男装令嬢、女装王子とお幸せに!
「アレク様! 今日も素敵で格好良すぎるわ!」
「御伽話に出てくる騎士様のよう!」
白銀に輝く髪に、すらりと伸びた高い身長。洗練された男の装いで颯爽と学園内を歩むその姿は誰もが羨む。
私、アレクサンドラ・クレルモンは自分で言うのもなんだが、この国の王立学園で一番注目されている人間だ。
「おや、これは」
足元に落ちていたハンカチを見つけて、周りを見渡す。可愛らしい花が刺繍されたものだ、この花は確かあの家の家紋ではなかったかな。
見覚えのある令嬢の背に向かって声をかける。
「リーナ嬢、君のハンカチが落ちていたよ」
「まあ、アレク様! どこに落としたのかと探していたのです。ありがとうございます」
「ちょっと待って。汚れているから……」
私はハンカチを水魔法で濡らし、汚れを落としてから乾かして彼女に手渡した。
「君の家の花が刺繍されていたし、大事なハンカチなのだろう? これで元通りだ」
「は、はい、お祖母様から受け継いだもので」
「物を大切にしてるんだね。君が心まで美しい女性なのだと知れて嬉しいよ」
「アレク様……! あの、このあと一緒にティータイムとか……」
もじもじしている彼女の手をそっと取り、微笑む。
「その申し出はとても光栄だけど、これから私は鍛錬の約束があってね。ぜひまた誘ってくれ」
そのままリーナ嬢の手にキスを落としてウィンクすれば、彼女は頬をぽっと赤くしてしまった。いけないな、やりすぎてしまったか。
リーナ嬢は積極的に私をお茶会に誘ったりしない子なのに、なんだか必死な感じがしたな。何かあったんだろうか……話を聞いておけばよかった。よし、あとで会いに行こう。もしかして何か問題を抱えているかもしれないからね。
去り際にリーナ嬢に手を振れば、まだ惚けたような顔をしていた。
「さて、鍛錬場に向かわないと。みんな休み明けで体が鈍ってるだろうし」
長期休みが先日終わったので、みんなで手合わせをしようという話をしていた。久々に思いっきり体を動かせそうだ。
鍛錬場に着けば、何やら男子学生たちが武器を片手にもう息を上げている様子。
「君たち、だらしがないよ」
「げ、アレクだ! コテンパンにのされるぞ」
「そんなことしない、よっ!」
魔法で訓練用の槍を具現化させて一気に距離を詰める。なるべく怪我をさせないように刃に注意しながら振り上げれば、何人かの男子学生が悲鳴を上げて吹っ飛ばされた。
「さあ次行くよ、みんなでもっと強くなろう!」
「この戦闘狂め! これ以上強くなってどうすんだ!」
「そりゃ国一番の騎士になるため、だよっ!」
辛うじて立っていた一人の眉間すれすれに刃先を突きつければ、彼は降参してへなへなと座り込んでしまった。
「ふむ、張り合いがないな。よし、みんなで素振り百回しよう!」
「やめてくれよ、今夜は休み明けのダンスパーティがあるんだぜ? あまり体力を使いたくないし、汗臭いまま女の子と踊りたくないよ」
「ダンスパーティ?」
私は首を傾げた。そんなものあっただろうか。
先ほど私が槍を突きつけた彼が意気揚々と声を上げる。全くそんな元気があるなら本気を出せばいいのに。
「忘れたのか? 年に一度のダンスパーティ! 可愛い女の子とパートナーになって仲良くなるまたとない機会だぞ」
「……私としたことが。そうだったね」
「まあお前はいつも女の子にちやほやされてるし引く手数多だろうがな」
「そんなちやほやだなんて。彼女たちは美しい花なんだから、声をかけて愛でるのは普通のことだよ」
また始まったよ、という顔で男子学生たちが呆れた顔をした。心外だな。
「アレクはもうパートナー見つけてるんだろうし、すげー格好良くリードするのが目に見えるよ。俺も可愛い子とお近づきになりたいなぁ」
はあ、とため息を吐く男子学生。彼は二つ勘違いをしている。
一つ、私はまだパートナーを見つけていない。今し方ダンスパーティの存在を思い出したので声をかける時間なんてなかったのだ。
二つ、本来私はリードされる側だということ。
そう、私は女なのである。
白銀の髪は短く切り揃えられているし、胸はぺったんこ。身長も普通の女の子よりも高いし声だって低め。槍を持たせれば一騎当千、誰にも勝ちを譲ったことがない。
こんな私を誰が『お淑やかで可愛らしい女の子』として扱ってくれるだろうか?
