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人類の脅威であるアビスを殲滅するために、僕はアビス王と契約する~信用させて、キミを殺す~  作者: 夜月紅輝
第2章 怠惰の罪、それは愚か者の証

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第57話 怠惰との戦い、そして生きるか死ぬか#3

 まるで頬を殴られたような衝撃的な光景。

 一瞬の睡魔に合間に、起きていた惨劇にノアは唖然とする。

 視線の先、数メートルの位置でオルクスがリュドルに刺された。


 鳩尾から背中にかけて、リュドルの貫通した手刀が見える。

 急所を一突き、確かめるまでも無く致命傷だ。

 その事実に、喉がわなわなと震え、ノアのがなり声にも似た叫びが飛ぶ。


「オルクスさん!」


「お、レベル2の睡魔に耐えたのか。さすが見込みある弟だ。

 しかし、こっちはさすがに耐えきれなかったようだな。

 死にかけなのか、眠いのかわからない顔をしている」


 そう言って、腕を引き抜いたリュドルは、掴んでいたオルクスをおざなりに投げ飛ばす。

 その軌道を追ってノアは走り出し、地面を転がるオルクスを抱えた。


「オルクスさん......!」


「ノアだっけか......悪い、しくじった」


「いえ、そんなことは.....」


 現に、オルクスはリュドルをあと一歩の所まで追い詰めていた。

 しかし、それでも届かなかったのは、リュドルの<悪辣天輪>の効果のせいだ。

 あの強制催眠がなければ、間違いなくオルクスは核を貫いていただろう。


 そんなことを述べようとしたノアに対し、オルクスはノアの口に手をかざした。

 それから逆の手で、貫かれた鳩尾に触れさせると、そこに氷を発生させる。

 以前、リュドルにお腹を貫かれたクルーエルがやった苦肉の止血法だ。


「くあああぁぁぁぁ!」


 瞬間、想像を絶する痛みが襲ったようで、オルクスの口から断末魔にも似た叫び声が上がる。


 その姿にノアは瞠目したまま動けずにいると、オルクスはそのまま痛みを噛み殺すように口を閉じ、目元に涙を浮かべながら止血を続行。

 それから止血を終えると、ダラリと腕を力なく地面に降ろした。


「お、オルクスさん......何を......」


「ハァハァ、ガハッ......やっぱ代表はさすがだなぁ。

 咄嗟に真似て見たけど、想像以上の痛みだ。痛すぎて泣けてくる。

 にもかかわらず、代表は泣きもしなければ、叫び声一つ上げなかった」


「オルクスさん......」


「ノア、俺のことは放っておけ。止血しても上手く動ける気がしない。

 このまま俺を気にしていれば、俺はお前を殺してしまう。だから――」


 「放っておけ」――そう最後までオルクスは言葉にしなかった。

 それはあえてなのか、言う体力が無くなったのかわからない。

 どちらにせよ、オルクスの言うことは正しい。


 現状、オルクスの離脱によって勝率はまた格段と下がった。

 さっきの四人の攻撃でギリギリだったのだ。

 それこそ、前線はオルクスと二人でやれていたからギリ補えていたと言っていい。

 そんな状態からのオルクスの離脱、ノアに二人分の活躍が出来るだろうか


(弱気になるな。心で負けてしまったら今度こそ終わりだぞ)


