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人類の脅威であるアビスを殲滅するために、僕はアビス王と契約する~信用させて、キミを殺す~  作者: 夜月紅輝
第2章 怠惰の罪、それは愚か者の証

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第58話 怠惰との戦い、そして生きるか死ぬか#4

 アリューゼとマチスを死の一撃の直線、ノアは超加重によって動けなかった。

 しかし、その一撃を防いでくれた二人の頼もしい少女が目の間に現れる。


 一人は、外ハネした黄色いポニーテーるに、青い瞳を宿した高圧的な目つきが特徴的な少女――ライカ=オルガノス。


 もう一人は、水色の髪のストレートに白いカチューシャをつけ、深蒼の瞳をした少女――アストレア=イーマルシャーク。


 リュドルの所へ向かう前に、アビゲイルとなったマークベルトとクルーエルを倒すために、途中で別れた二人だ。

 しかし、その二人がいるということは――、


「ライカ......アストレア......」


 正面に見える少女二人の背中を見て、ノアが喉が小さく震える。

 瞬間、か細いような声で紡がれた言葉に、目の前の二人が振り返った。

 青と深蒼という似て非なる双眸に見つめられ、ノアの心に力強い熱が宿る。

 そんなノアの一方で、少しバツが悪そうな表所でライカは近づき、


「ノア、大丈夫か?」


「うん、大丈夫だよ。間一髪、二人のおかげで助かった」


 ライカから差し出された手を握ると、ノアはその手を握り、そのまま引っ張り起こしてもらう。

 するとその時、ライカの差し出してくれた銀の右手の甲に不思議な模様が浮かんでることに気付いた。


「これは......」


「あぁ、これか。なんかよくわかんねぇけど、右手に現れたんだ。

 しかもこれ、ガントレットじゃなくてアタシ自身の右手にあるのを貫通して表示されるっぽい感じで。

 確か、アストレアにも似たのが出てるはずだぜ」


 そうライカが言うと、その言葉にコクリと頷いてアストレアが答える。

 そして、そのままノアとの距離を縮めながら、


「最初は侵食領域の効果かと思ったけど、どうにもそんな感じでもないようだわ。

 それにこの模様......特魔隊の旗と同じ。

 ただ、向きが見る側からして逆さなのは少し気になるけど」


 とのことらしい。そのことにノアは首を傾げた。

 どうやら自分だけに現れた模様じゃないことに、増々疑問が募るばかりだ。


 正直、こういった疑問はすぐにで調べて解決したい質だが、あいにくそんな時間はない。

 そのことはライカもアストレアもわかっているようで、アストレアが率先して差し迫った状況に触れた。


「それで、今の状況をザックリ教えてくれる?」


「今、この状況で動けるのは、俺様を含めアリューゼさんとマチスさんだけだ。

 他の人達は、大半の仲間は死んでしまったけど、一部生死不明かな。確かめる暇も無かった」


「なるほど。最悪な状況は想定してたつもりだけど、いざ聞くとかなり辛い戦況ね」


 一瞬、「俺様」と言った瞬間に二人がピクッと反応した気がするが、それを無視して話を続ければ、内容を聞き終えたアストレアの視線がリュドルの方へ振り返った。


 先程の奇襲を、攻撃を中断することでガードして防いだリュドルが少し面倒くさそうに、されど口元だけ見れば嬉しそうという複雑な表情で見返している。


 そんなリュドルの一挙手一投足に注意しながら、ノアはわかっていながらも確かめたかった。

 それは当然、二人が無事に自分達の恩人を弔えたのかどうかだ。

 きっと聞くこと自体野暮なのはわかっている。


 しかし、この先は少しの油断が命取りになる戦いだ。

 もし、少しで二人の中に憂いや後悔があるのであれば、それが死因になりかねない。

 それを避けるためにも、ノア自身の心の整理のためにも必要な儀式だった。

 だから――、


「......二人ともしっかり話せた?」


 どこか上から目線のような言葉になってしまったのは、口調のせいだ。

 意識的に丁寧な言葉を出すように努めているが、時折口調の粗さが漏れてしまう。

 しかし、そんな口調に二人が気にすることなく、質問の意図を理解したように頷くと、


