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人類の脅威であるアビスを殲滅するために、僕はアビス王と契約する~信用させて、キミを殺す~  作者: 夜月紅輝
第2章 怠惰の罪、それは愚か者の証

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第53話 上司と部下、そして最後の戯れ#2

 休憩の合間の会話も終わり、ライカとマークベルトは再び鋭い視線をぶつけ合った。

 先程までに緩んでいた空気はシュッと閉まり、殺伐とした雰囲気が席巻する。


 第二ラウンドが始まる。

 そう認識するにふさわしい状況に、ライカが僅かに息を呑む。

 相手は上司で格上のマークベルト、しかし殺す覚悟はとっくに出来ている。


 そこに迷いはない。迷った奴から死んでいく世界だからこそ、迷わない。

 やっと会えたノアともう二度と離れ離れになりたくないから。

 そのために、上司を殺す必要があるのなら、自分は心して望もう。


「いい目だ。もっとも俺の好みはもうちっと目つきの優しい奴だがな」


「うるせぇ。そもそも、この業界に関わってねぇ相手だろ」


「違いねぇ!」


 僅かな軽口の叩き合い、その直後にマークベルトがワインボトルを投げる。

 そのワインボトルは空中をクルクルと回転し、ライカに迫り――ライカは視線を移動させず、首を傾けた。


 たったそれだけで、ワインボトルを躱し、それが壁に赤紫色の液体をぶちまける。

 コンクリートとガラス瓶の接触音、それを合図に第二ラウンドが開始した。


「いくぜ」


 そう一声かけるとともに、マークベルトが右手の長剣をワインボトルの棚に叩きつけた。

 瞬間、刀身の長いそれがいくつもの横並びしたワインボトルを一斉に破壊し、衝撃でボトルの破片とワインがこぼれ出る。


「そらよ!」


 瞬間、手首をクイッと捻り、長剣の腹の部分で空中に飛び出たボトルの破片とワインの飛沫をライカに飛ばした。


 その砂飛ばしによる目潰し攻撃のような行動に、ライカは僅かに目を細める。

 うぬぼれではないが、肉体能力(アジリティ)の高い自分を殺すのは簡単じゃない。

 それこそ、相手が身体能力でしか使えないなら尚更。


 となれば当然、搦め手の攻撃が来ると思っていた。

 目潰しなんて常套手段だろう。しかし、それが効くのは注意が向いてない時。

 来るとわかっていれば、その攻撃も問題ない。

 ましてや、砂粒程細かくないのだから。


 だからこそ、素早く両手を動かし、破片と飛沫をガントレットで弾く。

 そんなライカに向かって、マークベルトは思いっきり右足を振り上げた。


「脚式・兎火蹴り」


 バッとカウンターを斬り裂く高速の蹴り。