……いや、昔一人だけいたっけ。
この国の第一王子、ハリー殿下。
私は昔、由緒正しいクレルモン公爵家の令嬢としてハリー殿下と婚約をしていた。将来は彼の隣に並び、王妃として彼を支えていくのだと言われる間柄だったのである。
だけど、幼い頃から私は私だった。
フリルのついたふわふわのドレスなんて着ないで令息のズボンを履き、お淑やかにお茶会するより槍の稽古に打ち込む始末。おまけに性格も男勝りだったのだ。
最初はよかった。楽しくお話ができたし、女の子扱いをされるのが珍しくて舞い上がっていた。たくさん外へ連れ出して遊んだり、一緒に鍛錬をしたり。
だからなのか、ハリー王子には嫌われてしまった。
殿下は私より弱かったからだ。
「君なんて嫌いだ。あっちへいけ!」
殿下が渾身の力を込めて私を押しのけようとしたけれど、その力は弱々しく逆に殿下が尻餅をついてしまった。
私はびっくりして何もできなかった。
きっと殿下は悔しかったんだと思う。小さい頃から病弱で、武芸に優れるどころか少し走っただけで熱を出してしまう体質だったしどちらかといえば大人しい方だったから。
女なのに男っぽい私と、男なのに男っぽくない殿下。そんなのコンプレックスが刺激されてしまうだろう。
私は齢六歳にして、婚約を破棄された。
婚約者候補は他にもいたし、相性がすこぶる悪かったのだ。
そんなわけで婚約破棄された私だったが、そのようなことでへこたれる性格なんかじゃなく。
「もっともっと強くなって見返してやる!」
と、無我夢中で鍛錬に打ち込み騎士たちを負かすまで強くなった。誰もが根を上げた修行もこなしたし、馬上では敵無しになった。
クレルモン家は公爵の位を頂いているけれど、蓋を開ければガチガチの武闘派家族だったから、どんどん淑女から遠のく私を容認してくれた。むしろ「王子より王子らしくなりなさい」と応援してくれたし、立派な紳士にもなれるように徹底的に教育された。
そうして十年後、今に至る。
お父様、お母様。私は立派なゴリラ紳士になれました。リンゴだって握り潰せます。
「もっと強く、格好良くならなきゃ」
ギュッと気持ちと力を込めたら。
めきゃ、と手元から音がした。
「あっ……」
「またアレクが訓練用の槍折ったぞ。今年何本目だ?」
「あはは、これが君たちじゃなくてよかったよ」
「怖いこと言うなよな!」
さて、みんなは今日の鍛錬を引き上げるみたいだし、私も行動を起こさなきゃだ。
何をするのかって? それはもちろんダンスパーティのパートナー探しだ。
先ほどのリーナ嬢のことだって、もしかしたらパートナーになってほしいからお茶会に誘ったのかもしれないし、真意を確かめないといけない。
悩める女の子にはすべからく手を差し伸べよ。
それは私が女であったとしてもやるべきこと! 私の目指す最高の騎士とはそういうものなんだから。
で、リーナ嬢を探して声をかけてみると。
「へ? 何か悩みがあるのかですって? 先ほどまではありましたがもうなくなりましたわ」
「なくなったとは?」
「実は私、アレク様にダンスのパートナーを申し込もうと思っていたんです。でもさっき聞きましたの、アレク様はパートナーがいらっしゃるって。諦めがついたので他の方にお願いしましたわ」
えっ、もう私にパートナーがいるって聞いた? もしかして鍛錬場にいた男子学生たちが言ったのか?
目をぱちくりしていると、リーナ嬢が一瞬残念そうな顔をしてからすぐキラキラとした瞳を見せた。
「アレク様なら当然ですよね。きっと学園一の美姫なのでしょう、ダンスパーティが今から楽しみですわ! ああっ完璧なリードで麗しい女性と踊るアレク様……ファンクラブでブロマイド化させなきゃ!」
きゃーっ! と歓喜の声を上げてリーナ嬢は走り去ってしまった。
ファンクラブってなんだ。ブロマイドってなんだ。
いやそんなことより。
「……どうしよう、どうすればいいんだ」
周りを見る。もう女の子たちはダンスのお相手と談笑をしてパーティを心待ちにしている様子。私とパートナーになってくれそうな子は、いなさそうで。
「いや! へこたれるなアレクサンドラ! なんのこれしき!」
なんとしてでも今夜までにパートナーを見つけるんだ!
