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第3話 無慈悲な番人

 ローラの嫌な予感は、的中してしまった。

 目的のものを手に入れ、大聖堂の玄関を出ようとした二人は、慌てて中に引き返す羽目になった。

 ロボットである。三体のロボットが、大聖堂の前に立ちはだかっていたのだ。そのうちの二体は、左腕にレーザー銃を備え、もう片方の腕はマニピュレーターになっている、先刻戦った奴と同じ型だ。もう一体は、右腕がマニピュレーターではなく、剣になっている。おそらくヒート・ソードだろう。それが、一番手強そうだ。

「標準型と強化型ってところか…。ちっ…さっき倒した奴が、仲間に知らせたのか…」

 忌々しげに、ロードは呟いた。

「どうするの…?」

「さあね。どうしたものか…」

 玄関の陰から外を窺いながら、ロードは考えた。

 かつてこの都市に住んでいた人々が、マストーラ教を熱心に信仰していたとすれば、このロボットたちは大聖堂に向かって銃を撃つことはできないはずだ。だから、この中にいる限り、二人は安全なわけだが、それでは埒があかない。相手は命令に忠実なロボットだ。諦めてどこかへ行ってしまう、ということは絶対にない。

 結局ロードが思いついたのは、ローラをここに残し、自分が単身飛び出してロボットたちを始末するという、単純極まりない策であった。

 一度に三体のロボットを相手に戦うのは、いささか無謀だが、この際仕方がない。ロードがロボットを引きつけておいて、ローラを逃がすという手もあるのだが、この都市に徘徊するロボットがここにいる三体だけとは限らない。一人で逃げたローラが別のロボットに出くわしでもしたら、それこそ一大事である。ローラはロードのパートナー、いや、それ以上に大切な少女だ。絶対に死なせる訳にはいかない。

 ロードはローラに、聖典の入った箱を預けた。そして、ただ一言、

「ここで待ってろ」

と言って、ローラが止める間もなく、大聖堂の玄関を飛び出した。

「ロード!」

 ローラの叫びが合図となったかのように、ロボットたちは攻撃を開始した。

 剣を備えていない、標準型のロボットがレーザーを連射する。ロードは地面を転がりながらそれを避ける。だがロードの進行方向に強化型のロボットが回り込んできた。右腕のヒート・ソードが空を裂いて振り下ろされる。ロードは剣を抜く暇がないと判断し、地を蹴り、地面を滑るようにしてロボットの股をくぐり、背後に回った。そこに、わずかな時間ができる。

 強化型が振り返って剣を振るう時には、ロードはすでに剣を抜いていた。激しく交差する剣と剣。高熱のあまり、ロードの額には汗が滲んだ。

 と、ロードと強化型が切り結んでいるところへ、標準型の一体が急接近してきた。左腕はロードの背中に向けられている。ロードは咄嗟に剣を引き、地面に仰向けに倒れ込んだ。直後に発射されたレーザーは、バランスを崩した強化型の左腕を吹き飛ばした。

 標準型は照準を修正し、再びレーザーを撃つ。それは幸い、ロードの頬を掠めただけだった。ロードは後方に飛び退きながら、ホルスターから熱線銃を抜き、引き金を引くと同時に剣を投げる。標準型は熱線はかわしたものの、剣は避けられなかった。ロードの剣は回転しながらロボットの頭部を切断した。首から火花を散らし、標準型はひび割れたアスファルトにどうと倒れた。

 だが、戦いはこれで終わりではない。左腕を失ったとはいえ、強化型はまだ充分に戦えるし、もう一体の標準型は無傷である。折しもその標準型が、ロードに肉迫しているところだった。

 レーザーの豪雨が、ロードに向かって地面と平行に降る。ロードは死ぬ思いでそれを逃れ、ヒート・ソードを拾うと、近くの建物に駆け込んだ。入口には、コンクリートの柱が重なり合って倒れており、人が一人通れるくらいの隙間しかない。ロボットたちがレーザーやヒート・ソードで入口を広げている間に、ロードは階段を駆け上がって二階に出た。

 ガラスのない窓からわずかに顔を出すと、二体のロボットは、広げた入口から中に入ろうとしているところだった。チャンスとばかりに、ロードは窓から飛び出した。

 三メートル上から急降下したロードは、ロボットが対応するより早く、標準型の左肩を切り落とした。先端にレーザー銃のついた左腕は、地面に落ちると同時に爆発した。

「へへっ」

 ロードは不敵に笑って、後ろに飛び退いた。強化型のロボットが、ロードに向かって剣を振り下ろしたのだ。ロードは軽くステップしてさらに下がろうとする。だがその瞬間、片腕を失った標準型の頭部が反転し、単眼から熱線が発射された。