 加えて、高熱を帯びるほど高速で振るわれた蹴りは、空気を含み発火する。

 故に、放たれるのは風を纏い、より盛んに炎を揺らめかせる蹴圧だ。


 炎の斬撃がカウンターの切断箇所を燃やし、ライカに高速で肉薄した。

 妙な胸騒ぎがしたので大きく横っ跳びすれば、その炎は空中で一気に爆散。

 恐らく、先ほどのワインのアルコールに着火した形だろう。


「おらよ!」


 裂けたカウンターを飛び越え、マークベルトが長剣を振り下ろした。

 その豪風を纏わせる黒閃を、ライカは左手のガントレットで受け止め、


「――炎が」


 ギギギッと刃が左手の甲を滑り、火花が散る。

 瞬間、ワインで濡れていたマークベルトの長剣に火花が接触、鮮やかな炎を纏わせた。

 突然、赤色の剣に代わり、それがライカの首元に吸い込まれるに移動していく。


「――っ!」


 咄嗟に、右手で赤色の刀身を掴み、命の瀬戸際で辛うじて生の奪取に成功する。

 しかし同時に、その行動はマークベルトの長剣に両手を使わされたという事でもあり、その僅かな隙が再びライカを追い詰めた。


「がっ!」


 衝撃、腹部を来る突き抜ける波が背中から抜けて外に飛び出す。

 その攻撃により、内臓が傷つけられた影響で血が逆流し、喉を通り、口腔から赤色の液体が漏れ出た。


 直後、ライカの視界が真っ黒に覆われる。

 前頭部からこめかみを覆う強い圧力――顔面を掴まれているのだ。

 そのまま体が一瞬フワッと浮き、次の瞬間には後頭部と背中に衝撃が駆け抜けていく。


 背後の焼き焦げたコンクリートに叩きつけられたのだ。

 一瞬にして、血で舌が、手で視界が、焦げたニオイで鼻が犯される。

 加えて、後頭部を激しく叩きつけられ、一瞬眩暈が起きた。


(不味い、眩暈のせいで一瞬動きが遅れた)


 先程も顔を掴まれ、地面に叩きつけられた。

 しかし、その時の状況と違うのは、対処するための時間が足りないということ。

 顔面を掴んでいる腕を破壊するでは遅い。なら――、


「だぁっ!」


 大きく息を吸い、肺一杯に空気を含ませると、それを全身を使って吐き出す。

 短く息を吐き、口から放たれる衝撃波は対象を選ばない。


 身体強化の魔技であるライカにのみ出来る衝撃波咆哮は、マークベルトの体を僅かに揺らした。

 それにより、ライカの顔面から手が離れ、真っ暗な視界に薄暗い空間が広がる。


「これで二度目だ。二度も女の顔面掴みやがって。だから、モテねぇんだよ!」


「――ギィ!」


 顔の近くにある刀身を左手で掴み、引き寄せると、胴体に向かってライカは蹴りを入れた。

 身体能力に全振りしたその蹴りは、一撃が爆弾に匹敵する。

 空気が弾け、大気に強烈な破裂音が鳴り響いた。


(こんにゃろ、腹凹ませて衝撃殺しやがった!)


