スラとイムのトラップルーム①
「嫌な予感がする……」
スラとイムに部屋を案内される俺とソフィ。
案内される部屋には、ぷにぷにとしたスライムがそれぞれ何匹か寝転がっている。
おそらく彼らは、人型になれない未熟なスライムなのだろう。
と、ここでスラとイムの足が止まった。
「着いたぞ。
ここが我が研究室である。
よく見るといい、この素晴らしい成果達を!」
そこにはとんでもない数の嫌がらせトラップが置かれていた。
もちろん俺を玄関で捕らえたトラップの予備も置かれている。
でも俺も好奇心旺盛な男の子だ。
「すげえな!
これ全部スラが作ったのか?」
目を輝かせながら言うと、横から殺気を感じた。
「スラお姉様を呼び捨てにするとは、生意気な……」
今ここで潰す!」
ピコピコハンマーのような見た目をした、本物のハンマーを構えたイムが今にも飛びかかろうとしている。
「あらあら、良くない言葉遣いはさすがの私も叱りますわよ」
ここでソフィママ登場!
「だ、だってこいつがお姉様を呼び捨てにしたから……」
「はいはい、わかりました。
後できっちり叱っておきますからね」
イムはソフィママに飛びついた。
「はいはい、よしよし」
ソフィママは優しくイムの頭をなでなでしている。
これが母性本能というやつか。
一度も俺の前では見せたことのない顔である。
「わかったよ、俺が悪かった。
スラさんが作られたんですか?」
「いかにも。
敬いたまえ! えっへん」
まだまだ子供だなぁと思った。
「あ、そうそう。
三人とも協力して欲しいことがあるんだけど」
自然に協力を持ちかければ、了承してくれるのではないかという淡い期待を抱いていた。
多分百世帯ほど確保出来れば、クルルの助けにもなると思う。
そしてなにより、普通のマンションに近づくと思う。
「これまた急なこと」
「むむむ。
なぜこのタイミングなのか。
さすがの我も理解が追いつかん」
「イムも必要なのですか!?
しょうがない子ですね」
確かに急すぎた。
でも今しかないと思ったから仕方がない。
「確かに急だった。
でも今すぐにでも取り掛かりたいことなんだ」
「ほうほう、我が直々に聞いてやろう。
話すとよい」
「はいはい、ありがとう。
スラさんには……」
「我のことはスラでよいぞ!」
なら初めからそう言ってくれとよ、と心底思った。
「スラにはものづくりの才能がある。
イムには……」
「なんでイムを呼び捨てにしている!
私はまだ許可してない!」
本当にめんどくさい姉妹だこと。
「はいはい、わかったよ。
スラにはものづくりの才能がある。
イムさんには癒し系の素質がある。
ソフィには安心と信頼がある。
それらの要素を活かして、多くの人で賑わう最高のマンションにしたいと思う」
「私はいいと思いますわ」
「我も楽しそうだと思うぞ!」
「私も賛成です。
最近人がいっぱい減っちゃって寂しいと思っていました」
意外な反応だ。
もっと反発されると思っていた。
だってスラとイムに関しては、さっきあったばかりの管理人からの提案だからだ。
だが、聞いてみてわかった。
みんな今のマンションが寂しいと思っている。
「俺も管理人を任された以上、よりよいマンションにしていかないといけないからさ」
はっきりと物事を伝えられた気がする。
まだ何も変えられてはいないが、謎の達成感がある。
「我はいいと思ったぞ。
だが、協力するなら条件がある」
「条件?」
「詳しくはイムから聞くがよい」
これって妹に丸投げしているのではないか。
そう思った。
「スラお姉様に変わりましてイムです。
条件は簡単。
このフロアにあるトラップルームを全て抜けて一周して来てください!
はい、これが部屋の地図です」
イムに手渡された地図を見ると、一周するためには大きな部屋を三つ、小さな部屋を四つ超えなければならない。
それにしても本当に大きな部屋ばかりだ。
「わかった、いいだろう!
その代わり、ソフィは連れていく」
「え、私?」
あ、今の返事の仕方。
俺の知ってるソフィだ。
「俺とソフィは二人でこの計画を考えていた。
だからソフィがいないのはおかしい」
「ほうほう。
我に頭を下げると言うなら考えてやらんこともないぞ」
「お願いします!」
迷うことなく速攻で頭を下げた。
プライドも何もこのフロアからは嫌な感じがする。
まず命が優先だ。
「許可する」
「よし、それじゃあ行ってくる!」
俺は無理やりソフィの手を引き、部屋の左端にあるドアに手をかけた。
「ま、待って。
イム助けて!」
スラはあぐらをかき、イムは手を振り、助ける意思がないことを示している。
「私はまだいいって言ってない!」
ソフィの声が、ただ虚しく部屋中に響き渡った。