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第4話 傲慢の王、そして王を殺す方法

 深海に向かって沈む体、その瞼に光が差し込み、目を焼く。

 そう認識した途端、沈んでいた体は海面に向かって浮上する。

 初めて感じる感覚だ。しかし、すごく落ち着く。


 ゆっくり目を開ける。

 柔らかいもので全身が包まれてるようで、しかし不自由は感じない。

 やはりここは海中――いや、違う、景色が見える。


 確かに、今の自分は深海から海面に向かって浮上している。

 その道中、自分を取り巻く水の中にいくつも絵が浮かんでいる。


 一つ、泣くライカと彼女に抱えられる優しそうなおじさんが死ぬ絵。

 一つ、小さな崖から眼下に広がる街を見つめる小さなライカと一緒の絵。

 一つ、小さなライカが特魔隊に行くことになり、別れる時に涙した絵。

 

 代表的なのはそれらの絵だが、それ以外にも細々と絵が自分を取り囲む。

 自分が映ってるし、写真を撮ったこともないで、確実に絵と言える。


 しかし、その絵はどれも自分が経験したことがあるもので。

 懐かしさと同時に妙な違和感を感じるのはきっと気のせいじゃない。


 一つ、山の中で一人モデルガンを両手で握りしめ射撃の練習をする絵。

 一つ、獣アビスに襲われそうになった幼女を助けに走っている絵。

 一つ、ライカと一緒に共闘し、果てに棺アビスを撃破した絵。


 海面に近づく度に絵は更新され、同時に直近の記憶に近づいていく。

 そう、まるで今に至るまでの記憶を丁寧に遡っているみたいに。

 あれ、これ、なんて言ったっけ。確か、走馬灯って――


「――ぁ」


 白く染まった海面に顔が触れ、呼吸を喘ぐ代わりに短く息が漏れた。

 同時に、シャボン玉がパチンと弾けたように、意識も弾ける。


 幸せで、懐かしくて、それと同じくらい後悔も悲しさもある夢から覚める感覚。

 先程見ていた絵はあっという間に記憶の彼方に消え、代わりに聞こえてくるのは――音。


 ザーッと水が流れる音が聞こえる。それも大きい。

 すぐ近くに滝がある。大瀑布、それぐらい体に音が響く。

 にもかかわらず、視界は真っ暗だ。

 いや、違う。これは――、


「......」


 意識と認識の整合性が取れた時、ノアはパチッと目を開けた。

 視界に空が広がる。それこそ、雲一つない青の天井、否、天蓋。

 吹く風は春先のように穏やかで、いつまでもここに居たいと思わせる。


「ここは......」


 しかし、見たことのない世界には変わりない。

 だから、寝そべっていた体を起こすと、すぐに首を巡らせた――見覚えのない景色が広がっている。


 まず、今いる場所は、直径十メートルほどの芝生の大地だ。いや、小島と言うべきか。

 その周辺は宝石のように輝く海であり、奥はどこまでも水平線が続いている。


 その現実感のなさに、ノアは頬をつねった。痛い。

 芝生を撫でた。押し返す感触がある。

 空を見上げた。眩しさを感じる。

 感覚はリアルそのものだ。

 明晰夢と片付けるにはだいぶ違和感が大きい感覚。

 そして、なにより――


「.......城?」


 正面に、人一人分の幅でまっすぐ伸びる道がある。

 そして、その先に一目で立派とわかる城があった。

 それこそ、物語本かゲーム、はたまた教会都市エルスタでしか見ない建物だ。

 エルスタには行ったことないけど。


 高い城壁に囲まれており、その奥から天に伸びるように一つの塔そびえたっている。

 言うなれば、王様が居そうな場所と言うべきか。

 そこを見た瞬間、一瞬ノアは身震いする。


(な、なんか見られた......?)