 ギリギリと折れそうになる信念を、ノアはなんとか自力で補強する。

 しかし、その補強も一時しのぎに等しく、これ以上戦力が落ちるようなら危ういかもしれない。


 最悪、一人になったとしても戦う気概はある。

 しかし、精神論だけで現実的な戦力差は語れない。

 理想で盲目になった瞳では、現実的に強いアビス王という存在には勝てない。

 だからこそ、これ以上の戦力の低下はさせてはいけない。


「......わかりました」


 眉根を強く寄せ、眉間に深くしわを刻む。

 自分と相手に怒りを抱きながら、ノアはオルクスの体を抱き上げた。

 近くの建物に移動すると、壁を背もたれにさせるようにオルクスを座らせる。


「で、まだやるかい? オイラは全然構わないよ、弟妹の相手をするのは好きだからね。

 だけど、お前が耐えてもあっちはキツいんじゃないかな」


 そう話しかけてくるリュドルの視線を追い、ノアも視線を向ける。

 遠くに見えたのは遠距離武器の二人であるアリューゼとマチスだ。


 その二人も先程の鐘の音の影響を受け、倒れていたようで今必死に立ち上がろうと、地面を腕に立て体を動かしていた。


「あの二人、オイラの悪辣天輪を壊そうと必死だったよ。

 実際、その判断は間違ってないし、近接でバチバチにやりあってたお前ら二人を邪魔しないような援護射撃だとしても正解と言えるだろう。実際、一つ壊されたしね」


 リュドルのその言葉を聞き、ノアは再び視線を動かす。

 立ち尽くすリュドルの悪辣天輪にあった五つの草食動物の頭蓋は、確かに一つ減っていた。


 建物でやり合っていた時にはあった気がするから、恐らく腕を破壊する時についでに一つ破壊したのだろう。

 そして、それからわかる極めつけの情報は、破壊された部位が再生していないこと。


 悪辣天輪はアビスの肉体とは違い再生不可であるようだ。

 つまり、「攻撃を阻害できると」いう破壊するメリットがあるのは嬉しい誤算だ。

 もっとも、破壊されているのは既に口を閉ざし役目を終えた頭蓋だが。

 加えて、問題があるとすれば――、


(破壊まで残り六分もない)


 リュドルの悪辣天輪の効果は二分ごとの強制催眠。

 そして本人曰く、最後の鐘の音を聞いてしまったら永眠してしまうとのことだ。


 つまり、それまでにアビス王を倒すか、悪辣天輪を破壊するかのどちらかを果たさなければ、ノア達に生きる術は残されていない。


 加えて、それはこれ以上の強制催眠を食らって意識を保てている前提の話だ。

 先程まででノアですら意識を保っていられる限界であった。

 それをさらに二回――とてもじゃないが、可能とは思えない。


「馬鹿か、俺様は。今更、選択肢なんてねぇだろうが」


 迷っている間にも時間は残酷に過ぎていく。

 だとすれば、迷っている暇があれば手を動かせ。思考は動きながらでも出来る。

 脳も筋肉も意識も全て焼け切れるほど使い果たしてでもしなければ、リュドルには勝てない。


「どうやらまだやるみたいだね。いいよ、やろうか。

 弟妹のやりたいことに付き合ってやるのが、兄ちゃんってもんだしな」


「だから、勝手に弟に仕立て上げんなってんだろうが!」


 激情を力に変換し、ノアは地面を蹴って走り出した。

 それに対し、リュドルはただ迎え撃つように立ち尽くし、激突する。


 銃と格闘術を合わせたガン=カタでもって激しく戦いを仕掛けるノア。

 リュドルに躱され弾かれた弾丸が幾発も宙に舞い、手当たり次第に建物に巨大な穴を開けた。


 また踏み込んだ足の衝撃でただでさえボロボロの地面はさらに細かくだけ、衝撃波で散り散りになる。


 そんなノアに対し、リュドルもまた殺意の手刀と、悪意の風でもって応戦した。

 その二人の動き回り、立ち回りによって瞬く間にその場一体が塵芥に帰す。


 激情が力のうねりになったノアという虎と、ただ悪意と殺戮のままに力を振りかざすリュドルという龍という力と力のぶつかり合いは、猛り、爆ぜ、穿ち、裂き、潰し、粉砕し、斬り刻み、消滅させていく。


「ハハハ、まだここまでやれるのか!

 凄いな、お前をちゃんと弟に出来たら、絶対に死なない弟が完成するな!

 素晴らしい! 素晴らしいぞ! 兄ちゃんは怠惰だからな、実に誇らしい!」


「だから、何度も言わせるな! 俺様はお前の弟になんかならない!」


「いいや、するね! 絶対に、確実に!