 そんな一撃を加えても、ライカは喜ぶどころか、より強く奥歯を噛んだ。

 というのも、感想の通り、マークベルトに上手くいなされたからだ。


 完全にいなされたわけではない。

 しかし、殴られた衝撃を後ろに飛んで殺すように、マークベルトが変形自在な肉体を活かして腹部を大きく凹ませたのだ。


 それによって、ライカの蹴りの直接攻撃はほとんど殺され、残ったのは衝撃のみ。

 もっともそれでも、マークベルトの体をバラバラにする程度の威力はあるのだが。


 全ての四肢がもげ、胴体と頭のみになった肉体がカウンターに直撃する。

 その衝撃でカウンターがバラバラになり、木片が周囲に飛び散った。

 それが視界の大半を占める中、追撃しようとしたライカの周辺視野が捉える。


「――ぶねっ!」


 突然、ライカが左手で握る長剣の刀身が変形し、そこから針が飛び出したのだ。

 太く鋭い三本の針、それが空を穿ち、瞬く間にライカの顔面を貫かんと接近する。


 それを咄嗟に首を傾け躱したライカの頬に、一本の針が掠める。

 二本目の針がライカの左耳を貫き、三本目は壁に突き刺さった。


「モテねぇ自覚はあるよ!」


「ぁがっ!?」


 一瞬の間隙、そこに付け込むように四肢を再生させたマークベルトが突撃する。

 大きく右肩を突き出すショルダータックルをライカの鳩尾に直撃させ、闘牛が鋭い角を突き上げるように少女の肉体を持ち上げ、吹き飛ばした。


 アビゲイルの馬鹿力による衝撃が全身を駆け巡り、一瞬ライカの視界がブレる。

 同時に、ライカがマークベルトを吹き飛ばした際に出来た穴のすぐ横の壁を、今度はライカが突き抜けた。


 背中に何度も固い衝撃を浴びながら、それでもなお勢いは止まらない。

 僅かに開いた口元から血を零しながら、ようやく勢いが収まった頃には道路の上だった。


 地面に着下後も数メートルはゴロゴロと転がり、まともに受けた攻撃にすぐに力が入らない。

 地面に手を突いて体を起こそうとするが、腕が生まれたての小鹿のように震え、口からは胃液と唾液と血が混じった液体がボトッと糸を引いて零れ落ちる。


「全く、この肉体は便利すぎて嫌になるな。

 核への攻撃さえ外していれば、それ以外ノーダメージだってんだから。

 本当のゾンビ戦法ってのが出来ちまうのが、人間を辞めたのを実感させる」


 大きく穴が開いた壁から砂煙とともに、マークベルトが歩いてくる。

 口のない顔面から垂れ流された軽口は、彼の背後の建物が崩れさる爆風とともに吹き飛ぶ。


 さしものライカも、風に乗って耳に届いた軽口にツッコみ返す余裕はない。

 ようやく体の麻痺が少し和らいだところで、鳩尾を抑えながら立ち上がり、


「本当にフラフラ、フラフラと.....大人しくねぇな。

 こっちがせっかく殺してやるってんのに、抵抗ばかりしやがって」


「それは本当に申し訳ないと思ってる。

 だが、どうやらこうなった後でも生存本能はあるみたいなんだ。

 むしろ、この姿になってその意識が高まってると言ってもいい」


「なんだ? 死からもっとも離れているだろうアビスが、一番死を恐れてるってか?

 それは一体何の冗談だ。ちっとも面白くねぇぞ」


「そんなこと言われてもなぁ、実際この姿になった俺の感想だし。

 死ぬってわかった時、全力で抗おうとすんだよ。

 もはや俺以外の別の意思が介入してるみたいだ」


「殺されたくないくせに、人は殺すのか。

 クソめんどくせぇ話だな.....」


 グッと背中を伸ばし、多めに吸い込んだ息と血反吐の二つとともに言葉を吐き捨てる。

 口の上を鉄分の味が占領してることに不愉快さを感じるが、それでもさっきの酸味混じりの口内状況寄りはだいぶマシになった方だ。


(クソ、強いなぁ......)


 口の端に付着した血をガントレットの甲で拭いながら、戦意を研ぎ澄ました青の双眸でライカは正面に立ち尽くすマークベルトを見つめる。


 戦いが始まってから何度もこの拳で剣を交え、マークベルトの剣技の高さを理解した。

 しかし、それだけではまだ足りなかった。浅かった。見くびっていた。


(そもそも戦闘センスが段違いだ)


 そう、先の戦いでライカが痛みを伴って理解した部分だ。

 自分の上司であるマークベルトは剣技以前に、戦闘能力そのものが高い。

 本人は「アビスの身体能力ありき」と言っているが、それでは説明つかない部分が多々ある。


 それこそ、アビゲイルの特殊な肉体を使った戦闘技法などその最たるものだろう。

 ライカとて、過去に戦ってきたアビスの数は他の同期に比べれば、圧倒的に多いだろう。

 アビゲイルとの戦闘だってある。だからこそ、わかる。


 マークベルトの戦い方は、他のアビスがやらない戦い方だと。

 大抵のアビスや前に戦ったアビゲイルは体を破壊されてもすぐに再生し、攻撃してくる。

 対して、マークベルトの場合は破壊されることを前提に攻撃してくるのだ。


 それは先日の調査任務で戦ったファルラカすらしなかった。

 しかし、マークベルトは腕を破壊されても同様一つ見せず、それどころか千切れた体の一部で攻撃すらしてくる始末。


 アビスの知能が獣であるからか、アビゲイルの知能が所詮人間の知識を奪った紛い物だからか。

 はたまた、特魔隊であるマークベルトだからなのか。


(一番後者が理由としてしっくりくるのが腹立たしいな)


