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第17話 模擬戦開始、そして勝敗の行方#3

 ノアとアストレアの戦い。それは最終局面へと突入していた。

 アストレアのセリフから、どうやら彼女は追い詰められている、と気づくノア。

 だが、彼女の表情の薄さのせいか実感がない。

 ともあれ――、


「そうだね。僕もそろそろこの戦いに決着をつけたいと思ってたよ」


 アストレアと気持ちは同じであった。

 現在、ノアは多大な疲労感を抱えている。

 初めての対人戦に、格上の相手、それから大勢の観客、そして戦闘の緊張。


 それらが意図せず精神に負荷をかけ続けており、いつもより体力の消耗が激しい。

 だからこそ、


(格上相手に些細なミスは命取りだ。

 だったら、体力があるうちに勝負を決めるべき)


 そう思いながら、ノアは改めてアストレアの様子を観察した。

 今の彼女は肩で大きく息をしている。

 これまで多くの実践を経験しているはずの人が、だ。


(正直、体力切れは考えずらい。

 なら、魔力が枯渇しかけているとみるべきかな)


 魔力が尽きると酷い虚脱感に襲われる――と、特訓の際にライカから聞いた。

 例えるなら、魔力は空気で、人は膨らんだ風船だ。

 人は体内の空気を体外へ排出することで、魔力を現象に変換して魔技とする。


 そして魔力が完全に抜けきれば、そこにいるのはただのしぼんだ風船。

 だからこそ、隊員が魔力が少なくなった状態で戦う場合、逃げるか賭けに出るか迫られるという。

 今のアストレアは、まさにその状態である。


 ただし、今回は試合であるため逃げるという選択肢はない。

 であれば、彼女は恐らくなけなしの魔力で大技を振るい、この勝負に決着をつけるつもりだろう。


 さっき「一気に勝負を決める」と言っていたことも踏まえて考えると、だが。

 とはいえ――、


(アストレアの大技がどれほどの威力か未知数である以上、受け手に回るは愚策。

 となれば、撃たせる前に攻め続けて削り切るのが得策と見た)


 相手が大技を考えているとしたら、時間をかけるのは不味い気がする。

 ゲームや漫画でありそうという危うい根拠を理由に、ノアはリングを蹴った。


 目的はもちろん、アストレアに技を打たせる隙を与えないため。

 しかし、それは当然彼女も想定しているようで、ノアを近づかせまいとすぐに攻撃を仕掛ける。


「大氷柱」


 左手を頭上に掲げたアストレアが、空中に四つの大きな氷柱を作り出した。

 直径二メートル、大きさ三メートルほどの巨大な氷塊だ。


 放たれる白い冷気は大気を凍てつかせ、それをそのままノアに向かって放つ。

 猛然と降り注ぐ半透明の塊、しかしそれほどの大きなものがノアに当たるわけもなく。


 されど、躱すことに胸騒ぎを感じたノアは、銃口を向け、飛んでくる氷柱を破壊した。

 砕けた大小様々な欠片が、空中を飛散していく。


「――っ!?」


 瞬間、目の前で起きた光景にノアの目が僅かに貼る。

 砕いたはずのそれが、勝手に、再び四つの氷柱を作るように集合したのだ。

 そして、それはノアを取り囲むようにリングの四方に突き刺さった。


 その光景に、アストレアへと向かうノアが急ストップ。

 すると、視線の先にいるアストレアが伸ばした左手をギュッと握った。

 何かの技の発動――それを予見させるような動きで。


「冰牢刺し」


 アストレアの仕草後、四方を囲む氷柱の側面から氷の枝が生えた。

 太さは三十センチほどで、それが矢の如く高速で枝を伸ばす。

 それが四か所から同じ速度、同じタイミングで。


 その攻撃を、ノアは目を素早く動かし、位置と距離感を把握する。

 速度に関しては、速いが反応できないわけではない。


 だから、すぐさま弾丸を放って、襲い迫る氷の刺突を迎撃した。

 その攻撃によって氷の枝を叩き折ったが、折れた個所から再度枝が生えて攻撃を続行してくる。


(枝が増えた.....!?)


