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人類の脅威であるアビスを殲滅するために、僕はアビス王と契約する~信用させて、キミを殺す~  作者: 夜月紅輝
第2章 怠惰の罪、それは愚か者の証

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第50話 姉妹ケンカ、そしてケンカの行く末#1

「――姉妹ケンカなんでしょ?」


 クルーエルからその言葉を聞いた瞬間、アストレアの胸には杭が打たれたような衝撃が走った。

 しかし、その言葉はアストレアがクルーエルと戦うためのただの方便だ。


 実際にそんなことをしようとは微塵も思っていないし、する必要もない。

 にもかかわらず、クルーエルは今この場でその言葉を持ち出した。


 その真意がわからず、ただ見つめる瞳を揺らすことしか出来ない。

 そんなアストレアに対し、クルーエルはため息を吐くように肩を竦めると、


「おかしいかもしれないけど、私は案外嬉しかったのよ?

 姉妹ケンカなんて、久しくしてなかったと思うし。

 それこそ、誤ってあなたのお人形を捨てちゃった時ぐらいじゃない?

 あの時は本当にやらかしたと思って、街中駆けずり回ったわ」


「で、結局似たようなものしか買えなかったのよね。

 でも、私はそれに対して猛烈に怒って.....私も幼かったから」


「ユーちゃんが仲裁役になってくれなければどうなっていたか。

 でも、それが最初で最後の姉妹ケンカだったわよね。

 ちゃんと家族としてやりあえてからは、そんなことも減って......少し寂しかったわ」


「ケンカなんてない方がいいに決まってるのに。寂しがるなんて変わってるね」


「たまには自分の曲げられないことに、正面からぶつかりあいたくなるのよ。

 ずっと、互いに気を遣いながら衝突を避けるのは......仲良くやっていくことには一番なんでしょうけど、それでは到底相手の深いところは理解できないわ」


 そう言って、クルーエルは空いた左手を自分の胸に当てる。

 その位置は人間であれば心臓であり、アビスであれば核がある位置だ。

 つまり、自分の「心」に最も近い位置であるということ。


「ケンカとは、自分が納得できない、寛容になれない領域で発生するいざこざ。

 踏み込まれたくないから人は怒りを感じ、痛くてたまらないから人は拒絶する。

 でも、言い換えればそれは、もっとも人の心に近づいたとは思えない?」


「......」


「美化しすぎなのもわかってる。夢を見ているのも理解している。

 けれど、私はケンカがしたい。アスちゃんともっと心を通わせたい。

 アスちゃんの心を理解して、受け入れて、一緒に守りたい」


「お姉ちゃん.....」


「願わくば、ユーちゃんともケンカしたかったけれどね。

 でも、それは叶わない。だから、せめてアスちゃんだけでも。

 それが今の私に出来る最後のお姉ちゃんらしさだと思うから」


 そう言葉を言い切ると、依然左手を胸に当てたまま、右手を真っ直ぐ前に伸ばす。

 折り畳まれた蛇腹剣の剣先が太陽光で煌めき、光の先端がアストレアへ向く。


 それは仲間睦まじい姉妹の時間の終わりを意味し、同時に姉妹ケンカの始まりを意味する。

 だからこそ、先ほどまで柔らかかったクルーエルの語気は荒くなり、


「構えなさい、アストレア。

 あなたがそんな『怠惰』では大切なものは何も守れないわ。

 だから、私を倒して示しなさい。あなたが勤勉であることを」


 宣戦布告、そうとも捉えられる言葉に対し、アストレアは静かに胸の前にレイピアを掲げ、左手は腰の後ろに回した。

 その姿は、さながら昔の騎士がしていた決闘前の礼儀のようで。


 レイピアの細い剣が、蛇腹剣と同じくして太陽光を反射する。

 白く淡い光を纏った刀身、鏡のような磨かれたそこに自分の顔を映し――瞬間、向きを変える。


