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異世界に来たのにこんなのってないよ

 「いい天気ですね~」


 「そうですね~今日みたいな日は【冒険者試験】にぴったりですね!」


 ここはすべての転生者が誕生する街【ガルガラ】。今日は最近転生した者が冒険者になるための試験が行われていた。試験の内容はその日に決まる。指定された鉱石を採りに行くこともあれば、指定されたモンスターを狩ることもある。


 「しかし今年の試験内容は、ビックトントンピッグ一頭の狩猟か。最初は手こずるだろうが慣れればたいしたことないよな」

 「そうそう。それに焼けば食べれるし。今年は試験の参加者が300人を超えてるからたくさん肉が食えるだろうな。」


 そう。難しいのは最初だけ。…しかし、その最初につまづいてしまえば冒険者になるのは絶望的である。なぜなら冒険者は常に死と隣り合わせの危険な職業だからだ。冒険者になってそうそうに死んでしまってはせっかく転生した意味がない。そのため試験は簡単すぎず難しすぎずのバランスで行われている。

 そして今回の試験内容になったビックトントンピッグは、狩猟難易度Eランクの比較的簡単な内容ではある。が、ビックトントンは現実の世界の豚に比べ、高さ2.5m全長5mもある巨体であり獰猛で冒険者以外基本狩猟できない野生生物である。異世界に来たばかりの転生者たちはその体格差を埋めるために、転生前に取得した能力の使い方を自力で学ばなければならない。そして、試験の参加者にはひとりひとりAランク冒険者が手伝ってくれるのだ。狩猟はあくまで参加者本人がしなければならないため、参加者がリタイアもしくは命の危機に陥りそうになった場合代わりに対象を狩猟し、参加者を失格にする。

 ちなみに能力を選ばなかった場合は試験官に無能力者であることを伝えれば別の試験を用意してくれる。能力を使用できるようになれば今回の試験は簡単にクリアできるのだ。…が、


 「おい!268番!なぜ能力を使わずに逃げてばかりなのだ!その程度のモンスターも倒せずに冒険者になれると思っているのか!」

 「うるせーよ!俺だってみんなみたいに「ファイア!」とか「サンダー!」とかしてみてーよ!でもな!!俺が選んだ能力はな!!【テレポート】なんだよ!!!!」



 時は試験前に巻き戻る。

 目を開けるとそこは教会のような場所だった。近くにはペチュニアが立っており俺を見ている。

 俺は異世界に来れたのだろうか。それともそういうドッキリの可能性も。そんなことを考えていると、


 「目が覚めましたか」


 声がしたほうに顔を向けるとそこには僧侶のような爺さんが立っていた。この教会の偉い人だろうか。それとも転生した俺を案内してくれるガイド的な人だろうか。どうせガイドしてくれるならボインなお姉さんがいいのだが、まあいいや。


 「はい目が覚めました。急で悪いんですけどここは異世界ですか?それともドッキリですか?それとここが異世界であればあなたは俺をガイドしてくれる案内人ですか」

 「そうですね。まずここはあなた方転生者が言うところの異世界で間違いないでしょう。そして私は案内人というよりは、あなたの基礎能力を計る役割のただの老いぼれですよ」


 基礎能力?身体能力的なやつかな?それで俺の能力の強さがわかるのか。


 「私の前に右手を見せてみなさい。あなたの能力、身体能力を計ってあげます」

 

 俺は言われるがまま右手を爺さんの目の前にだした。すると差し出した右手をじーっと見ながら何やらメモを取っている。


 「あの~どうすかね。俺の能力は。一応強い能力を選んだつもりなんですが」

 「身体能力はこのさき冒険者にでもなればレベルとともに強くはなるんだがね。これは~」


 少し口籠り爺さんは困ったように口を再び開いた。


 「この【転移】という能力はもしかするとこの世界でいう【テレポート】に近いかもしれないね」

 「テレポート…ですか?」


 テレポートといえば、どの漫画でも類を見ない強能力だろう。なぜ言いづらそうにするのか。


 「テレポート!!それってこの世界では強いんですか!!いや強いに決まってますよね!!テレポートですよ!!テレポート!!」

 「言いづらいんだがね。この世界でのテレポートっていうのは誰でも簡単に覚えることのできる…というか基礎的な能力なんだよね。そのうえ、テレポートを選んだ転生者は今までに何人もいたけど。一人も能力を成長させた人はいないんだよ」


 聞き間違いだろ信じたい。誰でも使える能力?成長しない?詐欺だろ。俺はペチュニアにゆっくりと顔を向けた。…コイツ後ろ向いてやがる。というか俺が見た瞬間に後ろを向きやがった。


 「あとついでに転生者に仕える天使も見れるんじゃが…お主の天使は一体どうしたらこんなステータスになるのか不思議なほど低いんだよ。全体的に」


 爺さんがそういうとペチュニアは勢いよく振り返り爺さんに掴みかかった。


 「私のような天使がステータス低いわけないでしょ!!あなたデタラメ言ってるんでしょ!!直樹こんなインチキおじいさんの言うこと信じなくていいわよ!!大丈夫!私が付いてるわ!さあギルドにいきましょ…」


 「天界でよほどの堕落をしない限り、低級天使でも多少良いはずなんだがな」

 「っっつ?!」


 ペチュニアはどう見ても動揺しているように見える。さてはコイツ…サボってたな。


 「そういえば。今日は年に一度の冒険者試験が開催されるのだった。お主らもエントリーして来たほうがよいぞ!……合格できると思うのならば」


 最後にボソッと何か言った気がしたがせっかく異世界に来たのだ。一応参加しておこう。…一応


 

