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異世界マンションの管理人  作者: ゆざめ
22/58

俺なりの決意

 俺はマンションに戻り、水月用の布団を敷いた。


「悪ぃけど、ベッドは俺のもんだから」


「わかってるよ。

 泊めてもらう立場だ、文句はねえ」


 水月の生き方は俺にとって水月鏡花だ。

 憧れることは出来ても、決して触れることは出来ない。


「水月は海を離れてまでしたいことってあるの?」


「特にねえ。

 でも誰かと一緒にいるだけで楽しいし、幸せだと思う」


 この男はいちいちかっこいいことをいいやがる。

 この色男め。


「そっか……。

 俺眠くなってきたわ、そろそろ寝るか」


「ふぁ〜……俺ももう限界。

 夢、おやすみ」


「おやすみ」


 二人はすぐ深い眠りについた。

 眠っている水月は幸せそうな笑顔を浮かべていた。

 朝がやってきた。

 眠気の残る体を起こし、カーテンを開ける。

 とても気持ちのいい朝だ。

 まだ眠っている水月を部屋に残し、俺は十六階へ向かった。


「今日は何作ろっかな〜」


 俺はいつも、料理をする前に自分の記憶を遡る。

 過去に作ったことのある料理なら、自然とレシピを思い出せるからだ。

 今日も今日とて記憶を遡っていると、肩をトントンされた。


「ん?」


 トントンされた方を見ると、水色のエプロンを着たイムが立っていた。


「へ〜、イムって早起きなんだな」


「つまんないです。

 全く驚かないなんて」


 いやいや、正直とても驚いている。

 今まで女の子のエプロン姿なんて見たことがなかった。

 こんなに可愛らしく、魅力的だったとは……。

 だがここはあくまで普通に振る舞う。


「イムとは、一ヶ月以上も一緒にいるからな。

 近くにイムがいることが、俺にとっての当たり前になりつつあるのかもしれない」


 何だこのセリフは!

 まるで口説いてるみたいになってしまった。

 こんなの普通じゃない。


「あ……えーっとな……今のはそういう意味じゃなくて……」


 俺が必死に誤魔化そうとすると、耳を真っ赤にしているイムが視界に入った。

 あれ……これってまさか……。


「ば、馬鹿じゃないですか!

 そんなことより!

 今日は何を作るんですか?」


「それなんだけど、材料が足りないみたいなんだ。

 二人で買い物に行かないか?

 あ、でも二人で買い物って……なんかデートみたいだな!」


 これで確認できる。

 さあ、イムよ。

 勘違いであったと俺に証明してくれ。


「い、いいですよ。

 でも少し待っていてください。

 女の子には準備が必要ですから」


 おっとぉ?


「わ……わかったよ。

 ゆっくりでいいからな、ゆっくりで!

 俺は下で待ってるから」


 俺は逃げ出すように部屋を飛び出した。

 何がどうなっている。

 なぜオッケーされている……?

 イムは俺の事が好きなのか……?


「あ〜もう!

 なんにもわかんねえ!」


 俺はエントランスと外を行き来しながら、ずっとそわそわしていた。

 そして気づけば、座禅を組んでいた。


「お待たせしました……って何してるんですか!」


「あ、イム来てたのか。

 これはただの精神統一だ。

 気にすんな」


「はい……」


 イムの服装は、ピンクのワンピースに白いリボンが付いているとてもシンプルなものだった。

 だがしかし、デートという最強の要素と、イムの可愛さが合わさることによりとんでもなく魅力的に見える。

 これが俗に言う、『尊い』というものなのだろう。


「何を買いに行くんですか?」


「お〜い。

 聞いてますか?」


「あっ……すまんすまん。

 卵と玉ねぎだ」


「それならあそこのスーパーですね」


 危なかった。

 イムの可愛さに意識を全て持っていかれるところだった。

 デートって……こんな感じなんだ。

 更にここで、イムが追い討ちをかけるように手を握ってきた。


「おいおいどうした?」


 心臓の鼓動がどんどん早くなっていく。


「この先は人がたくさんいるのであまり大きくない私は、はぐれないようしっかりと夢さんに掴まっておきますね」


「わかったからさ……体はもう少し離して欲しいな」


「え、なんでですか?

 イムがはぐれちゃったら、スラお姉様に怒られますよ?」


 これは本格的にやばい。

 あと十三日で死ぬ理由ってまさか……幸せオーラに締められるとか!

 そう思ってしまうくらい幸せだ。


「わかったよ。

 なら絶対俺のそばを離れんじゃねえぞ」


「はい、わかりました」


 イムは俺の腕に顔をうずめ、バレないように顔を隠した。

 なぜなら今のイムの顔は、誰にも見せられないほど真っ赤だからだ。

 ここで流石の俺も理解した。

 イムは俺に少なからず好感を持っている。

 そうと分かれば俺がとるべき行動はこれだ。


「あれ? 全然人いないじゃん。

 これなら手繋ぐ必要ないな」


「あっ……えっ……」


 俺は無理やり手を振り払った。


「さっさと買って帰るぞ」


「う……うん」


 心が痛む。

 でも十三日後にもっと心が痛むなら、イムのためにもこうするしかない。

 俺とイムは気まずい中買い物を終え、マンションへ帰った。

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