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異世界マンションの管理人  作者: ゆざめ
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二度目の手紙

「い、息ができ……ない……」


 今俺は、荒れ狂う海の中にいる。

 大きくうねる波は渦を巻き、どんどん俺を飲み込んでいく。


「た……助けて!」


 必死にもがきながら助けを呼ぶ。

 しかし、その言葉は誰にも届くことはない。

 ただ一人、苦しみの中に消えていく。


 ハッ。


「なんだ……夢……か?」



 久しぶりに悪夢を見た気がする。


 そんなことよりおかしなことがある。

 俺は今、確かに目を開いている。

 しかし、視界は未だ暗いままなのである。


 もぞもぞ。


 同じベッドに誰かがいる。

 俺は正真正銘の一人暮らし。

 初めて感じる顔にあたる柔らかな感触。


「ふわぁ~。

 あれ……夢起きたの?

 おはよう」


 そこにいたのは、パジャマを着たキースだった。

 スラが作った義眼をつけており、自分に自信がついたようだった。

 いやまずはそうじゃないだろう。


「うわぁあああ!

 こんなとこで何してんだよ」


「何って……夢が言ったんじゃん」


「え?」


 まったくピンと来ていない。

 ただこう言われると、何かやらかしてしまったのではと思ってしまう。

 キースは目を輝かせ、俺の目をしっかり見ながらこう言った。


「俺のために生きろって……告白ってやつだよね!

 私すごく嬉しかった!

 だからずっとそばに居るからね」


 これはまずいことになった。

 今勘違いだったと弁明すれば、彼女はまた生きがいを失ってしまうかもしれない。

 そして同時に、女をたぶらかした最低な男というレッテルを貼られてしまう。


 しかし、ここで弁明しなければ俺はキースと結婚することになるだろう。

 というか本当に俺でいいのか?

 もしかして俺ってかっこいいのか、と勘違いしてしまうじゃないか。


 それより今すぐに返事しなければ、よりまずいことになる。

 誰か助けてくれ。

 その時、ピンポーンとインターホンが鳴った。

 ナイスタイミング!


「あ、誰か来たみたい。

 俺出てくるから」


「え、あ、ちょっと」


「はーい!」


 俺はルンルンで玄関へと向かった。


 ガチャッ。

 ドアを開けると、そこにはスラがいた。

 正確にはスラの開発した、離れた場所から会話が出来る物運びスライムがいた。

 そう、まるで電話だ。


「我が直々に届けに来てやったぞ!

 ありがたく受け取るが良い!」


「これって研究成果だろ?」


「むむむ。

 我を侮辱するか!」


 う〜わ、めんどくせ。


「わかった、わかったから」


 まあ可愛いんだけど。

 スラ(スラが作った物運びスライム)が手渡してくれたのは手紙のようだった。


 俺は受け取ってすぐに中身を確認をした。

 そこにはこう書かれていた。


『マンションが元の場所へ帰ってきたみたいだね。

 キミに頼んで本当によかったよ。

  やっぱりボクの目に間違いはなかった。

  これからも頼むよ管理人さん。

  次は多分、森の中へ飛ぶことになると思うから。

 それとこの世界にはマンションに家賃は存在しないんだ。

だから気にしないでいいんだよ。

  キミはあくまでマンションの管理人。

  みんなのサポートをするだけでいいからね。

 PS:キミは一ヶ月後に死ぬ。

  前管理人:クルル』


「なるほど……って……えええええええ!」


 俺は一ヶ月後に死ぬ……のか。

 いやいやなんでそう決めつける。

 決めつけるだけの材料が揃っているということなのか。


「死ぬ……のか……。

 異世界って本当にわからないな」


 パチンッ。


「よし、切り替えていこう!」


 そういえばマンションが元の場所に戻ってきている。

 そして次は森の中に飛ぶことになる……か。


 おそらくこのマンションは、困っている人を助けるために存在しているんだと思う。

 俺は一つの仮説をたてた。


「つまり俺がここにいるのは、困っている誰かを助けられる人と見込まれたからということになる。

 あっはっは〜!」


 嬉しくて笑いが止まらない。

 ひょこっ。


「なに笑ってるの?」


「うわぁあああ!

 なんだキースか」


「驚かせるつもりはなかったの……ごめんね」


 いやいや、天使かなにかか?


「俺の方こそごめん。

 キースが謝る事じゃない」


 なんだこのやりとり、ちょっとラブコメっぽい。

 俺のつぶやきが叶う日もそんなに遠くは無いかもしれないな。

 一ヶ月後にはこの世にいないかもしれないんだけど。


 無事に究極の選択から逃げきった俺は次なる目標へ向け、前向きに頑張ろうと強く思った。


 そしてマンションは、森の中へと静かに舞台を移した。

 俺が死ぬまであと一ヶ月。

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