1-21 迷子
宇佐美が、うざったく泣きついて来る。店中探して無かったと言っているがそれもそのはず。
「分かったから離れろって、ほら、これ買ってくれば良いだろ?これ最後の1つだったから」
「ぅう、ありがとう裕太。さっきはごめんよ」
「お前、そんなにこの帽子気に入ったのか?」
「いや、宇佐美が教えてくれないから見つけ出してギャフンと言わせようとしたんだけど見つからなかったからなんか悔しくて欲しくなった」
何その理由。
そんなこと全く思ってませんよ?はい、思ってない。思ってない。
宇佐美が帽子を持ってレジへ向かっていると、再びみかんがやって来た。
「みかん、今度はなんだ?」
「ねぇ、夏音知らない?」
「夏音ならさっきお前達のいる店に戻っていったぞ?」
「え?嘘っ。戻ってこないから心配して来てみたんだけど……」
みかんの顔色が暗くなる。大変なことになった。夏音が迷子だ。でも大丈夫、まずは落ち着いて
「とりあえず、電話してみるか」
そう言いながら、夏音に電話をかける。
……出ない。あれ?もしかして本格的にまずい?
「どうしよう」
「とりあえずあたしは姫香と、夏音のこと探してみる。裕太君は先生に連絡お願い。あたしのスマホは夏音が持ってるままだし、姫香のは写真撮りまくっててバッテリー切れちゃったみたいだから」
「分かった、俺達もすぐ探しに行く」
俺が先生に連絡しようとしたときにはみかんは走って行ってしまった。 先生に事情を話すと「こちらでも探してみる」と言われたので連絡を待ちつつ探すことしか出来なさそうだ。
「裕太ー、どうよこの帽子似合ってるだろ?」
事情を知らない宇佐美がのんきにレジから帰ってきた。
「宇佐美!それどころじゃない。夏音が迷子だ」
と、ここで俺のスマホに着信が届いた。なんだよこんなときに。
「もしもし?」
『あ、裕太君?ごめん心配かけて、今、駅にいる』
「夏音か?どこに居たんだよ心配したぞ?」
『実は、あのあとお店に戻る途中で迷子の子を見つけて、放っておけなかったから駅まで送ってあげたんだけど、よく考えればみんなに声かけてからにするべきだったね』
「そうか、まあ無事ならいい。今は1人か?」
『ううん、私を探しに来てくれた姫香ちゃんと一緒だよ。でも、みかんちゃんのスマホ私が持ってて連絡つかないんだけど大丈夫かな?』
「分かった。とりあえず、すぐ駅に行くからそこで合流しよう」
「夏音ちゃん見つかったのか?」
「宇佐美、今度はみかんだ。あいつ今スマホ持ってないから夏音が見つかったのに気づいてない。俺は1度駅で夏音達と合流するから、お前はみかんを頼む」
そう言い残した俺は急いで駅まで走った。
駅に到着すると、俺に気づいた夏音がこちらに手を振った。
「みかんはまだ戻ってきてないか?一応、今、宇佐美が探しに行ってるんだが」
「うん、まだ戻ってきてない」
「すみません。途中まで一緒にいたのですが、走り疲れた私に、『姫香は休んでて、私が見つけてくるから』と言って、走って行ってしまって」
自分が悪いと反省しているのか、2人の顔色が一気に暗くなる。
「大丈夫だ、2人は悪くない。きっとすぐ見つかる」
俺の言葉に少しは明るさを取り戻した2人だが、まだ少し心配な状態だ。とりあえず、ここまでのことを先生に報告しないと。
「俺、先生に報告してくるから待っててくれ」
先生に報告し終えた俺は2人のところへ戻ると、再び2人の顔色が悪くなっていた。夏音に関しては泣き出しそうである。
「私のせいだ、私が勝手に行動しなければ」
「いえ、連絡の取れないみかんさんを1人にした私も悪かったです」
これは、俺も急いで探しに行かないと。
そう思った俺が、みかんを探しに行こうとすると、目の前には宇佐美が、その背中には目を閉じたみかんがいた。