1-6かくれんぼ決着
「あのね、みかんちゃん。さっきの話なんだけどね,,,」
「ん?あぁ、以前お世話になった好きな人の話?」
(は?尾栗に好きな人だと?)
俺は、聞いてはいけないと思いながらも、跳び箱の中から耳を済ませてしまう。
「そう。その事なんだけどね。,,,あの、そ、その人ここの学校の生徒だったの」
「え?マジで?だれだれ?」
興味を持ったのか伊須は、探すのそっちのけで、食いぎみに尾栗に迫った。押しに弱いのか顔を真っ赤にさせながらも尾栗は口を動かした。
「えっと……その、あ、天野くん……」
え?今なんて?天野くんって俺?それとも別人?
衝撃のカミングアウトに動揺していると、伊須も同じことを思ったのか、尾栗に尋ねる。
「あ、天野君って同じクラスの?あたしが今探してるあの天野君?」
尾栗はさらに顔を赤くして、コクりと小さく頷いた。
俺じゃん、な、なんで?以前お世話になったって、俺と尾栗は今日初めて会ったはずじゃ……
「え、でもその人って名乗らなかったんでしょ?ひ、人違いってことはないの?ホラ、似てる顔の人なんて結構身近にいるし……」
「天野くん、私が前に会ったあの人と同じ手作りの御守りを鞄につけてた。も、もしかしたらお兄さんとかかも知れないけど」
あ、俺確定だわ。俺に男兄弟はいない。妹ならいるけど。
しかし、あの御守りってたしか合格祈願にって妹が作ってくれたやつだったよな。今つけてるのは、そのときにつけてたやつと見た目は同じだが、妹によると学業の御守りなんだとか。
合格祈願の御守りをつけていたのは中学3年生の2学期からなのでそんなに前のことではないはずなのだが、全く記憶にない。
ガコンッッ――
衝撃のあまり、跳び箱のなかにいることを忘れていた俺は、立ち上がろうとして跳び箱の中で頭を打ってしまった。当たり前だが、音に反応して伊須と尾栗は揃ってこちらに目を向けている。
「今、なんか音しなかった?」
そう言いながらこちらへ向かってきた伊須は跳び箱へ手を伸ばす。
「宇佐美君見っけー。これであと1人ー」
あー、終わったわ―――
ん?宇佐美君?もうダメだと思って目を瞑っていた俺が目を開けると跳び箱の1段目はまだ持ち上げられて居なかった。
「い、いやぁー見つかっちゃったわー」
当然、宇佐美も2人の話を聞いていたのだろう。気まずそうに口を開く。
っていうか、宇佐美も跳び箱の中に隠れてたんかい。
もちろん跳び箱はひとつではない。俺は1度体育館へよっているので、先に宇佐美が跳び箱の中に隠れていたようだ。
「えっとー、今の話聞いちゃってた?」
「……」
「だッ、だよねー」
跳び箱の段の隙間からの視界は狭く、宇佐美がどのようなリアクションをしているのかはわからんが、言葉なくして会話が成立してるので、伊須の質問に頷いたのだろうか。俺の視界で伊須が「あちゃー」と頭を抱えている。
一方、尾栗はというと、2人のやり取りを倉庫の外から真っ赤な顔を覗かせ、見ていた。というか半分魂が抜けたかのように固まっていた。
「ちょっ、かのーんしっかりーーーー」
慌てて伊須が尾栗に駆け寄り、肩を強めに揺らしていたが、本当に魂が抜けているのか尾栗に反応はなかった。
「宇佐美君っ、夏音を保健室まで連れてってくれる?」
「え?俺が?」
「あたしじゃ意識のない夏音を背負って行けないから。それに、宇佐美君も天野君の居場所知ってるんじゃないの?すぐに私も合流するから。この勝負あたしが勝ってみんなにお願いしたいことがある!」
「お、おう。わかった」
尾栗はそんなに太っていない、というかどちらかと言うとほっそりしていると思うが、同様にほっそりした体型の伊須には彼女を背負うのは無理なのだろう。彼女のことを宇佐美に任せ、2人が倉庫から離れたのを見届けると、俺の隠れていた跳び箱の1段目を持ち上げ――――
「ほら、あたし達も保健室行くよ」
まるで最初からわかってましたと言わんばかりにスッと跳び箱の中にいる俺を見つけた伊須は俺を保健室へ連れていこうとする。
「ッッ!どうして……」
「どうしてって、夏音が心配だから?」
「い、いやそっちではなく、どうして俺がここにいるってわかったんだよ」
残り時間2分、勝者、伊須みかん。