 そんな気がするが、すぐに頭を横に振り、ノアは城の観察を続けた。

 その城の天辺にはデフォルメされた天使――天使の輪に翼を生やし、その翼に抱え込まれるように剣がデザインされた旗がある。


 特徴的なのはそれだけで、改めて全体を見れば、うん。

 普段、角ばった無機質の建物ばかり見ているだけに、不思議と感動を覚える。


「気のせいかな、浮いてない?」


 その城は実に素晴らしい。だが、それがどうやって建っているのは不可思議だ。

 というのも、城の足元には最低限の大地があるだけで、その下には大地より遥かに大きい穴がある。


 どのくらいの深さかはわからないが、城が巨大な穴の上で浮いているのだ。

 加えて、今ノアがいる小島から続く一本の道だけを支えにして。

 折れてないのが不思議なぐらいだ。


 また、周囲の水平線から続く海は、その穴に向かって落ちているようであった。

 先程聞こえた轟音の発生源はどうやらそこらしい。


「どうして僕がこんな場所に.......?」


 周辺の整理が出来たところで、ノアはひとまず立ち上がる。

 改めて、これまでを思い返してみるが、全く心当たりがない。


 最後に覚えているのは、幼馴染のライカと一緒に巨大なアビスを倒したことだけだ。

 そして、気が付けば、こんな未知の空間にいた。


「僕は死んだのか......?」


 目の前の光景を前に、そんな考えがノアの脳裏を過る。

 突発的に聞こえた声に誘われるままに魔力を発露させ、それを行使した。

 その代償で死んでしまったのではないか、と。


 しかし、その考えは、すぐに頭を横に振ることで拭った。

 ようやく魔力が使えるようになって、約束の一歩を踏み出せた。


 にもかかわらず、使っただけで死んでしまったとは――それこそ死んでも考えたくない。


「......とりあえず進んでみるか」


 正面へと視線を向け、ノアは細い幅の道を歩き始めた。

 この空間に来た理由を探すとすれば、やはり気になるのは城だ。

 そして、それで考えられるのは、


「あ、誰かいる」


 道を歩いていると、城門前に門番らしき人物を発見した。

 門の左右に二人、槍を持った甲冑の兵士だ。

 この状況を尋ねようと、城門に近づいてみる。

 気のせいか、その兵士から人の気配を感じない。


「あの、こんにちは」


 声をかけてみるが、返事が返ってくる様子はない。

 どうやらただの置物のようだ。

 それが門番をしているように配置されてるだけ。


 不自然に配置されたそれを不思議に思いつつも、ノアが素通りしようとしたその時――


「う、動いた......」


 突然、左右の兵士が、槍をクロスさせるようにして行く手を阻んだ。

 ホラー映画の脅かし演出に驚くように、ノアは体をビクッとさせた。

 そんな展開に、さらに驚かせ要素が続く。


「これより先は、王の城である」


「覚悟なき者は立ち入るべからず」


「今度はしゃべった......」


 ポツリと言葉を零し、ノアは口を少しだけ開いた。

 この兵士、ただの置物では無かったのか。

 にしては、ロボットに見えないが。


(にしても、さっきの言葉って......)


