天使降臨③
本当にこの天使は感情が豊かだ。
ただ……天使ならおしとやかであって欲しいとも思う。
「まぁ話も済んだし、そろそろ引くか」
「三回分だからね」
俺はガラガラと一回分回した。
一回目、やはり出てきたのは白い球だった。
「白い球なら……ポケットティッシュだね」
「ほらな」
俺は、はぁっと自然にため息をついた。
天使がいるならもしかしたら……と、つい期待してしまった自分がいたのだが結果はこれだ。
「ほらな……だってさ、ぷぷぷ」
「はぁ?」
「まぁまぁ落ち着きなさいや。私に任せなさい」
そう言ってキュレルは、親指と人差し指で丸を作り、その丸とガラガラを繋ぐようにフーっと息を吹きかけた。
しかし、特に何も変わった様子は無い。
でもキュレルはすごいドヤ顔で、早く続きをして欲しそうにしている。
キュレルの圧力に押され、俺は続けて二、三回分の球を出した。
「どうせ当たるわけが……」
そう思った時、カランカランという鐘の音が鳴り響いた。
「お……やったじゃん! 大当たり一等だよ!」
先生はとても興奮しているようだ。
これは多分……すごい確率が起こったんじゃ!……ないから、キュレルの力ってことか。
ふと気になってキュレルの顔を見ると、案の定ドヤ顔だった。
「一等の景品はなんですか?」
「一等の景品はね……あ、あった。
これこれ、猫旅館グループ宿泊券!
一等が二つだからグループ宿泊券二枚だね!」
「はぁ、ありがとうございます」
俺とキュレルは一度マンションに戻った。
買った食材を食事の間の冷蔵庫に入れ、少し作業をしたあと自分の部屋に戻った。
キュレルはソファに、俺は床に座った。
「それで、キュレルが来た目的はこれを俺に当てさせることだったわけ?」
キュレルは足を組み、腕を組んだあとこう言った。
「そうだ!
ユキノ様に
『これは運を操れるキュレルにしか頼めない』
と言われてやってきた!」
「一回目外れたのは?」
「あれは演出だ。三連続大当たりが出たとなれば、不正を疑われるかもしれないからな。えっへん」
「疑われたら不正ってバレちゃうしね……」
「なにか言ったか?」
俺を睨んでいる。
天使というか悪魔のような目つきだ。
「何も言ってないです」
「だよなぁ。勝手に運が集まってきちゃうだけだもんな」
というか、よくよく考えてみるとこの宿泊券って女神様からのプレゼントってことになるのか。
「それにしても一枚で五人分って……ぴったりすぎる……」
俺、ソフィ、スラ、イム、キース、ヴェントス、水月、メル、ラプス、カプラでちょうど十人分の住人分あるってわけだ。
またダジャレみたいになっちゃった。
でもみんなで旅館に泊まるのか……めっちゃ楽しそうだな。
「キュレルありがとな!」
「なっ! なんだよ……突然どうした……」
「女神様からの頼みだったとしても、キュレルがきっかけをくれたわけだし感謝しないとなって」
「私は女神様にお願いされたからきたんだ。
感謝されるようなことはしていない」
あくまで頼み事だからと否定するキュレル。
一見騒がしい天使だが、根は真面目らしい。
「そうか。なんにせよ、キュレルと知り合えてよかった。
いつでも遊びに来いよ」
「ふ〜ん……気分がいい日は来てやらないこともない。
それじゃあ用も済んだし、またいつかね」
「うん、またな」
キュレルは顔を合わせてくれなかった。
こういう別れはあまり初めてで慣れていなかったのだろうか。
キュレルは光の玉になり、帰って行った。
——帰り道のキュレルの脳内——
キュレルはキュレルの中にいるキュレルと話し合いをしていた。
「えっ! 今のって……私を口説いてきたのか!」
「バカか私の私! そんなわけないだろ!」
「でもでもっ!
いつでも来いよって……もうそういう意味じゃんね!」
「違うって! 勘違いしすぎよ!」
「もう〜……照れちゃう……」
「うるさい!」
天使キュレルもただの純真無垢な乙女だった。
その後天界に戻ったキュレルは、女神様に心の乱れについて問い詰められたらしい。
どうやら女神様は恋バナ好きのようだ。