 左手は肩幅程度に開き、同時に体を半身にして、剣先をアストレアに向けた。

 同時に、白い柔肌に水が流れるような回路が浮き上がり、ネオンブルーの発光が放たれる。


 そんな覚悟の決まったアストレアを見て、クルーエルの言葉から思わず温かみが零れた。


「.....あなたも光を見つけたようね」


「お節介な怪物がいるの。とっても大切な友達」


「そう。大事にしなさい」


 その言葉を今度こそ最後に、クルーエルは溢れんばかりの殺意を放出させた。

 それは到底妹に向けるような圧ではなく、まるで不俱戴天の仇のように刺々しい。


 そんな茨のような威圧に全身を絡まれながら、されどアストレアは涼しい顔をする。

 その茨を凍てつく冷気で氷結させ、打ち砕くかのように表情を殺して。


「行きます、お姉ちゃん――いえ、クルーエル代表」


「来なさい、アストレア。あなたの覚悟を証明して」


 阿吽、そうとしか言えない同時の踏切で彼我の距離は一瞬で詰まった。

 互いに剣の間合いに収め、一切の躊躇もなく剣を交える。

 奇しくも、その衝突は、ライカとマークベルトの戦いと時を同じくした。


「――っ!」


 剣が交じり合った衝撃で、周囲に空気の波が発生する。

 互いの踏み込み足で地面が砕け、波に乗って瓦礫が吹き飛んだ。

 そんな状況の中、フルフェイスの黒兜を見つめ、アストレアはレイピアを振るう。


 しかし、その動きはクルーエルに容易く見切られ、反撃を受ける。

 されど、それはアストレアとて同じであり、見覚えしかない動きに即座に対応した。


 勝手知ったるとはこのことか。

 互いの剣は交じり合うだけで有効打には繋がらない。

 ただ剣戟で生じた斬撃が周囲の地面を斬り、めくり上がるだけ。


「やっぱり、ただ剣を交じり合わせてるだけじゃどうにもならないわね」


「なら、魔技も交えないとね」


 幾重にも折り重なり、姉妹仲良く作り出した剣の結界。

 互いの剣が殺意を纏い、凍て刺す冷気を振り回し、オレンジ色の火花が散る。


 その剣戟によって生まれる殺伐とした空間の中、互いに打ち付けた剣が激しい斥力に見舞われたように弾かれた。

 刹那に生まれた間合い、そこを先に制した方が有利に立てる。

 だからこそ――、


「「白剣」」


 白い手から伸びる半透明の剣と、黒い手から伸びる半透明の剣が間合いを奪い合う。

 同じく冷気を帯びる剣が迫り、激しくぶつかり、砕け散った。

 再び生まれた間合いに、互いの砕けた氷がイルミネーションのように太陽光を乱反射する。


「一手、思考が遅い」


「――ぃ!?」


 瞬間、アストレアの視界の真下から白い何かが迫った。

 だから、咄嗟に首を伸ばすようにして体を逸らせば、突き出たのは氷柱だ。

 鋭く尖った先端が僅かに顎先を掠めたが、幸いそれだけ。

 後少し反応が遅ければ、下顎から貫かれて即死していただろう。


「氷も元を辿れば水。そして、水の性質は変幻自在。

 この属性は攻守ともにこなすことができる唯一無二の魔技なの。

 その言葉の意味をしっかりと理解しなさい」


「――危なっ」


 顎を上げた状態での視界の下側、そこから僅かに動きがあった。

 咄嗟に顔をもとの位置に戻し、レイピアを横に向け、刀身で攻撃を受ける。


 正面の氷柱から伸びてきたのは、横に伸びる別の氷柱だ。

 一つの氷から別の氷を派生させる――水氷の魔技にとって基本であり、一番厄介な攻撃だ。


 氷柱の刺突に弾かれ、アストレアの体がゴロゴロと転がる。

 しかし、すぐに体勢を立て直して正面を向けば、地面から伸びる氷柱の両端にそれぞれ四つの流水。

 それらがアストレアに向かって颯爽と襲い掛かった。


 蛇のように大気を駆け抜け、波濤の如く水の砲弾がアストレアに迫る。

 正面からの死の圧にジリジリと心臓が締め付けられながらも、タイミングを見計らい跳躍した。

 直後、アストレアのもといた位置に二本の蛇が地面を噛み砕く。


(なんて水圧.....地面が砕け散った!)


