|絢爛《けんらん》の殺し屋①
「まずい、そろそろ帰る時間だ。
さっさとトドメを指しなさい」
「了解なのです! では失礼して……」
「あ、ちょっ、ちょっと」
蛇を首に巻いた女の子は、ポケットの中から小さな注射器を取り出し、俺の首元に針先を当てた。
注射器の中の液体は、禍々しい紫色をしておりブクブクと泡を立てている。
これはかなりまずいことになった。
もう手段など選んでおれん!
「ちょっと待ってくれ!」
「もうなんなのです!」
「助かりたい気持ちはわからんでもないが、これは正式な依頼なのだ。
残念ながら、貴様に選択権は無い。わかってくれ」
「違う違う、そういうことを言いたいんじゃない!
このままだと、君たち二人は変態になるんだよ!」
・・・。
「な、なんだって!」
「それは一体どういうことなのです!」
「簡単に説明するとだな……。
実は俺、念話が使えるんだ。
この状況をマンションの住人に念話で伝えようとしたところ……。
『謎の女の子二人組に手を手錠で縛られ襲われている。自由に身動きの取れない俺に彼女たちは無理やり薬を飲ませ……』ってな感じになっちゃって……」
「ふ、ふざけるな!」
「ハ、ハレンチなのです!」
予想以上に顔を真っ赤にする二人。
俺は少し焦ってしまい、咄嗟にカバーしてしまった。
「いやいや安心して、まだ送られてないから!」
「ほう、なら今のうちに殺してしまえばいいのか」
「簡単な話なのです」
猟豹人の女の子は俺の首元にナイフを、蛇を首に巻いた女の子は注射器を突きつけている。
完全に自爆してしまった。
こうなったら、話を続けるしかない。
「でも、もし俺が死んだら誤って送信されちゃうかもな」
「なに! それは本当か」
「ハッタリなのです!」
「へ〜、なら試してみれば?」
「くっ、卑怯者め」
「そういえば、念話をキャンセル出来る方法が一つだけあったような」
「おい、それを早く言え!」
「でも……」
「どうした、早く言え」
「殺し屋さんって、自己紹介出来ませんよね?」
「生きていくためなら仕方ない。
私はラプス、猟豹人だ。
持ち前のスピードを活かした攻撃を得意としている」
「私はカプラなのです!インランドタイパンという蛇の血族で、マムシの八百倍もの強毒を武器に戦うのです!
それから……ラプスの妹なのです!」
足の速いチーターに、マムシの八百倍の毒を持つ蛇って、もう最強クラスなんじゃ……。
俺はこれからどうすれば……。
「念話はキャンセル出来そうか?」
「あ〜念話な、どうやらキャンセル出来なそうだ」
「そうか。これはかなりまずいな」
「私……もうお嫁に行けないのです!」
こんな女の子に恥ずかしい思いをさせるなんて、俺は最低最悪だ。
でも死ぬのはごめんだから……とりあえず夜ご飯作りに行くか。
「あっ! もう一つキャンセル出来る方法を思い出した!」
「なんだと!」
「私がお嫁に行くために、教えて欲しいのです」
「よし、それならみんなでご飯を食べよう」
「はい?」
「はい? なのです」




