表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/5

第3話 覚醒、そして物語は始まりを告げる#3

 謎の声を受け、ノアの体に力が、魔力がほとばしる。

 これまで味わったことのない感覚であり、体中から力が湧く。


 今なら何でもできそう万能感が、溢れ出る高揚感が体を包む。

 そして限りない高慢な気持ちも。


「これが魔力か......怒りが魔力を使えるようになる条件だったのか?」


 両手を見つめ、たった先程起きた事象にノアは顔を少しだけ眉根を寄せた。

 声に唆されて精神を怒りに満たしたが、今は怒りというより不愉快が勝ってる。

 そう、どうして今になって発動できたのか。


 仮に劣等感に怒りを覚えたのなら、今になって始まったことじゃない。

 それこそ、ライカと別れた小さい頃など、未熟な精神も相まって今より酷かった。

 ともあれ――、


「ま、そんなこと今はどうでもいい」


 発動した今、そんなことを考えるのは詮無きこと。

 口調が少しだけ雄々しくなっているのが気になるが、それも含めて。


「......」


 自分の開いた手を、ノアはギュッと握りしめる。

 感覚はいつもと変わらない。いや、いつもより調子がいいか。

 だからか、確信できる。この力なら――、


「これで一緒に戦える」


 今重要なのはこれだ。この力があれば目的を果たせる。

 目線を巨大な棺型のアビス、便宜上、「棺アビス」と呼ぶ存在の方へ視線を向けるノア。

 先程、大事な幼馴染を痛めつけてくれた相手だ。盛大にお礼参りせねば。


「今、加勢に行くぞ.....ライカ!」


 右足を踏み込み、ノアは地面を蹴り出す。

 瞬間、地面がバキッと僅かな凹んだ。

 感じたことも無い力、それこそ未知のエネルギーが足裏から放たれた。

 その一歩は、体を矢のように弾き、標的まで運んでいく。


 周辺視野で捉える景色が瞬く間に切り替わる中、ノアは右手を力強く握り、大きく振りかぶった。

 眼前、勢いをそのままに戦っているライカにの横合いから飛び出し、豪拳を振り抜く。


「大人しくしやがれ!」


 激情を拳に乗せ、棺アビスの頭部を殴った。

 瞬間、弾かれるように怪物の巨体が傾き、十数メートルほど吹き飛んだ。


 その巨体は足元らしき棺の角でズガガガとアスファルトを削り、やがて大きなビルに直撃。

 体が斜めっていたために、頭からビルに穴を開ける。

 衝撃で爆発し、辺りには茶色く濁った砂煙が盛大に舞った。


「ノア.......今のは?」


 ノアが着地すると、傍らにいるライカが唖然とした顔で聞いてきた。

 突然の光景に、理解が追い付いていないと表情から伝わってくる。


 そんな彼女に視線を向けると、ノアは不敵に口角を上げる。

 その口角に、隠しきれない喜色を含めて。


「どうやら、俺にも魔力が扱えるようになったみたいだ」


「魔力が!? それは本当か! だから、眼が赤いのか……?」


 瞬間、ライカは青い瞳を光り輝かせた。

 それこそ、自分のことのように嬉しそうだ。

 そういうところは昔から相変わらずのようで、こちらも嬉しい。


 ライカの反応に微笑むと、ノアはチラッと視線を砂煙の奥へ移動させた。

 そこには巨大な影がのっそりと動いている棺アビスだ。

 その怪物は、ビルに腕を絡ませ、それを支えに起き上がろうとしている。

 