 オイラはお前を殺さない。生きたまま確実に捉える。そう決めた!」


 衝撃が炸裂し、ノアの体が思いっきり吹き飛ぶ。

 体が影のように変化し、大気の壁を突き破って疾走する。


 身動きすら取ることも難しい勢いのまま、斜めの入射角から地面に衝突。

 爆散して舞い上がった粉塵を纏いながら、ノアの体が水切りのように跳ねて転がった。


「カハッ」


 あまりの衝撃に肺の中にあった空気が全て抜けきり、一時的に呼吸の仕方がわからなくなった。

 飛びかけた意識を無理やり戻しても、痙攣した肺によって正常な呼吸が出来ない。


「不味い......」


 掠れた声で呟きつつ、無理やり体を起こして正面を見るノア。

 案の定、そこにはリュドルの姿は無かった。


 先の言葉通り、ノアは生かされることになったのだ。

 となれば、まだその判断の途上にいるアリューゼとマチスはリュドルと戦うことを強いられる。


 遠距離専門であるあの二人が近接戦に対して何も対応していないとは考えずらいが、それでも相手は規格外の存在であり、その常識で当てはめて戦えば間違いなく死ぬだろう。


 それを防ぐためには、意味不明な理由で死ぬことが回避された自分が全力で邪魔するしかない。

 先程のオルクスの二の舞にさせないためにも、こんな場所で立ち止まっていられないのだ。


 瞬間、少し遠くの方で爆発音が聞こえ、近くの建物頭上を越えるように水と氷が飛沫と破片を空中にまき散らしていく。

 その光景を見て、ノアは無理やり空気を大きく吸い込むと、立ち上がった足で地面を蹴った。


 建物の屋上を伝って移動し、眼下に見えてきたのは背中合わせになって戦うアリューゼとマチスの姿だ。


 互いに氷の矢、水の波動、氷の剣山、水の龍といった数多の攻撃が四方八方に飛び交い、その周囲を黒い輪っかが囲っていた。


 いや、違う。あの輪っかは高速移動し続けるリュドルだ。

 よく見れば、その輪っかから中心にいる二人に向かって死の斬撃が放たれ続けている。


 たった一人の波状攻撃に、アリューゼとマチスは防戦一方であり、攻撃に転じれていない。

 このままではジリ貧であることは間違いなく、そうなれば勝利も絶望的。


「絶対に阻止しないと!」


 両手の銃を握りしめ、一気に屋上から斜め下に向かって落ちた。

 周回し続ける影のタイミングを見極め、一気に飛び蹴りで強襲を仕掛ける。


「ノアさん!」「ノア君!」


 アリューゼとマチスの声を背後に捉えながら、足先にいる片腕で防いだリュドルを見た。

 そのまま一度空中を宙返りしながら距離を取ると、すぐさま銃を構え――引き金を引く。


 その攻撃はリュドルの両手によって防がれるが、構わず引き金を引きつづけ、同時に接近。

 自分の腕のリーチまで間合いを詰めると、再び格闘術でもって、ノアは攻撃をしかけた。


「ノア君、しゃがんで!」


 ノアの拳も、蹴りも、弾丸もリュドルには何一つ届いていない。

 しかし、それでも先程とは違って相手は足を止めている。

 となれば、それは遠距離攻撃主体の隊員からすれば的も同じだ。


 アリューゼの合図に、リュドルに攻撃を続けていたノアがその場にしゃがり込む。

 瞬間、ノアの頭上を通り抜けるように氷の矢が飛翔し、リュドルの顔面に迫った。


「思ったより速いな」


 目の前からそう呟きが聞こえた直後、リュドルの頭が弾かれた。

 一瞬、頭が砕け散ったかと思ったが――違う、砕けた頭の断片が無い。


(防がれた)