パーティの時間になった。
全敗である。
みんな「アレク様なら素敵なお相手がいらっしゃるでしょ?」と取り合ってくれなかった。
どうしよう、これでは最高の騎士とは程遠い存在になってしまう。今更女の子としてパートナー探しをするのは遅すぎるし(きっちり男性用の礼服を着てしまった)。
いっそのこと壁の花、いや壁のシミに甘んじていようか。
「ダンスパーティ……夢の舞台だからこそ、出たい!」
騎士たれ、最高の騎士へ至れ。
よし、最後まで粘るんだ!
意を決してパーティ会場へ入る。
「アレク様よ! 私のパートナーとファーストダンスを踊ったら次のダンスを申し込もうかしら」
「制服姿もいいけど礼服姿も素敵だわ。アレク様ファンクラブに入ってよかった……!」
うう、断然声をかけづらい……。
でもどんな危機的状況でも絶対に諦めない忠義の騎士のように在ろうと心に誓ったじゃないか。
めげない、負けない、くじけない! きっとまだ間に合うはず!
そう強く思って振り向けば。
世界でいちばん美しい花がいた。
ふんわりとした蜂蜜色の髪は胸元まであり、まるで良い香りのする花弁のようで。
新緑の瞳は春を迎えた森を思い起こさせ。
どんな聖女よりも優しい心の持ち主だとわかるような、清らかなる精霊が彼女の周りを舞っていた。
「可憐だ……」
私の憧れがそこにいた。
ふわふわのドレスが似合っていて、彼女のほっそりした華奢な体を守ってあげたくなる。
お茶会の場でも、花畑でも、もちろんこのパーティ会場で一際目立つ一輪の大輪の花。
パーティの煌びやかな音楽なんか耳に入ってこない。君の声が聞きたい、鈴の音のような声をしてるんだろうか。
思い切って話しかけようとしたら、目が合って。
ドキリ。胸が高鳴る。
「あの! そこの麗しきレディ……!」
美少女が微笑んだ。
「もしかして僕のこと?」
なんと僕っ子だ。愛くるしい。
「はい。私はアレク、貴女は……」
「僕、この学期から入学したので右も左もわからなくて、ダンスのお相手に困っていたんだ」
なるほど、だから見覚えがなかったのか。
「君が噂の騎士様? もしよかったら僕と踊ってくれませんか?」
「……! ぜひ、よろこんで」
彼女の真っ白な手を取ってホールドする。今までのようにちゃんと女の子をエスコートできるだろうか。胸のドキドキが彼女に伝わっていないか心配だ。
「ふふ、学園の騎士様も緊張することがあるんだね」
「これは失礼を。まるで夢心地にいるようでして」
「僕もだよ」
こんなに楽しいダンスは初めてだ。
私のエスコートにしっかりとついてきてくれるどころか、彼女は私が動きやすいようにぴったり息を合わせてくれる。
周りは踊る私たちに目を見張っているようだけど、私は目の前の彼女しか見えない。
一曲が終わり、互いに礼をした。
ああ、彼女ともっと時を共にしたい!
「あ、あの! このあとお時間はございますか」
「……僕も申し出ようと思っていたんだ。君ともっと話がしたいと」
そっとダンスフロアから抜け出しバルコニーで改めて彼女と見合う。
「……花の君よ、やはり貴女は可憐だ」
「ふふ、そんなに褒めても何も出ないよ」
「出たじゃないですか、貴女の素敵な笑顔が」
思わずいつもの調子で女の子を褒めてしまった!
気分を害していないだろうか。おずおずと彼女の顔色を伺うと。
くすくすと妖精のような可愛らしい笑い声がバルコニーに響いた。
「嬉しいな。他ならぬ君が、僕に対して優しくしてくれるなんて」
「どういうことです?」
「僕のことを恨んでいたとばかり思っていたからだよ」
「失礼ながら、貴女とどこかでお会いしたことが?」
こんな美少女を一目見て忘れることはないだろう。そんなの私が節穴すぎる。
彼女は少し、目を伏せながら笑んだ。
「うん。君と僕は会ったことがある。小さい頃たくさんお話をして、城を出たことのない僕を城下町まで連れ出してくれたこともあったよ。すごく、楽しかった。なのに僕は……」
彼女と私は昔会ったことのある知り合いで、お城を抜け出したことがある。
なんか……身に覚えがあるような。
「ずっと謝りたいと思ってたんだ。それに一方的に君のことを知ってるのはフェアじゃないよね」
彼女は大きく息を吸って、私の目を真っ直ぐ見て言った。
「僕の名はハリー。この国アデル王国の第一王子、ハリー・アデル・レオポルド。君の元婚約者だ。……こんな見た目になっていて、引いてしまったかい?」
ハリー王子、って。
「えええぇっ!? そんな、うそ! こんなに可愛い美少女がハリー王子だなんて!!」
「可愛いって……う、嬉しいな。君にそう言ってもらえると自信になるよ」
もじもじしながら金色の髪を一房くるくると指で弄っている姿のどこが可愛くないというんだ!