「ライカ、詳しいことは後だ。それよりも、先のあのデカブツをどうにかしないと」


「あ、あぁ、そうだな。なら、後で聞かせてもらうぞ」


 ノアの言葉から聞いた朗報に興奮気味だったらライカが、一つ深呼吸して気持ちを静める。

 そして、意識を切り替え巨大な敵に目を細めるライカの傍らで、ノアは殴った右拳を見ると、


「さっき殴った感じ、相当固いな。防御に特化してる感じというか。

 さすがに拳がジンジンして痛い」


「みたいだな。アタシはガントレットがあるから平気だが、ノアが素手なのはな。

 なら、近くにいる奴から少し武器を借りるか」


 そう言って、周囲を見渡すと、壁に寄りかかってる隊員を見つけ、ライカは走り出した。

 ライカが肩を揺さぶって声をかけるが、隊員は気絶しているようで反応する様子はない。


「少しの間借りるぞ」


 そう、優しく一声かけると、ライカは隊員の手首にある銀色のリングを拝借した。

 それから、戻ってくると、すぐさまノアにそれを渡す。


「これを使え」


「これは......?」


「アビス魔鉱石でできたリングだ」


「そのアビス魔鉱石ってのは?」


「たまに長く生きたアビスや、瘴気の濃い場所で生まれたアビスの体内にある魔力が、結晶化して出来た特殊な鉱石のことだ。

 それを加工して武器にしてアタシ達はアビスと戦っている」


 そう、説明するライカがノアにリングを手首に通すよう指示した。

 そして、ノアがリングを装備したのを確認すると、


「魔力を流してみろ」


 再び指示され、言われるがままに魔力を流す。

 その瞬間、持っていたリングが質量を無視して形を変え、二丁銃へと変化した。


「ト、トカチノフEP-6000だって!? おいおい、嘘だろ!? 俺の一番好きな銃じゃないか!」


 突然、興奮するのノアに、ライカはビクッと体を反応させた。

 が、すぐに気を取り直し、その変化について説明する。


「そのリングは、本人が最も得意とする武器に変化する。

 アタシの場合は、この両手に身に着けたガントレットだな。

 にしても、まさかお前が、そこまで銃が好きだったとは思わなかったけどな」


「一般枠で特魔隊に入ることを志した際に、なけなしのお小遣いでモデルガンを買ったのが始まりさ。

 で、これが当時一番人気だったマグナム銃のモデルガン。

 めちゃくちゃ高かったのを覚えてる」


「......もう少しお前の昔話を聞きてぇところだが、まずはこの場をどうにかしなきゃな。

 お前がさっき殴り飛ばした敵も完全に立ち上がるぞ」


 ライカが言った言葉を受け、思わず懐かしさに目を細めたノアは視線を移動させた。

 立ち上がった棺アビスは自分達に標的を定めている。


 円形の平たい拳をガチンッガチンッと突き合わせていた。

 どうやらやる気満々らしい。しかし、それはむしろ望むところだ。

 紅い瞳をギラつかせ、ノアは不敵に笑った。


 戦いの高揚感もそうだが、それ以上に今の状況が嬉しいのだ。

 十一年前、まだ小さい頃に約束したことが果たせる。

 だからか、こんな時にも関わらず、ついつい言葉が漏れてしまう。


「ライカ、昔の約束......覚えてる?」


「っ!......あぁ、片時も忘れたことはねぇよ」


 目を大きく開き、ライカが意思の強い青瞳に喜色を生み出す。

 直後に、頬を緩めて答えた彼女の言葉に、ノアは口角を上げて「そっか」と呟いた。


 どうやらライカも同じ気持ちでいたらしい。だとしたら、待たせてごめん。

 でも大丈夫、ここからはもう一人じゃない。一人にさせない。

 だから――、


「それじゃ、約束を果たしに行こうか」


「あぁ、そうだな。これがアタシ達の初陣だ」


 二人して胸を大きく張り、標的を見据えた。

 それから、隣り合ったまま互いの拳の甲をコツンとぶつけ合わせる。


 苦節十一年、約束してからもうそれだけの月日が流れた。

 しかし、それはもう過去の話。

 今この時から始まるのだ――自分達の約束の物語が。


「グシャアアアア!」


 気勢の声を張り上げ、棺アビスが四本の腕を波立たせた。

 瞬間、二本の腕を突き出し、十数メートル離れた位置から攻撃する。


 鞭のようなしなりを帯びた攻撃を、ノアとライカはそれぞれ左と右に旋回し、回避。

 二人がいた位置のアスファルトが爆発し、砂煙と瓦礫が弾け飛ぶ。


(なるほど、銃の弾丸は自身の魔力で生成って感じか)


