第28話 共闘、そしてギャリーの脅威#2
アストレアの攻撃により、ギャリーの体は建物へ突っ込んだ。
発生するはずの衝撃と破壊の音は、建物を包み込む氷が発生する音にかき消され、内包するエネルギーすら極寒の内側に閉じ込める。
氷室のように冷え冷えとした見た目をしたその場所からは白い冷気が周囲に広がり、発生源から近い建物や瓦礫は白く凍り付き始めていた。
「ハァハァ......」
その光景を見ながら、ノアは大きく肩を上下させた――やっとだ。
アストレアの協力を得て、やっとまともな一撃を食らわせられた。
初見殺しという一発限りに切り札のような攻撃。
意図してその攻撃を誘発させたわけでは無かったが、結果的に確実なダメージを与えられたはず。
とはいえ――、
(戦闘が始まってから、まだそこまで経っていない。
にもかかわらず、この疲労感......)
手に目線を移せば、小刻みに震えていた。
掌が冷たいのはきっと近くから漂う冷気を浴びているからではないだろう。
これまでで一番に感じる死の重圧に、体が反応している。
これが特魔隊の戦い、覚悟してなかったわけじゃないが、ここまでとは。
震えを止めるように、ノアはギュッと拳を作った。
――ザシュッ
「「っ!?」」
すぐ近くから何かを切断する音が聞こえた。
探さなくてもわかる、目の前の凍った建物だ。
それが綺麗に斜めに二等分され、ズレて崩れた建物からギャリーが出てくる。
千切ったはずの左足は、当然のように再生していた。
「いや~、もらっちゃった。やるね~、キミ達。良い連携だよ。
おかげでせっかく手に入れた服もボロボロ。
左足に至っては千切れちゃったせいで靴無くなっちゃったしね」
そう言って、右足に履いていた靴を脱ぎ捨て、ギャリーは裸足になった。
靴という外装が無くなり、露わになった足はまさに人間そのもの。
色も肌色であり、指も五本ある。ちゃっかりペディキュアまでしてる。
しかし、相手は人類を滅ぼさんとするアビゲイル、全く思考が狂いそうだ。
そんなノアの視線に気づいたのか、ギャリーは目を細め、
「あ、何そんなジロジロ見てぇ~えっち。
それともこの服が気になる感じ? まぁ、アビスって服着る必要ないしね。
なんなら、肉体変形でそこら辺も再現できるし」
「なら、なんであなたは着ているの?」
「そんなん決まってるじゃん。キャワイイからだって。
アビスだって好みがあるんだよ? そんでアタシは可愛いのが好きなのです!」
右肩に大鎌を担ぎ、堂々と胸を張るギャリー。
そんな好きな物をしっかり好きといえる姿勢や人当たりのよさには好感が持てる。
しかし、それでも目の前の相手は無邪気な感情でユートリーを殺した。
そんな相反する気持ちが複雑に絡み合い、混ざり合い変な気分だ。
集中力を乱しそうな要素にノアが頭を振ると、傍らでアストレアがギャリーに注意を向けたまま口を開き、
「――ノア、ここからは本気でやった方が良さそうね。
じゃなきゃ、私達が死ぬ。相手はそれぐらい強い」
「そうだね。出来れば魔力は温存しておきたかったけど、そうは言ってられないみたいだし」
一瞬、二人は視線だけを交わせると、同時に全身に魔力を巡らせた。
ノアの体表にカクカクした回路が巡り、アストレアの体表に滑らかな線の回路が伸びる。
特魔隊における身体能力を上げる手段――自己強化術式だ。
自己強化術式は使えば身体能力が爆上がりする代わりに、体への負担も大きい。
だからこそ、出来る限り使用を抑えたかったが、致し方ない。
いや、むしろ、こういう時のために温存していたというべきか。
目の前のアビゲイルはそれだけの存在。ぬるい思考を捨てるべきだ。
ノアとアストレア、二人の少年少女が発露した魔力により大気が陽炎の如く歪む。
そんな二人に対し、ギャリーが歯を見せて不敵な笑みを浮かべ、
「お、二人とも本気だね~☆