 そう判断すると、ノアはすぐさま正面に向かって銃口を向けた。

 そしてその判断は正しく、リュドルの顔面を射抜いたと思われた氷の矢は、リュドルが口で噛んで受け止められている。

 直後、氷の矢が噛み砕かれ、破片がキラキラと空中を舞っていく。


「うん、冷た。久々の水分補給だ」


「だったら、もっと飲ませてあげる!」


「こっちは鉛玉だけどな!」


 リュドルにアリューゼの矢の攻撃は通用しなかった。

 しかし、殺しきれなかった衝撃によってリュドルは死に体だ。

 その一瞬の間隙を狙うように、リュドルの肉体を大量の水の針が包み込む。

 同時に、正面からはノアの構える銃の口から二発の<強化弾>が放たれた。


 逃げ場の無い包囲攻撃に対し、リュドルはそのまま後ろ向きに体を倒していく。

 そのまま地面と平行、それも数十センチ上という程度まで体を仰け反らせると、クロスさせた腕を解放させて空を引っ搔いた。


「網津風」


 引っ掻いた指先によって生じた目の細かい網目状の風が、瞬間的に空を覆う。

 すると、その柔らかく頑丈の風が、全ての水の針を捉え、空中に霧散させた。

 その行動と時を同じくして、リュドルの逸らした体の数センチ上を二発の弾丸が通り抜ける。


「危ない危ない。あまり調子に乗っちゃいけないな。オイラの悪い癖だ」


 弾丸が通り抜ければ、強靭的な脚力で地面を蹴り、リュドルが宙返りしながら数メートル後方へ着地。


 なので、その移動先に向かってノアはすぐにクラウチングスタートのような姿勢の低さからスタートダッシュして追撃を仕掛ける。


 着地狩りを狙って攻撃を仕掛けるが、あいにく放った弾丸は小首を傾げるだけで躱された。

 しかしそんな結果を無視するように、ノアは近接戦を仕掛け、再び攻防状態に持ち込んだ。


 バックステップで距離を取ろうとするリュドルを必死に追いかけ、出来る限り距離感を維持しながら、正面から繰り出される手刀や蹴りを紙一重で躱し、反撃を繰り返す。


 正直、リュドルの攻撃も完全に躱せているかと言われれば怪しいものだ。

 辛うじて致命傷を避けているのか、意図的に外されているのかわからない。

 しかしそれでも、判断を誤れば体のあちこちに切り傷を負っていく。


 恐らく、リュドルの狙いはノアが動けなくなることだ。

 殺さない方法はいくらでもあり、それこそ出血量を増やしてスタミナ切れを狙う手もある。

 それを考えれば、これ以上の出血は避けたいが、残念ながらそんな余裕はない。


「少し、落ち着け。これ以上血を流せば死んでしまうぞ――嵐塊」


「っが」


 瞬間、一瞬の思考の乱れが読まれたのか、リュドルの手がノアの胸に置かれる。

 その直後には、胸部から内臓を通り抜けて背中の向こう側まで伸びる衝撃波が放たれた。


 重機でのタックルような衝撃と、内臓をぐちゃぐちゃにかき回されたような気持ち悪さが、一瞬にして、一斉にして、同時にして、ノアの全身を犯していった。


 意識も視界もブレ、視線が二重の空を仰ぎ見る。

 舌の上には大量のドロッとした鉄の味を感じ、それが舌先や口の端から空中へ飛び出した。

 衝撃によって両足が狩られ、肉体は衝撃の波に乗って後方へ吹き飛ばされる。


「――ぎぃああああ」


 直後、お腹に力を入れて、ノアは大声を上げる。

 視界も意識も未だ正常では無い中、気合だけで肉体を制御し、仰け反った体を基に戻した。

 同時に、両足をしっかりと地につけ、重心を前方に傾けることで、滑りながらもブレーキをかける。


「まだ!」


 顔を正面に向け、視線の先――二重にブレるリュドルの姿を捉える。

 その宿敵は、後方に下がって距離を取りながら、両端の建物上にアリューゼとマチスの弾幕攻撃に対処していた。


(このまま自分の動き出しが遅れれば、二人のどちらかが殺される。

 それを防ぐためにも、これ以上吹き飛ばされたり、寝転がったりするわけにはいかない)


