1-20 お揃いのアクセサリー
ゴールデンウィーク明け、俺達は校外学習で鎌倉に来ている。
「ぅんー、鎌倉到着ー」
大きく伸びをしたみかんは相変わらずテンション高めだ。
「そういえば、結局まだ行き先を聞いていませんでしたね。どこへ行くんですか?」
休んでいたので行き先を知らない織田さんに、今日のスケジュールを伝えた。
結局、あれから特に気になることはないんだよな。やっぱり織田さんが許嫁というのは考えすぎなのだろうか。
校外学習ではみんなで大仏と同じポーズで写真を撮ったり、みかんと一緒に恋みくじを引いた夏音が赤くなったりといろいろあったが、そこは割愛。まあ、一言で言えば楽しかった。織田さんも、俺と宇佐美には少しだけ男女の壁というやつを感じなくもないが、みかんと夏音とはかなり仲良く接していると思う。『さん』付けではあるが下の名前で呼ぶほどには。
俺達は一通り予定にあった場所を回り終え、時間が余ったのでお土産屋さんが並ぶ通りに立ち寄った。
女子達がアクセサリーショップに夢中になっているのを遠目に眺めていた俺は、同じく離れたところにいた宇佐美に、
「なぁ、裕太。俺、織田さんにアタックしてみてもいいかな?」
なんて、恋愛相談を受けた。いや、どうしたらいいか聞くならまだしも、何故アタックしていいか許可をとる。しかも俺に。聞き返した俺に宇佐美は答える。
「いやぁ、織田さんが仮にお前の許嫁だったら許可の1つくらいは必要かなと」
「はいはい。どうぞアタックしてくださいな。それに織田さんが俺の許嫁ならお前は100%フラれるから安心しとけ」
「それ、安心できないんだが?」
宇佐美のツッコミを華麗にスルーした俺は女子達のいる店の向かい側の店を親指で指す。
「なんか、女子達の買い物長そうだしこっち見てかないか?」
「実は俺も同じこと思ってた」
俺達の入った店は、ご当地マスコットのキーホルダーやご当地限定のハンカチなどを扱うお店でなかなかの品揃え。
「なぁ、裕太。このボールペンどうかな?」
そう言って、渡されたのはパッと見、普通のボールペン。
「どうって、普通のボールペンじゃ、―――っ痛ったあーーー」
「おっ、ナイスリアクション」
ビリビリボールペンじゃねぇか。しかし、初めてだが意外と痛いなこれ。
「何すんだよ」
「まぁまぁ、ごめんって。それよりその野球帽なかなかいいな。どこにあったんだ?」
「こんなことする奴には教えてやらんよ。ほれっ」
ボールペンを押し返された宇佐美は「ごめん」と何度も謝ってるがしばらく放っておこう。
そんなことをしていると、向かい側の店からみかんがやって来て2台のスマホの画面を見せてきた。1つは自分のでもう1つは夏音のかな?
「ねぇ、裕太君。この2つならどっちが似合うと思う?」
スマホの画面に映ったアクセサリーは片方が蜜柑を型どった髪飾り、もう1つは星型のものだった。
「お前はみかんだ。蜜柑型の方に決まってるだろ」
「え?そんな理由?」
ちょっと戸惑い気味のみかんだが、俺は思ったことを言うまでだ。
「そんな理由だな」
「分かった。ありがと。あー、それと、すぐに夏音が同じ感じで質問に来ると思うからそのときはちゃんと答えてあげなさいよ?」
「はいはい」
「あ、その帽子も似合ってるよー」
そういいながら夏音たちのいる店の方へ行ってしまった。
みかんが来たのは、夏音が迷っているところにみかんが『裕太君に聞いてきたら?』とかなんとか言って、夏音が恥ずかしがったから、みかんがデモンストレーション的な感じで来たというところだろうか。
おっと、噂をすれば夏音さんがやって来ましたよ。
「あのね、裕太君。どっちが良いと思うかな?」
見せてきたスマホには、さっきみかんが見せてきた星型の髪飾りの色ちがいの物と、同じく星が装飾された赤いヘアピン。
「さっきみかんがその星型の髪飾りと同じものを見せてきて、そのときは、そっちじゃない方を勧めたんだが、2人ともそれが気になってるんならお揃いにしたらどうだ?」
「そ、そうだね。みかんちゃんにもそう言ってみる」
「じゃ、買い物が終わったら声かけてくれ、俺達はここにいるから」
戻っていく夏音の後ろ姿を見届けた俺がふと振り返ると、
「裕太ぁ、その帽子店中探したけどなかった」
宇佐美が泣きそうな顔でしがみついてきた。そんなに欲しいのかこの帽子。