悔いのないように
「おいおい、イムの嬢ちゃんと何かあったのか?」
さすがは海の王。
察しがいい。
「べ〜つに〜、何も無いけど〜」
「なんだよそれ」
あの一件からイムと距離を置き三日が経っていた。
俺としては、イムを友達として好きという認識で留めておきたい。
だから、ただ少し距離を置ければそれでよかった。
しかし俺は不器用だ。
イムとはあれから口を聞いていない。
そんな俺を、水月は気遣ってくれたのだろう。
「なあ水月、外行かね?」
「ああ、もちろんいいぜ」
俺は水月を連れ、とある山の前にやってきた。
「おい夢、これって山じゃねえよな?」
「ん?……山だけど?」
「なんでそんなにあっさりしてんだ。
俺の過去はこの前話しただろうが」
「頼む。
相談があるんだ」
「わかったよ。
わかったからそんなにしけた面すんじゃねえよ。
こっちまでローになっちまう」
「ありがとう……」
俺と水月は整備された山道、百段近くある階段を上がっていく。
綺麗な桜に、紅葉した紅葉やイチョウの木。
これぞ異世界といった感じだ。
「それで、ここはどこなんだ?」
「部屋の引き出しに入ってたパンフレットに載ってた場所なんだ。
俺も来るのは初めてだ」
長い階段を上がりきると、そこには展望台があった。
「こりゃあすげえな」
水月が感動するのも当然だろう。
パンフレットにあった写真のように、ここから街を一望することが出来る。
その景色は見る者を圧巻させる迫力がある。
「山も捨てたもんじゃないだろ?」
「ま、まあな。
これぐらいしてくれなきゃ俺らが困るからな」
水月の顔が全てを物語っている。
それぞれにそれぞれの良さがあるから、みんな違ってみんないいという言葉が存在しているのだ。
だから、俺に終わりが来ることもまた悪いことでは無いというわけだ。
人には人の終わりがある。
突然病死する人、事故にあい亡くなってしまった人。
彼らだって死にたかったわけではない。
だから俺も覚悟を決めなければいけない。
「水月に一つ頼みがある。
これはお前が友達だから頼めることだ」
「その顔、本気だな。
わかった引き受けよう」
「俺のベッドの下に人数分の手紙が隠してある。
もし俺が死んだらみんなに渡してくれ」
「ふ~ん」
今俺は気持ちのいいそよ風を全身に受け、暖かな日差しに照らされている。
なんて気分がいいんだろう。
「それだけだ。
もう用事も済んだし、帰ろうぜ」
「ああ、そうだな。
でも俺からも一つ言っておく」
「なんだ?」
「もし夢が死ぬ原因が人によるものだったら、俺は迷いなくそいつを殺す」
「水月らしいな。
もちろん好きにしていいさ」
マンションに戻った俺は、特にいつもと変わらず日々を過ごした。
毎日毎日ご飯を作り、みんなと楽しく話す。
もう後悔はない。
そしてとうとう運命の日がやってきた。