 目の前で起きたのは、それだけじゃなかった。

 近づいてくるたび、氷の枝から枝が生え、さらに先端の枝が二又に分かれと枝分かれを繰り返している。


 木が際限なく枝を伸ばすように、四方の氷の枝もどこまでも伸び続け、半円の茨の檻に閉じ込められたような光景だ。


 木と違う点があるとすれば、伸び迫る枝の全てが自分に向かっていることか。

 この数に囲まれれば、もう避けるスペースなど無い。

 となれば、選択肢は一つ。


(ここを突破するためには根元から断つしかない!)


 周囲の枝が襲い来る前に、ノアは四方の氷柱に向かって弾丸を放った。

 それぞれ放たれた弾丸は、道中の枝を破壊し、遠くにある氷柱に直撃する。


 一拍、ヒビが入り広がった氷柱が破壊され、眼前まで迫った氷の枝の動きはピタッと止まり、その場でリングに落ちて砕け散った。


 無事にアストレアの攻撃をしのぎ切ったノアであるが、問題が解決したわけではない。

 肝心の彼女に大技を放つ時間を与え、挙句には姿を見失った。

 素早く視界を巡らせ、周囲にいない。

 となれば、残るは一つ――、


「上か!」


 すぐさま上に顔を向けると、そこには空中に跳躍したアストレアの姿があった。

 同時に、彼女の横には、大きさ五メートルほどの巨大な氷の剣がある。

 恐らくあれが彼女の大技なのだろう、とノアが気づくのは容易だった。


「まさかここで使う羽目になるとは思わなかったけど、ここまで来たら力を振り絞ってでも勝つわ。

 これで決着をつけましょう――大地を凍てつかせる剣(グラキエスパーダ)


 自らを鼓舞するように言葉を吐くアストレアが、右手のレイピアをノアに向ける。

 直後、空中で制止していた巨大な氷塊が、ノアに向かって落ちた。


 半透明の巨剣がその質量で大気を圧し潰し、太陽光を反射しながら、冷気をバラまいた。

 それが近づくたびにリングに冷気が溜まり、ドライアイスの演出のように足元が白い煙で覆われる。


 リングを白霧で染めれば、今度はたちまち氷漬けにした。

 最初は薄氷であったが、それも冷気が増す度に厚みを増し、凍り付く速度も速くなる。


 立ち尽くすノアの足も例外なく凍結し、この場から逃すまいと固定した。

 余波だけでこの威力、ここから逃れる術はない。

 となれば――、


(直撃を避けることは絶対で、でもそれだけじゃ勝てない。なら――)


 左手の銃を腰のベルトに差し、ノアは右手の銃一本に絞った。

 それを真上に向け、左手を右手にそっと添える。

 それから、すぐさま、その銃に今扱える魔力をありったけ詰め込んだ。


 この状況で勝つことを考えるなら、アストレアが向ける氷の巨剣を砕き割り、その上で命を穿つ弾丸を放つしかない。


 しかし、通常の弾丸なら当然無理だ。

 だから、考えたのが魔力を込めた弾丸を放つというシンプルな策。

 もともと、ノアの弾丸にはある程度遊びの自由があった。


 その一つが<分裂弾>である。

 とはいえ、それよりも最初に思い付きそうなのが、弾丸そのものの威力を上げることだ。

 が、それはとある理由から、ノアは要検討として保留したのだ。


 それが弾丸に込める魔力量の調整の難しさにある。

 イメージ通りに弾丸を生成するのとは違い、弾丸そのものの強化はシェナルークの凶悪で強大な魔力を注ぎ込むことであり、その行為自体は簡単だが、それによって放たれる弾丸は直線上のものを一切合切破壊しすぎるのだ。


 加えて、その弾丸を発射する際の反動が大きすぎるのも問題だ。

 少なくとも、特訓期間で一度も真っ直ぐ撃てたことはない。

 引き金を引いた瞬間、腕が壊れかけたことだってあるし、反動だけで体が吹き飛んだこともある。


 ライカやマークベルトの魔力を使った<交わる縁(クロスフェイト)>によるシンプルな威力の底上げと近いが、魔技の効果を使わずに放てる分扱いやすく、しかし調整の効かなさと反動が強すぎる分扱いずらい。

 

