1-8 第一回 恋の作戦会議
結局、あのあと、伊須が尾栗の面倒を見るということで俺と宇佐美は帰宅した。
土曜日、学校の近くのファミレスに俺達3人は集合した。作戦会議の前に伊須が「そういえば、聞きたいことがあるって言ってなかった?」と言うので、俺は尾栗と過去に会った記憶がないことと、兄弟は妹しか居ないことを伝え、「どう思う?」と尋ねた。
「まあ、無理ないね。夏音は高校に入る前にイメチェンしてるし」
「イメチェン?つまり俺は過去に尾栗さんと1度会ってるけど別人だと認識してるってことか?」
「多分ね。3ヶ月くらい前だったかなぁ、公園のブランコで泣いてた子のこと覚えてない?」
「あぁ、それなら覚えてるよ。まさかその子が?」
「そのまさかだね」
伊須は、そのときのチャットの相手が自分だったことや、尾栗とは小学生の時からの友達であることなどを楽しそうに語りだした。俺はともかく、過去の出来事を知らない宇佐美は話についていけず、俺の隣でウトウトしていた。既に何度か頭をコクッとさせている。
話を聞くところによると、駅まで送ったあと、彼女はチャットの相手(伊須)に返事をしていて、後日、伊須が尾栗と会ったときには吹っ切れていたようなので、その日のことは深く聞かずにいたらしい。
さらに、伊須が合格した学校は伊須の本命の学校というわけではなかったらしく、あくまでも尾栗と一緒の高校に行くことが目的だったらしく、尾栗でも受かれそうな、うちの学校を受けたとのこと。
イメチェンをしたのは、尾栗さん曰く、今度こそ受かるぞと、気合いをいれたかららしい。伊須は「いやー、急に髪を切ったときは失恋でもしたかと思ったよー」なんて、笑いながら話していた。
確かに、俺が以前会った尾栗は、黒く長い髪を三つ編みにして、メガネをかけていた。マフラーをしていて顔はよく見えたかったが、髪型だけでも今の彼女とは大きく違う。今の彼女はメガネをかけておらず、向かって右側の髪を伸ばしたアシンメトリーのショートヘアーだ。
以前のは、なんとなく地味な印象で、勝手なイメージだが、白衣を来て理科室で実験してそうな感じ。
一方、今の彼女は、真逆。どちらかというと、可愛い方だとは思う。美人系ではなくかわいい系だ。
そこで、今まで一言も話していなかった宇佐美が口を開いた。
「俺らが初めて会ったとき尾栗さんなんか伊須さんの後ろに隠れてたけど、前からあんな感じだったの?」
「あ、それ俺も気になるな、前に公園で会ったときは隠れるほど人見知り感はなかったぞ?すぐに打ち解けたし」
「確かに夏音は、ちょっと人見知りで初対面の人と話すのは苦手って言ってるけどさすがに隠れるほどじゃないよ。確かにあのときはあたしもどーしたかと思ったけど、今思えば好きな人を目の前にしてドキドキしてた的な?」
なるほど、それなら納得がいく。だが、まだ問題があってだな。俺は「どうしたものか」とため息混じりに言った。
「と、言いますと?」
「尾栗さんのことだよ。これからどうすれば……」
「付き合っちゃえばよくない?なんなら、あまのんから告っちゃうー?」
ニヤニヤした顔で伊須は付き合えばと催促してくる。とある事情から付き合うこと事態に問題があるのだが、その前に一つ……
「えーと、伊須さん?あまのんってなんですか?」
「何って、天野だからあまのん」
出会って二日目にしては馴れ馴れしすぎるということは彼女のコミュニケーション能力が高い証拠であり、別に悪いことではないので目を瞑って、「恥ずかしいからやめてくれ」と止めるように言うと、
「じゃあ、天野っち」
……変わんねぇよ、俺はたま○っちか!!と言おうと思ったがキリがなさそうなので、
「し、親しくしたいなら普通に名前で呼んでくれ。俺も,,,,,,みかんって呼ぶから」
俺の方から名前で呼ばれると思ってなかったみかんは「ぇッ!ぁ、ぅん。わかった裕太君」と少しあたふたしながら答えた。
「あのぉ、俺のこと忘れてない?」
俺とみかんは「「あ……」」と声を揃えた。すまん宇佐美、忘れてた。