手紙
俺が異世界に戻ってきてから、早くも一か月が経過していた。
「そういえば、まだ一度もマンションが移動してないな」
必死にほうきを動かし、スナック菓子のカスを集めている俺は思った。
「言われてみればそうねえ」
ソファに座りスナック菓子を食べているソフィが答えた。
そう、今俺がいるのはソフィの部屋である。
なぜ俺がソフィの部屋にいるのかって?
それは、この前交渉材料として使ったソフィの部屋を全力で掃除する約束、いや罰ゲームを消化しているからだ。
実際のところ、ソフィのおかげでとても助かった。
でも……。
「目の前でカスを落とすのはやめてもらえるかな!」
「あら、ごめんなさいね。全く気づかなかったわ」
人にやらせておいてそれはないだろう。
いやいや、これは感謝。
つまりお礼だ。
しっかり掃除しなければ男が廃る。
それから俺は八倍速で掃除をした。
「じゃあ一通り掃除も終わったし、ゴミ捨てに行ってくる」
「もう終わったの……相変わらず仕事が早いわね」
ゴミを捨てるため、マンション外のゴミ捨て場にやってきた。
暖かな日差しが俺を照らしてくれている。
「本当に掃除が終わった後は気分がいいな。
この後、ちょっくら散歩でも行くか」
ゴミを捨てソフィの部屋に戻ると、マグカップに氷が入ったお茶が準備されていた。
マグカップはピンク色で至る所にハートが散りばめられていたが、のどが渇いていたのでお構いなしに一気飲みした。
「ぷは~、生き返るぅぅぅぅ!」
俺がお茶の美味しさに感動していると、奥の部屋からキースが顔を覗かせた。
「もしかして夢、そのカップのお茶飲んだ?」
「お、キースじゃん。飲んだよ、美味しかったぜ」
「それ私のお茶だったんだけど、美味しかったならよかった」
「なにぃぃぃぃぃl!」
確かにそうだ。
あのソフィが俺に気を使ってお茶を出すわけがない。
なんでこんな簡単なことに気づけなかったんだろうか。
自分が情けない。
「そういえばソフィは?」
「またソフィ……」
ムッとした顔で俺を見つめるキース。
「違う、違う。
掃除が終わったよって報告しようと思ってな」
「ふ~ん」
そう言ってキースは部屋の中に戻っていった。
「ふぅ、危なかった……」
「何が危なかったのかしら」
突然耳元で声が聞こえ、瞬時に言い訳を口にしてしまった。
「今のはあれだ。今日の掃除で怪我しそうになった時があってだな……」
しかし冷静に考えてみると、キースの部屋からここまでそこそこ距離がある。
つまり犯人は……。
「あらあら、そんなに驚いて誰と勘違いしてるのかしら。
それにしてもこの通信用スライムは便利ね」
やっぱりソフィだ。
「じゃあ俺は部屋に帰るからな」
そう言って立ち上がると、ソフィに腕を掴まれた。
よく見るとソフィは一通の手紙を持っていた。
「噂をすればってやつね」
俺はすぐみんなに招集をかけた。
そしてみんなが集まった……のは良かったのだが……。
「我は徹夜で眠いのだ。手短に頼む」
「スラお姉様と同じくです」
「私はお料理してただけですから!」
眠そうなスラとイム、すぐにでも料理をしに戻りたそうなヴェントス。
ものすごく申し訳ない気持ちになる。
「わかった。手短に話すから聞いて欲しい」
「夢よ、話すが良い」
あくびをしながらスラが言った。
「久しぶりにクルルから手紙が来た。
内容はこうだ。
『久しぶり、クルルだよ。
ボクから手紙が来たということは、皆さんお待ちかねマンション移動のお時間で〜す。
今回の行き先は学校。
みんなのポストに制服を届けておいたから、ぜひ制服を着て通ってみてね。
それじゃあみんな、今回も頑張ってね。 前管理人:クルル』
ということらしい」