 とはいえ、それもこの時ばかりは考えなくてもいいだろう。

 身代わり人形によりアストレアが死ぬ心配もなければ、足は固定されて吹き飛ぶ心配もなし。


 だから、やるべきことは魔力を大量に注ぎ込み、反動に負けないように腕に集中的に魔力を回すこと。

 そして、これまで全力を尽くしてくれたアストレアに敬意を示すこと。


「――ありがとうアストレア、最後まで全力を尽くしてくれて。

 だから、僕も今ありったけを放つ――超強化弾(フルパワーブレット)


 銃口から一発の弾丸が射出された。

 直後、ノアの体は足を固定する氷が剥がれるほどの反動で仰け反り、そのまま尻もちを着く。


 リングに満ちた白い冷気が、すぐさま体を凍らせ始めた。

 これでもう動けない。あの弾丸が負ければ、この勝負は負けだ。


 ノアが頭上を見上げると、反動を生じながらも放たれた弾丸は真っ直ぐと空を飛翔する。

 刹那、巨剣に直撃した。剣先から標的を穿ち、高速回転する傲慢にも氷の中を突き進む。


 やがて、自分が向く方向が歩む道とばかりに、弾丸が剣先から柄頭へと貫通した。

 直後、貫かれた衝撃でヒビが入った氷塊が崩壊、破片が散り散りに飛んでいく。


 それを見たノアが「いける!」と思ったその時――聞こえてきたのはアストレアの柔らかい声。


「最後ぐらい悪あがきをさせてもらうわ」


 瞬間、砕けた氷の上空にいるアストレアから何かが投げられた。

 それはキランと輝き、高速で向かってくる。

 最後の最後で全力を尽くした――と思わせて隙を突く勝利を渇望する一撃。


 その降り注ぐ一撃に対し、ノアは凍り付く腕を無理やり動かし、咄嗟に両腕で頭を覆った。

 それが左腕にグサッと突き刺さり、痛みにノアの眉根が大きく寄り、口元を歪める。


「痛っ......これは氷の剣?」


 左腕に目を向けると、ノアがそこにあるのは氷の短剣であった。

 刺さった個所が頭ではなく左腕。いや、狙いは恐らく――、


「......心臓か」


 ノアはホッと大きく息を漏らす。

 アストレアによる心臓狙いの、最後の悪あがき。

 勝負がついたと完全に油断していたらやられていた。


「おめでとう、ノア。私の完敗よ」


 その時、地上に降りてきたアストレアが、ノアに声をかけた。

 ノアが視線を向けると、彼女があまりにピンピンした様子で立っているではないか。


 しかし、自分を攻撃してくる様子も無ければ、彼女は右手に持つレイピアに視線を向け、


「見て、私の剣......レイピアの刀身はあなたの弾丸を受けて綺麗サッパリ無くなった。

 私の大技どころか武器も破壊したのよ。悪あがきも不発に終わったようだしね」


 その言葉に、ノアは目を細めて壊れたレイピアを見た。

 弾丸で破壊されたにしては、なんというか、壊れ方がおかしい。

 まるで内側から弾けたみたいな歪な断面をしていた。


「もっと言えば、その弾丸が作る衝撃波で、私は右半身が吹き飛ぶほどの衝撃を受けた」


 そう言って、アストレアはとある方向を指さした。

 リング外にある二つの藁人形、そのうちアストレアの方だけが、頭及び左半身が吹き飛んでいた。


「あれが証拠。胸を張っていいわ」


―――ゴーンゴーンゴーン


『試合終了~! 勝負はなんとまさかまさかのノア選手の勝利です!

 この結果を誰が予想していたでしょうか!?

 どちらも一歩も譲らぬ攻防を続け、私達を大いに楽しませてくれました!