なら、お姉ちゃんもちょっと真面目にやろうかな!」
鎌を胸の前に掲げ、柄を両手に握ってギャリーが動き出す。
その動く速度を見て、ノアは少しだけ眉間にしわを作った。
(ギャリーの動く速度が変わらない)
脳裏に過る刹那の思考、それは目の前に対する違和感だ。
自己強化術式を使った以上、上昇するのは身体能力に限らない。
それに伴う感覚神経の鋭敏化――つまり、動体視力が上がっているはず。
にもかかわらず、先ほど見ていた時からギャリーの速度が変わってないように見える。
それが意味するのは――ギャリーの速度も上がっているということ。
「アストレア、やるよ!」
「えぇ、当然!」
両手をギャリーに向け、引き金を素早く引いてノアは弾丸を連発させた。
一発一発が五センチほどの厚さのコンクリートなら風穴を開ける威力を持っている。
人間の頭なら間違いなく弾けるほどの威力であり、それが計六発殺意の金閃となり、大気を突き抜ける。
「またそれ? そんな牽制攻撃、お姉ちゃんには通じないよ」
軽口を叩き、ギャリーが前方で大鎌の柄を高速回転。
大鎌が円形の盾に早変わりし、六発全てがあらぬ方向へ散らされる。
とはいえ、こうなることはノアにとっては想定内だ。
ギャリーの言う通り、これは単なる牽制であり、狙いは――僅かな注視だ。
「刺閃」
向上させた身体能力を活かし、ノアが作った隙を縫って、アストレアがギャリーの背後を取る。
右手を引いて放つレイピアの攻撃は、同系統の刺突である<鷲突き>よりも速度重視の一撃。
しかし、当然その一撃でも巨岩を穿つ破壊力はある。
「速いね。でも、まだ足りない!」
腕を振り抜き、剣先がギャリーの核を穿つ瞬間、一拍早く反応したギャリーが反転。
回転の勢いをそのままに大鎌を振り抜いて剣先を弾いた。
ギンッと衝撃音と僅かなオレンジ色の火花が散り、衝撃の反動でアストレアの上半身が仰け反る。
生まれたアストレアの隙、その腹部に、ギャリーの素足による前蹴りが刺さった。
「――ぅあ」
かかとを尖らせた一撃がアストレアの鳩尾に深々と刺さる。
直後、ギャリーの足から弾けるように体は吹き飛び、後方にある壁に衝突した。
その勢いは障害があろうと止まることなく、壁を突き抜ければ、アストレアの体が消える。
「特魔隊式格闘術――」
視線の先、アストレアの姿に心を痛めながらも、ノアは目の前に集中し、走り出した。
ギャリーが背後を向き、攻撃直後の隙を狙ってその場を跳躍。
標的の頭上まで来ると、一回転しながら右足を伸ばし、かかと落としを繰り出す。
「脚式・降雷」
その一撃は、一瞬にして地に落ちる雷の如く。
そういう意味で名づけられたその豪脚は、瞬く間にギャリーの頭上へ落ちた。
かかとからは当たった感触、衝撃波が周囲を飲み込む。
しかし―――、
「――っ!?」
ノアのかかと落としは、ギャリーが横に向けた柄で受け止められていた。
直撃は防がれた。しかし、この技の威力は二段構え。
「――ぃ!?」
眼下に見えるギャリの口から驚いたような言葉が漏れる。
それもそのはず、攻撃を受け止めたギャリーが真下に押し込まれているのだ。
両足を開き、衝撃に耐える彼女の足元の地面がバキッと凹む。
「あ、これ......やっば」
瞬間、ノアのかかとから圧力が抜け、そのまま真下の地面に突き刺さる。
ギャリーが身を引き、受け止めることから避けることにシフトしたのだ。
結果、ギャリーがいた場所はバキッと直径一メートル範囲で地面が砕けた。
しかし、ノアとてそれで終わりじゃない。
防がれ、距離を取られることは想定済み。
そしてそういう時こそ、中距離武器の銃は光る。
「強化――」
「死神の風」
ノアが攻撃に移るよりも先に、ギャリーが後方に下がりながら鎌を振るった。
目の前から幅三メートルはある大気を歪ませた不可視の一文字の斬撃が飛んでくる。
(あれは防げない!)