 そう意思を強く固め、軋む肉体を再び躍動させ、リュドルに向かってノアは走り出す。

 一歩、二歩とあっという間に、リュドルの位置に追いついた。

 そしてノアが銃口を目の前に向けた時、横を向いていたリュドルの視線がノアへ向き――、


引愚空圧(イングラム)


「――っ」


 瞬間、目の前が真っ暗になった。目を潰された感覚はない。

 顔面に感じる圧力――ものすごい力で掴まれいるようだ。

 しかし、それが余計にノアの思考を混乱させた。

 確かに、掴まれる直前、まるでリュドルの緑の瞳に吸い込まれるような感覚を感じたが。


「がっ」


 直後、後頭部に感じる衝撃に、頭が地面に跳ねるどころか押さえつけられる。

 しかし、痛みはあるが体は動く。ならば、思考をすぐに回せ。

 それに、頭が顔を掴んでいるなら、この状況で自分が取るべき行動は一つ。


「強化だ――」


超重力圧縮(グラビトン)


「ぁ――」


 伸ばした両腕が謎の圧力によって地面に押さえつけられる。

 まるで透明な何かに押さえつけられているようで、重圧に体がピクリとも動かせない。


 それどころか、体が今にも潰れそうで、肺が上手く動かせず呼吸もままならないこの状況。

 ノアの肉体が徐々に地面に埋まっていき、周辺の地面がひび割れていった。


「ぐぎぎ......」


 重力に盛ろうと、腕に血管を浮かべるほど体を動かそうとするが、動いたのは拳数センチのみ。

 いくら力を込めようとも、押さえつける力が強すぎて、やはり体が動かない。


 まさか未だリュドルにこんな力があったとは。

 いや、考えてみれば、これに似た攻撃はオルクスと共闘していた時にも使っていた。

 その時の状況、そして突然視界不良、それから今の状況、それを鑑みると、


(リュドルは風の魔技以外に、重力の魔技も使えるのか!)


 そう考えると辻褄が合うし、もはやそうとしか考えられない。

 ずっと隠していた手の内をここで晒すということは、プラスに考えれば先程よりも余力を削れたということになるが。

 いや、それよりも――、


(不味い不味い不味い不味い不味い......!)


 地面に固定されたノアの視界の中、リュドルが悠然と立ち上がり、左右に両手を伸ばした。

 何をする気かわからないが、間違いなくアリューゼとマチスを殺す攻撃なのはわかる。


 これ以上、どちらかが削れても勝利には大きく遠のく。

 それを防ぎたいが、超加重のせいで助けるための行動すら移せない。


 動かせる視界には、リュドルが両掌に渦まく風を圧縮させていた。

 見ただけで身の毛もよだつような殺意を感じ取り、ノアの額に冷や汗が浮かぶ。

 近くにいる自分にはわかる――広範囲を一気に消し飛ばすつもりだ。


(動け、動け動け動け動け――)


 止めなければ、あの攻撃を、今すぐに!

 でなければ、アリューゼもマチスも死んでしまうし、先に力を使い果たした隊員達の亡骸も消し飛んでしまう。

 防ぎたい、防ぎたいのに――体が動かない!


「やめ――」


 「ろ」と最後の言葉を言おうとした瞬間、眼前に二つの黒い影が横切った。

 瞬間、煌めく銀拳と鋭い銀閃が、同時にリュドルの顔面と鳩尾に攻撃を加え、今にも死の砲撃を放とうとしていた肉体を吹き飛ばす。


 その二つの影の活躍により、ノアの体から一気に圧力が霧散する。

 突然楽になった呼吸に、口から一気に空気が入り込み、少しだけむせた。

 何度か咳をしながら、上体を起こして、ノアが正面に視線を向けると、


「悪りぃ、少し遅れた」


「ここからは私達も参戦するわ」


 そう言う黄色髪の少女と水色髪の少女の頼もしい背中に、ノアの紅い瞳が小さく揺れた。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)


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