴体は繋がっているが、顔面に走る衝撃と痛みに目が開けられない。
加えて、空中を浮遊している感覚からして、自分は飛ばされているのだろう。
直後、失速した体が地面に落ち、背中に衝撃を受ける。
水面に弾かれる石のように数度はずみ、それでも無理やり体の向きを変え、転がりながら止まった。
ボタッと地面に落ちる大量の血。上唇から流れ込む血で口が不味い。
どうやら先の攻撃で鼻血が出たようだ。いや、それよりも、
(認識できなかった......)
衝撃的な事実がノアの脳内を支配し、大量の冷や汗が額と背中に流れた。
動きの前兆も何もかも、一切油断していなかった――にもかかわらず、だ。
「二人は......!」
そう呟き、弾かれたように頭を上げ、ノアは瞠目した。
数十メートルの位置、そこには両手でそれぞれライカとアストレアの顔面を掴み、地面に押し付けるリュドルの姿があるではないか。
加えて、副腕の掌はそれぞれ真下に向けられていて、その内に収束させた風を溜め込んでいる。
「させるか!」
「安心しろ、これはお前の分だ」
ノアが動き出そうとしたその時、声が聞こえた時には目の前に居なかった。
それどころか声は背後から聞こえ、その声を受け止めた背中が総毛立つ。
遅れて全身に流れる警報が、背後に死が迫っていることを知らせていた。
もはや後ろを確認することも無く、ノアは四つん這いの姿勢から素早く横っ飛び。
直後、もといた場所には、リュドルの副腕に握られた二つの風が地面に叩きつけられる。
内包した嵐が地面を瞬く間に削り、爆散。
大気が茶色に濁っていき、体が浮くほどの風がノアを襲った。
その風に煽られながら、体がゴロゴロと転がされる。
しかし、それでもなんとか姿勢を正し顔を見上げれば、そこには既にリュドルがいた。
右腕と右副腕が既に振り上げられており、明らかな攻撃モーションである。
ここで取る選択肢は前に出るか、下がるかの二択のみ。
となれば、普通は回避一択だろう。
しかし、ここでノアはあえて前に一歩出ることにした。
明らかな防戦で相手が回避行動を取るなど、攻め手からすればわかりきった予測だ。
だとすれば当然、避けた先でもその動きを狩る攻撃が待っている。
ならば、ここで取るべき選択肢は相手にとって予想外の行動を取ること。
予想外とは何も突拍子もない行動をすればいいという話ではない。
簡単に言えば、相手の予測の逆張りをすればいいだけの話だ。
その行動によって与えるほんの小さな空白の時間。
その時間は、刹那の中の刹那とも言える、無意識領域の認識の誤差でしかない。
しかし、その修正に費やした誤差は、間違いなくノアが作り出した隙だ。
そして、今度はその隙を大きくしていく。
「っ!?」
前に出たことで反撃に出ると見せかけ、咄嗟に後ろに飛んだノア。
これも先の言った逆張りだ。
結果的には元に戻っているが、それでも余計な情報を与えた。
二つの突発的に起きた情報に、目の前のリュドルの目がほんの少し見開く。
その感情の機微、正しくノアが与えた針の穴に糸を通すように生んだ隙だ。
となれば、その隙に向かって今度は銃弾をぶち込む。
左手に魔力を込め、上半身を殴りつけるような二つの拳をノアは受け止める。
左腕に鉄球が叩きつけられたような衝撃、特に拳が大きい副腕の一撃が重く、防御力を上げた左腕がビキビキとヒビが入っている感覚がわかった。
「強化弾」
しかし、後ろに飛んだことで直撃の衝撃を限りなく減らし、同時に左腕一本を犠牲にする覚悟で防御したことで、今のノアは右腕がフリーである。
そのフリーの右腕を向ける先は、当然リュドル。
しかし、狙いは鳩尾の核ではなく、比較的近い位置にある顔面だ。
それもそのはず、ノアの攻撃はリュドルを仕留めるための攻撃ではない。
ほんの僅かでも作った隙を、さらに大きく広げるための作業だ。
「くっ」
ノアが引き金を引くと同時に、リュドルの左手が銃口を塞ぐように掴み、左副腕の手がノアの右手首を掴む。
