ep.6 堕ちる光に、近づく闇に
とうとう私は気づいてはいけない想いに気づいてしまった。
すべてを投げ出してしまいたくなるほどの感情の意味を知ってしまった。
―逃げよう
その一言ですべては変わる。
その一言を言わなければ彼女は……
選択肢はふたつ。逃亡か後悔か
私は当然……
彼女を連れて逃げた。
ひとまず目指す場は青の都ブルーガーデンへ
――――流浪の猫クロエ
ハロルドとミルエが出逢って3回目の日の出に彼らはとある街へついた。
青の都―ブルーガーデン―
そこは水と緑に囲まれた自然豊かな街。基本的に涼しい気温を保たれるこの街は対した災害もなく聖なる水の守護の元になりたっている。
石で整備された道はまだ珍しいがこの街は青の賢者の技術により他よりもいくばくか進んだ技術をもつことで有名だ。
そして世界国家直属の治安維持機関―銀色の翼―の本部があるため街の治安は比較的安全だった。
「ハロルド!!人がたくさんだ!!」
「そりゃあ、な。」
はしゃぐミルエにあきれながらもハロルドは笑っていた。
「そんなことより絶対に正体ばらすなよ?」
そう言うハロルドは赤のパーカーにジーパンというラフな格好に着替えていた。
一方ミルエの方は白髪をばれないようにと黒のかつらを被せ白のニット帽に白のワンピースという女の子らしい格好に着替えさせられた。
ミルエが男だとここに来るまでの道のりで知ったハロルドはショックを受けながらも容赦をしなくなっていた。
女装ということにミルエは腹をたてると思いきや街の珍しさにどうでも良くなっている。
「ハロルドハロルド!!あれなに?美味しいの?」
そう言ってハロルドの腕を引っ張り指差したのは飴細工だった。
「あぁあれは飴で作ってるんだ。砂糖の塊みたいなもん。どれがいい?」
簡単には答えながらハロルドは銅貨を数枚とりだし店主に渡してミルエに選ぶよう促す。
はじめは驚いた様子だったが、すぐに花のような笑顔で選びだした。
「ありがとう!!ハロルド!!」
よほどうれしいのか満面の笑みを浮かべ水色の蛙という何とも言えない飴を選んで跳び跳ねている。
「わかったから落ち着け。あぶな…」
言葉を途中で区切り、肌をかけあがる冷気にもにた気味の悪い感覚に、あたりを見回した。
「ん?なんか変」
ようやくミルエも違和感に気づいたようで首をかしげていた。
「誰だ?」
影から剣を造りだしどこからの攻撃にも対応できるよう体勢を整えた。
静寂に包まれた空間二人の息をする音だけが聞こえる。
しかしふいにミルエの影が揺らめきそこから何かが姿を表した。
「!!!!ハロ…!!」
ハロルド、と名前を呼ぶまもなくミルエは影からでてきた人物(?)に口を布でおさえられ気を失った。
「神の娘の力は世界狂気のひとつ、とは言え唄えなければ力は発揮できない。力を使われると厄介なので眠らせて差し上げましたよ」
笑顔を貼りつけている男は口元を上げながらも深海のような青の瞳は一切笑っていない。ハロルドは純粋な青だがこの男は濁った青だ。
「そのなり、銀色の翼か?なにが望みだ?」
黒を基調とした軍服に階級を表した銀のプレート。有名なデザイナーがデザインしたとかでこの服のために軍隊に希望するものは多いという。実質そのデザイン変更後入隊希望者は10倍以上になった。
「殺気くらい隠したらどうですか?怖いなぁ」
男はクスクスと笑いながら水色の髪をかきあげ一歩後ろへ下がる
「君の大事なお姫様はいただきますよ。あぁ今回は男の子でしたね。まぁいい、君にこの子の価値は理解できない。君はこの子の狂気を理解していない。だから、さよなら」
ほんの一瞬だった。
口に広がる鉄の味、体が鉛のように重たくなって地面に倒れこんだ。
「……っ…やめ…ろ!!!」
叫んだつもりなのに口からこぼれるのは荒い息だけで、その男はニヤリと微笑んだまま姿を消した。