「あぁ、話せた。つっても、アタシとあのバカ上司の場合、言いたいことは普段から言ってるしな。

 最後の最後までバカやってて......でも、強くて、変わらず尊敬できる上司だったよ」


「私も話せたわ。まさかお姉ちゃんがあそこまでケンカしたがってたのは知らなかったけど。

 けれど、ちゃんとお別れは出来た。だから、これ以上心配しなくていい」


「そっか。なら、良かった。それじゃ、『怠惰』のアビス王――リュドル=アケディアについて、簡単にわかったことを情報共有しておく」


 それから、ノアはこれまでの戦闘でわかったことを簡潔に全て話した。

 圧倒的な力と速度、反射スピードは当然のこと、使う魔技の属性と特殊魔技の存在。

 また、リュドルの背中に背負っている<悪辣天輪>の効果についても。


「――なるほど。どうりで鐘の音が聞こえた瞬間、気が付けば地面に倒れてたわけだ」


「寝るのは好きだし、今だって寝たくなるほど疲れてはいるけど、こんな戦場で寝れるほど神経は図太くないはずだったから......ようやく、その現象に腑に落ちたわ」


「ってこたぁ、もうすぐ三発目が来るってことか」


 ライカの言葉を聞き、ノアは目の前の二人と顔を見合わせる。

 直後、目線だけで意思疎通を躱すようにして、やがて同時に頷いた。


 そして、リュドルの方へと改めて視線を向ける。

 相変わらず超絶猫背で立つリュドルに対し、最初に声をかけたのはライカだ。


「よぉ、待たせて悪かったな。

 にしても、こっちが話してる最中でも襲ってこないってのは随分律儀なんだな」


「オイラは悪党じゃないんでね。そんな卑怯な真似はしない。

 ましてや、これでも王の一角を担ってるんだ。これぐらいの余裕がなきゃ」


「そう。それは随分と殊勝な精神ね。

 その精神を讃えて、あなたを確実に殺してあげることにしてあげるわ。

 さっきから浮かべているそのニヤニヤした顔も二度と見ないように済むように」


「ニヤニヤ? あぁ、これか......これは嬉しいから出てしまってんだなぁ、たぶん。

 なんたってオイラの鐘の音を聞いてまだ二人も生き残りが確認できた。

 加えて、先ほどの二人と違って未だ魔力の迸り、衰えが小さい。

 これはなんとも......妹のし甲斐があるなぁと思ってしまってな」


 薄ら笑いを浮かべていた口元を、ぐにゃりと弓なりに歪めるリュドル。

 その喜色に満ちた気色の悪い表情に、ノアも、傍らの二人の少女の眉根も強く中央に寄った。

 そしてこれ以上の会話は不要とばかりに、ライカが拳を突き合わせ、


「行くぞ、お前ら。とっとと潰すぞ」


「賛成ね」


「了解」


 一拍、阿吽の呼吸で同時に動き出し、すぐさまリュドルとの彼我の距離を埋める。

 リュドルの正面にノア、その左右をライカとアストレアが挟むように三対一の構図を作ると、すぐさまノアが攻撃を仕掛け――


引愚空圧(イングラム)


「――ぃ!」


 瞬間、ノアだけが引っ張られるように、肉体が加速する。

 いや、違う。これが重力の魔技だとすれば、横に「落ちている」と言うべきか。

 通常の重力もあるために地に足が着くが、それでも横向きの引力の方が強い。足が流される。

 であるならば――、


「ほぅ」


 地面に片足を埋めると、その一瞬の行動にリュドルが感心したように声を漏らした。

 その年長者が年下を見るような柔らかい目つきに対し、ノアはすかさず銃口を向ける。


 引力が働いているのは何も不利ばかりではないはずだ。

 ノアが放つ弾丸も、魔力も、あらゆるものも重力の影響を受けている。

 その引力を利用すれば、ノアの弾丸も重力加速度を得てさらに速度が増す。


 引き金を左右で二回ずつ、計四発の弾丸が横向きの重力に流されて落ちた。

 その弾丸を風を纏わせた手刀でリュドルが素早く斬り払えば、その両脇からライカとアストレアが迫る。


 互いに互いを知る息の合った二人の挟み撃ちの連携攻撃が炸裂。

 まるで腕が複数あるかのような猛打に、リュドルが右腕と左腕それぞれで対処するも、捌ききれない攻撃を肉体で受け始めた。


 先程のオルクス並みかそれ以上の動きのキレを見せるライカとアストレアのおかげで、また人数も五人になったことで、四人で戦っていた時よりもほんの少しばかり余裕が出て、ノアも自由に動くことが出来る。


