4-11 本気を見せて
俺たちのプランはこうだ。
とりあえず、ミアさんが乃愛をこの家から引き離そうとしている理由を学業に影響しないようにだと予想した。
つまり、この定期テストで好成績を出せば認めてもらえるだろうと考えた。
ここまで4科目が終わり残すはこの数学だけ。俺は既に解き終えて問題の見直しをしている。解いた感じだと、そこまで難しくはなさそうだ。これなら大丈夫だと思う。
先日、ミアさんにテストの成績しだいでどうにかならないか相談した結果すんなりOKをもらえた。
「ふぁぁーっ、やっと終わったー」
「どーせ、みかんのことだ。今回も結構、点数取れてんだろ?」
「まぁ、ほとんど解けてるつもりだよ」
「乃愛は……大丈夫そうだな」
テストを終えた乃愛は既に机に突っ伏して寝ている。さすがに諦めて寝ているという訳では無いだろう。
後日、テストの結果が帰ってきた。さりげなく俺も頑張っていたつもりだったのだが、みかんには勝てず3位。順位もひとつ落としていた。
みかんも順位をひとつ落として2位。
1位はもちろん乃愛である。
「さて、約束通りこれでここにいてもいいでしょ?」
自分の母親にテストの結果を突き付ける乃愛。
「これではダメね」
「えっ?」
「あら、彼から聞いてないの?」
「ちょっと裕太、どういうこと?」
「ごめん、一つだけ隠し事をしてた」
「私がテストの点数にボーダーを設けたのよ」
ボーダー?と聞き返す乃愛に俺が変わって説明する。
「とりあえず、これを開けてみてくれ」
ひとつの封筒を渡して中を確認させる。これはミアさんとの交渉中にミアさんから受け取ったものだ。
中に書かれている内容は
・全ての科目が満点・・・乃愛の自由にする
・95点以上・・・天野家からは出ていく。その後は乃愛の自由
・それ以下の場合はミアさん指定の場所へ移ってもらう。
という趣旨のもの、乃愛の点数はどの教科も満点ではなく、この内容だと95点以上の内容に該当する。
「ミアさんがこのようなことを言う理由がわかった以上、これをお前に言う訳にはいかなかった」
「理由って?」
「お前はミアさんが過保護だって言ったよな?」
「うん。だから勉強のことを心配して一人暮らしをしろってことよね?」
「そもそも、お前がこの家に来た理由を覚えてるか?」
「あ……」
そう、元々はミアさんが俺の母さんにお願いしてここにホームステイさせていたのだ。それを途中から、しかも半年程度で辞めさせるのもおかしい。
「ミアさんに聞きます。ミアさんは乃愛のことを理想の娘にしようとしてますよね?」
「どういうことかしら?」
「乃愛から聞きましたよ、料理を手伝おうとしたのを危ないから止めたって」
「ええ、そうね」
「だとしたら、今の乃愛はなぜ料理ができるんです?」
「あ、そういえば気づいたらできるようになってたかも?」
ここからはあくまでも推論であり確証がある訳では無いがご了承頂こう。
まず、料理を止めた理由から。子どもの頃から料理を教えると高確率で涼葉のような家庭的な人になる。そして自分から料理を研究し始めて他を疎かにするパターンだろう。実際、涼葉がそのパターンだ。
次に、帰り道の送り迎え。乃愛が寄り道をして他のことに興味を持たないようにさせていたのだろう。俺たちとの遊びは運動神経を養うため。
つまり、ミアさんは乃愛を弱点のない人間に育てようとしてのだろう。
まさか、乃愛の歌が下手だなんて思ってもいないだろうな。
「裕太くん、あなたすごいのね」
「そんなことないですよ」
「って、裕太が中立した理由になってないじゃん」
「ミアさん、この点数のボーダー設定にはまだ意図がありますよね?」
「……」
聞かせてくれという合図なのだろうかミアさんは何も言わずに俺の言葉を待っている。
「ミアさんが、乃愛の将来性を考えているなら満点でも95点でも差はないはずです。見たかったんですよね?乃愛の本気を。俺も乃愛の本気が見たかった」
「私は別に手を抜いてなんか……」
「わかってる」
「もう知らないっ」
「あ、ちょっ」
乃愛は家から飛び出して行ってしまった。外は大雨、傘もささずに駆けて行った。
「追いかけなくていいのかしら?」
「追いかけますよ。そのまえにひとつお願いしてもいいですか?」