具現化した死の圧力を目の前に、ノアは直観で理解した。
仮に、その攻撃を防げたとしても、大ダメージは必須だろう。
相手が簡単に倒せないならば、継戦能力の維持はしたい。
となれば、出来ることは回避の一択のみ。
「――っ」
頬を引きつらせつつ、小さく喉を鳴らしつつでノアは大きく体を仰け反らせた。
両膝を曲げ、それこそ地面と平行になるほどに。
大気ごと切断する風の刃が、顔面スレスレに通り過ぎ去る。
鼻先数センチの上に風を感じ、戻り遅れた前髪の毛先が切断された。
憎々しいほどの光を放つ太陽と目が合い、わずかに目が焼かれてしまう。
瞬間、襟が引っ張られ、上半身が強制的にグイッと持ち上げられた。
それをしたのは右肩に大鎌を担ぐギャリーで、左手一本で引き寄せたらしい。
もはや逃げることも出来ないゼロ距離、そのノアの顔面にギャリーの陽光の笑顔が近づく。
「どう、ガチ恋距離。これ、サービス!」
直後、大きく顔を振り被ると、ギャリーはノアの顔面にヘッドバット。
硬質な前頭骨――という言葉が正しいかわからない額でもって、鼻っ柱を叩き潰した。
その衝撃的な一撃によって、ノアの鼻から血が流れ、頭が弾かれる。
「もういっちょ!」
そのまま左腕一本、ギャリーがノアの体を投げ飛ばす。
軽々と空中を移動すると、ノアはコンクリート製の建物の壁に衝突。
そのまま突き破ると、床の上を転がった。
「ごほっごほ......」
鼻と背中に感じる痛みを我慢しながら、ノアは上半身を起こす。
鼻血を拭い、見渡した場所はどこかのファミレスだ。
吹き飛んできた衝撃の影響で、瓦礫とテーブル、ソファが転がっている。
場所の広さ、障害物の有無を確認していれば、正面から殺気が飛んできた。
すぐさましゃがみ体勢になり、ノアはその場から後ろに飛び跳ねる。
直後、自分がいた位置にギャリーの大鎌による鋭い一撃が加えられていた。
ピッケルを振りかざしたように、ザクッと床に大きな切り込みが出来る。
幸い、追撃は来なかったが、ギャリーは大鎌を「よっこいせ」と抜くと、右肩に大鎌を担ぎ、左手を腰に当て、
「もっと見せてよ、お姉ちゃんに! キミの輝きをさ!」
興奮しているのか、ギャリーは声を大にして話しかけた。
ノアを見る緑の双眸は、期待に胸を膨らましているようにランランだ。
まるでこの状況に楽しさを見出しているかのように。
方や、ノアにその声に返答している余裕はない。
一撃一撃が必殺級の攻撃をどうにかこうにか退けているのだ。
心身共に疲労の蓄積スピードが半端ではない。
もっとも、言い訳を考える暇もないが。
チラッと視線を移し、近くの机の位置を確認。
そして、銃を一度アビスリングに戻し、両手でテーブルを掴むと、ギャリーに向けてぶん投げた。
「お、今度は何をしてくるのかな♪」
楽しそうに声を弾ませるギャリーがテーブルをサッと斬り裂く、想定済みだ。
狙いは一瞬でも相手から姿をくらませること。
一気に床を蹴り、ノアは彼女の懐に潜り込んだ。
「――わぁお、今度はそっちがガチ恋サービス?」
軽口を叩くギャリーの目の前で、ノアは彼女の両手首を掴む。
その動きとほぼ同時に、両足を上げて、引き絞った両足を揃える。
さながら、それは大砲に詰めた砲弾を発射するように正面に蹴り出した。
強烈な双脚がギャリーの細い体をくの字に曲げる。
ノアのターンはまだ終わらない。
瞬時に両手に銃を握ると、銃口を向ける。狙いは両腕。
銃身に込める弾丸の魔力量をあえて多めにして発射した。
威力を増した弾丸がギャリーの両腕を千切り、ノアは射出の反動を活かしてバク転。
(相手の体勢はまだ崩れている。このまま押し切る!)
