便利な魔法
マグマ山を目指してカルカーンを出発した2人。
武仁は道中に咲く草花に一々鑑定を使い、採取している全を急かす。
全は、「これも異世界を楽しむ要素だぞ」、とぶつぶつ言いながらも、「これならいいだろ!」、と素早く採取し収納すると、武仁を走り抜き、また腰を下ろしては採取、武仁が追いつきそうになればまた走り抜き腰を下ろし採取、を繰り返した。
ちょこちょこと前を行く全に、しらーっとした目線を送りつつも、武仁は終始第六感を使用し、魔物や敵意を感知しながら進む。
マグマ山へは片道だけでも1日がかりと、冒険者ギルドでマムから聞いていた為、「魔物を狩ってサバイバル飯を食べよう」、と武仁は張り切っていただけに、魔物の気配のしない平和な時間に、退屈だ、と言わんばかりの大きなあくびをする。
途中、相変わらず採取をしていた全が、武仁目掛けて走り戻って来た。
何事かと思ったが、「出発前にカルカーンで用意していた水に、魔力を通すと! なんと聖水が錬成できた! それに色々な薬草を混ぜ合わせると、ポーションやエーテルが出来たんだ!」、と言いに戻ってきただけだった。
「お前呑気だなあ」、と武仁が言うと、「サバイバル飯だとか言ってたお前には言われたくないな」、と全も返した。
そんな穏やかな旅路の最中、武仁の第六感スキルがようやく敵意を感知した。
ちょうどマグマ山へ行く道と、水上の街フォルダンに行く道との分岐点にさしかかったところだった。
「おい全! ちょっと道は逸れるが北東3km先、人が襲われてるぞ! どうする!?」
そう武仁が言うと、薬草採取の手を止め全は返した。
「決まっている! 助けるぞ!」
2人は3kmの距離を駆けつけるまでに、間に合わない可能性を危惧し、3日目のログインボーナスで修得した武仁のスキル、一網打尽を使用する事にした。
「対象は13......一網打尽!」
スキルを発動すると、宙に光る球がフッと現れた。
「なるほど」、とつぶやくと、武仁は収納から勇者の剣を取り出しフルスイングで打ち抜いた。
すると、球は打った瞬間13個に別れ、目で捉えられない様なスピードで飛んで行く。
急いで感知した場所まで向かう2人、ものの数分で武仁が到着すると、そこには感知通り13人が気を失って倒れていた。
そして、荷馬車の中で怯える親子らしき人達の無事を確認する。
遅れて全が息を切らしながら到着、呼吸を整えたのち被害者に話を聞くと、カルカーンに向かう道中で盗賊に襲われた、と言う事だった。
どうやらこの親子は行商人らしく、積荷を狙われたのだろう。
全がステータスウィンドウを開き、「土属性魔法にうってつけの魔法があったんだよなあ」、と言う。
「......あった!拘束!」
唱えると、木の枝が倒れた13人の盗賊達に絡み付き拘束していく。
「カルカーンに僕の魔法で盗賊ごと転移させますから、到着次第、冒険者ギルドに突き出すと良いですよ。ご無事で何よりです」
そう全が行商人の親子へ伝えると、深々と頭を下げながらお礼を言う行商人。
行商人の親子を笑顔で見送り転移を唱えた。
「それにしても武仁、一網打尽ってスキルは絶命させずに気絶させるんだね。僕たちのステータスを考えると、塵一つ残らないんじゃないかと思っていたけど......急を要したとは言え使わせたのはまずかったかなって追いかけながら考えてたよ......」
全は内心ホッとしているようだ。
「あぁ、どんな仕組みかわからねぇが、感知したのが魔物なのか人なのか、敵意や悪意があるのかだとかがわかるんだ。人だったんでHP1残しの瀕死! と思って打った」
そう言う武仁に「徹底的にシバくさすがはヤンキーだ......」、と呟くと「悪人なんだから当たり前だろ」、と普通に返され、冷やかしたつもりが肩すかしの全だった。
進路を戻し、再びマグマ山を目指し歩みを進め、途中休憩を挟み食堂で買った弁当を食べると、あまり時間をかけていられないと2人は更に前進する。
あれから特に何もなく、大して変わらない風景にも飽きてきた2人、歩き詰めで疲れも溜まる。
陽が傾いてきたところでようやく遠くに山が見えはじめた。
「やっと見えてきた......ちょっと舐めてたな......次からは乗り物が必要だな......もう足が棒だよ、今日はここらで野宿としよう」
全が言うと武仁は、「貧弱だな」と言いながらも、野宿の準備をしはじめた。
言われた全は「お前が体力おばけなんだ」、と返しながら路肩に座り込んだ。
事前にカルカーンの道具屋で調達しておいた、野営用の簡易テントを設置すると、念のためと寝込みを襲われないよう、全は光属性初級魔法、防御結界を唱えた。
2人はテントに篭ると全はすぐに眠りについた。
武仁は横になるもなかなか眠れず、陽が完全に落ちるまで第六感スキルを使用していたが、気がつくと眠りに落ちていた。
ーー翌朝ーー
早めに眠りについたせいか朝早く目が覚めた全。
武仁を起こさないようにテントから出ると、大きく伸びをして辺りを見渡した。
マグマ山へ続く道には人1人の影もなく、見飽きた草原に変わりもない。
とりあえず、とステータスオープンを唱え、4日目のログインボーナスをリンから授かると、スキル複製を修得した。
これは所持するアイテムを複製するスキルのようで、全知全能と相性が良さそうだ。
ステータスウィンドウを開き、水属性魔法を見ながら生活魔法とされる浄化を唱える。
洋服は洗濯されたように、体は風呂に入ったかのように、歯も磨いたようにスッキリだ。
武仁が起きるまで、採取してきた薬草で錬成をしよう、と張り切っていると、案外早く起きてきた武仁に「まだ寝ててもいいんだぞ」、と声をかける全だが、「いや、目が覚めちまった」、と二度寝する気配もないため、諦めて武仁にも浄化を唱えた。
「......!? 便利な魔法だな! これで毎日風呂も歯磨きもしなくていいじゃねーか!」
と、今までのどの魔法より感動する武仁に、「いやそれもどうなんだ......」とツッコむ全だが、「忘れずにログインボーナスもらえよ」と口添えた。
言われて武仁もステータスオープンを唱えると、ズチの声が聞こえてくる。
「武仁殿! 4日目のログインボーナスですぞ! 今日もスキルなのだが、少しこれまでと勝手が違うスキルですぞ。強者の特権......このスキルを使用すると、武仁殿が打ち負かした魔物を使役する事が可能になりますぞ! 魔物の世界は分かり易い弱肉強食......そして強い魔物ほど知性も持ち合わせておりますからな、使役する魔物次第では心強い協力者となりましょうぞ! まぁ武仁殿の力の前にして協力者など必要ないかもしれませんがな! がはははは!」
そう言うとズチは去った。
武仁は、「強い魔物なんかいんのかよ」と言いながらも、一方の全は、「魔物使役じゃないか!」とはしゃいでいる様子だが、あまり興味のないスキルに「早く行こうぜ」と武仁が急かすと、2人でテントを片付け、昨日に引き続きマグマ山を目指して歩みを進めるのだった。