瞬間、ノアの引き金が引かれた時を同じくして、左腕が上に振り上げられた。
つまり、ノアの右腕が無理やりリュドルによって振り回されたのだ。
それによって、弾丸はリュドルの左手を貫通しながら、斜め上に逸れていく。
「......なんで笑っている?」
「俺様達、弟妹はクソ兄貴より通じあえてるなって思ってな」
リュドルから問いかけられる言葉に、ノアは凶悪的な笑みを浮かべた。
相手がフェイクを仕掛けてきたのなら、当然次は本命の攻撃だと思うだろう。
しかし、それが自分自身をも囮にしたフェイクであるならばどうか。
相手は自分の命を脅かす本命攻撃を防げたことに、一瞬の安堵を覚えるだろう。
その緊張の糸の緩み、そこが牙を突き立てるのが一番の狙い目だ。
故に、自分なんかよりもよっぽど恐ろしい二人の少女が近づいてること、リュドルは気づかない。
「赫弾闘」
空気との摩擦で赤熱させた拳を、残像を作るほどの勢いでライカが叩きつける。
さながら小惑星の衝突のような煌めきが放つ豪拳がリュドルの背中を捉えた。
殴られた衝撃で吹き飛ぶノアの目が見たのは、背中を大きく仰け反らせて地面を叩きつけられるリュドルの姿だ。
「このままやられっぱなしでいられるかよ! なぁ、アストレア!」
「全く持って同意ね――凍てつく小剣」
ライカの頭上で、五つの剣を作り出すアストレア。
その剣から冷気が溢れ出て、その場一体の空気が瞬く間に冷えているのがわかる。
そしてその剣を頭、両手、両足へとそれぞれ杭を打つように差し込むと、
「鷲突き」
自重の落下を足した得意技でもって、頭から落ちるようにアストレアが突きを放った。
まるで天から降り注ぐ一本の白い槍のような攻撃。
当たれば、核を壊せそうな一撃であることには間違いない。
しかし――、
「風磊暴」
瞬間、リュドルを中心として風の半球が形成される。
それは瞬く間に領域を拡大し、その過程で地面を削り瓦礫を球体内で暴れさせた。
竜巻によってめちゃくちゃに振り回されるような瓦礫、それが最初に襲ったのは当然アストレアだ。
めちゃくちゃな乱流に翻弄され、空中で無防備になったアストレアに数多の瓦礫を襲う。
そんな急速に拡大する風は、やがてライカを巻き込み、そのままノアをも巻き込んだ。
身動きの取ることもままならない乱気流の中で、ノア達に出来るのはもはや亀のように縮こまって耐えることのみ。
しかし、そんな時間もすぐに終わる。
風で瓦礫が動き回る中、中心に立つリュドルが平然と立ち上がった。
それから、周囲をぐるぐると回るノア達を見渡し、
「超重力圧縮」
無色透明な巨人の手に真上から叩きつけられるように、ノア達の体が地面に押し付けられた。
呼吸することもままならない超加重に、体がメリメリとめり込んでいく。
「いい加減、懲りたかい?」
そんな時間がいつまでも続くと思った最中、リュドルの一言で息苦しい状況が一瞬にして消えた。
あくまで降伏を促そうとするリュドルの判断により、ギリギリ生かされた感じだ。
「かはっ......こほ」
急に入り込んだ空気にせき込むノア。
意志力のみで仰向けの体を一度うつ伏せに変え、ゆっくりと体を起こす。
それから、軋む体をなんとか立たせると、ゆっくりとライカの方へ歩き出した。
そんなノアの動きに示し合わせたように、ライカもアストレアもボロボロになった体を引きずり、集まっていく。
「まだ諦めないのかい? さすがにこれ以上やると殺しそうで嫌なんだけど」
そう言葉を吐くリュドルの一切無視し、集まったノアがずっと話したかったことを話し始めた。
その作戦内容を聞くと、二人はコクリと頷き、未だ消えぬ闘志をリュドルに向ける。
そして――、
「おいおい、弟妹のやる気ある姿を最後まで見届けろよクソ兄貴」
決して消えない高潔な瞳を向けたノアが、依然変わらぬ不敵の笑みを浮かべた。
******
(あんなにもボロボロにやられて、動くだけでも激痛が走るはず。
なのに、どうしてまだ諦めない.....?)