無事着地できたノア、一方でギャリーは蹴られた状態からまた体勢を立て直せていない。
吹き飛んだ腕とともに、空中で大鎌が回転している。
追撃するには絶好のチャンスだ。
銃口の狙いを核に定める。
位置は胸の中心より少し左――つまり、人間の心臓の位置。
「おっと、それは早計かな」
その時、ギャリーが足の指先を器用に使い、近くにあった椅子を掴み、ノアに投げた。
射線に被り迫りくる障害物に、ノアはすぐさま弾丸で椅子を破壊する。
が、バラバラに散らばった木片の奥から、ギャリーが近づいてくる。
「がはっ!」
ギャリーの白く伸びた足が、そのつま先がノアの腹部に突き刺さった。
ズシンと腹から背中へ突き抜ける衝撃に、内臓を傷つけられたのか、ノアは口から血を零す。
反撃とばかりに、ギャリーの追撃は終わらない。
そのまま体を翻し、後ろ回し蹴りを放つ。ノアの顔面が弾かれる。
ノアの体はクルクルと回転しながら吹き飛び、カウンターに激突した。
凹んだカウンターに背中を預け、床に座るノア。
その姿を見ながら、追撃を止めたギャリーが床に刺さった大鎌に近づき、
「いいじゃん、いいじゃん、チョーいいじゃん!
お姉ちゃん久々に滾ってるよ、興奮してるよ!
でも、まだ何か出し渋ってない? 遠慮せず全部出してよ。
これで終わりなんて言ってガッカリさせんなよ?」
両腕をあっという間に再生させたギャリーが右肩に大鎌を担ぎ、ゆっくりと歩み寄る。
一方で、そんな彼女の悠然と歩く姿を、テーブルを支えに立ち上がり、ノアは紅い瞳で見た。
(強い.....いや、そんなことわかっていた。でも、想定以上に強かった。
このままでは負けてしまうかもしれない)
思わず脳裏に過る本音、その思考を拭うようにノアは頭を振る。
負ける、などと二度と考えるな。情けない言葉を吐くな。
それじゃ、なんのためにここまで頑張って来たって話になる。
弱気になる心を律し、ノアが口元の血を拭った時――ギャリーのはるか後方、凛とした少女の姿を見る。
(あぁ、そうだ。幸い僕は一人じゃない。まだ彼女がいる)
まだまだ弱い自分と一緒に戦ってくれるバディ。
その彼女の言葉まで冷たく感じる声が響く。
「氷針」
「お、来たね! 待ってました!」
背後から飛んでくる氷を、ギャリーはいち早く反応して大鎌で防ぐ。
そこへ額から血を流したアストレアが近づき、右手のレイピアで刺突を放つ。
「多蜂刺」
数多の蜂が一斉にお尻の針で標的を刺すように。
アストレアから放たれる刺突がいくつも同時に放たれ、ギャリーに襲い掛かる。
「これ、凄いね!」
連続で放たれる刺突攻撃に、珍しくギャリーが防戦一方になる。
つまり、ノアからすれば、背後がら空きになった証。
そのチャンスを逃さんとばかりにすぐさま銃口を向け、引き金を引いた。
バンバンバンバンといくつもの弾丸が射出される。
瞬間、ギャリーがアストレアの攻撃を身を挺して止め、蹴り飛ばす。
その勢いを反転に利用し、すぐさまノアの攻撃に反応した。
「楽しくなって来たねぇー!」
そこからは、ファミレスという狭い空間で行われる、激しい攻防であった。
二対一でありながら、その戦力差はほぼ同等。否、まだ少しギャリーが上回る。
圧倒的な強敵、それでノアとアストレアが退く理由にはならない。
むしろ、ここで退いてしまえば、より多くの被害を生むかもしれない。
それほどまでの強敵が、アビゲイルが、今、目の前に。
ノアの弾丸と豪脚、アストレアの刺突と氷、ギャリーの斬撃と風の刃が、ファミレス内のあらゆるものを破壊し、穿ち、斬り刻みんでいく。
「――ぅっ!」
「――ぃ!」
「私はまだまだイケるよ! キミ達はどう!?」
力を振り絞り、生傷を増やしながら、ノアとアストレアは攻撃を仕掛ける。
しかし、悲しいかな――それで得た成果はゼロだ。
なぜなら、アビスは核を壊さない限り、無限に再生するから。
ギャリーの腕や足をいくら切断しようと、仕舞に頭を破壊しようと意味はない。
いや、頭を潰せば、一時的に視界を奪えるというアドバンテージは得られる。