 目の前の光景に、アストレアはヒヤリと背筋が冷える。

 アストレアとて、隊員の一人としてクルーエルが強いことは知っていた。

 それこそ、その強さを何度も直で見たことがある。


 しかし、それでも本気のアストレアと戦闘したことはない。

 だからこそ、今実感している――姉の代表たる所以を。

 まともに受けてはならない。受ければ、容易く骨が砕ける。


(加えて、あの数。一発なら魔力を集中させて局所的に防御力を上げられる。

 けど、その状態で他から攻撃を受ければ、間違いなく死ぬ)


 ともなれば、現状は避けの一手。

 しかし、それがいつまでも続くとは限らない。

 加えて、問題はそれだけじゃない。


「――っ」


 正面からまだ六本の蛇が迫りくる。

 それは今もアストレアを追いかけ、噛みつかんとしていた。

 だから、アストレアが旋回を始めれば、それは後を追うように軌道を曲げ――、


「逃げるだけじゃ、ジリ貧よ――氷雨(ひさめ)


 逃げるアストレアを見て、クルーエルが頭上に左手を掲げた。

 その掌に直径三十センチほどの氷の球体を作り出すと、それを上空に打ち上げる。


 瞬間、その球体の表面から直径三十メートルの範囲で氷の雨が降り注いだ。

 それらの氷は一つ一つが針のように細く、地面に落ちれば容易く突き刺さる威力があった。


 それらは決して、致命傷を与えるような攻撃ではないが、生傷が増え、出血が多くなる。

 そうなれば、時間経過とともに流れた血で体力がいつも以上に奪われ、勝ちの目は遠くなるだろう。


 雨を全て避けるのは無理なので、多少はレイピアで打ち払いながらも、残りは痛みを我慢しながら、背後から容赦なく攻撃してくる流水を躱す。


 視線を氷柱の近くにいるクルーエルに向ければ、つま先の向きを変え、飛び込んだ。

 すると、正面からはクルーエルの蛇腹剣が、文字通り蛇のような軌道をして襲い掛かる。


 前門の黒鋼の蛇と、後門の水の蛇。

 二つの蛇がアストレアを挟み撃ちにする中、正面の黒鋼の蛇をレイピアで弾き、アストレアは背後の水の蛇を紙一重で躱し、勢いをそのままに左手を向けた。


「氷針!」


 空中に作り出すのはいくつもの氷塊だ。

 それらを一斉発射してクルーエルの動きを少しでも妨げる。

 その間に、レイピアの間合いに詰め寄り、


鷲突き(イーグルスピア)!」


 上半身を大きく仰け反り、踏み込みと同時にバネを解放する。

 右手から放たれる大気すら貫く刺突。狙いは当然胸の核。

 それを前にして、クルーエルは左手を差し出す。


「――なっ!?」


 左の掌から甲に向けて剣先が突き抜け、しかし核から狙いがズレた。

 その思い切りのいい動きに、アストレアは思わず瞠目する。

 その動きはアビゲイルになったからか、それともクルーエル本来の動きか。


「戦うともなれば、私はこれぐらいするわよ」


「それは初耳ね」


「妹の前ではカッコつけたがるのよ――鉄砲水」


「ぐっ!」


 アストレアの右手を左手でグッと掴むと、クルーエルが右手の蛇腹剣を霧散させ、掌底を鳩尾に直撃させる。

 それから、その掌を起点にして、一気に水を放出した。


 結界したダムのような暴力的な水圧がアストレアの全身を飲み込み、あっという間に背後のコンクリートの壁に押し付ける。


「――んっ」


 コンクリートと水の壁にサンドイッチされ、身動きが取れない。ピクリとも動かない。

 上半身が圧し潰されるような圧に、ミシミシと悲鳴を上げるのは骨か、はたまた壁か。

 目は開けられず、鼻も言わずもがな、耳も思考を犯すような轟音が響く。


 五感全てが水に侵食され、もはや自分がどうなっているかも曖昧になってきた。

 いや、それは呼吸出来てないからだ。

 このままじゃ酸欠で意識が飛んでしてしまう。


波浄槌(はじょうつい)


