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異世界マンションの管理人  作者: ゆざめ
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つかの間の休息

 ヴェントスが来てから一週間が経った。

 ヴェントスもまたキースと同じく、ソフィの部屋にお世話になっている。

 そういえば、最近マンションが大きく変化した。

 何が変わったのかというと、十六階に大きなキッチンが出現し、大きな机と二十個ほどの椅子が配置されていたのだ。

 さらにマンションのエレベーターに

『十六階 食事の間』

 と書かれている。

 これをキースが見つけてからというもの、朝早く起きては十六階で朝ごはんを作って待つというのが俺の当たり前になった。

 毎日眠そうにここへやって来るみんなの顔を見るのが、日課というわけだ。

 マンションなのに、みんなでご飯を一緒に食べるというのは斬新で面白いと思う。

 日本にいた頃の俺が一人暮らしをしているマンションでは到底想像もつかないことだ。

 確かに異世界マンションというくらいなら、これくらいのことをしてくれないと満足出来ない。

 ちなみに今日の朝ごはんは、ミネストローネと、小倉トーストだ。

 今俺が管理人を務めているマンションには、スラ、イム、ソフィ、キース、ヴェントスの五人の住人がいる。

 そのため、かなりの量を作る必要がある。

 だからこそあまり凝ったものは作ることが出来ないのだ。

 そして今日の一番乗りはスラだ。


「スラおはよう!

 一番乗りとは珍しいな」


「ふむ。

 我は……早起きの……達人で……あるぞ……」


 頑張って起きたことがよく分かるフラフラ具合だ。

 このフロアに一つだけ置いてあるソファにそのままダイブした。

 次はヴェントスだ。


「おはようございます。

 本日も朝早くからご苦労様です」


「これはご丁寧にどうも。

 ヴェントスおはよう」


「わぁ〜美味しそうですね」


「お姫様、ごゆっくりどうぞ」


「やめてください!」


 こうしてヴェントスをからかうのも日課の一つだ。

 ヴェントスが来ると、次は決まってこの人が来る。


「おはようございます。

 遅くなりました」


 イムだ。

 毎回毎回遅くなりましたというが、どうせスラの部屋を掃除したり、シーツを直したりしてきたのだろう。


「イムおはよう。

 全然大丈夫だよ、あいつらに比べたら」


 俺の言うあいつらとは、キースとソフィのことだ。

 前にも言ったが、今キースはソフィの部屋でお世話になっている。

 ソフィは相変わらずのだらけっぷりだし、キースも睡眠が大大大大好きだ。

 ちなみに、この食事の間は朝七時から朝八時半までの一時間半のみ開いている。

 つまりこの時間を逃せば朝ごはん抜きということになるわけだ。

 ということで、今の時刻八時二十分。

 大体いつもこれくらいの時間に……。


「おりゃぁああああ!」


 猛烈ダッシュのキースがやってくる。

 そしてこのすぐ後に。

 ピン、ポン。

 エレベーターがやってくる。


「あらあら、どうやら間に合ったようね」


 キースとソフィはいつも時間ギリギリにしか来ない。

 そして急いで朝ごはんをかき込む。

 これも一つの日課である。

 ここで一つ豆知識を紹介する。

 エレベーターは、『ポン、ピン』だと上り、『ピン、ポン』だと下りというように到着音が決まっている。

 みんなもぜひエレベーターを利用する際には注目して聞いてみて欲しい。


 と、そんな時物運びスライムが一通の手紙を持ってきた。

 ということはそういうことだ。

 俺はすぐにみんなを招集した。


「また手紙が来た。

 どうせまたどこかへ移動するとかだと思う。

 とりあえず読むぞ」


「よし、聞こうではないか」


『キミは本当にすごいよ。

 まさか森のお姫様を助けちゃうなんて。

 そんな素晴らしいキミには次の情報をプレゼントするよ。

 次にマンションが移動するのは海だ。

 それじゃあ楽しんできてね。

 前管理人:クルル』


「あらあら、海なんて一体いつぶりかしら」


「海ですか……。

 すぐに浮き輪の準備を……」


「私、海に行くのは初めてだ」


「私もです」


「我と海。

 うんうん、悪くない響きである」


 イムは多分、泳ぐのがあまり得意ではないのだろう。

 キースとヴェントスもまだ海に行ったことがないみたいだし、少し心配だ。

 かく言う俺も中学生の頃、家族で海に行った時以来になる。

 その時は普通に泳ぐことが出来たのだが、今はどうだろうか。

 ここで一つ俺はみんなに尋ねた。


「みんなは水着持ってんの?」


 俺が聞くとみんなは首を横に振った。

 女の子に取って水着は多分大事なものだと思う。

 ちゃんと選ばせてあげたい。


「なら、今からみんなで買いに行ってきたら?」


「確かにそうですね。

 マンションが移動しちゃったら、買いに行けませんし」


「そうと決まれば、すぐに行こう」


 あまりテンションの高くないイムと、ノリノリのキースの温度差がすごい。

 でもみんなで海行くなんて、大切な思い出になるに違いない。

 彼女たちは、みんな揃って水着を買いに街へ出かけて行った。

 たった一人、部屋に残った俺は手紙を眺めていた。

 みんなには言わなかったが、この手紙にはPSがある。

 前回書かれていたのは

『キミは一ヶ月後に死ぬ』

 だった。

 今回はこうだ。

『この手紙が届いた時、キミに残された時間はあと二週間。

 海で遊ぶ時間は、キミに取ってかけがえのない大切な最後の思い出になると思う。

 だから後悔のないように楽しんできてね』


 だんだん迫る予定の日。

 何が起こるのか、本当に死ぬのか、まだ何もわからない。

 ただ俺は、後悔のないように生きようと思う。

 死んだあとどうなるかを考えるより、死ぬまでにどれだけ楽しめるかを考えていた方がずっと俺らしい。


「よし、精一杯楽しむぞ〜!」


 彼女たちは一時間ほどでマンションへ戻ってきた。

 マンションは彼女たちの帰りを待っていたかのように、海へと移動を始めた。

 今回の移動は、みんなが見ている中での移動だった。

 マンションは空高く上昇し、空を水平に移動していく。


「空の上ってこんなに綺麗なんですね」


「なんか森のお姫様が空にいるのって変ね」


「なんですかそれ!」


 キースとヴェントスの会話に笑いが起こった。

 なんて平和なんだろうか。

 移動し始めて三十分後、マンションは海の目の前に着地した。

 俺が死ぬまであと二週間。

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