ep.5 君がいるから僕は笑う
私はどうしてしまったのか…。
リゼッタの悲しげな表情を見るだけで苦しいと感じる…
彼女の存在が日に日に大きくなっていく。
どうすればいい?
私は流浪の猫
捕われてはいけない
私は太陽の使者。
誰も愛してはいけない
私は歴史を記すためにある。
感情をもつために生まれてきたのではない。
どうすればいい?
どうすれば……
――――流浪の猫クロエ
「………本当にいいの?」
答えを知りながら僕は問いかける。
樹の根に足をとられないようハロルドに手を引っ張ってもらいながら、疑問をぶつけた。
「何を今さら」
そう言いながら笑うハロルドに心のどこかで安心していた。
それでも不安はぬぐえない。
「神の娘を天に捧げないと言うことは神への冒涜であり反逆
満月を過ぎた次の新月にセカイは闇に呑まれていく。
ゆっくりと…でも確実に。
そしてきっと誰もが僕らを責め立てる
石を投げつけ悪意をぶつけ、それでも楽に死ぬことは赦されず生きたまま火炙りにされる。知らない訳じゃないんでしょ?」
神に対する最大の裏切り。
味方になる愚か者などいないだろう。
逃げ切れるとは思ってないけど、それならやっぱり誰も巻き込みたくないのが本音だった。
「このセカイに未練はないしな。目の前で死なれても迷惑なだけだ。
地の果てまでも逃げてやろうじゃねえか。」
言葉で言うのはなんとでも言える。その言葉を実行にうつすのがどれだけ困難なことか知らない訳ではない。
だからこそ嬉しくて失いたくない。
「君は変だね。すっごく変だ」
「せっかく良いこと言ったのにな。」
笑いあえることがこんなにも楽しいことだと知らなかった。
「……ありがとう」
小さく小さく呟いた言葉は君に届いただろうか?
「なんか言ったか?」
そう言いながらも頬を赤く染める君に僕も苦笑を返した。
「ううん。なんでもない!!」
助けてくれてありがとう。
君がいるから僕は笑えるんだ。
喪失を恐れている愚かな僕は絶望の鐘を聞き逃していた。
セカイが終わるのが先が僕が死ぬのが先か。
それは神様にさえわからない。
願わくば新たな希望の選択を…