 マークベルトに対して当たりの強いライカであるが、尊敬してないわけではない。

 むしろ、尊敬しているからこそ、普段のチャランポランな姿勢やフラフラしてるのがムカつくわけで。


「いい加減、上司らしいところを見せて欲しい所だぜ。

 こういう強さじゃない、メンタル的な意味でな」


 もはやマークベルトに問いかけるでもない苦言を吐き、ライカは身構える。

 そして恨み節を拳に詰め込むと、それを一気に大地に叩きつけた。


「地芯」


 真下に打ち込んだ人力の杭による衝撃が、大地を駆け巡る。

 バキッと地面が凹み、同時にバリバリと周囲にヒビが入り――爆発。

 夥しい砂塵を周囲へまき散らし、その場一体を目視不可の領域に変える。


「目くらましか。だが、その程度じゃな――旋刃斬り」


 周囲を覆う茶色の霧、それをマークベルが右手に持つ長剣で一回転する。

 高速の回転斬りは周囲に真空の斬撃を飛ばし、濁った霧を瞬く間に晴らした。

 しかし、そのどこにもライカの姿がない。


「周りにいないとなると......上か!」


「おらよォ!」


 マークベルトが頭上を見ると、太陽を背に銀拳を煌めかせるライカが降ってくる。

 その拳を大きく振りかぶると、マークベルトの肉体を頭から叩き潰すように拳を振るった。


 しかし、先に見抜かれていた攻撃は、マークベルトに簡単に躱される。

 大地を割る攻撃も当たらなければ意味がない。

 だからこそ、狙うは攻撃を当てるために決定的な隙。


「波弾」


 バックステップで距離を取るマークベルト。

 その位置に向かって、ライカは思いっきり振った拳で空を殴る。

 瞬間、拳には壁を殴った感触を感じるとともに、その壁を突き破るようにして衝撃波が放たれた。


 やってることはただの拳圧なのだが、その威力は一介の隊員の攻撃とは一線を画す。

 殴られた衝撃、それが視覚的にわかるぐらい空気が波打ち、離れたマークベルトへ向かった。


「ぬわっ!?」


 正面から放たれる避けられる衝撃にマークベルトの体が捲れ上がる。

 両足は大地から離れ、身動きが取れない空中へ強制移行させられた。

 そこへ爆発的な跳躍を見せるライカが追撃にかかる。


「いい加減、くたばりやがれ!」


「そうしたいのは山々だが、簡単に出来たら苦労かけてねぇよ!」


 マークベルトに近づくと、ライカが軌道がブレる拳を放つ。

 それをマークベルトの長剣で弾かれれば、巧みな空中機動でライカが追撃の蹴り。

 しかし、それすらも足でガードされれば、逆に黒の拳が返って来た。


 そして、始まる剣と拳による激しい衝突だ。

 空中という足場のない状況の中、肉体のみでぶつかり、爆ぜる火花。

 目に見えない花火が咲き誇るように、真空の衝撃がいくつも発生する。


 しかし、それも長く続くわけではない。

 左手でマークベルトの右手を掴めば、そこを起点に一瞬の合間を突くように胴蹴りを放つ。

 それはマークベルトの鳩尾――つまりは核付近の胴体に直撃した。


 大抵のアビスならこの一撃でおしまいだ。

 しかし、相手はマークベルトであり、加えて肉体の崩壊が始まってない時点で倒せていないことが証明される。

 それどころか――、


「本当に肉体を便利に使いやがって」


 ライカに蹴り飛ばされたマークベルトの胴体は確かに吹き飛ばした。

 しかし、ライカが掴む右腕が命綱のように胴体を繋いでいる。

 つまるところ、右腕が異常に伸びているのだ。普通の肉体ではありえない。


「――っ!」


 ライカが左手を放した瞬間、マークベルトの長剣が鞭のように変形する。

 それがライカの左腕に絡みつき、取ろうとした距離を取らせない。


 瞬間、ライカの肉体は移動するマークベルトの勢いに呑まれ、左腕が千切れるほどの勢いで引きずられた。


 頬が風に押さえつけられるような衝撃を受け、踏ん張りが効かない空中では身動きも取れない。

 出来ることがあるとすれば、左腕に絡みつく黒色の鞭を引き千切ることだけ。


「わっ!?」


 刹那、左腕に伸ばした右手は無情にも引き離される。

 いや、違う、振り回されてるのだ。

 肉体にかかる遠心力が、人間のちっぽけな体をひしゃげるようと圧をかけ続ける。