 驚くのもそこそこにして、ノアは兵士の言葉に反応した。

 どうやらここには「王様」という存在がいるらしい。

 そう、「王様」が。


「.......」


 少し後退すると、ノアは門の奥から存在感を放つ城を見た。

 そこに自分をこの場所に呼んだ「王様」がいる。

 もしかして、あの時に城を見た時の視線がそうなのか。


 正直、困惑が隠せそうにない。

 しかし、今の自分に進む以外道はない。

 となれば、勇気をもって一歩を踏み出せ。


「僕は大丈夫です。なので、通してください」


 そう言うと、両サイドの兵士は同時に槍を戻した。

 あっさりと入城が許されると、ノアは城門を通って広い通路を歩く。


「っく.....ぁ!?」


 直後、過呼吸になったような呼吸動作がおかしくなる。

 まるでトラウマに直面して呼吸の仕方がわからなくなるように。


 心なしか体すら重くなった気がする。

 深呼吸、ゆっくり深呼吸だ。

 体の変調に昂った気を静めるように、数度深呼吸を繰り返す。


「スー......ハー......。スー......ハー......。よし、一先ず落ち着いた。

 な、なんだったんだ今のは......?」


 違和感に首を傾げるも、原因解明よりも先にノアは玄関へと向かった。

 一応ノックし、ドアを開ける。

 すぐに広いエントランスが視界いっぱいに広がった。


 しかし、そこに人の気配はない。

 あるのは高価そうな割れ物や、メイドと執事の置物ばかり。

 加えて、その置物はある動作の一瞬を捉えたような姿勢であった。

 例えば、置物を磨いていたり、窓掃除をしたりなど、そんな感じの。


「王様がいるとなれば、やっぱ王の間だよね.......」


 正面に見える大きな階段を見て、ノアはそう呟く。

 そして、早速のぼり始めた。

 階段をひたすら上り、王の間がありそうな城のてっぺんを目指す。


『覚悟なき者、立ち入るべからず』


 その道中、ノアはふと兵士の言葉を思い出した。

 その覚悟とは、一体どんなことを指しているのか。

 一先ず、道中で何者かに襲われることを想定して歩いてみた。

 しかし、警戒も空しく、特に襲われることなかった。


「......んっ、ハァハァ.......ぅっ」


 それから少しすると、ノアは呼吸を乱し始めた。

 いや、さっきからとっくに乱れている。

 先程から一貫して、どこまでも続く階段を上っているだけなのに。

 にもかかわらず、過呼吸のように呼吸が辛い。


「......っ」


 呼吸が上手くできなければ、思考も上手く巡らすこともできない。

 加えて、足は、まるで鉛付きの足枷を引きずっているように重たい。


 途中で拝借した兵士の剣を支えにしなければ、歩くことすらままならなかっただろう。


「み、見つけた.......」


 いくつもの長居階段を上りきった先で見つけた廊下の奥、ノアは巨大な両開きの扉を見つけた。

 扉に続く廊下の両側に、多数の兵士が槍を持って立っている。


 雰囲気からしても、直感からしても、その場所が王の間だろう。

 つまり、その扉を抜けた先に、自分を呼んだ「王様」がいる。


「うっ、んぐぐぐぐ......!」


 剣を捨てると、両手で両開きのドアに触れ、体重をかけるようにノアは押し込んだ。

 ドアがキィーッと高い音を出しながら、少しずつ開いていく。


 やがて一人分の入れるスペースまで開くと、足を引きずるようにして無理やり動かし、進み始めた。


「ようやく来たか。待ちくたびれたぞ」


 その時、正面から少年のような高い声がノアの耳に届いた。

 その声に、丸くなっていた背中をゆっくり伸ばす。

 最初に見えたのは、巨大な王の間だ。

 まるで権力の大きさを示しているみたいに広かった。


 入り口から真っ直ぐ赤いカーペットが敷かれている。

 また、左右には均等に並んだ石柱があった。

 石柱の前には左右五体ずつの槍を持つ兵士が立っている。

 変わらずただの置物のように見えるが、それも実は動くのだろう。


 改めて視線を正面に向けるノア。

 大小様々な本をギチッと詰め込んだ、天井までそびえるように大きい本棚に囲まれた玉座、そこに何者かが座っていた。


(真っ黒だ......)


 王様らしき存在の全身は、まるで闇もしくは影のようなもので覆われ、姿がわからない。

 しかし、背丈に限って言えば、声に似つかわしいように小柄であった。


 その中で唯一わかる、一際輝く紅い瞳。

 宝石のように透き通り、高潔で、高慢で、尊大で、不遜で、横暴な輝きを放っていた。


「――っ!」


 目が合った。紅い視線に目を通して脳を射抜かれる。

 瞬間、ノアの全身から冷や汗が滝のように溢れ出す。

 全身がゾワゾワと総毛立った。


 そして、もはや反射的に、本能的に、確約された未来のようにその場に跪き、頭を下げる。

 全身が、本能が、警報を鳴らしている――不敬は許されない。


「殊勝な心掛けだな、愚民。悪くない気分だ。表を上げよ」


 そう言われ、ノアは初めて顔を上げた。

 謎の王様が嗜虐的な目つきで見てくる。

 口元も嘲笑気味の歪み方だ。

 そんなノアの緊張をよそに、謎の王様は自己紹介を始めた。


「まずは立場をハッキリさせようか。我の名はシェナルーク=スペルビア。

 貴様らからすれば、『傲慢のアビス王』と呼ばれている存在だ」


「『傲慢』のアビス王......!?」


 その発言に、ノアは自分の耳を疑った。その反応は正しい。

 なぜなら、その存在は特魔隊が数多の犠牲者を出し、そして父親(えいゆう)オルガが倒したはずだからだ。


「嘘だ! 傲慢の王は死んだはず! そうに決まっている!」


 余りに突拍子もない言葉に、思わず叫ぶノア。

 王様の前で不敬満載の言葉遣いだ。

 しかし、そうなってしまうほど、その言葉が信じられない。


(そんなことあっちゃいけない......!)