「おら、どうした! 先程の余裕はよ!」


「このまま押し切る!」


「なるほどな、二人とも気が強いタイプだな」


 瞬間、スッと左右の掌がライカとアストレアの胴体を捉えた。

 その直後には、陽炎のように揺らめく大気が二人の肉体を貫通する。

 あれは先程ノアも食らった<嵐塊>による防御無視の貫通攻撃だ。


 二人の懸命な攻撃ですらもリュドルの命には届いていない。

 しかし、それはまだ想定内だ。

 オルクスがいた時だって二人がかりではダメだった。

 だが、今は三人目である自分もいる。一気に攻めろ。


分裂弾ディヴィジョンバレット


 すぐさま地面の足を抜き、リュドルに向かって銃口から弾丸を放つ。

 武器の効果から出来るだけ弾数を撃ち、計八発の弾丸が空を駆け抜けた。

 つまり、分裂の効果も合わせると、最大十六発がリュドルの肉体に迫る。


斥愚空圧(ハングラム)


 しかし、その一人一斉掃射の攻撃は、重力の向きが切り替わったことで防がれた。

 弾丸が真上に向かって放たれたと同じで、進行方向に対して重力が速度を低下させるのだ。


 加えて、その横向きの重力は、自然にかかる重力よりもはるかに大きい。

 故に、弾丸はまるで空気の壁にぶちあったように一定距離から動かなくなり、弾丸の魔力が尽きて霧散した。


「逃がすか」


 一斉攻撃から逃れ、後ろに下がって距離を取ろうとするリュドルをノアはすぐさま追いかける。

 左右に吹き飛ぶライカとアストレアに目をやる余裕もなく、ただ一点――目の前に向かって高速の飛び蹴りを放った。


「――っ」


 その攻撃に対し、リュドルがすぐさま迎撃しようと腕を動かす。

 両腕に風を纏わせ、それを大きく左右に開き、袈裟斬りに振――


「っ!?」


 ――ろうとした直前、両足が突如として凍り付き、両腕が落下してきた飛来物によって切断される。

 その事実に、瞠目したリュドルが息を詰めたまま視線を地面に向ければ、突き抜けたのは水の矢だ。


 一瞬の油断、注意を左右から逸らしたツケが即座にリュドルの肉体に支払わされた。

 彼の王がそれを理解した時にはもう遅い。

 目の前で、自身が弾丸のようになったノアが迫る。


「あぁ、少しウザいなぁ!」


 この戦闘が始まって、初めて漏らしたであろうリュドルの苦言。

 その耳心地のよいセリフに、ノアは口元を邪悪に歪めながら、蹴りをリュドルの鳩尾に入れた。

 恐らく、初めて与えただろう確実な攻撃だ。


「らああああぁぁぁぁ!」


 さながら、特撮テレビのワンシーンを再現した一撃が、リュドルの核を穿つ。

 しかし、リュドル自身も狙われる位置がわかっていたように、魔力で肉体を強化していて核に近いところほどガードが固い。


 それでも、シェナルークによって強化されたノアの蹴りである。

 やがて、氷漬けにされていたリュドルの下半身を引き千切り、上半身と一緒に空中を疾走し始めた。


「もうこれ以上は兄の面目が立たないから、少し大人しくしてもらおうか」


「くっ!?」


 低空飛行の最中、リュドルの再生した両手がノアの足を掴んだ。

 同時に、再生した下半身が地面にかかとをつけ、地面をガリガリと削りながら、ノアの作った勢いを殺すようにブレーキをかける。


 相変わらず、散々ダメージを与えたはずなのに再生速度が尋常じゃなく速い。

 とはいえ、リュドルの方から掴んでくれるなら実に好都合だ。


 ほぼゼロ距離、だとすればそれは真にこの武器が輝く時。

 リュドルの下半身を覆っていた氷が剥がれた際に、空中で掴んだ氷を左手で握ると、


交わる縁(クロスフェイト)・弐式」


 瞬間、ノアは左手を胸の前に突き出し、その手前に右手をセットした。

 両手の中で眩く輝く銃が変形し、重心が鋭く伸びる。


 銃口は二つになり、その銃口の前には一つの剣が突き出る特殊な銃形態に。

