第54話 上司と部下、そして最後の戯れ#3
「今度こそ終わらせる」――その言葉は本気で偽りはない。
今の状態から若干うそぶいた感じもあるが、今後を鑑みてもあまり時間はかけられない。
よって、動けなくなるうちにマークベルトを倒すことは絶対。
(とはいえ、それが中々に厄介なんだがな......)
相手が以前のようなアビゲイルであれば、まだやりようがあった。
しかし、よりにもよってあのバカ上司は戦闘中に肉体操作を学んでいる。
つまり、戦いの中で成長しているというやつだ。
それが現状においてどれだけライカに嫌な圧力をかけているか、もはや言うまでもない。
(これ以上、アタシの手に付けられなくなる前に倒さねぇと。
だが、そのためにはアイツが強くなる前に、圧倒的な力で制圧するしかない)
そう考えるものの、ライカは咄嗟に方法が浮かばない。
なぜなら、現時点で既にライカの魔技は全開状態だからだ。
その状態で戦っていてマークベルトとやっと張り合える状態なのだから腹立たしい。
「.....あぁ、クソ。これ以上、考えてもラチが明かねぇ」
そう苦言を吐き、ガシガシとボサボサの頭を掻く。
昔から思考はノアの領分で、体を動かすのが好きな自分が肉体労働をしていた。
だからか、考えるのは苦手であり、どうせ考えるならやってる間の時。
攻めて攻めて攻めまくってそれで隙が作れれば御の字。
というか、自分の性分としてもそれが一番合っている。
「やるか」
気合を入れるように、互いの拳をぶつけ合わせる。
金属の拳がガキンと甲高い音を鳴らした。
そんなライカを高い位置から見ていたマークベルトも、戦意を高め、
「お前さんの侵食領域の影響も相当なはずだ。とっとと始めるぞ!」
「あいにく、侵食影響の感じはねぇな。体調はすこぶる絶好調だ」
あくまで感覚的な話であるが、不思議と侵食領域による倦怠感は感じていない。
まるで体に侵食を防ぐベールが纏われているような気さえする。
それこそ、魔力を散々消費して感じないのが良い証拠だ。
とはいえ、それが単なる気のせいの可能性もあるし、そうであったとしても今後も同じように続くとは限らない。
そういう意味でも、長期戦は避けるべき。
「そうかよ。そいつは良かったな!」
ライカの返答に、マークベルトは大声を出しながら斜め下に向かって跳躍する。
足場にした箇所は強靭な脚力によって砕け、崩壊。
その場から黒い影だけが空中を疾走し、ライカへと迫る。
彼我の距離は一瞬にして詰まり、辛うじて目で終えていたライカが後ろへ下がる。
直後、もと居た場所には黒い影が衝突し、叩きつけた剣が爆発と砂塵をまき散らした。
「もういっちょ」
砂塵の奥、そのから飛び出したマークベルトが茶色の尾を引き、ライカへ追撃する。
発射台にセットされた弾丸のように左拳を引けば、体を急接近させたと同時にその圧力を一気に解放した。
「ぐっ!」
ボディーブロー狙いの一撃に、ライカが両腕を揃えてガード姿勢に入った。
黒い拳から放たれる圧力が、簡単に少女の肉体を浮かし――弾ける。
その拳圧に飛ばされ、ライカは瞬く間に近くのビルの中層付近のガラスを突き破った。
「っぶね!」
咄嗟に窓枠を掴み、勢いを殺して着地するライカ。
すぐさま視線を地表付近へ向けても、そこにマークベルトの姿はない。
(どこ行きやがった)
敵の姿を見失うことは、単純に考えても不利だ。
ましてや、相手はこっちの位置を細くしているのなら尚更。
であるなら、まずは相手の居場所を掴まなければいけない。
通常であれば、オルぺナを通じて相手の位置を捕捉してもらう。
しかし、侵食領域による高濃度魔素により、魔力を媒介にして通信するチョーカー型デバイスは使えない。
となれば――、
「スー......ハー」
一度瞑目し、ゆっくり息を吸って少し長めに息を吐く。
それと同時に、自身の表皮の意識を集中させ、触覚を鋭敏にさせた。
これにより、肌や手足から微細な空気の揺れや床の振動をキャッチする。
簡易的なソナーだ。ただし、受信するだけの機能だが。
加えて、遠くのものはわからないので、あくまで近くに対してのみ。
とはいえ、姿を隠しているのなら、狙うは不意打ちだろう。
(真下から振動――来る!)
