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元興の治 ②

 また巷間に流布した講談を集成して隆代に成立する『大興演義』では、高宗とその家臣たちが前半部の主人公として大活躍するが、彼らの人気が民間においても高かったことを証明している(『大興演義』は武宗の治世から始まり、劉慎、衛靖、尉遅会瓊(うつちかいけい)らが数奇な運命を経て(けい)王の下に集い、力を併せて開治の乱の収拾に当たる部分が前半のクライマックスである)。


 さて、元興の治は無論内乱で衰微した国力の恢復を指して行なわれたに違いないが、それは結果として六朝以前、すなわち陳代から続く諸制度の矛盾を修正することになった。六朝諸王朝はいずれも陳代の制を踏襲したため、多くの弊をもともにせざるをえなかった。中でも混乱著しかったのは地方行政である。さらにそれは武宗の諸王分封によって完全に崩壊してしまった。そこで高宗はまず地方行政の再建を試みる。


 そもそも陳代初期、全土は僅かに二十四の州に分けられていたに過ぎなかった。それが陳朝270年の間に次第に増えて、六朝期には華北だけで百余州もある有様だった。このような状態に至った理由としては、さまざまなことが考えられる。例えば人口増加や、版図の伸長に伴う新たな州県の設置である。


 しかし実はその主たる要因は、信じられないことに、激増した官員のポストを確保するためであった。元来陳朝は官僚を遇すること厚く、ひとたび登用されれば生涯俸給が支払われた。高官ともなれば退官後も地方の長官に任命されることで(実際現地に赴任することは少ない)、事実上の食邑すら与えられた。またその子息は科挙を経ずとも官職に就くことができ、同じように特権を享受した。


 その結果、貴族階級が形成されて、半ば彼らの私領と化した州県が群立することになった。これを改めんとした皇帝、宰相も無論あったが、その都度頑強な抵抗に遭って挫折した。さらに9代懿宗に至っては、私的な財産を増やすべく盛んに売官を行なったため、官員は増大する一方であった。


 また異民族の侵入に備えて辺境に置いた節度使は、当初軍権しか有していなかったが、末期になると治下の民政をも掌握するようになり、中央の派遣した官員を放逐した。そのため大量の官員が無任所のまま溢れることになった。陳朝は節度使の軍事力を恐れてその軍閥化を追認したため、辺境より追われた官員の行くところがなくなってしまった。


 やむなくさらに州県を細かく分けて彼らに与えることにした。このため州県の規模は中央に近いほど小さくなり、節度使の治める辺境は旧のままであるという不均衡が生じた。しかし規模の大小に関わらず、州県の官吏の定員はどこも同じである。自然中央に近い州県には多くの冗員があった。


 大興にあっては、かつて太宗が興京を中心とする二十四州において冗員の整理を行なった。だがさすがの太宗も混乱を恐れてか、州県の統廃合までは行なわなかった。高宗は、これを抜本的に改める必要を痛感し、行政区画の再編を断行する。


 とはいえやみくもに州県を廃止すれば、やはり混乱は(まぬが)れない。高宗はいまだ再統一ならざる925年、関中を除く全土に代官を送り込んだ。一人が複数の州を担当するように配置すると、治下の冗員整理や行政の簡便化を推進させた。彼らが各処に置いた政庁がのちの州都の基盤となる。その数は当初、四十数ヶ所あった。


 即位後の928(元興三)年、中書令李聞の献策によって、ついに百余州を廃して三十六州を定めた。先に派遣した代官たちがそれぞれ知州に任命されて統治した。その後、934(元興九)年に四州を廃し、辺境に新たに二州を置いたが、この三十四州が大興の滅亡まで続くことになる。また要地に六つの中書行台を設置して中央の命令が円滑に伝わるようにしたほか、地方官に対する監察制度も充実させた。

挿絵(By みてみん)

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