「掲示板の件で、マズったかも」
今日は仕事は休みなので、街を散歩している。
実は、各勇者パーティの活躍をまとめる掲示板の仕事というのは、
毎日更新の業務ではなかったりする。
掲示板更新は一週間に一回、あるいは二回くらい行われる。
基本は一回の更新で、二回くらい更新が行われるのは
勇者パーティが強めの魔族を倒したとか、
そんな感じのことが起きて戦況が大きく変わったときに限る。
たくさんいる勇者パーティだけど、魔族の数が多いのだろうか。
まあ、掲示板で活躍を載せてる人達って全員じゃないからね。
掲示板に掲載してるのは大きな出来事や人気勇者パーティの活躍、
あとは、うちの村からそう遠く離れてない場所で起こった出来事がメイン。
全ての村がそうってわけじゃないみたい。
だけど、うちの村はそういう感じでやってきてるって
この村の新人歓迎会でやってた。
あ、新人歓迎会というのは俺が勝手にそう呼んでるだけで、
正式名称はよくわからないけど、どんな名前にしても存在理由は同じだろうね。
勇者や魔族っていう要素が目立っているけれども、
実際は俺の今いるこの世界も、元の世界とそんなに大差ないのかもしれない。
この村のおっさんやおばさんの中には、古い価値観に縛られた人もいるみたいだしね。
そういうとこも含めて、やっぱり元の世界と似てる。
なんか、腹が減ってきたなあ。
飯でもどっかで食べるとするか。
そんなことを考えていると、村の広場でなにやら大きな声が聞こえてくる。
この時点で俺は何が起きているのかわかりきっていたので、とても憂鬱だ。
「おい!どうなってやがんだ」
荒々しい態度の男が、村の役人に突っかかっている。
この男は、村に拠点を構えている蛮族パーティのリーダー格の男。
蛮族の人は乱暴だったり無礼な人がちらほらと見受けられるんだよね。
もちろん、そんな態度を取ることがない優しい人もいる。
だから、職業差別はしないように心掛けてはいるものの、
蛮族の人に対してはどうしても身構えてしまう。
ファミレスで友達とご飯を食べていたら、ちょっとガラの悪い若者たちが
店の中に入ってきて、仲間たちと大きな声ではしゃいでいる、みたいな。
そういう雰囲気がある人が多いんだよね。
俺は普通の男として生きてきたけど、ああいった人種は得意じゃなかった。
彼らは、普通の生き方をしていない。
普通という枠から外れて、好き勝手に生きている。
普通に生きていることこそが、最も安全だというのに。
そんなことを考えていると、蛮族がまた村の役人に大声を出している。
蛮族が"とあるもの"を指差しているので、要件は察しがついた。
"とあるもの"とは、掲示板のこと。
蛮族が行っていたのは掲示板に対するクレームだ。
「おい、どういうことなんだよ!
なんでオレ達の活躍が毎回、掲示板に載ってねえんだよ」
今週の掲示板を更新したのは俺なので、載せてなかったのは俺の判断である。
ちなみにユージンもあの蛮族パーティのことは掲載することはない。
蛮族パーティのことが個人的に得意ではないから嫌がらせをしているわけではない。
あのパーティは魔族を倒しに行ったり、魔族が支配する街を解放するなど
そういった活躍を一切していないからである。
「も、申し訳ございません」
村の役人の人が全力で謝罪している。
「この掲示板作ったのはテメェか」
「い、いえ!私ではございません」
「だったらこれ作ったヤツ呼んで来いや!」
「そんな、困ります!」
「あァ?なにが困るってんだよ」
まずい。このままだと役人さんが暴行を受けかねない。
あの掲示板を作ったのは俺なので、俺が責任を取るのが普通だろう。
というわけで、俺は蛮族の男と役人さんの間に割って入ると、
最初こそ困惑していたが、目の前の男が俺だと気づいた役人さんが驚いた顔を浮かべる。
「の、ノマール君!どうしてここに?」
「近くにいたので。代わります、迷惑かけてすみません」
役人さんは俺に謝罪しながらそそくさと去って行った。
自分が原因ではないことで怒られていたのだから無理もない。
「それで、ご用件は・・・」
俺がそう言おうとすると、蛮族の男は俺の胸ぐらを掴んだ。
「テメェか・・・この掲示板作ってんのはよォ」
蛮族の男が凄んできている。
ま、まずい。
転生後の俺は蛮族の男にボコボコにされる役割だったのか?
「そうですが、なにか問題でも・・・」
要件は何か分かり切っているが、一応聞いてみる。
胸ぐらを掴まれて伸びきった服の首元が結構痛いからやめてほしい。
「テメェ・・・この掲示板はどういうこったよ」
胸ぐらを掴む力が強くなってきている。
載せてもらえないことにそんなにムカついているのか?
荒くれ者っぽい見た目の割には、意外と繊細らしい。
この掲示板に掲載してるのは有名パーティと近所の活躍したパーティのみです、
なんて話せるわけがなかった。
だって、こんな状況は普通に怖い。
頭に血が上ってまともに会話できなさそうだし、なにをしてくるかわからない。
どうにか普通に済ませたい、普通に生きたい。
そう思っていると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「おや、何の騒ぎかな?これは」
背中に大きな剣を背負っている若い男が俺たちの元へ歩いてきた。
「あァ?なんだテメェは・・・」
蛮族の男は俺の胸ぐらを掴みながら視点をその若い男へ変えた。
「あ、あなたは」
俺はその若い男を知っていた。
その男は、イケメン勇者のイーケン君だった。
ハロー!あーよんです。
前の話とちょっと雰囲気が変わってしまったような気もします。
初のなろう系なので、模索している最中だと思ってもらえれば幸いです。
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