 そして現在


 「こんなポンコツ能力でどう倒せばいいんだよ!ペチュニア!お前は何か攻撃できる魔法とかないのかよ!」

 「無理よ私の魔法は回復系しかないわよ。それに低級天使よりも下…下の下の下くらいの私に何ができるっていうのよ!!!!」

 

 ペチュニアは豚から逃げながら頭を抱えている。あえて声には出さないが、安心しろペチュニア!俺も下の下の下だ。

ふと思い回りを見ると他の試験参加者は終わっており、喜んでいる者、泣いている者がいる。もう合否も終わっているようだ。


 「こんな下下下のコンビですみません!!!!!」


 俺たちとともに走ってくれている先輩冒険者ガイドの方を見てつい謝ってしまった。そんな俺にガイドさんは「大丈夫」と苦笑をして答えてくれる。いやほんとすみません。

 

 「あの合否発表された冒険者に付いてる天使にはお前の後輩もいるんだろう?お前後輩に負けてるぞ」

 「うるさいわよ。あなただって他の参加者よりも使えないじゃない!転生するときに能力を得たらこの世界で他の能力は得られないのに。しかも能力の成長も確認されてないなんて!!ハズレよ!ハズレ!こんなことならとっとと天国に送れば…ぎゃっ!!」


 後ろを走っていたペチュニアの声が聞こえなくなる。それと同時にドサッと倒れる音が聞こえた。振り返るとペチュニアは倒れてちょうど起き上がろうとしているところだった。

 しかし運が悪いことにビックトントンピッグももうすぐ後ろまで迫っていた!


 「馬鹿!早く立ち上がって走れ!」

 「無理よ!ッッ!足がっ!足を捻ったみたいなの!!立てない!!」


 ペチュニアの目に涙が見えた。どうやら本当に動けないらしい。俺たちを見ていたガイド先輩は戦闘態勢に入った。つまりこのままガイド先輩に任せてしまっては俺たちの失格を意味する。それだけは嫌だ!


 「待ってください!あの豚は俺たちがやりますから!ほらナイフもあるし!」

 「あなたはあの天使を見殺しにするんですか!!」


 どうやらガイド先輩も焦ってきたらしい。


 「いったいどうすれば…!!」


 待てよ?ガイド先輩はきっと俺たちよりもステータスは上のはず!いや!間違いなく!!


 「ガイド先輩!いい方法が思いつ…」

 「カイトだ」

 「はい?」

 「ガイド先輩ではない。カイトさんだ!」


 今は名前なんてどうでもいいだろ!ていうかちゃっかり「さん」つけてんじゃねぇよ!


 「カイトさんは!普段どんな狩猟スタイルですか!」

 「俺はモンスターに大岩を投げたりしているぞ」


 そんな戦闘スタイル聞いたことねぇよ!でもこれは好都合!


 「カイトさん!俺をあの豚の頭近くに投げてください!」

 「なんだそ…」

 「いいから早く!時間がありません!お願いします!!」


 カイトさんは口籠りながらも俺の腰を掴んで豚にぶん投げる

 

 「どうなってもしらねぇぞ!!!うぉぉぉぉりぁぁぁぁぁ!!!!」

 「自己責任でぇぇあああ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」


 投げてもらったがものすごい風圧に体が思うように動かない。しかしそんなことを言っている場合ではない!俺は空中で豚の脳天めがけてナイフを突き立てることのできる体勢に変える。


 「ペチュニア!!!伏せろ!!!」


 俺はペチュニアにそう命令し彼女めがけて走っている豚にナイフを上から突き立てた。

豚はペチュニアをすれすれで避け倒れた。ナイフを抜くと脳みそのようなものが垂れてきたので見て見ぬふりをした。


 「………」

 「ひぐっ。えぐっ。うっうっ」

 「おい大丈夫か?!」


 放心状態の俺と泣いているペチュニアにガイド先輩が駆け寄り安否を確認する。そして動かなくなった豚を確認して試験官に報告にいった。


 「これにて今年の冒険者試験は終了する!!各自解散!!」


 試験官の声が聞こえた。俺たちの合否は言われなかった。失格なのだろうか。そりゃあ当然だろう。倒したとはいえ、能力無使用、逃げてばかり。

 俺はガックリと肩を落とし泣いているペチュニアをおんぶする。ペチュニアは小声で「ありがとう。ごめんね」と言ってくれた。俺は「ごめん」も言えなかった。

 ペチュニアと試験官のところへ向かうと試験官は嬉しそうに俺たちを迎えてくれた。そして、


 「仲間に危機が迫った時に動けた者。これはパーティを組むうえで心掛けたいことである。自分では勝てない!逃げよう!そう思っている者が仲間の危機で、助けなきゃ!動かなければ!と思ってもまず無理だ。しかしお前はやって抜けた!合格だよ!!お前のような能力に頼らず自分の知恵で向かっていける者を私は本当の冒険者だと思う。しかし能力を使うことも大事だ。能力を使用せず助けられることは滅多にないからな。とにかくお前たちは合格だ!おめでとう!」


 どうやら俺たちは合格できたらしい。俺の後ろでペチュニアはまた泣き出したが俺も泣きそうだった。

 やっと…やっと!俺たちの異世界ライフは幕を開ける!…と思う!

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