 元の形がマグナムリボルバーだとすれば、今の形はショットガン銃剣である。

 それを始めて目にするリュドルの眠たげな眼が初めて大きく見開かれた。


「な、なんだそれは......!? それを撃つ気か!?」


 今までにないリュドルの動揺した声が、ノアの鼓膜を打つ。

 そしてその反応が、銃を構えるノアに確信させた――これはアビス王を殺せる武器であると。

 だからこそ、外さないようにしっかりと狙いを定め、


拡散する凍てつく雹弾スプレッズヘイルブレッド


 二つの銃口から発射される二つの弾丸。

 それらはすぐさま空中で拡散し、細かい白い冷気を纏う凶弾がリュドルの胴体に差し迫った。

 どう足搔いても逃げられない距離から放たれた一撃、それでもリュドルは抵抗し、


斥愚空圧(ハングラム)


 衝撃――後に、爆発。その刹那の出来事を言い表すならそんな感じだ。

 咄嗟に重力を弾丸の向きと逆にさせるが、殺しきれなかった弾がリュドルの胴体で弾け、凍らせた。


 黒い小さな肉体が正しく砲弾のような速度で大気に掻き消え、丁字路に突き当たるとそのまま十字路を作るように建物を壊して新たな道を開通させていく。


 また、その衝撃でノアも逆方向へ大きく飛ばされる、否、「落ちる」。

 全力で放たれたリュドルの防衛行動だったのだろう。

 地面に足が着かないことが災いして、ノアは落ちる、落ちる、どこまでも。


 まるで奈落に落ちているような、体感数分間の空中浮遊。

 いつまでも尽くだろうと思われたそれは、突如として来た背中からの衝撃で終わりを迎えた。


 落ち続けるノアを受け止めたのは、ライカとアストレアだ。

 二人がかりで衝撃を受け止め、数メートルと引きずられていく。

 それでも二人は決してノアを放さず、やがて横向きの重力圏から逃れて止まった。


「ノア、ナイスファイトだ」


「えぇ、良い判断だったと思うわ」


「ありがとう、二人とも。二つの意味で」


 自分の行動に称賛してくれた声と、受け止めてくれたことに対する二つの感謝を述べると、ノアは地面に降ろしてもらった。


「ハァハァ.......いい加減、倒れてくれ」


 渾身の一撃を放ち、大きく肩を上下させながらノアは苦言を吐いた。

 ふと漏れてしまった言葉、心の内に抱えた真の弱音とも言えるかもしれない。

 しかし実際それぐらいの戦闘を繰り返し、満身創痍などとうの昔に通り過ぎている。

 ともあれ――、


(あの銃の攻撃は逃れようも無かった。それに、直撃した瞬間を確かに見た)


 数多の氷の散弾がリュドルに直撃し、鳩尾から肉体をぶち抜いて触れた瞬間から凍っていた。

 それは依然戦ったアビゲイルのギャリーにトドメを刺した一撃と同じで、そうであるならば、この戦いにも決着がついたことを示すが、


(まだ、心の不安が拭えない。目の前で倒したのを見てない以上、油断するな)


 達人であればあるほど、一瞬の油断が命取りと聞く。

 特に、相手を倒したと思った瞬間が一番狙われるというのは、もはや定石と言っていいだろう。

 もちろん、達人と自覚できるほど、自分を強いと思ったことはないが。


――ゴーン♪


「――っ!?」


 三度目の鐘の音が周囲に響き渡る。やはりまだ仕留めきれてなかったようだ。

 まるで魂に訴えかけるような心地よい振動に、それ以上のことが考えられなくなる。


 まだ戦闘が続く場合のことを考えていたいのに、それが透明になって溶けていってしまうのだ。

 瞼が重たくなり、段々と狭くなる視界。見えている世界も掠れてぼやけていく。


「――ぁ」


 なんとか目を開けようとするが、いつの間にか目を閉じてる感覚に抗えない。

 そしてついに体に力が入らなくなり、特に足の踏ん張りが抜け、ガクッと視線が下がった。

 なんとか膝立ちで堪えているが、それでもいつまで持つのか。


(不味い、落ちる......)


