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内乱の終焉 ②

 宋王帰還に伴って、竇徳(とうとく)の長子糜達(びたつ)が返された。糜達は前非を悔いて詫びたので、旧のごとく仕えることになった。一方、魯王糜奉(びほう)については帰国の許可を与えず、数年後、そのまま草原(ミノウル)で客死した。


 925年六月、竇徳は寧京の故地へ向かった。関中の耶律全冉(ぜんぜん)に使者を送って寧京での約会を打診すれば、喜んで望谷関から出てくる。両者は寧京の焼け跡で武宗の葬儀を行なった。それによって晋王、呉王の不孝を天下に(さら)したのである。竇徳が弔辞を読み上げたが、途中から嗚咽して言葉にならない。ついには天を仰いで慟哭した。そのさまに士大夫をはじめ一般の兵衆も感動して襟を濡らした。


 また内乱で命を落とした皇族や、諸侯を追悼した。全冉は父拓拓を想って哭泣した。不憫に思った竇徳はこれを養子とした。天下はこれを美談として(たた)えたが、実はその意味するところは(けい)秦の同盟である。事前に幾度も折衝が重ねられ、寧京での約会は大掛かりな演出に過ぎなかった。さらに竇徳は、


「今後、天下の大事は全冉に託して、私は先帝の喪に服すつもりだ」


 とすら言った。劉慎や全冉らはずらりと平伏してこれを諫めたが、聞き容れない。そこへ寧京郊外の人衆を代表して三人の長老が訪ねてきた。謁見を許されて進み出た長老たちは、涙を流して竇徳の徳を(たた)え、乱世を収めてくれるよう懇願した。これを聞いてはじめて竇徳は、


「私が間違っていた。亡き先帝のために、また彼ら人衆のために微力を尽くそう」


 とてみなを喜ばせた。だがこれはいささか演出過多のきらいがないでもない。


 その後、全冉はほどなく関中へ帰ったが、竇徳はその場に留まった。幕僚の中には武都へ帰るよう勧めるものもあったが、なぜか言を左右にして動かない。そこへ武都留守袁朗から早馬が来た。焦った晋王が武都を急襲したのである。竇徳はこれを待っていたかのように腰を上げた。実際、軍を発した竇徳は驚異的な速度で営州へ舞い戻り、晋軍を完膚なきまでに叩き潰した。


 敗れた晋王は辛くも危地を脱して、ほうほうの体で代原府へ逃げ込む。晋王に(したが)っていた太守たちは先を争って竇徳に降った。彼らは全員(ゆる)されて旧職に留まった。これを聞いて晋王直属の幕僚たちも続々と逃亡し、代原府は閑散となった。竇徳は征西将軍王之参に一軍を与えて代原府へ向かわせる。晋王愛迅は万策尽きて、多くの亡んだ君主と同じように都城に火を放って自決した。


 これで開治の乱を演じた諸王で残るのは呉王愛舎のみとなった。愛舎は晋王挙兵を聞いて、一度は国境付近まで兵を進めたが、晋が呆気なく亡びたことを知るや、すぐに彰義府に退いて門を閉ざした。竇徳は投降を勧める使者を派遣したが、すげなく追い返された。


 それで愛舎が何をしていたかといえば、何もしていなかったのである。ただ無策に城に籠もっていただけである。それどころか、六朝期に数多ある亡国の主と同じように酒色に溺れ、近臣や女官を虐待したので、人心はすっかり離れた。


 それでも竇徳はすぐに兵を送ろうとはしなかった。すでにその先を見据えて全国の行政の再建に着手していたのである。諸王の悪政とそれに続く開治の乱で、中原は極度に疲弊していた。竇徳は薊で養った有能な官僚群を全土に送り込んで、直轄統治の基礎を築いた。この枠に入らなかったのは、全冉の治める関中だけである。


 中原の秩序が回復する一方、愛舎の拠る斉呉の地は動揺が激しく、太守の離叛、人衆の蜂起が相次いだ。だが愛舎はそれらをまったく放置する。一説によると竇徳の軍師劉慎が叛乱を煽動していたとも言われる。

挿絵(By みてみん)

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