森のお姫様④
いよいよ決戦の日がやってきた。
朝早くからスラとイムの部屋に集まり、朝ごはんを食べた。
今は二階までしかないため上が女子エリア、下が男子エリアになっている。
そして女子エリアの名前がスラとイムの部屋なのだ。
ちなみに今日の朝ごはんは、昨日の朝から漬け込んでおいたフレンチトーストだ。
「美味しすぎます!」
「幸せじゃ〜」
「美味しいわ」
「甘々!」
「こんなに甘くて美味しい食べ物があったんですね」
相変わらずいい反応をしてくれる。
作ったかいがあった。
しかし今は呑気に食事をしている場合では無い。
「みんな聞いてくれ。
今日の戦いについてだが、時間は未定だ。
だからこそ、いつでも戦えるよう準備をしておくこと。
いいな?」
「うむ、当然である。
今日は楽しくなるからな」
「その通りです!
スラお姉様と私が作った特別な弾なので、みなさんきっと驚きますよ」
「あらあら、楽しいことは大好きよ」
みんな準備万端のようだ。
ここで俺が一言かっこいい言葉を言って締めれば、みんなの士気も上がるかもしれない。
そう思った瞬間だった。
「我らスラスラ探検隊の大一番である。
みな心して配置につくが良い!」
「お〜!」
スラの言葉を受け、みな部屋を飛び出していってしまった。
取り残された俺を見てスラは言った。
「早く行くがよい、夢隊員」
気に食わないが、今回の戦いにおいて最も貢献しているのは間違いなくスラとイムの二人だ。
今回は大人しく従うとしよう。
「わかった。
楽しみにしてるぞ」
「もっちろんだとも!
心配せずとも良い、撃ったらわかる」
不敵な笑みを浮かべたスラから逃げるように、俺は部屋を飛び出した。
大砲は屋上に四つ。
俺、ソフィ、イム、スラの四人が大砲担当だ。
ヴェントスは屋上で待機、キースは空からの索敵を任されている。
「聞け諸君。
一つ言い忘れていたことがある」
みんなの服のポケットから小さなスライムが姿を現した。
そしてそのスライムからスラの声が聞こえてくる。
「これはなんだ」
「これは通信用スライム。
我が作り上げた最高傑作である。
聞いて驚け。
これを使うことでお互いに会話が可能となる」
「スラ……お前ってやつは……」
「みなまで言うな。
恥ずかしいではないか」
俺しか褒めてないだろ……とツッコミを入れるのはやめておこう。
おそらく今現在、この機能をはっきりと理解出来ているのは俺とイムくらいだろう。
みんなぽかんとしているのが何よりの証拠だ。
でも仕組みはとてもシンプルなもの。
すぐに使いこなせるようになるだろう。
それから何も起こらず、気づけば一時間が経過していた。
「少し早すぎたんじゃないかしら」
ソフィはこの中で一番面倒くさがりだ。
こう言っちゃ悪いが、早く攻めてきて欲しい。
そう思った。
すると、その願いは敵の元へ届いたらしい。
「みんな、ようやく来たよ。
十二時の方向、数は……五百くらい」
空を飛んでいたキースが敵を捉えた。
「おい今五百って言ったか……。
さすがに多すぎるだろ!」
「どんどんこっちへ向かってきてる」
五百という数字に対し、俺たちはたったの六。
さすがの俺も冷静ではいられなかった。
しかしこんな状況でも冷静な判断をくだせる、頼れるリーダーがいた。
「我の合図で砲撃を始める。
我の合図を待て」
スラだ。
おそらく普段の行動からリーダーっぽいスラには、自然とリーダーシップが身についているのだろう。
ようやく姿を現した彼らは、狼人と呼ばれる種族の集団だった。
彼らはみな鉄パイプのようなものを持っている。
「なあヴェントス、結婚相手って……」
「はい……あの先頭にいる狼人のガルフさんです」
このガラのわるそうな集団のリーダーって……。
ヴェントス、お気持ちお察しします。
ガルフはマンションの前に着くなり、匂いを嗅ぎ始めた。
「お姫様の匂いがする。
このミニマンションの方だ。
お前ら、一気に攻め落とすぞ!」
「お〜!」
大量の狼人がマンション目掛けどんどん走ってくる。
「今だ!
皆の者、砲撃開始である!」
ボンッ、ボンッという音と共に、弾が飛んでいく。
その弾は見るからにスライムボールという色合いをしている。
ペチャッと敵に当たったその弾は、次々と敵を子どもの姿へと変えていく。
「おいスラ、この弾は一体……」
「これは若返りスライム弾である。
当たった相手を赤ちゃんにしてしまう恐ろしいスライムが原料であるぞ!」
「なあにこれ、楽しすぎて撃つ手が止まらないわ」
次々と砲撃を繰り返すソフィは恐怖でしか無かった。
弾は次々と物運びスライムによって補給されている。
つまり半永久的に砲撃が可能というわけだ。
「なんなんだこの弾は。まるで魔法みたいだ」
この弾によって相手の足並みは崩れ、一方的にこちらが有利になっていく。
もうすでに百近く相手を削ることが出来た。
イライラしているガルフは、指示を出した。
「おいお前ら、全員で突っ込め!」
「うお〜!」
先程とは比べ物にならない数の狼人が一気に攻め込んでくる。
まるでゾンビアタックのようだ。
「これじゃあ入り込まれちまう。
何か策はないのか……」
俺が頭をフル回転させていると、笑い声が聞こえてきた。
「ふっふっふ」
頼れるリーダーだと思っていたスラだ。
普段のスラの態度に今置かれている危機的状況が重なり、少しイライラしてきた。
「今は笑ってる場合じゃないだろ!」
少し強い口調で言ってしまった。
しかしスラは俺の事を完全にスルーした。
「イムあれを」
「はい、スラお姉様」
ポチッ。
イムがリモコンのボタンを押すと、マンションの目の前に石ころサイズのスライムがたくさん集まってきた。
その小さなスライム達はどんどんお互いを吸収し、大きくなっていく。
「夢よ、焦りは隙を作る。
戦いに感情は不要であるぞ」
といいながらも凄くドヤ顔をしている。
「悪かった、正直焦ってたよ。
それであれはなんなんだ?」
「見せてやろう。
あれこそ我の護衛部隊、スライムナイトたちである。
もちろんやつらの武器にも例の原料が仕込まれておる」
スライムナイト総勢十体は、どんどん狼人を倒していった。
砲撃に加え、スライムナイトの参戦とあっては手も足も出まい。
さらに、こちらには空からの情報という武器もある。
見る見るうちに数は減り、残すはガルフ一人となった。
ここでイムとソフィは下に降り、マンション前に溢れかえっている子供たちをスライム手錠で縛っていった。
スライム手錠に縛られた子供たちは、どんどん元の姿へと戻っていく。
もちろん、手足を縛られた状態でだ。
「おいガルフとか言ったか。
残すところ君一人みたいだけどどうする?」
「こうなっては仕方がねえ。
これを使う」
ガルフはポケットからピストルを取りだした。
そして銃口をソフィへ向けた。
「なんて卑怯なやつだ」
キースはヴェントスの前に立ち、彼女を背後へ隠した。
「そこのガキこっちへ来い。
もし抵抗したら、このエルフを撃つ」
ガルフの言葉に従い、イムはゆっくりとガルフの元へ向かった。
そして銃口をイムの頭へ突きつけた。
これはかなりまずい展開になった。
このままでは命が危ない。
早く逃げてくれ……ガルフ。