「おわっ!」

 赤く細い熱線は左脚の太腿を貫通し、ロードは地面に仰向けに倒れた。

「ロード!」

 大聖堂の玄関で、ローラが悲鳴を上げる。

 標準型の右腕と、強化型のヒート・ソードが振り下ろされる。ロードは激痛を堪え、身体を捻ってそれをかわした。

 しかし、それまでだった。苦し紛れに投げつけたヒート・ソードは標準型の熱線を浴びて溶けてしまい、ホルスターから抜いた熱線銃は強化型の剣に弾き飛ばされた。

 これまでか、とロードが思った時、耳慣れた声が近づいてきた。

「逃げて、ロード!」

 見ると、ローラがこちらに向かって駆けていて、熱線銃を連射している。ローラの射撃は人並み程度。当然ロボットたちは軽々と避けるわけだが、時間は稼げた。

 ローラの射撃が続き、ロボットたちの注意はローラに向けられた。二体のロボットは、単眼から真紅の光線を発射する。ローラは地面を転がって、倒れた自動販売機の陰に隠れた。

 良い動きだ、と感心しながら、ロードはブーツの中から短剣を抜いた。これもスイッチを押すと、刃に高熱が宿る。いわゆるヒート・ダガーである。

 自動販売機が穴だらけになる頃、ローラはそこから飛び出し、銃を撃ちながら別の建物の陰に飛び込んだ。ロボットの首がそちらへ向いたその時を狙って、ロードは短剣を投げつけた。それは狙い違わず、標準型の首に突き刺さった。

 ロボットを制御するコンピュータは、ほとんどの場合、頭部にある。だから頭部と胴体とを繋ぐ回線を破壊すると、ロボットは行動不能となる。人間で言えば、大脳からの命令が、運動神経に伝わらないといった状態になるのだ。

 案の定、標準型は糸の切れた操り人形のように地面に崩れ落ちた。すかさずロードは、もう片方のブーツから二本目の短剣を引き抜こうとするが、その手は何も掴まなかった。おそらく今までの戦いの中で、何かの拍子に落としてしまったのだろう。

「やべえ!」

 言ったところで、事態が進展するわけもない。強化型は単眼を輝かせ、まずは目の前のロードから片付けようとヒート・ソードを振り上げた。それをローラが熱線銃で牽制する。ロードに照準を合わせていた強化型は、ローラの射撃を完全にかわすことができず、何発かを胴体に受けた。

 ロボットの意識がローラに向く。身体を反転させ、足裏の車輪を回転させてローラに迫った。

「ローラ!」

 ロードは立ち上がろうとするが、太腿の痛みに膝をついてしまった。ローラは逃げながら応戦するが、ローラの動きを予測したロボットに、命中するはずがない。

「や…やめろ! やめてくれェ!」

 ロードの叫び。視線の先で、ローラは足を絡ませて転倒した。その拍子に、熱線銃が手から離れる。

 万事休す。ロードは恐怖を覚えた。大切なものを失う恐怖を。

 だが、その時。

 一発の銃声が、周囲に轟いた。ロボットの身体が突然のけ反る。ローラは慌ててロボットから離れた。

「伏せろ!」

 人間の声。ローラは咄嗟に身を伏せた。次の瞬間、幾筋ものレーザーが空を走り、ロボットを文字通り蜂の巣にした。腕が吹き飛び、頭部の単眼に穴が開く。足首が破壊され、ロボットはバランスを崩して倒れた。その身体からは、もうもうと黒い煙が上がった。

 それっきり。ロボットは沈黙し、この都市の住民たちと同じところへ旅立った。

「ロード!」

 ローラが、ロードに駆け寄ってきた。太腿の傷を見て、思わず悲鳴を上げる。

「大丈夫、ロード?」

「ああ…大丈夫だ。骨はやられちゃいない。それより…」

 ローラの肩を借りて立ち上がったロードは、ローラを睨みつけた。

「何で出てきたんだ。待ってろって言ったじゃねえか」

 ローラは一瞬怯んだが、すぐに眉を引き締めて言い返した。

「あたしが出て行かなかったら、死んでたのよ、ロードは!」

 それを言われると、返す言葉がない。ローラのおかげで命拾いしたことは事実なのだ。だが。

「お前だって、死んじまうところだったろ。助けが入らなきゃな…」

 ローラは頷いた。

 二人の視線の先には、三つの人影があった。強烈な太陽光線を防ぐためか、フードのついた黄土色のマントを着ている。ローラを救ったのはこの三人らしく、レーザーライフルを手にしていた。また、さらにその百メートルほど後方に、もっと大勢の人がいる。数は、百人前後か。荷物を積んだトラックが何台か見える。旅人なのであろうか。

「こんなところに…?」

「まだ、人間が残っていたのか…」

 血の染み出る左脚を押さえて、ロードは呟いた。

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