視線の先にいる未だ不屈の闘志を見せる三人に、リュドルは内心で驚愕する。
同時に、まるで理解不能な生き物を見ているようで、先ほどから妙に気持ち悪かった。
あんなに必死に足掻いている姿が、なんだかとても不愉快だ。
腕を斬っただけで死ぬ。少し頭をぶつけただけで死ぬ。
数分呼吸が出来なくなっただけで死ぬ。
食べ物を数週間取らなかっただけで死ぬ。
睡眠を取らなかっただけで死ぬ。
など、ほんの些細なことが死因に直結するのが人間という生き物だ。
人間という存在の時点で圧倒的に不利なのに、それでも抗う姿勢がわからない。
どうしてそこまで必死になって戦おうとするのか。
散々力の差を見せつけてやったというのに、自傷してまで戦うことに固執する。
かといって、戦闘狂ような雰囲気はない。本当にわからない。
「実に勤勉だ。怠惰のオイラとは違う。
どうして違う? 人間はもっと楽を求める生き物だろ」
そう言葉にした瞬間、妙に口の中が不味く感じた。
理想が過ぎて、現実が見えてなくて、甘ったるくて、ムカムカする味。
まるで自分の吐いた言葉に拒否反応を起こすものがあったように、苛立ちが募る。
「考えるのはよそう。もうアイツらも満身創痍だ。
それに、睡魔の鐘ももうじきレベル4の鐘が鳴る。
先程の自傷で意識がギリギリだったんだ。
もう次は自傷する間もなく眠りにつくだろう。
それまで適当に相手してやればいい」
「怠惰」の王らしく余計な思考を放棄するリュドルは、改めて意識を前に向けた。
すると、呼吸を整えた三人が構えた。相変わらずの不屈の意思。
しかし、それもこれまでだ。今度こそ完璧にその心を叩き折る。
「さぁ、来なよ。残り時間も少ないだろ?」
「言われなくても!」
瞬間、三人の目の前で、水色髪の少女が身の丈を覆う氷の壁を作り上げた。
その直後には、ノアがその氷を砕き割り、氷塊をリュドルに向かって飛ばす。
同時に、その左右から先程の少女と黄色髪の少女がそれぞれ左右から旋回するように移動した。
(無駄なことを)
今更、小手先の技術など、<罪禍ノ呪鎧>まで発動させた自分の身体能力でが通じない。
それどころか、こっちには副腕まであるのだ。
三対一の状況さえ避ければ、どれだけでも時間を稼げる。
ノアが引き金を引いて弾丸を放ち、それがリュドルの眼前まで近づいたところで、両サイドから二人の少女が挟み撃ちするように襲い掛かってきた。
実に、息の合った一斉攻撃だ。
しかしその程度の攻撃は、もう自分の体すら傷つけられないだろう。
それを証明するように、リュドルは二本の腕で横から降り注ぐ弾丸と氷の雨を弾き、二本の副腕で少女二人の攻撃をそれぞれ受け止めた。
「もう諦めなって。疲れることはしたくないでしょ?
正直にラクになれよ。今からでも遅くはないぜ。兄ちゃんは許してやるから」
「ハッ、妹に諦めを諭す兄なんざ論外だ。そんな奴はいらねぇ!」
「残念ながら、妹枠で収まることを認めるのはお姉ちゃんただ一人。
自称兄を名乗る怪物とか気持ち悪いから止めた方がいいわ」
もはや気力や精神力といった肉体以外の何かで抗うように、二人の少女が返答する。
その激情が乗った言葉が本物であることを示すように、振るわれる攻撃もあまりに容赦がない。
いくつもの銀拳と銀閃が輝きを増しながら、乱舞してくるのだ。
それぞれ二本の腕で対処しているが、一体どこからそんな体力が湧いてくるのか。
これでも数多の人間を見てきたが、かなり印象に残る意味が分からない部類だ。
(意味が分からないと言えば、あの手の甲の模様。
どこかで見たことがあるし、見てるだけで凄く不愉快だ)
ノアと少女二人の手の甲に浮かんでいる逆さ天使のような模様。
先の戦闘から気付いていたが、その模様がある手が近づいてくるたびに酷く嫌悪感が湧く。
例えるなら、同族嫌悪にも似た感情で、しかしそれは実にありえない話だ。
「がっ」「うぐっ」
激しく抵抗する二人の首を、顔ごと覆うように副腕でそれぞれ掴むと、その胴体に<嵐塊>による衝撃波を左右の手から放つ。
直後、血反吐を口から吐きながら、少女の二人が左右に飛んでいった。
「――っ!」
そんな様を見ていると、突如として背中を冷たい指先でなぞられたような不快感がリュドルを襲った。
自分の命を脅かす――そう直観でわかる。なぜなら、少し前に食らったのだから。
咄嗟に前に飛ぶと同時に、身を捻ってリュドルは後ろを向く。
背後を取るように真上から振り下ろされたかかと落とし、それを行ったノアの両手には例の銃。
先程、自分が初めて死にかけたと思わされた凍てつく弾丸を放つあの銃だ。
それを両手に構え、ノアが突撃してくる。
(あれだけは何としても躱さなければ!)
