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異世界マンションの管理人  作者: ゆざめ
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森のお姫様⑤

 なぜイムではなくガルフなのか。

 俺が分かりやすく説明しよう。

 これはイムがガキと呼ばれ、人質に取られてすぐのこと。

 俺のすぐ横から感じるとてつもない殺気。

 間違いなくスラのものだ。

 とても仲の良い双子の姉妹であるスラとイムは、誰にも解くことの出来ない固い絆で結ばれている。

 つまりガルフは、決して触れてはいけない逆鱗に触れてしまったというわけだ。


 そしてなぜ命が危ないのか。

 答えは単純だ。

 ガルフの戦うべき相手は、世界一のスライムだからだ。


「我の……可愛い妹に……触れるでない!」


 スラの体がだんだんとスライム状になっていく。

 その様子はまるで、第二形態へと進化していくようだ。


「あーん?

 声が小さくて聞こえねえな。

 ガキだったらもっと声張れよ」


 ガルフは自分の立場を強く見せるために、より挑発をした。

 スライム状になったスラの体はだんだんと形を形成し始めた。

 その姿は、若くて美しい女性の姿に見える。

 可愛らしいショートのピンク髪は、綺麗な長いロングヘアへと変わっていた。


「スラ……なのか……」


「俺の妹に触れてんじゃねえぞ!」


「おいおい状況わかってんのかよ、クソガキ。

 いいからお姫様をこっちへよこせ」


 これが決定打になった。


「スラ式五型……粘着移動(スライムテレポート)


 スラは呟くような声で言った。


「やっぱ何言ってるか聞こえねえわ。

 聞こえねえとイライラすんだよな。

 もう撃っちまおうか」


 この言葉を受け、綺麗な心を持つヴェントスはこう言った。


「ガルフさん分かりました。

 今から私がそっちへ行きます。

 だからもう、イムさんを離してください!」


 人質を取ることで得られるものは多い。

 だがしかし、相手は選ぶべきである。


「話がわかるいいお姫様だ。

 やはり俺の妻に相応しい」


 下に降りていこうとするヴェントスを俺は止めた。

 今にも泣き出しそうな顔をしている彼女に俺は優しくこう言った。


「ヴェントス、行かなくていい」


「でも私が行かないと、イムさんが……」


「大丈夫。

 もう決着はついてるから」


「……え?」


 ヴェントスが振り向いた時、すでにガルフは森の奥へと吹き飛んでいた。

 ガルフの飛んでいった方向にあった木々は、その衝撃波によって粉々になっている。

 何が起こっていたのか。

 またまた俺が説明しよう。

 スラが初めに言った粘着移動(スライムテレポート)は、高速移動系のものだ。

 仕組みは本人では無いため分からないが、これで相手の裏を取った。

 そして次が決まり手だ。

 通信用スライムから聞こえてきた声は、こう言っていた。


「スラ式8型……妹愛(トゥルーラブ)


 これも本人では無いため仕組みはわからない。

 ただ一つ言えることがある。

 これを食らった者は大怪我じゃ済まないということだ。


 瀕死状態のガルフは、一度銃口を向けられた怒りで今にもぶち切れそうなソフィによって全身を縛られた。


「あらあら、お綺麗になったわね。

 でも……そのまま永遠に眠っていたらもっと綺麗かも」


 謎の力を使ったスラは、イムを抱えたまま立って気絶していた。

 この時のスラは、いつものスラに戻っていた。


「誰か早くスラお姉様を!」


 今イムが動けば抱えているスラも一緒に倒れてしまうため、キースとヴェントスが協力し合い二人を離した。

 降ろされたイムはスラを背負い、空を飛べるキースに二階へと運んでもらった。


 特に仕事のない俺は、ソフィと一緒に捕まえた狼人を次々と頭だけを出した状態で土に埋めた。

 俺はそこまで鬼では無い。

 だがソフィは違う。

 ソフィは頑張れば三十分ほどで抜け出せるであろう硬さに土をかため、ふぅと清々しい顔をしている。

 本当に鬼だ。


 後片付けも終わり、ソフィと一緒にマンションへ戻るといつものマンションに戻っていた。

 このマンションは本当に不思議だ。

 エレベーターに乗り、二十階へ上がる。

 そしてスラとイムの部屋へ入る。

 最近この繰り返しだったため、通い慣れたルートだ。


「スラの様子はどうだ?」


 部屋へ入るとそこにはヴェントスがいた。


「はい。実は……」


「そうか……もうスラには……」


 俺はすぐに演技だとわかったため、とりあえず乗っておいた。

 ソフィも気づいているみたいだ。

 お姫様にこんな指示を出すのはキースあたりだろうか。

 すると奥の部屋のドアが開き一人の女の子が飛び出してきた。


「ふっふっふ。

 泣くでない少年よ。

 我は無事であるぞ!」


 やはり予想通りだった。


「だろうな」


「あらあら、私は驚いてしまったわ。

 ヴェントスさんは演技がお上手なのね」


 ソフィの野郎め。

 こんな時は臨機応変に対応するくせに、なぜ片付けが出来ないのだ。

 しかし本当に立ち回りが上手い。

 この状況は完全に俺が敵になる。

 だが俺もまた頭がキレる。


「俺が言ったのは、この程度でへばるスラじゃないって意味だ。

 やっぱスラは、世界一のスライムだ!」


「お、おう。

 照れるではないか」


 俺はソフィの方を向き、ウインクをした。

 とても悔しそうな顔をしている。

 と、ここでキースが言った。


「あのさ、ヴェントスはこれからどうするの?」


「確かに私も考えていました。

 今森に戻っても、誰もいませんし……」


 これは俺が決める場面だ。

 前回のように先を越されるわけにはいかない。


「それなら……」


 俺が話し始めた時、スラが上から被せてきた。


「ならば、このマンションに住むが良い。

 部屋なら余りまくっておる」


「本当ですか!」


 またもスラに主役を奪われてしまった。

 落ち込んでいる俺には全く触れず、イムが言った。


「そうと決まれば、今日はパーッと盛り上がりましょう!」


 イムの発言を受け、キースとソフィも続けて言った。


「今日は勝利記念と、ヴェントス歓迎パーティの二つもあるんだね」


「あらあら、それは豪華にしなくてはいけませんわね」


 最後は主役のヴェントスだ。


「なら、お料理担当は夢さんしかいませんね!」


 こう言われたやるしかない。


「はいはいわかったよ」


 このメンバーといると本当に退屈しない。

 日本にいた頃とは比べ物にならないほど楽しい。

 こんな日常が永遠に続けばいいのに。

 そう思った。

 パーティの騒がしさに隠れ、マンションは元の場所へと戻っていった。

 俺が死ぬまであと三週間。

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