 もしそれが本当であれば、父の死は一体なんだったのか?

 「英雄」となった父の存在は、まるで金メッキを纏っただけのまがい物と同じ、とでも言うか。

 そんなノアの反応に、シェナルークは鼻を鳴らし、


「自分の目で見ているというのに信じないとは。

 盲信的な考えだな。浅はかでくだらん。

 我がここにいる、その事実が全てだ。

 第一、貴様はすでに我が嘘をついていないことをわかってるはずだ」


 やや怒気がこもったシェナルークの言葉に、ノアは口を噤む。

 シェナルークの言う通り、この異常事態を本当は理解している。


 本能というべきものが、理由もないままに目の前の存在を本物だと断定している。

 認めたくないのは、ただのわがまま。

 父親の死が無駄であったと、認めたくないための身勝手に過ぎない。


「......はい、わかっています」


 そして、今のノアに反抗できる力はない。

 そんな力はありはしないと、目の前から放たれる圧で理解させられた。


 情けない話だ。今できることは、「傲慢」な王様の機嫌を損ねないこと。

 奥歯を噛みしめ、ノアは右手でギュッと拳を作る。

 その態度を改めたノアに、シェナルークは目を細め、


「フン、従順なのは良いことだ。こっちの手がかからなくて済むからな。

 優秀な反応に我から特別に褒美を与えようではないか。

 貴様の質問に答えてやる。聞きたいことぐらいあるだろう?」


 傲岸不遜な態度、されど溜飲を下げてくれたシェナルークに、ノアが唾をゴクリと飲み込む。

 それから、一度ゆっくり深呼吸をすると、そのままの姿勢で口を開き、


「この場所は一体どこなんでしょうか?」


「ここは我と貴様の精神を繋げた亜空間だ。

 貴様程度の知能であれば、単に精神世界と考えればよい。

 周りの景色は、我の想像(イメージ)が具現化したものだ」


 精神世界、道理で見覚えのない景色ばかりである。

 そんな世界に自分がいるのは、まず間違いなくシェナルークと話すため。

 そして、シェナルークがこの場所に自分を呼んだのだ。


「......シェナルーク様は、どうして僕の精神世界にいるのでしょうか?」


「我の目的のためだ。それを貴様程度に話す義理はない。

 貴様はただ、貴様の父親であるオルガに器として捧げられた供物に過ぎないのだ」


「捧げられた供物......?」


 ノアは、その言葉に首を傾げた。

 自分に父親の記憶は全くない。

 なぜなら、自分が生まれる前には、父親は死んでしまっているのだから。


 いや、訂正する。全く知らないわけではない。

 死んでしまった母親から聞いた話や、ライカの父親から聞かせてもらった話がある。


 その話を聞いた限りでは、オルガは間違いなく英雄だった。

 少なくとも、人を犠牲にするような選択をする人間ではないとわかる程度には。


「あぁ、ちなみにそれは貴様の父親から提案されたものだ。

 ククク......今思い出しても、あの提案は随分とバカげた博打であったな。

 あそこまで愚かな人間は、そうそう見たことがない」


 当時のことを思い出しているのか、シェナルークはクスクスと笑った。

 そんな愉悦の王様を見ながら、ノアは何かを言いかけた口をゆっくり閉じる。


 理解したのだ。王様は嘘をついていない、と。

 いや、厳密に言えば、自分程度に嘘をつく必要もないというべきか。


(でも、何か理由があったはず......!)