 その圧によって、さっきよりも余計に動けない。


 グルングルングルングルン、回る回る回る。

 肉体がへし折れそうな圧が終わりなく降りかかり、加えて速度が上がるたびに強くなっていく。

 そしてそれも最速に達した瞬間、勢いは無慈悲に解放された。


 ライカの華奢にしては少し筋力多めだが、それでも少女の肉体が砲弾の如く速度で放たれた。

 風圧で全身を縛り付けるように硬直させられ、肉体はそのまま背の高い建物の中層へ斜めに入射。


 建物は爆散し、全身に浴びる衝撃にライカの視界と思考は真っ白になった。

 大きく開けた口からは強制的に吐き出された空気とともに血が混じり、空中を舞う。


 上を向く視界からは、突き抜けた壁から瓦礫が音を立て崩壊し、それよりも速い速度でライカは次の階層へ向かうように天井に衝突していく。


 ドンドンドンドン、いくつもの階層を斜めに突き抜け、やがて建物の壁を破って外へ。


「もういっちょ!」


「がっ!」


 すると、吹き飛ばされるライカの移動についてきたマークベルトが、上からライカを蹴り飛ばす。

 それにより、斜め上に吹き飛ばされていたライカの肉体が、ほぼ垂直に急降下。


 勢いは止まらずに貯水タンクを己の肉体で叩き潰し、低いオフィスビルを屋上から一階層まで貫いた。


「がぁっ!!」


 やがて大地に全身が叩きつけられ、その衝撃で周囲十数メートルが爆風で吹き飛んだ。

 多くの建物が密集したその場所、局所的に出来た空白の一等地の中心にライカが寝転がる。

 大の字になったまま、白目を剥き、身動きも取れずに。


(か、体が動かねぇ......)


 内心でそう呟きながら、ライカは喘ぐように呼吸を繰り返した。

 今の衝撃で全身の至る所にヒビが入ったのが感覚的にわかる。

 体を動かさずとも、ギシギシと痛みを生じるのだから。


 加えて、背中から地面に直撃した衝撃で今にも意識が飛びそうだ。

 ファルラカとの戦いとは違い、初めから遠慮なしに肉体強化を使っていた。


 自分の魔技がそもそも強化であるため、他の隊員に比べれば肉体の強度は高い――にもかかわらず、だ。


 その防御力を貫くように全身に痛みが走る。

 もちろん、衝撃が防御を貫通するのは理解しているつもりだが、それでも許容できる威力を超えているのが問題。


(早く......早く、動かねぇと......)


 尊敬する上司がアビゲイルになった。

 ただでさえ、常人よりもはるかに肉体能力が上がるアビス化が上司の身に起きたのだ。

 強いのは当然であり、それを理解していた上でこれまで戦っていた。


 しかし、それでも、このダメージ量は些か想定外であることには変わりない。

 この戦いが終われば、早々にノアのもとへ救援で駆けつける予定だったのに。


「クソが......」


 苦戦させられる相手に対してか、弱い自分に対してか、自分自身でもわからない苦言を吐き出しながら、ライカはうつ伏せになって両手を立てた。


 軋む四肢を動かし、背中を丸めることで立ち上がる準備をして、それから一気に立ち上がる。

 割と出血している、プラス足に力が入りづらくなってる状態のためか、体はフラフラ、足は千鳥足となってまともに立つことが難しい。


「――まだやれるか?」


 遠くから聞こえてくる声、その声に目線を向ければ、崩れかけの建物の上にマークベルトがいる。

 アビゲイルは核を壊さない限り倒せない。だからか、随分と余裕そうだ。


「ったりめぇだろ、アタシを誰だと思ってる」


 両頬を手でバシンと叩き、気合を入れ直すライカ。

 いくら自分の魔技が身体強化のみでコスパがいいからといって、侵食領域を考えなくていいわけではない。


 それに、ボスも控えているのなら、なおさらこれ以上時間はかけていられない。

 だからこそ、もうこれ以上のヘマはしないし、させない。


「今度こそ終わらせてやる」 

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)


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