絢爛の殺し屋⑤
「わ、私は、ラプスという。よ、よろしく頼むっ!」
ラプスのやつ、めっちゃ緊張してるっ!
カプラの方は……。
「わ、私は、カプラなのですっ! よ、よろしくなのですっ!」
こっちもめっちゃ緊張してるっ!
これは先行きが不安だな。
「あらあら、ラプスちゃんにカプラちゃんと言うのね。
二人は誰かのお知り合いかしら?」
ナイス質問だソフィ!
ソフィが出したナイスパスのおかげで、あと少し合わせるだけでゴールに入る……。
「わ、私は、夢さんの……おしり知り合いだっ!」
ラプスさん?
あんたは一体何言ってくれてんだ!
ラプスは俺に向かって手を合わせ、
「ごめんごめん」
とジェスチャーで伝えてくる。
「それは何?」
まずい……キースが俺の事を睨んでいる……。
緊張しすぎた結果『知り合いの知り合い』が、『おしり知り合い』に変化するなんて有り得るのか?
とりあえず今は、カプラ……お前にかかってるぞ……。
「わ、私も! ラプスと同じなのです!」
うん、何となくわかってた。
「ねぇ夢、どういう関係?」
キースさん……怖いです……。
俺に来たのは、パスじゃなくシュートってわけか……。
なら、止めてやるしかないな!
「二人は人見知りなんだよ。
慣れない環境に少し驚いてしまっただけで、本当は『知り合いの知り合い』って言いたかったんだよ。
そうだよな? 二人とも」
ラプスとカプラはうんうんと頷いている。
「なんだ、そういうことね。
てっきり、やましい関係なのかと思っちゃった」
キースの顔が笑顔に変わった。
「そ……そんなわけないだろ〜」
キースを怒らせる事だけは絶対にしちゃダメだ。
メンヘラは怒らすと何をされるか……。
それより、ハンバーグを作ったのが二人だってちゃんと教えてやらないとな。
「みんな、聞きたいことがあるんだけど」
「夢よ、突然立ち上がってどうしたのだ?」
「今日のハンバーグ、いつもより美味しくないか?」
みんなは改めてハンバーグを一口食べ、とてもよく味わっている。
多分みんなの頭の中では、こういう考えが浮かんでいることだろう。
本人が味について聞いてくるってことは、今日のハンバーグいつもとなにか違うのでは?
というかそもそも美味しいと言わなければ、もう作ってもらえないのでは?
これはアンケートなどでよくある、そんな風に質問されたら良い答えを言わなきゃというあれだ。
「私は美味しいと思いますよ」
早速イムが褒めてくれた。
「私もとても美味しいと思います」
続いてヴェントス、ソフィ、キースと言ったようにみんながハンバーグの味を褒めてくれた。
さきほど言った通り、これは俺の自己肯定感を高めるためでは無く、ハンバーグを作ったのがラプスとカプラであるということをみんなに知ってもらうのが目的である。
みんなはウィンザー効果というものを知っているだろうか?
ウィンザー効果とは、第三者から伝達された情報は信頼されやすいという心理効果のことだ。
ハンバーグを作った二人に、俺が美味しかったと伝えるよりもマンションのみんなから美味しかったと言われた方が嬉しいというわけだ。
その証拠に、二人を見てみて欲しい。
ラプスは下を向き、カプラは手で顔を覆っている。
明らかに照れ隠しだ。
ここで俺の目標を発表しよう。
俺は二人に殺し屋を辞めてもらいたい。