 移動の間に、ノアは魔力を流した際に得た、アビスリングの感覚的な動かし方の理解をもとに、自分の武器に対して認知を深める。

 

 形が愛銃ソックリでも何らかの差異があると推測すれば、どうやら正解だったようだ。

 握っている銃のシリンダー部分に弾丸が装填されるのがわかる。

 どうやら魔力で生成する分、リロードは不要らしい。


 そして、それ以外はまんま愛銃だ。構造や手触りまで瓜二つ。

 山の中でずっと木製の的相手に撃っていただけ相棒が出番とばかりにやって来たみたいだ。

 であれば、この相棒とも一緒に戦おうではないか。


「試し撃ちさせてもらうぞ」


 両手に感じる懐かしい重みに胸を弾ませ、ノアは素早く両手の銃を向ける。

 人差し指にかけたトリガーを引くと、銃口からバンと弾丸が撃ち出された。

 照り輝く金属の物体、止まって見えるほど激しく回転し、透明の尾を作る。


「グギャ!」


 瞬く間に移動した弾丸が棺アビスが突き出した腕に着弾した。

 瞬間、まるで豆腐にハンマーを振り下ろしたように腕が砕け散る。


「なるほど、凄いな。 威力は.....大砲とまではいかないが、それぐらいの強さと貫通力か?」


 目の前の光景に、ノアの心臓はバクバクとし、緩みそうな口角が止まらない。

 ある種の脳汁が出る感覚、興奮が思考を席巻する。

 しかし、すぐにハッとして頭を横に振った。


「ふぅー、落ち着け。興奮はいいが、今じゃない。冷静になれ」


 一度ゆっくり呼吸すると、意識を再び標的へと向けた。

 その一方で、ノアの位置とは反対側から幼馴染の撃墜光景を見ていたライカが口を弓なりにし、


「ハハッ、なんつー威力。いいね! アタシもちったぁ良いとこ見せねぇとな」


「グギャス!」


 意気込むライカの眼前、体を圧し潰さんばかりに巨腕の鞭が振るわれる。

 その軌道を見て、目つきを変えて一気に臨戦態勢に入るライカ。


「邪魔だ!」


 正面から立ち向かうと、ライカは高く跳躍。

 直後、大きく振り上げた拳をぶつけ、棺アビスの太い腕を地面に叩き落した。

 その腕はアスファルトに直撃すると、バコッと大きなヒビ割れを作る。


「まだまだ!」


 腕に着地すると、今度はそこを伝って棺アビスの胴体に肉薄する。

 瞬間、足元の巨腕が、ライカの体を振り落すように動き始めた。

 しかし、ライカは別の腕に飛び移ることで躱し、棺アビスの頭に拳を叩きつける。


「剛波拳!」


 ガンッと大きく音が響く。大砲のような威力のぶん殴りだ。

 その拳の圧力と衝撃によって、棺アビスは大きく体を傾かせた。

 しかし、先のノアの一撃で学習したのか、棺アビスが二本の腕を支えに踏み止まる。


「チッ、やっぱ無駄に固てぇ!」


 攻撃を当てたライカは顔をしかめる。

 そして愚痴をこぼした直後、棺アビスは起き上がりこぼしのように勢いよく起き上がった。

 そのままの勢いでライカへと倒れこみ、十メートルの分厚い壁が小さな体を覆い隠す。


「――ぐっ!」


 咄嗟に腕をクロスさせ、ライカはガード体勢に入った。

 直後、巨大な質量体が少女の体にのしかかり、呻く声が食いしばった歯から漏れ出る。


 十メートルの巨体と女の身としてはやや身長の高い少女の比重差。

 その結果はもはや言う間でもなく、軽い体はあっという間に弾き飛ばされた。

 黄色髪を荒れ狂わせ、大気の中を穴を開けるように突き抜ける。


「がっ!」


 地面に勢いよく叩きつけられたライカ。

 体に沿った地面の跡がつき、それを中心に小さなクレーターができる。


 背中から腹部を突き抜けるような痛みに、ライカの思考に一瞬の空白が生まれた。

 刹那、落下ダメージの硬直を狙うように、棺アビスの腕が迫る。


「チッ、もう上げるしかねぇか――」


「大丈夫、俺がいる」


 瞬間、ノアがライカに迫る腕を弾丸で砕き散らした。

 そして幼馴染へ近づくと、すぐに声をかける。


「大丈夫?」


「あぁ、大丈夫だ。心配かけて悪いな」


 一瞬だけ銃をリングに戻すと、ノアは手を差し出し、ライカを引っ張り起こした。