サッとライカはその場から距離を取った。
刹那、真下からは斬り刻むようにして床が吹き飛び、マークベルトが現れる。
すると、上司は完全に不意打ちを決めたと思っていたようで、
「マジか、避けられた!?」
「その程度が食らうかよ!」
「そうかい。そいつはいい!」
思考を切り替え、マークベルトが直進してくる。
その姿を見ながら、今いるオフィスの机を手に取って放り投げた。
当然ながら、そんなものを当てたとて意味はない。
されど、オフィス机は大きい上に重量もそこそこある。
一瞬だけ姿を隠すには丁度いい。
そして、マークベルトが長剣で机を裁断している間に、ライカはその場を横に移動。
再び、机を掴むとそれを投げ、離脱。それを投げ、離脱――と、数回繰り返す。
その間に自身は、壁の位置と天井の高さを把握し、そこを足場にするように高速移動を始めた。
ゴムボールが部屋の中を際限なく動き回るように、床、壁、天井を足場にして四方八方からマークベルトの攻撃の隙を伺う。
「ちょこまかと、ゴキブリみてぇだぜ」
「ノアを見習って発言を出直してこい」
ライカがいる位置に裁断された机の一部が投げられ、突き刺さる。
しかし、それらの攻撃を隙間を縫うように躱すと、床に着地し、一気にマークベルトへ接近した。
大きく引き絞った右拳をタイミングを見計らって突き出す。
大砲の如き豪拳がマークベルトの胴体に向かって飛び出すが――、
「っと」
「チッ」
その拳は手首からマークベルト左手に捕まれる。直後には、正面から長剣が迫った。
しかし、それをライカが左手のガントレットで受け止めれば、二人は向かい合いながら力比べを始める。
「おいおい、力比べはいいが、俺に勝つ算段はついたのかよ?」
「うっせぇな。今考えてる最中だろがよ。
そんな風に焦らせることばっか言うからモテねぇんだよ」
「うるせぇ、人の嫌なことを定期的に言いやがって。
ある意味、そっちの方がダメージ大きいぞ。
つーか、モテたことぐらいあるわい! 作らなかっただけだ!
お前こそ、その口調じゃノアに愛想つかされるぞ!」
「ハッ、残念でした! ノアはそんなこと気にしねぇぞ!」
「どうだかな。幼馴染は負けヒロインと相場が決まって――」
「死ねやオラァ!」
売り言葉に買い言葉、そしてマークベルトの売り言葉を言い値で買ったライカが蹴りを放つ。
ノーモーションからの回し蹴りであるが、それは的確に相手の脇腹を捉えた。
しかし、それは肉体を壊すに至らず、そのまま受け止められる。
代わりに、正面から前蹴りが放たれ、ライカの体は大きく吹き飛ばされた。
ゴロゴロと転がるライカだが、すぐさま起き上がり体勢を立て直す。
正直、今の蹴りよりも、先のマークベルトの言葉の方が乙女的に響いている。
わかっている、あんな悪態をついたような言動をしていてはダメだと。
しかし、昔から身についていしまったものはそう簡単に治らない。
加えて、「幼馴染が負けヒロイン」という悪しき風習は死ぬほど聞いた。
それは距離が近すぎるが故に、互いに恋人同士のような親密関係になりずらいのだと。
そう、さながら今の自分たちのように。
「っ......」
右手で左胸の衣服を掴む。女としての包容力もあまりない胸だ。
女の割りに図体ばかりデカく、悪態をつき、女性的魅力は低く、腕っぷしが強い。
まるで良くないところの寄せ集めみたいで、物凄く複雑だ。
それに比べれば、アストレアの方が自分より充分魅力的で。
ノアも実はああいうタイプの方が好みなのだろうか。
あぁ、こう考えている醜い自分が嫌になる。クソムカつく。
だけど、まずは――
「テメェを殺す.....」
目の前の果たすべき目標、そしてその後の大きな目標。