 しかし、それを聞いてもすぐに「父は酷い奴だった」と思えない。

 母親が、ライカの父親が語っていたオルガという人物は、紛れもなく凄い人だった。


 多くの人を助け、多くのアビスを倒し、多くの人に尊敬された。

 それが英雄(オルガ)という人物である。


 でなければ、その名前はとっくに悪名として広まっていたはずだから。

 空気に飲まれてはいけない。自分の信じる英雄像を信じろ。

 瞬間、ノアを見て、シェナルークが紅い瞳を覆うまぶたを細める。


「随分と希望に満ちた顔をするものだな。貴様は自分の親に売られたのだぞ?」


「その話が仮に本当だとしても、全てを語っているとは思えません。

 そして、僕は父さんが......英雄オルガがそのようなことをしたとは思えません。

 なぜなら、結局は、シェナルーク様を肉体を失わせるまで追い込んでいるわけですから」


 瞬間、シェナルークの眉がピクッと動いた。

 同時に、空間が一気に冷たく、殺伐としたものに変わる。

 瞳から「自分は今不機嫌だ」と伝わってくる。

 シェナルークは、頬杖を突く右手とは反対側の左手をそっと上げ、


「口を慎めよ、愚民」


 直後、跪くノアの首元に、左右にいた兵士達が現れた。

 そして手に持つ槍を、ノアの首元に突きつける。


 その槍先は、首数センチのところで止まった。

 いや、一か所だけ表皮を刺して血がスーッと流れ出る。

 どうやら、シェナルークが腕を上げなければ刺されていたようだ。


「貴様は耳がおかしいのか? この姿は、我の目的のためと言ったはずだ。

 それに、貴様ら人間が我に勝てることなど絶対にありえない。

 我を倒そうとして散っていた人間が数えきれないほどいて、我はこうして生きている。

 これが全てだ。次も面白くもない冗談を言えば貴様を殺す」


 まくし立てるような言葉でしゃべり、シェナルークからすさまじい怒気が放たれた。

 彼の纏う空間が、陽炎のように歪んで見える。

 あと一歩でも踏み込めば、自分は死ぬかもしれない。

 瞬く間に溢れ出た冷や汗が、ノアの頬を伝い、顎先で滴る。


 しかしそれでも、特魔隊がシェナルークに挑んだ歴史を、バカにされたままにするわけにはいかなかった。


 だって、それが無駄であれば、ライカとの約束も、自分の夢も無意味なものになってしまう気がしたから。


「......シェナルーク様を殺す方法ならありますよ」


 その時、自らの死を覚悟しながら、強い意思を宿した黒い双眸でノアはシェナルークを見る。


「何......?」


 不機嫌な王様が睨みを利かせ、見下ろしてくる。

 その射殺すような視線に、ノアは生唾をゴクリと飲み込んだ。

 一言一言が凄まじい圧だ。

 再び、額から流れた冷や汗が頬を伝う。


 張り詰めた空気に今にも逃げ出したくなる。

 しかし、逃げてはいけない。

 そして、決意を胸に、ハッキリと言葉にした。


「たとえ誰もシェナルーク様を殺せなくても、シェナルーク様なら自分を殺せる」


 相手は人類を殲滅せんと強大な力を持った七体の王の一人。

 十六年前には大勢の隊員が戦い、その強大な敵の前に命を散らした。

 そして、目の前の存在が事実である以上、誰も「傲慢」な王様を殺せていない。


 つまり、この世界でシェナルークを殺せる人間はいないということだ。

 しかし、それは「自分自身を除いて」という話なだけであって。


「つまり、僕はシェナルーク様を信用させ、その上で自殺してもらいます」


 ノアの言葉に、シェナルークは一瞬目を剥いた。

 当然だ、それはあまりにもバカげた提案で、到底受け入れがたい話。

 どうしてそれを受け入れられようか。


 僅かな沈黙が流れる。自分の心音が耳元で聞こえるほど静寂に。

 すると、不機嫌な王が小刻みに肩を震わせ始め――、


「……ク、ククク、アハハハハ!」


 やがてシェナルークは大声で笑い始めた。

 それこそ、自分のお腹を抱えるぐらいにはバカ笑いである。

 目元に浮かんだ涙を人差し指で拭い、ノアに向かって返答する。


「人間は愚かだと思っていたが、まさかここまで愚かな奴がいるとは思わなんだ。

 貴様の父親も大概だとは思っていたが、まさかそれ以上の逸材がいたとは!

 だが、今のは面白い冗談だ。

 愚かも極まると愛いものかもしれんな。その『傲慢さ』は気に入った」


 ひとしきり笑うと、シェナルークは改めて頬杖をついてノアを見下した。

 見下す態度はそのままだが、空気感は先程よりも軽い。

 不機嫌な王が、上機嫌になったからだろうか。


「では、見せてもらおうか。

 貴様の我から信用を得るというその行動を。

 契約として、我の魔力を使用することを許可する。

 それと死にたくなければ、我のことは明かさぬことだな」


 ニタリと口を歪め、シェナルークはそう言った。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)


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