 それから棺アビスの方を見て、さっきの幼馴染の行動を思い返す。


「やっぱり相当固いみたいだね。特に胴体の方は生半可な攻撃は通用しないかも」


「みてぇだな。どうにかしてあの防御力を突破しねぇと。

 そうしてねぇと、いつまで経ってもアビスゲートが開きっぱなしになる。

 じゃねぇと、ゲートを見つけたアビスが、そっから永遠とこっちに流れ込んできやがる」


 その言葉を聞いたノア、ふとライカのガントレットを見た。

 その次に自分の銃を見て、少し考えると、


「俺の銃ならその防御を突破できるないか?」


「どういう意味だ?」


「微々たる差かもしれないけど、俺とライカの攻撃を比べると、ライカの方が面での攻撃になる。

 つまり、俺の銃による点の攻撃なら、貫通力で突破できないかな......と」


 ノアの提案に、一瞬キョトンとした表情をライカが浮かべる。

 しかしすぐに、口元をニヤッと動かし、


「なるほどな。確かに、小せぇ差だがやる価値は十分にある。そうと決まれば、核を狙え」


「核?」


「さっき言ったアビス魔鉱石のことだ。目に魔力を集中させてみろ。

 一番魔力が滾ってるとこがアビスの心臓......核に当たる部分だ」


 ライカにそう指示をされたノアは目に力を入れ、魔力を集めるよう意識させた。

 感覚的にわかる魔力の流動を操作し、目に宿せば、少しだけ熱を帯びる。


 同時に、棺アビスの胸の中心部分に何かが見え始めた。

 サーモグラフィーのような視界の中、そこだけやたら白い。


 白いということは一番熱がある、いや、今回の場合だと魔力か。

 つまり、そこがアビス魔鉱石――アビスの心臓の位置。


「見えた。あそこに叩き込めばいいんだな?」


「あぁ、そうだ。んで、その隙をアタシが作る!」


 そう一言言って、ノアの返事も聞かずライカは走り出した。

 そんな彼女の後ろで、ノアは両手の銃を正面に突き出す。

 

「ギョオオオオォォォォ!」


 今まで聞いたことも無い声色でもって、棺アビスが絶叫し始めた。

 さながら威嚇する動物のようだ。余裕のなさが感じ取れる。

 それはちゃんと攻めれてる裏付けでもある。


「グギャア!」


「当たんねぇな!」


 棺アビスが瞬く間に欠損した腕を再生させ、すぐさまライカに向かって、鞭のように腕を振るった。


 しかし、その攻撃は、回避に専念したライカに当たることは無く、宣言通りに時間を稼ぎ始める。


「スーッ......」


 一方で、ノアは短く息を吸い込む。

 それから、銃の一つをベルトにひっかけた。

 その行動を取ったのは、一つの銃で精密射撃をすることに決めたからだ。


「だああああ!」


 気合一発、ライカが腕の一本を弾き、棺アビスの体が揺らぐ。

 瞬間、巨体に一瞬だけ隙が生まれた。

 その隙に対し、ライカがノアの方へ振り返り、


「今だ!」


 ライカの合図が聞こえた。

 スタートダッシュを決めるように、ノアは素早く銃のトリガーを引く。


 放たれた弾丸が高速で空中を突き抜け、棺アビスの体に着弾。

 巨椀を破壊する一撃、しかし本体に限ってはガッとわずかに傷を入れただけで弾かれた。


「威力が足りないのか!?」


「ぐあぁっ!」


 直後、棺アビスの腕に弾かれ、ライカが真っ直ぐこっちへ飛んできた。

 まるで砲弾のような速度で向かってきた彼女を、ノアは全身で受け止める。


「くっ......!」


 その衝撃は凄まじく、全身に衝撃が駆け抜ける。

 上半身が弾かれそうになる――が、手放すわけにはいかない。

 靴裏が勢いよく滑り、ふんばった状態のまま数メートル後退した。


―――ポワァー


「――っ!?」


 ライカの安否を確かめようとした瞬間、たまたまノアの銃から生じた妙な光に視線が奪われた。

 何事かと原因を探れば、ライカのガントレットに銃が接触している。


(熱い......銃が熱を帯びている。

 しかし、火傷する感じじゃないな。

 じんわりと温かく、そして力強い)