足りない頭でごちゃごちゃと考えるのはその後でいい。
この怒りを殺意に変えて、より体を研ぎ澄ませろ。
そして、あの減らず口のバカ上司をぶっ殺す。
「やっべぇ、ガチギレさせちゃった。いや、いいんだけど、いいんだけども。
単なる売り言葉に買い言葉っていうか....あぁもう、ごめん! だけど、その調子だ!」
「死ね」
「やっぱ怖い!」
床を踏み割るほどの勢いで飛び出し、ライカがマークベルトに肉薄する。
振り抜いた銀の右拳が、マークベルトに首を傾けられ避けられるが、それはもはや想定内。
今にも振り回しそうな右手を先に左手で掴み、背中を大きく反らして、
「うるぁ!」
「ご」
頭突きでもってマークベルトの頭を弾いた。
衝撃によりマークベルトの体勢が崩れていく。
その隙を見逃さないように、躱された右手を戻し、後頭部を鷲掴む。
瞬間、真下に叩きつける勢いで、マークベルトの顔面を床にぶん投げた。
衝撃が床を走り、凹んだ際に広がったヒビ割れがそのまま床を砕く。
二人がいた足場は一気に無くなり、マークベルトが先行して床を突き破って下に移動。
その光景を見ながら、ライカは強く奥歯を噛んだ。
(ダメだ、この程度じゃ。この力じゃコイツを殺せない)
そう思いつつも、ライカは既に全開だ。
これ以上の力の引き出しがどこにあるというのか。
しかし、持久戦が望めないうえ、応援も来ない以上、倒し方はそれしかない。
(もっとだ。もっと体に意識を集中させろ。
全身に魔力を巡らせろ。感覚を解放させろ)
ジリ貧になる前に限界を越えなければ、この勝負には勝てない。
ましてや、マークベルトにこの体たらくでは、アビス王相手なんて以ての外だろう。
先に落下し、一階に降り立ったマークベルトの上から拳を振り下ろす。
しかし、その攻撃を避けられ、建物の床一帯を壊すだけに留まった。
そんなライカへすかさずマークベルトが迫り、軽々と長剣を振るう。
殺意を纏う黒の刀身が残像を作って迫り、しかしライカはそれを銀の甲で弾いた。
そこから始まる拳、剣、脚の三つによる壮絶な殴り合い。
一撃一撃が迫撃砲のような衝撃が伴い、周囲の建物が衝撃波で砕け散る。
もはや建物は原型を失い、辺りには陽が差すがそれすらも無視して互いの意思をぶつけ合う。
(まだだ)
マークベルトの一閃、それをガードしたライカが大きく弾かれる。
空中を後ろ向きに疾走するライカの背後に迫る電柱。
それを目尻で捉えたライカが通り過ぎる直前で手で掴み、電柱を軸に自身を大車輪させて勢いを殺した。
そして、ある程度肉体制御が効くまで速度が落ちると、両足を電柱にぶつけて半ばから蹴り割る。
その行動によって出来た極太の棍棒を、ライカは今にも接近するマークベルトに振り下ろす。
(まだだ)
縦に振り下ろされた電柱、それはマークベルトの長剣が細切れにされた。
勢いをそのままに迫ってくれば、ライカの腕に黒い鞭が絡みつく――変形した剣によるものだ。
瞬間、為すすべなく引き寄せられ、空中のライカは風圧に体が仰け反る。
互いに引き寄せ合うように距離を縮めるライカとマークベルト。
逃れる術がないその状況にマークベルトから繰り出されたのは、強烈なドロップキックだ。
「――っ!」
咄嗟に動かせる腕を盾にして胴体への直撃を防ぐが、ライカの肉体は再び後ろ向きに加速を得て移動。
今度は電柱のような勢いを殺せる障害物がなく、斜め上に吹き飛ぶ肉体が建物の頂点に背中から直撃し弾かれた。
一瞬意識が遠のき、ライカの口から血が零れだす。
強制的に吐き出された空気、それを補うための空気を吸う時間も与えず、乱回転した肉体はさらに高層ビルのコンクリート壁に衝突してようやく止まった。
「がっ......はっ......」
