マンションの現状
異世界マンションに来てから今日は二日目。
マンション内に知り合いも出来た。
名前はソフィ、種族はエルフ。
なんか上手く行き過ぎてるような気もするが、まあいい。
大切なのは現状の把握だ。
このマンションには一体どんなおかしいところがあるのか。
ゆっくり探っていく必要がある。
今日ソフィの仕事が終わり次第、彼女の部屋に行く予定がある。
情報を持っていそうな人を、俺はまだ彼女しか知らない。
とりあえず時間もあるし、マンション全体を見て回ることにしよう。
このマンションは、一階から二十階まである高層マンションである。
内装がかなりオシャレなところを見るとお金持ちがたくさん住んでいると予想できる。
でも今までソフィ以外の住人と会ったことがない。
まだ二日目と日は浅いが、こんなことが有り得るのだろうか。
さらに言えば、どうやってマンションを維持しているのかも分かっていない。
本当に謎だらけだ。
ということを考えながら、現在五階まで上がってきた。
人の気配は一切無し。
さらに俺は上へ上へと上がって行った。
一時間ほどかかり、十七階まで到達した。
「やっぱ誰もいないんだよな」
わざと大きな声を出してみても反応は無し。
そして十八階に差し掛かったところでこう思った。
ここより上はどうせいない、と。
それから俺は部屋に戻り、約束の時間まで寝た。
そして約束の時間になり、十七階へ向かった。
コンコンッ。
「俺だけど」
「はーい。
お待ちしておりましたわ」
ソフィの私服を見るのは初めてだ。
やはり表情が柔らかくなっている。
大きな変化だ。
「邪魔する」
「どうぞ」
俺とソフィは、机を挟んで向かい合う形で椅子に座った。
「それじゃあ早速だけど聞いてもいいか」
「はい、問題ありません」
「まず一つ目。
現在このマンションに住んでいるのは何人?」
「このマンションに住んでいるのは、私と管理人さん、それにスライムの姉妹だけですね」
「スライムが住んでいるのか?」
「はい、住んでいます。
可愛らしい子達ですわ」
「へえ」
スライムか、人型なのかな。
「二つ目。
このマンションはどうやって維持されている?」
「それぞれのフロアが綺麗なのは、スライムの姉妹が掃除してくれています。
お金の面はクルルさんがどうにかしていると聞いたことがありますわ」
「ほうほう……」
クルルさんは一体何者なのか。
お金持ちなら今すぐにでも、仲良くなりたい。
そう思った。
クズですまん!
「三つ目。
このマンションにおかしなところってあったりする?」
「そうですね。
私は、ゴミ捨て場に落ちていった人を見かけたくらいしかないですね」
「そうなんだ。
それは珍しい経験だね」
完全に俺の話だ。
「四つ目。
前住んでいた人とかはいなかった?」
「いましたわ。
新しい管理人さんが来る一週間前くらいに、ほとんどの方が退去されました。
私は他に行くあてがなかったので残りましたが」
「そんなことがあったのか。
俺嫌われすぎでしょ……
大体何人くらい住んでたかわかる?」
「そうねえ。
大体ワンフロアに十世帯住めるから百六十世帯くらいかしら」
「な、なるほど」
二十階に対して十世帯が住める。
単純に考えて二百世帯住めるわけか。
規模の違いで頭がおかしくなりそうだ。
やはり実際に住んでいる人に聞くのが一番だ。
それより、今はたったの三世帯。
しかも俺は家賃など払っていない。
結論から言うと、このマンションはおかしい。
まあそれもそっか。
だって、
「ところで、なんか建物傾いてないか?」
「ああ、いつもの事ですよ。
お気になさらず」
こんな有様だからね。
定期的に傾くらしい。
すぐに元に戻るらしいけど。
「さっき言ってたスライムの姉妹ってどこに住んでるのか知ってたりする?」
「知ってるわ。
確か最上階だったかしら」
ちょうど俺が、見に行くのをサボった階に住人がいたとは。
つくづくついてない。
「案内って頼める?」
「ええ、いいわ」
俺とソフィはエレベーターで二十階へ向かった。
その道中、ソフィが気になることを言っていた。
「そろそろ移動かしら」
これは一体どういう意味なのか。
俺には全く分からなかった。
「着いたわこのワンフロア全てが、スライムの姉妹の部屋よ」
「おいおい待て待て!
さすがに広すぎんだろうが!」
俺はお金持ちとの格の差を思い知らされた。
この全てがたった一世帯の物である事実。
ありえない。
と、ここで俺は気づいた。
「この壁に付いてるぷにぷにというかぷよぷよとした物体ってまさか?」
「あら、それはスライムの姉妹が通った後でしょうね。
よく落ちているわ」
ならあのエレベーターに付いていたやつも、彼女たちが原因のようだ。
ここはノックじゃ無理そうだな。
ピンポーン、ピンポーン。
「はい!」
「新しく管理人になった夢と言います。
一応異世界から来ました。
家庭訪問に来ました」
「はいはい。
わかりました!」
ガチャッ。
「今鍵を開けたので入ってきてください!」
「ありがとうございます。
それでは失礼します」
なんて簡単に入れてくれるんだろう。
異世界ってセキュリティゆるいのか。
颯爽と中へ入ろうとした瞬間、ソフィが叫んだ。
「待ちなさい!」
しかし、手遅れだった。
「なんだこれ!」
踏んだ瞬間トラップが作動し、天井に宙吊りにされてしまった。
「ほら、言ったじゃない。
もう私にはどうにも出来ないわ。
これからは気をつける事ね」
はあっとため息をつかれ、ソフィに見捨てられた。
そして宙吊りのまま放置されること五分。
二人の女の子が走ってきた。
一人はピンク色のショートカット、もう一人は水色のショートカットをしている。
身長的には中学一年生といったところだろうか。
似ているところを見ると、双子なのだろう。
それよりスライムというから丸っこくて可愛いモンスターを想像していたのだが、さすが異世界。
案の定人型である。
「お、これはソフィではないか!」
「ソフィさんいらっしゃい!」
「あらあら、可愛らしいこと。
少しお時間いただくわね、うふふ」
三人は仲良しなのだろうか。
俺だけ完全に除け者にされているようだ。
「ふっふっふ、そしてこれを見よ我が妹イムよ!
これが我が奥義トラップである!」
俺の事を指さしながら、ピンク髪のスライムが言った。
「見ましたわ、スラお姉様!
すごいです~!」
そして水色の髪をしたスライムはその様子にとても感動しているようだ。
俺は今の会話からピンク色の髪をしたスライムが姉であることを知った。
俺は今、完全に見せ物のような扱いになっている。
だからこそ立場をわきまえ、丁寧にお願いした。
「あの~、スライムの姉妹さん。
助けていただいても……」
「むむむ。
初対面で我を呼び捨てにするとは、いい度胸だ」
「そうです。
礼儀がなってないですね!」
完全に子分だなと思ったことは一旦置いといて。
「えーっと、もしかしてとは思ったんですけどスラさんとイムさんなんですか?」
「いかにも!
我がスラ、この可愛いらしい子が妹のイムである!」
ソフィさん、そんなの普通気づけないよ。
まあなんにしろ二組目の住人に会うことが出来た。
また一歩前進だ。
「ところで、いつ降ろしてくれるのかな」
「我が満足するまでである!」
「スラお姉様さすがです!」
スライムの姉妹改め、スラとイムの姉妹は自由奔放な性格のようだ。
それから十分間放置されてから、開放された。