しかし、それはギャリーも想定済みなのかそう簡単に狙わせてくれはしない。
結局のところ、これが特魔隊がアビゲイル、もといアビスとの戦いで一番苦しい局面と言える。
「あーもう! 狭い! パーッといこう!」
突然、ファミレスという狭さに憤慨したギャリーが大鎌を四方八方に振り回し、滅多切りにした。
直後、ファミレスの店全体に無数の線が入り、刹那、店全体が方々へ弾け飛んだ。
その大きな瓦礫の一部、切断され吹き飛ばされ壁を足場にし、ノアとアストレアは事なきを得る。
そのまま道路へ出ると、ファミレス出会った場所から出てくるギャリーを二人は見た。
「......アストレア、大丈夫?」
「えぇ、まだやれるわ。とはいえ、あまり長期戦は覚悟したくないわね。
さすが、アビス王の支配領域にいるアビゲイルというべきかしら」
「......つまり、この相手に勝てるようじゃなきゃ、アビス王に勝つのは夢のまた夢の話ってことか」
見せつけられる現実に、一瞬顔が引きつるノアであったが、すぐに頭を振った。
この状況で悪いことを考えたところで、何の得にもなりやしない。
今やるべきことは決まってる――アビゲイルを倒すこと。
ならば、集中せねば。こんなところで立ち止まっていられない。
大きく肩を上下させ、乱れた呼吸を整えようとするノアとアストレア。
その二人の前に、スタミナの概念がないギャリーは楽し気に口を開き、
「いや~、強いね。本当に強いと思うよ。
正直、私と遊んでここまで生きてた人達はいなかったよ。
もちろん、二人がかりで挑んできた込みの評価だよ?
私が覚えてる限りじゃ、もっと多い数で一分と持たなかったはずだし」
「褒めてくれてどうもありがとう。
だとすれば、私達からすれば、倒れてくれると一番嬉しいんだけど」
「ふふん、それはムリ~♪
だって、人間ってすっごく面白いんだもん。
可愛い物いっぱいあったり、可愛い子いっぱいいたり。
くだらないことでマウント取り合ったり、明らかに割に合ってないのにあくせく働いたり」
そう言いながら、左足を軸に、ギャリーはその場でクルクル回転させ始めた。
そして、ルンルンとした気分を体で発散させながら、言葉を続ける。
「そういう不合理や不条理、果ては理不尽を甘んじて生きてるんだよ?
普通の動物なら逃げるような状況で逃げない。それってすっごく面白いよ」
「それじゃ、今の俺達の状況も面白がってる.....そういう解釈でいいのかな?」
「そうだね、そうなるかも。
ま、お兄ちゃんの妹である私からすれば、もうちょい怠けようよって思うけどね。
みーんな、働きすぎ。もっとぐうたらしようぜ。
こう見えても、私は普段ぐーたらなんだよ?」
そう言って、ギャリーは柄頭を地面に刺し、大鎌を立てる。
同時に、魔力を一気に解放した。衝撃でブワッと風が巻き起こる。
禍々しい圧力に、ノアとアストレアが二人して頬を固くさせた。
「一体何が......」
「ノア、見て。来るわよ、アビゲイルの本気が」
「本気......?」
困惑するノアをよそに、アストレアの額から一粒の汗が額から頬を伝って流れた。
普段表情が乏しいアストレアの顔に、わかりやすいほどの緊張の色が浮かんでいる。
ギャリーがまだ本気を見せていなかったことにノアを驚きを隠せない。
ましてや、まだ強くなるのか。聞きたくなかった事実だ。
「私達はね、人間の姿をしてるけど、これは本来の姿じゃないの。
でも、特別に~.....私の恥ずかしい姿、見せてあげる。
皆ががだ~いすきなアレ、やっちゃうよ~♪」
右手の五指をひっかくように立て、核の位置に刺すと、ギャリーはニヤリとした笑みを浮かべて唱えた。
「和が名はギャリーギャリー。混沌よりいづる罪の子。
この世界に禍根を示し、呪いを纏って災いを示せ!――罪禍ノ呪鎧」
読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)
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