 上半身の維持もままならなくなり、全身がグラグラと揺れ始めた。

 まるでこれから意識を失う前兆のような感覚で、わかっているのに抵抗できないのが奇妙な感覚だ。


 ギリギリまで抗うことを示すように、ノアは顔を上げる。

 それから、右手に持つ元の形に戻った銃の口を自分の左手に向けた。


 銃身もカタカタと震え、右手の人差し指が引き金にひっかけられているかわからない。

 それでも、一瞬の覚醒の合間に銃口を左の掌に当て――引き金を引いた。


「ああああぁぁぁぁ!」


 正しく眠気を拭け飛ばす激痛が、ノアの脳天を突き抜ける。

 途端に左手が燃えるように熱くなり、痺れや痛みやらで震える左手を右手で必死に抑えた。

 しかし、それは痛みを抑えるためではない。痛みを継続させるためだ。


 右手の親指を、穴の開いた左手に押し付け、自ら肉をグリグリと抉る。

 すると当然、駆け抜ける鋭い痛みに、ノアは歯を食いしばって耐え続けた。

 自分の体に巡る、全身を覆い尽くす眠気が全て晴れるまで繰り返し、繰り返し。


「あっ、か、ああぁ......」


 喘ぐように息を漏らし、ノアの瞳が完全にクリアになる。

 不透明度が百パーセントになっていた思考もゼロパーセントに変わった。


「た、耐えたぁ......」


 体のフワフワとした感じが、疲労を伴う脱力に変わり、ノアの口から大きく息が漏れる。

 もう正直ダメだと思っていた。それぐらいに辛く、耐え難く、優しい眠気。

 抗わなければすぐさま楽になれる魂の救済が、思考を甘く蕩けさせていた。


 それを自らの意志力のみで抗わなければいけない――それは、水も尽きて歩き回った果てに辿り着いたオアシスを自ら放棄することに等しく、そこには耐え難い苦痛が生じる。


 しかし、そこまでしなければ、目の前の存在は殺せない。

 それだけの力の差があるのだ。もはや何度思い知らされた事実だろうか。

 もっとも、そこまでしてようやく小さな勝機が見えるかどうかというクソゲー仕様であるが。


「二人は.......」


 瞬間、背後の気配を思い出し、ノアはすぐに振り返り――目を見開く。

 そこにはノアの行動と同じくして、左手の薬指をつき指させるライカと、レイピアの刀身を左手で握りしめるアストレアの姿があった。


「ライカ、アストレア......」


「ノア......へへ、耐えたぜ」


「でも、さすがに次は厳しそう。今耐えれたのが奇跡って感じ」


 大量に冷や汗をかき、若干青ざめたような顔色の二人が苦し気に笑みを浮かべる。

 そのうそぶいてまでも見せた表情に、ノアの心が再び強く響いた。

 力が貰えた気がした。勝手にそう感じてるだけかもしれない。

 でも、それでいい。それがいい。それでリュドルが倒せるなら。


「あ~、もうさすがに面倒になってきたな。

 さすがに三度目まで耐えられるとは思わないじゃん。

 あの二人みたいに、おねんねしてくれたら楽だったのに」


 声が聞こえた方向へ、三人は視線を向けた。

 すると、胸辺り氷を残したまま少しずつ再生させて歩いてくるリュドルが、「だから」と言葉を続ける。


「もうその二人も迎えて、お前ら三人をこのまま生きて捉えることにする。

 ここからは正真正銘本気だ。少し手荒になるから、死ぬんじゃねぇぞ?」


 そう言って、リュドルが全魔力を解放、第三形態を見せ始めた。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)


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