 言うなれば、自分の武器が強くなる。そう言い表すしかない感覚。

 その感覚は何の根拠もないままに確証に至り、ノアはライカに尋ねる。


「ライカ、誰かに魔力を渡すことって出来るか?」


「魔力を渡す? ......アタシの魔力をくれってことか? そんなことできるわけ.....」


 そう、言いかけるも、ライカすぐに首を横に振った。

 一瞬生じた迷いが青瞳から霧散し、すぐに希望で満たされる。

 そして、全幅の信頼を寄せた顔つきで、一言。


「.....あぁ、いいぜ。お前に任せた」


「ありがとう」


 左手を差し出し、ライカの手に触れ、ノアは魔力を受け取った。

 白く輝くを左手を、右手の銃に流し込むイメージで重ねる。

 瞬間、愛銃が少しだけ形を変えた。


 マグナム銃より一回り大きい。また、全体的に白い。

 銃身に月のような装飾がついているのは、ライカの魔力の影響か。

 わからない。わからないが、だとすれば、それは嬉しくて別で力が湧く。


「これならいける」


 銃を見た瞬間に、ノアは確信を得た。

 銃から漲る力が「倒せる」と言っている。

 あまりに揺るがぬ断定。決まりきった未来。

 それに至る軌跡を辿るように、


「スゥー......」


 ゆっくり息を吸いつつ、銃を構えた。

 体を半身にし、右腕をまっすぐ伸ばす。

 左手はポケットにそっと親指をかけるように。

 そして銃口の狙いは――もちろん正面にいる棺アビス。


「ギシャアアア!」


 棺アビスが大きく叫ぶ。

 同時に、四つの腕を絡め合わせ、一本の巨大な腕に変形させた。

 それを高速でねじると、まるでドリルのようにしてノアに打ち出す。


 ギギギギッと音を立て、豪風を伴った刺突。

 当たればノアもライカも死を間逃れないような一撃だ。

 仮に避けれたとしても、今度は都市がただでは済まないだろう。


「フゥー......」


 今度はゆっくり息を吐くノア。

 近づくたびに死の圧が強くなる。

 強烈な風が吹き抜け、黒髪がバサバサと揺れる。

 そんな進んでも退いても危機的状況の中――ノアの不敵な笑みは崩れなかった。


「これで終わりだ――天罰を下す裁きの弾丸ヘブンズジャッジメントショット!」


 脳裏に過った言葉とともに、一発の弾丸を放った。

 直後、弾丸の半径一メートルの領域でソニックブームが発生する。

 遅れて続く強風が、近くの瓦礫を吹き飛ばしていった。


「グギャアアアアァァァ!」


 刹那、棺アビスの腕に直撃。

 あらゆる障害を打ち砕くように、一瞬にして腕を破壊していく。


 散り散りになった腕が、解けるように吹き飛び、残すは胴体だけ。

 そして、これまでの苦戦が嘘のように、凶弾は巨体を貫いた。


「す、スゲェ......」


 その結果には、ライカも唖然とした表情で言葉を漏らした。

 自分でも苦戦した敵を一撃で倒した。

 自分でも出来ないことをノアは目の前でやって見せた。

 そんな言葉が、彼女の表情から伝わってくる。


「ノア、やったな! スゲェよ、お前!」


 自分のことのように、ライカが笑みを浮かべる。

 興奮する姿はまるでロマンに心躍らせた少年のようだ。

 そんな彼女に、ノアは不敵な笑みを崩さず、


「これぐらい俺達なら当然だ。それよりもここからだ。

 さぁ、二人で昔の約束を果たしにいこうか」


 そう、十一年越しの宣言をした。

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