 レイピアをリングに戻し、壁につけた両手から水を思い切り射出する。

 そこから生み出された二つの衝撃は、ヒビの入った壁を打ち砕き、店内へと侵入。


 どこぞの不動産店のフロントへと水と一緒に流れ込んだ。

 尻もちを着いて、そこからせき込みながら立ち上がるアストレア。

 直後、眼前に氷の柱が迫りくる。


 それに対し、咄嗟に地面と平行になると眼前を通り過ぎ去り、店内の奥の壁に突き刺さった。

 一方で、バランスを崩したアストレアはそのまま地面に背中から倒れ込む。


(危なかった.....)


 内心に、ほんのわずかな安堵が広がる。

 気持ちはまさに思った通りで、後少し遅れていたら水で張り付けてる中で刺殺。

 いや、その前に失血死、圧死、溺死.....ともかく、死んでいたことには変わりない。


『お姉ちゃん――起きて!』


 脳内で妹のユリハの声が聞こえた気がした。

 通信の声が届いたのだろうか。いや、それはない。

 ここはもう「怠惰」のアビス王による高濃度の瘴気フィールド。


 言い換えれば、アビス王の魔力で充満しており、魔力で通信しているチョーカー型デバイスでは通信は不可能だ。

 だから、これはただの幻聴であり、気にすることなんて――


『起きなさい!』


 今度はクルーエルの声が脳内に響き渡った。

 時折、寝すぎた際に、母親のように苛烈に怒るあの声だ。

 瞬間、アストレアの体は無意識に跳ね上がり、上半身を起こす。


 当然だが、目の前にいるクルーエルが言ったとは思えない。

 だとすれば、これは深層心理に刻まれた恐怖の記憶。


「死にたくないなら避けなさい――」


 人差し指と中指だけを立てた両手、その手を作った腕を胸の前でクルーエルは交差させる。

 その指先の先端には高圧縮された水の細剣がどこまでも伸び――、


「白糸」


 それは一気に解き放たれた。交わるようにして伸びる水の一線。

 さながら、レーザーのように振るわれ、アストレアを切断するように迫る。

 高速で迫る死の圧に、顔に滴る水も無視してアストレアは横に飛んだ。


――シュンッ


 二本の線がアストレアのいる場所、もっと言えば建物を通過する。

 それから一拍、斬られたことを思い出したように建物が崩れ始めた。


 天井から落ちる瓦礫を避け、アストレアは突き破った壁から外に出る。

 立ち止まってはいられない。なぜなら、線は今も尚迫ってきているのだから。


 縦、横、斜め、打ち下ろし、薙ぎ払い、袈裟斬り、逆袈裟斬り。

 クルーエルの両手の動きが幾重にもあるように放たれる殺意の水撃が、辺り一帯を斬り刻んだ。

 道路の両脇にあった建物が次々と瓦礫に変貌し、景色が一変する。


「もうちょい手心ってものが無いの!」


「姉妹ケンカに手心加えちゃケンカじゃないでしょ!」


「ケンカに夢見すぎ!」


 建物の屋根を飛び越え、壁を蹴り、スレスレで水の線を躱していく。

 なんとかクルーエルの周囲を周回しているが、それでも避けるのが精いっぱい。


 とはいえ、そんな最中で、空中にある氷の雨発生装置を氷の礫で壊すことに成功したのは幸いか。


「ぐっ......!」


 体の中から訴える不調に、アストレアは僅かに奥歯を噛む。

 なんとなく、体内で生じている違和感がわかる。

 自分の中に流れる魔力が、別の魔力と争っているのだ。


 それが何であるか、大体予測はつく――侵食領域だ。

 「怠惰」のアビス王の侵食領域が、魔力を消費する度に勢力を増している。

 それが、アストレアがこの戦いにおいて問題視していたことだ。


 クルーエルを倒すためには魔技の活用は不可欠。

 しかしそれで魔力を消費すれば、侵食領域の格好の餌食となるジレンマ。


 だから戦うとすれば、早期決着をつけるか、原因の討伐かをしなければいけない。