体の跡が出来るように壁は大きく凹み、そこにもたれかかるように座るライカが喉に詰まった血を吐き出す。
同時に、吸い忘れた空気を急いで取り戻すかのように、大きく荒い呼吸を繰り返した。
「まだ......まだ足りない」
そう呟きながらも、具体的に何が足りなのか、自分でもあまりわかっていない。
しかし、段々と調子を上げているマークベルトに未だ勝ててない以上、足りない部分があるのは確か。
だからこその自問自答なのだが、自分の魔技がシンプル故の性能のため正解が見つからないのだ。
他に何が出来るのか、今に無いなら前だ。
何かヒント、ヒントはないか――
『ライカの魔技ってどこまで強化できるの?』
その時、脳裏に過った言葉は愛しき幼馴染の声だ。
それは任務の話が聞かされてからの僅かな準備期間で修行した時のこと。
あの時は念のためとノアと色々話し、試行錯誤した日々であった。
そんな日にあった些細なやり取りの一端、なんでもない日常会話だ。
『どこまでってどういう意味だ?』
『なんというかさ、強化してるのって肉体そのものなのか。
それとも、もっと部分的なものなのかと思ってさ』
視線の先、建物屋上を伝ってマークベルトが接近してくる。
その軌道を目で追いながら、ライカは裏拳で壁を壊し、剥がれた瓦礫を狙い定めて投げた。
一つだけではなく、二つ、三つとこちらの間合いに来るまで何度も。
『.....どういう意味だ?』
『その、単なる僕の考えすぎかもしれないんだけど、もしその強化が全体的に漠然とかかってるなら、なんというか勿体ないなという感じがして』
ライカのいる位置にマークベルトが肉薄し、太陽光を反射する黒の長剣が斬り刻む。
その攻撃をライカが間一髪躱すと、壁を足場にして、正面に見えたマークベルトに殴りかかった。
『例えばだけど、イワシの群れってあるじゃん?
あれは多くのイワシが魚群を作って外敵から狙われにくくしてるわけだけど、仮にあの状態がサメぐらいの強さだとすれば、イワシ一体一体がサメぐらいの強さになって群れたらどうなるんだろうと思って』
ぶつかり合う銀拳と黒剣、衝撃を生む銀拳と黒拳。
弾き続けて出来た間隙を突くように、ライカが<溜穿>を放つ。
胴体に直撃したマークベルトが地上に落下し、高層ビル足元がぐらつき、建物自体が少し傾いた。
『えーっと.....ごめん、もう少し詳しく』
『つまりだね.....今のライカは肉体全体にザックリ強化してる感じじゃん?_
それを体という括りだけじゃなく体の部位、もっと言えば、筋繊維や細胞一つ一つに強化をかけたらどうだろう』
「――これだ」
脳内回想を終え、地上に向かって落下するライカ。
本来ならマークベルトへの追撃するはずの所を止め、回想の記憶へ意識を向ける。
着地後、すさかず全身に巡らせる魔力の道筋を辿った。
正直、筋繊維や細胞を意識といっても、それらは感覚でわかるものではない。
どんなものかは教科書で習ったから知っているが、それだけだ。
でも、それを知れる可能性がある手がかりは知っている。
それは――現在進行形で使っている自己強化術式だ。
これは全身の魔力を意識し、意図的に魔力回路へ多めに魔力を込めることで細胞を活性化させる。
要は、これと同じことを自分の魔技でもやってしまえばいいのだ。
今の自分は体そのものに強化をかけている。
しかし、人間の肉体は車のパーツのようにいくつもの部位が組み合わさって出来ている。
であるならば、人間とて頭、胴体、四肢が組み合わさって出来ていると考えられるだろう。
そして、それらも軸となる骨があり、それを動かす筋肉がある。
筋肉もいくつもの細胞が密集してできており、それらにも強化をかけるイメージ。
あくまでイメージだ。正確に出来ている実感はない。
