ep.7 思わぬ出逢い 喪失からの選択
主人公が誰かわからなくなってきた…
どうして…
どうして…
なにがいけなかった…
私はただ彼女の側にいることを望んだたけだ…
ほかになにも必要ない…
それなのに…
どうして彼女は奪われなければならない?
―――――
薄暗い寂れた遊園地。錆びたメリーゴーランド、コーヒーカップ、観覧車。
そこは都会の喧騒から離れた灰色のセカイ。
そこは呪われた俺自身のセカイ。
この罪は永久に赦されず永遠の牢獄に身も心も囚われたまま……
血塗れのマリオネットが耳元で囁く
―ユルサナイ
あぁ、わかってるよ
―ドウシテ、ウラギッタノ
どうして?ただ愛してたんだ
―ワタシハアイサレタカッタ
心から愛してた。それだけは本当だ
―ナラドウシテ、ワタシヲコロシタ?
君が望むから。いや、殺したかったから
―アナタハクルッテイルワ
知ってるよ。そんなこと。
―ハロルド
なんだ?メアリー
―クルシイ アメガ クサリガクルシイ
そろそろお前を解放してやらないといけないな。
―ネェ、アナタハイマシアワセ?
幸せ?そんなものこのセカイにはないだろ?
―カレハアナタニエイキョウヲアタエタ。ダカラアナタハクルシンデイルノ?
彼?興味がわいただけだ。俺は苦しんでいない。
―ナラ…
ドウシテナイテイルノ?
「うわぁぁぁ!!!」
ガバッと叫び声をあげながら起き上がったハロルドは乱れた息を整えながら辺りを見回した。
「…ここ……は?」
「わたくしの家ですわ。よかった目が覚めましたのね?」
カチャ、と開け放たれた扉からまばゆい光がもれそこから淡い茶髪の女が入ってきた。
「はじめまして。シルク・ドルエと申します。」
優しく微笑みながらシルクは髪と同色の瞳を細めハロルドの近くへ座った。
「どうして俺はここにいる?」
「どしゃ降りの街中で倒れていた所をわたくしの馬車が通ったので拾わせていただきました。特に意味はございません。ただおもしろそうだったので…」
興味本意で拾ったと言うシルクはどこか寂しそうに笑う。それには触れずハロルドは今一番聞きたいことを尋ねた。
「俺の体の傷は?内臓をいくつか潰されたはず…だが…」
ハロルドは謎の男に心臓を含めた臓器を握り潰されたはずだった。即死に近い状態でいくら噂に聞く治癒の加護をもつ癒しの巫女ですらとうてい治せはしないはずだ。
「わたくしは」青の賢者の子孫、シアンの称号を引き継いだ者。【賢者の石】を聞いたことありません?奇跡をおこす石のことを」
「研究者が喉から手が出るほど欲しがる究極物質…そう聞いたが?」
「えぇ。魔術師にはエーテルとも伝えられ、不老不死や手にすればこの世の神にさえなれるという伝説の物質です」
「それをお前が持っていると?」
「はい。しかしまがい物…です。できるのは細胞を活性化させ瀕死状態の人間でも治すことのできるほどの治癒、金の錬成程度。お恥ずかしいながら死者をよみがえらすほどの力もありませんし…。真実の錬金術師の名にはまだまだですわ」
苦笑を浮かべながらも目の前の女がどれほどすごい人物なのか想像もつかない。未完成とはいえ賢者の石を造り出す人間がいるのだ。
歴史上最も尊敬される錬金術師にさえ欠片も成すことができない事象をこの女は軽々とやってのけた。
重要なのは努力したかしていないかではない。成したか成していないか。ただそれだけだ。
「それでも感謝している。お前がいなければ俺は死んでいた」
「お礼を言われるほどではありません…わたくしは特別なことを成した訳ではないんですから」
「いや…。十分すぎるほどだ。なぜ世界国家の研究者にでも発表しない?それほどの技術があれば十分真実の錬金術師の名は手に入るんじゃないのか?」
「可能性としては…。けれど国家に発表するということは技術を提供しなければならない。まがい物とはいえ強大すぎる力は破滅しか呼びはしません。最悪この石を巡り戦争が起こる可能性すら…」
シルクはそこまで言ってうつむいたままスカートを震えた手で握りしめていた。
「そうだな…。治安の悪い今へたな刺激はしないほうがいい。」
ただでさえどこも冷戦状態が続いているのだから…
「それに、わたくしは母から受け継いだこの家で平和に過ごせれば十分ですし」
「……亡くなったのか?ほかに家族は…」
軽い気持ちだった。けれどその言葉で部屋の温度が下がった。
「身内は皆殺されました」
人物紹介 シルク・ドルエ 青の賢者シアンを引き継ぐ 有名な錬金術師の家系に産まれ、独学にて賢者の石を造りだした天才。