いや待て、この世界一可愛い花である彼女はハリー王子で、つまりは彼女は、男ってことで。
でもどう見ても美少女にしか見えない。
「はっ……ハリー王子は元々女の子だった!?」
「違いますよ、僕はずっと男です。この国の守護精霊と契約をしたので女装をしてるんですよ」
「守護精霊って、あの?」
アデル王国には言い伝えがある。世界が大いなる災いで荒れる時代になると、アデルに守護精霊が現れて国を守るのだと。
守護精霊の契約者になるためには条件があり、王族もしくは王族に近しい者、そして心優しく魔力が高い人間が選ばれる──。
あれ、でもおかしい。
「今の世は災いなど起きてませんよね?」
「平和そのものだね。なのになんで僕が選ばれたのか……それは、精霊が、その。僕のことをすごく気に入ったみたいで」
「よかったではありませんか。名誉あることです」
「それはそうなんだけど。ほら、僕って病弱だっただろう? 一度死にかけた時に助けてくれて、その時に契約したんだ」
死にかけたなんて話は聞いていない。国民にも公表されていないことだ。
「国を守護する精霊が現れたと民が知れば、災いが起こる予兆だと騒ぎになるしパニックが起きるかもしれない。だから情報は伏せられた……?」
「その通り。やはり聡明だね、君は」
ですが、と私は続ける。
「ハリー殿下が女性の格好をされているのと何か関係があるのですか?」
「それは……その」
恥ずかしそうにハリー王子は小さい声で言った。
「守護精霊が、女性や可愛いものが好きだからと。ほら、アデル王国は女王制でしょう? 歴代の契約者だった女王は皆とても美しく可愛らしい人物だったとか」
「なるほど納得がいきます。幼い頃から殿下は見目麗しく深窓の令嬢のようでしたから」
「うう、何も反論できないのが悔しい……! 僕は昔から男らしくなかったから……!」
守護精霊はハリー王子のような美少女が好みであったと。守護精霊とは趣味が合いそうだ。
そんなことを思っていると、ハリー王子がごほん、と気を取り直してから、なんと私に頭を下げた。
「婚約を一方的に破棄したこと、そして君に醜い嫉妬をぶつけてしまったこと。第一王子として心から謝罪する」
「な、謝るだなんて! 私は何とも思ってませんから頭を上げてください!」
「ではどうすれば君を笑顔にできる?」
笑顔って、そんなの。
「私はハリー王子のような美しい方と一緒にいられるだけで笑顔になれますし、幸せな気持ちになりますよ」
「僕と、一緒に……。本当かい?」
「ええ。騎士の誓いに二言はありません」
ぱあっ、と。ハリー王子は花開くような輝く笑顔になって。
「では! また僕と婚約してください!」
「……え、えぇっ!?」
なんてこと言い出すんだこの美少女、いや美王子!