 そして、アストレアが取れる選択肢は前者一択のみ。


「逃げてばかりでどうするの? そんなに一方的じゃ、ケンカにもならないわ」


「だから、ケンカに夢見すぎ!」


 一つの水の線を避けた直後、ビルの壁に足をつけ、そこを足場にアストレアはしゃがみ込む。

 直後、その足場を蹴って、一直線にクルーエルへと飛び出した。

 ビルが大きく凹み、コンクリートの破片が落ち、散乱するガラスが光を乱反射する。


 空中を疾走するアストレア、その中でもクルーエルから幾重もの線が襲い掛かる。

 その一つ一つが殺意の塊であり、少しでも触れば四肢が吹き飛ぶこと間違いなし。


 だから、一撃でも受けてはいけない。

 とはいえ、空中に飛び出てしまった以上、避けるためには足場が必要。

 まるで昔に見たスパイ映画のレーザー回避シーンようだ。

 まさかそれを現実でやる羽目になるとは思わなかったが。


「やるしかない!」


 避けれるやつは空中機動で避け、無理そうなら空中に氷の足場を作り出した。

 幸い、辺り一帯に水が飛び交って、大気中は水滴で溢れている。


 水氷の魔技は水操作に優れているため、水操作で大気中の水をかき集めそれを凍らせれば、最低限の足場になる。

 それを活かし、さらに空中で立体的に移動し、クルーエルに肉薄する。


「特魔隊式格闘樹・脚式――鋼打ち」


 飛び出した勢いのまま、足に魔力を集中させて放つ飛び蹴り。

 それは鋼鉄にまで硬化し、クルーエルに襲い掛かった。


 しかしその攻撃は、クルーエルのクロスした両腕で防がれる。

 僅かな拮抗、強烈な蹴りによって黒腕にヒビが生じた。

 されど、あいにく壊すまでには至らず。

 勢いが終わるとアストレアは一旦距離を取った。


氷冷機関銃(コールドガトリング)


 とはいえ、それは攻撃の終わりを指すわけではない。

 今の流れはアストレアにある。

 その優勢を活かして、すぐさま攻撃をしかけた。


 そこで思い返すは、ノアとの模擬戦で使ったあの技だ。

 左手に氷の砲筒を作り出し、それを激しく回転させて、同じく氷で出来たガンガンを撃ち出す。

 冷気の尾をなびかせ、横殴りの氷の礫が降らせた。


「これがあの時の......見てると感じるじゃ全然違うわね」


 そう言いながらも、クルーエルは右手に作り出した蛇腹剣を鞭のように振るい、剣の天蓋を作り出して攻撃を防いだ。


 しかし、それはアストレアとて想定済み。

 だからこそ、左手の機関銃を砕くと、代わりに広げた掌をギュッと瞬時に握った。


 瞬間、蛇腹剣によって弾かれ、砕かれ、飛び散った氷の刃が向きを変え、一斉に下手人に報復せんと襲い掛かる。


「――っ」


 その時、初めてクルーエルが息を呑んだ音を聞いた気がした。

 だからこそ、地面を強く蹴り、アストレアは真っ直ぐ走り出す。


 不意を突かれ、黒いサボテンとなったクルーエルへ迫ると、レイピアに冷気を纏わせ――刺突。

 咄嗟に剣を横に向けたクルーエルが剣先を受け止めたため、有効打にはならない。

 しかし、アビゲイルの肉体の一部で出来た刀身に、剣先は刺さった。


「波浄槌」


 刺さったレイピアの柄頭、アストレアはそこへ掌底を打ち込むと同時に水の衝撃を放つ。

 瞬間、疑似パイルバンカーとなったレイピアは急加速し、クルーエルの肉体を貫いた。


 同時に、衝撃によってクルーエルが吹き飛び、地面を勢いよく転がっていく。

 その光景を見て、アストレアは右手にレイピアを戻すと、そっと身構えた。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)


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