しかし、なんとなく体温が上がってるのがわかる。
体の重心にマントルのような高熱源があり、それが全身に広がっているような。
(熱い.....全身に炎を纏っているような、肉体が軋み始めている)
制御できない力が暴走を始めるかのように、内側で筋肉が暴れ始める。
わかる、今の自分じゃこれを使いこなすことは出来ない。
出来て一回の一瞬の一撃のみ。でなければ、体が動けなくなってしまう。
無理に使おうとすれば、軸の骨が砕けるのが手に取るようにわかるのだ。
正直、熱すぎて衣服すら邪魔だ。
全部の衣服を脱ぎ捨てて、冷たい滝に打たれてやっと収まるかどうか。
そんな内包する熱を全身に十分に巡らせ、ライカは構えを取る。
「てっきり、追撃が来ると思っていたが、何もしてこねぇ。
だが、俺を倒すことを諦めたってわけじゃなさそうだな。
なんたって、俺の心臓がビビり散らかしてるからな」
そう言葉を呟き、マークベルトは腰を低く構えた。
左手で狙いを定め、右手の剣を大きく引く。
さながら、全力の刺突を放つための突撃の構えというべきか。
「互いの現状で持てる最高の力をぶつけて勝負を決める。
実に、俺好みの少年漫画的展開だ。んじゃ――行くぜ」
グイッと右足を蹴り、一足跳びでマークベルトは移動を開始する。
踏み割った大地がめくり上がるほどの爆発的加速をその身に宿し、ライカに向かって鋭い刺突を放つ。
「絶禍」
放たれた黒い剣。それは剣先から空気を斬り裂き、穴を開ける。
刀身を流れる黒い光は雷のように周囲を駆け抜け、焼き焦がした。
それもそのはず、この一撃は「禍を絶つ」という願いを込められた攻撃なのだから。
「天穿ち」
その攻撃に対し、大きく振りかぶった右手を、ライカは真っ直ぐ突き出した。
しかし、その一撃はマークベルトに直接当てることはせず、剣先が眼前に迫った直前。
つまり、ライカのリーチを考えれば絶対に直撃することのない一撃であるのだが、それで十分なのだ。
何の問題もなく、それで確実に――目の前の対象は殺せるのだから。
空気を叩く銀の拳、それは一瞬のバチンと弾ける音ともに空気を凪いだ。
まるでその場一体の流れる風が、その一撃のもとに支配下に置かれるように。
瞬間、臣下となった風が拳の突撃命令により、指向性を持って動きだす。
ありとあらゆる空気が、支配者の目の前にいる外敵を排除しようと攻め立てた。
視認するには早すぎる空気の波打ちと共に、空気砲がマークベルトを包み込んだ。
大地が削れ、巡り上がり、浮かび合った瓦礫が一つ残らず塵となる。
その空気の中にいるマークベルトも例外なく、剣先から崩壊が始まり、右腕、右肩、頭と一瞬に呑まれていった。
「――語る時間もなさそうだな」
風に呑まれる直前、僅かに呟かれた言葉すら塵に変わる。
為すすべなくマークベルトの全身が拳圧に吹き飛び、その勢いは遥か先まで続いた。
拳の先にある一切合切を破壊するように、ライカの視線の先にあるものは風穴が開く。
――ゴオオオオ
風が息を吸い忘れていたように、轟音が響き渡った。
数百メートル先まで続いた空気の衝撃は、壊音とともに街を吹き飛ばし、その場には何もに残らない。
出来上がったのは、不自然に出来た穴の開いた更地のみだ。
「――ぅ」
目の前の自分が作り出した光景とは思えない光景に、ライカは背中からドサッと地面に倒れた。
それから、大の字で天を仰ぎ、
(しばらく動けそうにねぇ.....)
そう言葉に出すのも苦しそうに、内心で呟いた。
読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)
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