普段、かくこともない冷や汗を額に浮かべ、リュドルは正面に手を向ける。
その時、後ろに進んでいたはずの体が、急にガクンと傾き、動かなくなった。
何事かと視線を向ければ、両足が冷気に包まれて凍り付いているではないか。
「あの水色女ァ!」
やられた――そう、リュドルは自分の認識の甘さを自覚する。
自分の脅威となる武器の存在に意識を向けすぎて、その他が疎かになった。
しかしそれでも、今やるべき優先順位は変わらない。
目の前から来るあの銃を避けることの方が先だ。
だから、再び両手に意識を向け――、
「――ぃ!?」
今度は、リュドルの半身が横から衝撃でくの字に曲がる。
すぐさま目線を横に向ければ、黄色髪の少女が思いっきりボディブローしていた。
そのせいで照準も、魔法の意識も一手遅れる。
そして、その一手でノアが迫ってくるのだ。
「うるぁ!」
「くっ!」
突き出された銃剣、その先端にある氷の刃先がリュドルに迫る。
だから、リュドルは面積の広い右副腕を犠牲にするように掌で刃を受け止め、僅かに腕を上げた。
核を狙った一撃であっただろうが、その僅かな軌道逸らしが功を奏す。
同時に放たれた弾丸が顔面の右半分、それから右肩を抉るだけで済んだのだから。
もっとも、右副腕を含め、弾丸が直撃し抉れた個所が凍り付いて再生が酷く遅いが。
とはいえ、不発に終わったノアの首を、右手で掴めば完了だ。
咄嗟だったために少し強く掴んだせいで、手の内側で何かが爆ぜた。
恐らく、首につけていた機械だろう。
死なれては困るので、魔力を流し簡易的に治癒する。
(これで終わったはず......なのになんだこの違和感?)
完全に力を使い果たし、意識はあるが動けないノアを見ながら、リュドルが眉根を寄せた。
命を刈り取るはずだったノアの攻撃は、紙一重の所で防いだはずだ。
しかし、心臓が今だザワついて仕方ないのだ。
そう、まるで命を脅かす脅威はまだ消え去ってないと言わんばかりに。
「まさか!?」
そう言葉を吐き出し、リュドルが視線を向けたのはノアの武器。
すると案の定、その銃の口が一つしかない。
最初に食らった時は、二つの口があるショットガンだったはずなのに。
なけなし魔力で作ったからか、いや、違う。これは――、
「これで終わらせる」
「――なっ!?」
聞こえた声に横を向けば、左手側に銃を構える黄色髪の少女の姿があった。
その両手に握られているのは、白くて普通の銃にしては少し大きい。
そして、何よりも確実に命を脅かすとわかる圧を放っていた。
そう、先ほどノアが持っていた銃と同じ類のものだ。
「仲間ごと撃ち殺す気か!?」
「そんなんじゃ、ノアは死なねぇよ」
「チッ、死んでたまるかぁ!」
咄嗟に、左手を向け、その掌から風の球体を生み出し――左腕が弾かれた。
その左腕に刺さっているのはレイピア、水色髪の少女が投げた一撃だ。
それが決定打となり、黄色髪の少女の引き金が引かれ、一発の弾丸が放たれる。
<天罰を下す裁きの弾丸>――纏う豪風すら置き去りにする絶命の一撃。
一瞬の判断ミスも許されない刹那で、リュドルは残りの左副腕を差し向けた。
その弾丸が掌に着弾した瞬間、全ての力を腕に込め、上げることを意識する。
同時に<超重力圧縮>も発動させ、弾丸の進行方向とは対になる重力を与えた。
それでほんの少しでもいいから、弾丸の軌道が曲がることを祈って。
ここまで生に執着するなど、とても「怠惰」にあるまじき行為だ。
それは実に理解しているし、しかしそれでも今この瞬間だけは死にたくないと思った。
そして――ライカが放った一発の弾丸は天まで駆け抜ける。
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