 今リングにいるお二人に盛大に拍手を!』


 試合の終わりを告げる銅鑼の音が響き、司会者が観客を煽る。

 直後、会場から盛大な拍手が二人に送られた。

 ノアが現況が消化しきれる前に、アストレアは口を開き、


「まさか負けるなんてね。これであなたを辞めさせるように、仕向けることは出来なくなったわ」


 そう、言いながらも、確かな微笑を浮かべアストレアがノアに手を差し出す。

 そんな彼女に、氷で動けないと思っていたノアだが、よく見れば氷が解けていた。


 あの肌に張り付くような拘束が嘘のように、リングの氷が気化している。

 手や下半身に冷たさは感じるものの、それだけだ。


 その摩訶不思議な状況に唖然としつつ、ノアは優しさに甘えるようにアストレアに手を伸ばした。

 そっと彼女の手を掴むと、引き上げてもらう。


「ありがとう」


「いいわよ、これぐらい。にしても、せっかく買ったのに、なんだかあまり嬉しそうじゃないわね」


 立ち上がったノアを見て、アストレアが怪訝そうに首を傾げる。

 突然の質問に、ノアは面を食らう。

 が、その言葉に対し、思うことがないわけではないのも確か。

 答えを求めるかのような視線を受け、ノアは頬を搔きながら、


「え、あ、そうかな......うん、そうだね。少しだけ思うんだ。

 嬉しいは嬉しいんだけど、僕があそこまで拮抗できたのは、まだハンデを貰った状態だったからかもって。

 そうなると、今度は完全な状態で勝てたらなって思って」


「ふふっ、傲慢ね。確かに、専用武器は個人の魔技の効果を高めてくれるわ。

 とはいえ、たとえ専用武器を使っても、そこまで結果を大きく変わるとは思えない」


「そうかな? 少なくとも、大技を撃った後に武器が壊れることはなかったと思うよ」


 ノアがそう指摘した瞬間、アストレアの目が大きく見開いた。


「気づいてたの?」


「やっぱり。少なくとも、銃に関しては僕の方が詳しいよ」


「......そうみたいね。下手な嘘ついてごめんなさい。

 けれど、どっちにしろ結果は変わらなかったと思うわ。

 だから次があれば、その時は負けないわ」


 ノアとアストレアの試合。結果は「ノアの勝利」であった。

 この事実は、観客に多大な影響を与えた。

 なぜなら、A級は特魔隊の中でもエリートと呼ばれる実力者だからだ。


 多くのB級生徒がA級を目指して、アビスを倒して成果を上げるが、辿り着けるのはごく僅か。

 精神状態を抜きにすれば、実力者しかそこへは辿り着けない。


 そんな相手に、特魔隊に入ったばかりのノアが、付け焼刃の特訓とはいえアストレアに勝利してみせた。


 その時点でポテンシャルはA級以上。

 伸びしろも考えれば、人外と称されるS級にも届き得る結果を示したのだ。


 会場のザワつきは収まらず、幼馴染(ライカ)が後方腕組みドヤ顔をしたのは言うまでもない。


*****


―――精神世界


 試合が終わったその日の夜。

 ノアがベッドで眠りに着くと、すぐに目を覚ました。

 ただし、場所は小さな島の上。


 正面には巨大な穴の上で、小島を繋ぐ道だけを残した城がある。

 周囲には海原が広がっており、それは穴に向かって滝のように落ちている。


「ここは......前に来た」


 思い返すは、初めて力を使った後に見た景色。それと同じ。

 つまり、この世界は「傲慢」のアビス王――シェナルークが作り出した精神世界だ。

 そして城の王の間に、その存在が鎮座している。


「ここはあの王様が作り出した世界だっけ。まさかまた来ることになるとは」


 十中八九いい気はしない。

 なんたって相手は傲慢……つまり、プライドが高いのだ。

 自分の泥臭い勝利を、プライドの権化がどこまで許容できるか。

 生死はそこにかかっている。もはや祈るしかない。


「行こう」


 ノアは一息吐き、立ち上がる。

 そ思わずすくみそうになる足を動かしながら、城に向かって歩き出した。


 それから数分後――ノアは城の最上部にある巨大扉の前にやってきた。

 この先にシェナルークがいる。


 相変わらずここにたどり着くまでに空気の重さでヘロヘロだ。

 しかし、そんなこと、相手には関係ない。

 ここからは気を引き締めて挑まねば。


 両手で扉を押し込み、ノアは入るための隙間を作る。

 扉はゴゴゴッと重低音を鳴らし、隙間の奥から玉座に鎮座する人の形をした影が見える。


「ようやく来たか」


 ノアが王の御前に立つと、シェナルークはそう告げた。

 瞬間、ノアはすぐさまその場で跪く。