「君は男装して学園に通っていて僕といたら笑顔になれる。僕は女装してこれから学園に通い始めるし君のそばにいたい。ぴったりじゃないか!」
「ぴったり!?」
「実は僕、女装するのが嫌などころかむしろ好きになっちゃって。可愛いものは大好きだし姫と騎士の御伽話なんてお気に入りなんだ!」
ハリー王子は勢いのまま私の手を握って。
「君は僕の憧れだ、惚れ惚れするほど格好いい騎士だ。どうか僕とずっと一緒にいてほしい!」
そんなこと言われたら、私は。
ああ、嬉しすぎて心臓の鼓動がうるさい。
「私も、貴方と一緒にいたい、です……っ!」
「……嬉しい。君も僕と同じ気持ちなんだね」
ハリー王子の手を握る力が強くなるけど昔と全然変わらない握力だ。
ぽーっと赤面したままハリー王子を見つめていると。
「可愛い、アレク……!」
とんでもないことを言い出して、ぎゅっと抱きしめられた。
「か、可愛い!? 私が!?」
「はい、アレクサンドラは格好良くて可愛いよ! ギャップ萌えとはこういうことなんだね」
周りに花を飛ばすように、ハリー王子は再会してから一番綺麗な笑みを見せてくれた。
言ってることが全く理解できない! あと抱きしめられてるからすごくいい香りがする……。
「ではでは! 婚約しましょう!!」
「ち、ちょっと心の準備というものが……!」
「うぅ、やっぱり僕のこと嫌いなんですか?」
「そんなことっ!」
ちょっと待て。視線を感じる。
ダンスフロアの方へゆっくりと顔を向ければ。
大勢の学園の生徒たちが固唾を飲んで私たちを見ていた。
「アレク様があんなに押されてるわ、そんなお姿も素敵! 写真に収めておかないと!」
「リ、リーナ嬢……何を、しているんだい?」
「何ってアレク様の恋愛模様を記録しているのです、さあ続きをお早く」
生徒たちは尚も、私たちの婚約するかしないかの大舞台を見守っている。
うそ、じゃあみんな私たちの会話を聞いてたってこと!? いつもの私らしくない、たじたじになってた情けない姿も私の恥ずかしい告白も!?
顔が真っ赤になって、頭が上手く働かなくなって、でも抱きしめながらハリー王子がキラキラした瞳で私を見上げているので。
「……お友達から、お願い、します……」
静寂を貫いていた生徒たちが叫び出した。
「きゃーっ!! ついにアレク様が落ちたわ!!」
「おいてめーアレク! そんな可愛すぎる女の子に告白されてお友達からなんて最低だぞ!!」
「あれ、結局女なんだっけ男なんだっけ。どっちでもいいからとにかくくっつけー!!」
男子学生からは非難轟轟だ。
そんな賑やかになったパーティ会場を見て、ハリー王子はくすりと笑い。
「楽しい学園生活が送れそうですね。アレク、いえアレクサンドラ」
「は、はいぃ……っ!」
名を呼ばれて心臓が跳ねる。
「覚悟していてくださいね?」
ああ、その微笑みからは逃げられない。
私はいつだって動じないスマートな最高の騎士から到底かけ離れた小さな声で呟いた。
「お、お手柔らかに……」
すっかり耳まで真っ赤になった私に「もう諦めろ」と諭すかのように、守護精霊の光が私たちの周りを舞った。
ハリー王子との学園生活が始まり、毎日猛アタックされて、私たちはどうなったかというと。
「貴国の隣国サラディンの王、エドガーが此処に参った」
国王エドガーが配下の騎士たちと一礼し、挨拶を口にする。
「この度は戴冠おめでとうございます。女王陛下とは初めてお目にかかりますが大変お美しい」
ふわふわの蜂蜜色の髪をした美少女に向けて言われた言葉に、彼女──いや彼は笑顔で立ち上がって。
「僕は女王ではありません」
「へ……?」
「王妃は僕の隣にいますよ。ほら、こんなに格好いい。僕の最高の騎士なんですから」
口をあんぐり開けるエドガー王。
そう、彼は勘違いをしていたのだ。
誰よりも高潔な男に見える者の頭に乗せられているのは王妃のティアラで、守ってあげたくなる美少女に見える者の頭に乗せられているのはアデル王国の王冠で。
私もまた立ち上がって、彼の隣に並ぶ。
「お初にお目にかかる。こちらにおわすのが我が夫、ハリー王だ」
驚きで声も出ないエドガー王には無理もない。
アデル王国は女王制、美少女の方が女王だと思うだろう。
だけどそんなの関係ない。そうだろう、私の花の君?
ハリーは頷いて微笑み、こう宣言した。
「性別が重要なのではありません。国を精霊と共に守ること、それがアデル王としての責務。ならば、守護精霊と契約した僕こそがこの国の王です!」
ぎゅ、と私の手を握る彼は、やっぱりすごく可憐で。
でも凛としていて格好いい。
私も格好いいところを見せなくちゃ。
「私はアレクサンドラ。ハリー王の妃であり、守護騎士である!」
女装王子は立派な王様になり、男装令嬢は最高の騎士になりました。
ちぐはくな二人はどうして結ばれたのかって?
中身も外見もドツボで、まさに運命だったからである!
面白かったと思っていただけたらブクマ、評価よろしくお願いいたします。