表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/50

マグマ山


 黙々と歩みを進める2人の目前に、段々とその巨大な姿を現すマグマ山、しかし人間の視野とはなんとも狭いもので、近づくにつれてそこが山だとは分からないようになっていく。


 早朝に出発した2人は、まだ陽が登り切らないうちにマグマ山の入り口まで辿り着いた。


 これまで武仁の第六感は魔物への反応を示さなかったが、ここに来てそれを感知したようだ。

 感知するや「魔物がうじゃうじゃいるぞ」、と幼い少年のように目を輝かせた武仁は、それを追うかのようにどんどんと山道を登って行く。

 全は「お前は疲れを知らないのか」、とため息を漏らしながら、その後を懸命に追った。


 マグマ山を登りはじめると、武仁が感知した通りに魔物と遭遇し、はじめこそ楽しそうに勇者の(バット)をフルスイングし討伐していた武仁だが、次第にあまりの手応えのなさに「つまんねぇ」、とぼやく。

 そんな武仁に全は言った。


 「......あのなぁ、さっきからお前が倒した魔物の討伐証明を拾ってる僕の身にもなってくれ。それに、僕は探索依頼だから、そんなズイズイと進まれたら探すのも探せないよ」


 すると武仁は反省したのか、「わりぃ」、と呟くと、全のペースに合わせながら歩き出した。

 肩を並べて歩き始め、全も気を取り直したのか武仁に声をかける。


 「依頼書を再確認しよう。武仁の討伐クエストは......バイオレットベア......これはさっきからお前が倒しまくってる熊だから、もうクリアしていると思うんだ。討伐証明は倒せばドロップするようだし、これは良い発見だね! それから、僕が受けた探索クエストは、マグマ山中腹部に生息する溶岩蜂(ラバビー)の巣の捜索。毎年溶岩蜂は住み替えをするから、今年の生息域を報告する事でクエストクリアみたいだ。」


 「そうか、探索対象が魔物なら、俺が溶岩蜂を感知すれば、全もクリアだよな! 俺......さっきまで先走っちまって悪かったな、ありがとよ」


 そう言う武仁は反省したのか、全のことをおっさんとは呼ばずに名前で呼んだ。

 全も、「気にするな! 僕も薬草採取で先走るから同類だよ」と笑うと、武仁も思い出したかのように、「本当だぞ!」と言い笑った。


 2人はそれからも湧いて出るバイオレットベアを討伐しながら、山の3合目辺りだろうか、色違いのバイオレットベアを見つけた。


 「おい! 見てみろよ全! 色違いがいるぜ!」


 そう言う武仁に「熊はもういいよ」、とうんざりの様子の全だが、一応鑑定すると、ブルータルベア、と名前も違うようだ。


 しかし相変わらず一発で倒してしまうようで、少し上がった武仁のテンションはすぐに落ち着いたが、4合目を過ぎた辺りで、ようやく武仁の第六感で溶岩蜂を捕らえると、武仁は気持ちの昂りを抑えながら全にそれを伝えた。


 「そろそろ休憩しないか、サバイバル飯にもありつけなくて今日は何も食べていないし......腹が減っては、と言うだろう」


 全がそう言うと、武仁も「そう言やぁそうだな」と休憩に合意した。


 しかしここはバイオレットベアが湧く場所、休憩中は全が防御結界(シールプロテクト)を使えば良いとしても、空腹は凌げない。

 そこを解決するのが全だ。


 「あの熊......僕の魔法で仕留めれば食べられるんじゃないかな......。そして炎属性魔法の生活魔法で焼けば......」


 「おぉ! サバイバル飯じゃねぇか! ......だがよ、全の魔法の威力でまた消し炭になるんじゃねぇのか......?」


 まぁ見てて、と言うと全はバイオレットベアに向かって魔法を放った。


 「風刃(ウィンドカッター)!」


 するとバイオレットベアは綺麗に頭部が切断され、その場に崩れ落ちた。


 「解体(ディスマンタリング)!」


 重ねて魔法を使用する全。


 バイオレットベアはみるみる毛皮、臓物、骨、肉など部位ごとに解体されて行く。

 解体された中で、必要な肉にだけ浄化(クリーン)を唱え収納すると、少しして他の部位は崩れて消滅したが、やはり討伐証明となる毛皮はその場に残っていたためそれも収納する。

 全は、やはり浄化(クリーン)は何らかの作用が魔物に働くのか、と考えながら、防御結界(シールプロテクト)を唱えその場に腰を下ろすと、「風属性初級魔法で切って、生活魔法で解体と浄化をしたんだ」、と武仁に言った。


 「お前なんでもありだな......」


 と、武仁は改めて全の魔法のチート具合に呆けた顔をした。


 薪になるようなものを集めないと焼けない事に気づいた2人は、手分けして周辺の小枝を集め、防御結界(シールプロテクト)を展開している場所に戻ると、集めた小枝を中心に置いた。


 「着火(イグニッション)


 全が唱えると小枝に火が着いた。


 収納から肉を取り出し、分けていた枝に刺すと、2人は肉を炙る。

 火が通るまで時間はかかりそうだが、はじめてのサバイバル飯に2人はご満悦の様子で、じっくり焼き加減を見ながらその時間を楽しんだ。


 良い具合に火が通り、「いただきます」、と2人はバイオレットベアの肉にかぶりつくと、食べ応えのある肉感に「これぞサバイバル飯!」、と満足そうに武仁は言ったが、「......全がいなきゃできねぇじゃん」と呟くと、1人ひっそり肩を落とした。


 遅めの昼食を終えた2人は、5合目を越えた辺りで溶岩蜂の巣を発見、そのポイントを把握すると、「いよいよ本命だな」、と武仁が言う。


 そう、2人の真の目的はサバイバル飯でも、討伐クエストでも、探索クエストでもない。


 ここにあるとリンに言われた、火神の大樹へ赴く事だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