 王の前で不敬は許されない。それが直感で理解出来る。だからこその行動である。


「表を上げよ」


 シェナルークの言葉に、ノアは慎重に顔を上げる。

 今にも額にかいた冷や汗が、頬を伝って流れ落ちそうだ。

 声は幼く少年のようなはずなのに、威圧感は絶対強者。

 その違和感がアビス王たる所以なのか。


「なぜここに呼ばれたか分かるか?」


 ノアがシェナルークとこうして顔を合わせる場合、基本的に王によって呼び出された場合だ。

 言うなれば強制的であり、拒否権はない。


「今日の試合に関してですか?」


「そうだ。正直言って我は腹立たしい気分だ。

 まさかあのような結果になろうとは……予想が裏切られて気分は最悪。

 されど、それが悪くないというのが、さらに癪だな」


「……?」


 ノアは声こそ漏らさなかったが、眉を寄せて困惑した。

 想定していた反応と違っていたからだ。

 なんだったら、好感触でするある。

 よく分からないキレられ方をしているが。


「我は貴様が負けると予想していた。

 いくら短期間で集中的な特訓をしようが、所詮は我の魔力を借りてるだけの軟弱者。

 対して、相手は確かな実力者。

 勝負は明らかだと思ったが、どうやら貴様を侮りすぎたようだ」


「え、えーっと、お褒め頂き光栄です......?」


「褒めてなどいない。我は貴様の無様な姿を見て、悦に浸りたかっただけだ。図に乗るな」


「申し訳ございません」


 怒られてしまった。これ以上は変に言葉を出さない方がいいだろう。

 自分の口にチャックをするように、ノアは黙ることにした。

 その一方で、シェナルークは一方的に話を進める。


「とはいえ、貴様が我の予想を上回ったことは確かだ。

 故に、この我から少しばかりの褒美をくれてやろう。

 特別に、この我の姿を拝ませてやる」


 そう言うと、シェナルークは自ら纏う影を、少しずつ霧散させ始めた。

 そして、玉座に座る彼の真の姿が露わになる。


「これが我の姿だ」


 シェナルークは本来の姿を現した。

 彼の容姿は、一言で言えば、軍服を着た子供だ。

 髪はカラスの濡れ羽色と美しく、瞳は相変わらず宝石のように紅い。

 年齢は小学五年生ぐらいであり、その年齢でも身長は小柄な方だ。


 黒を基調とした色々な装飾がついたコートを肩に羽織り、頭には帽子を被っている。

 しかし、なぜかズボンだけは、膝丈よりも短い短パンであり、そこか子供たる要素を強めている。


 見た目は一見すると文学少年のような大人しさがある。

 しかし、その姿から放たれる圧があまりにも場違いすぎで、見ていて頭がこんがらがりそうだ。


 そんな小さな王は足を組み、頬杖をつきながら見下ろしている。

 口元は常に人を小バカにしているような歪み方だ。

 少なくとも、ノアを見る目には、確実に嘲笑が含まれている。


「これが我の姿だ。どうだ? 恐れ入ったか」


「軍服......ですか」


「ほう、貴様もこの服が気になるか。貴様程度にしては良い好みをしている。

 この服装は我のただの好みだ。

 この権威と畏怖を感じさせるデザイン......人間にしては良い仕事をする」


 そう話すときのシェナルークは、とても年相応であった。

 しかし、その態度もすぐに威圧的なものに切り替わる。


「貴様が我を見てどう思ったかは知らんが、不敬になることは考えないことだな。

 それから、せいぜい我の興味が失せないように頑張ることだ」


 その瞬間、突然ノアとシェナルークの間に急な開きが出来た。

 ノアは動いていない。にもかかわらず、凄い勢いで距離ができる。

 まるで両者の間に無限の距離が発生しているかのように。


「話は以上だ。去れ」


 その言葉の直後、左右の背景があっという間に切り替わる。

 王の間の扉をくぐり、高速で廊下を移動しながら、城の外へと風景が変化した。


 やがて小島に辿り着き、遠くで見えた城の入り口の扉が閉じた時――現実で、ノアはパッと目を覚ます。


「.......」


 ベッドから体を起こし、時計を見る。時刻は午前三時半ぐらい。

 朝のルーティンをこなすノアからすれば、二度寝すべきか微妙な時間だ。

 とりあえず、再びベッドの上で横になったまま、天井を眺めながら呟く。


「ただの王様のお披露目会だった」

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)


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