1-15 みかんはマジシャン?!
昼休みが終わり、学校案内で図書室などの施設を案内された後、再び教室へ戻ってきた俺達はくじ引きで席替えをすることになった。
「はーい、じゃあ席替えやろっか」
と、言いながらみかんが取り出したのは円柱状の箱で上面の端に穴が開いている。これはもしや……
「くじはこれ、おみくじっぽくしてみましたー」
かなり、手の凝ったくじを用意したんだな。
「えーと、いつも前からだから、番号後ろの人から前に来てくじ引いてってねー」
と、クラスメイトにくじを引くように促すと、教卓の前に列ができた。
次々と皆がくじを引いていき……
「それじゃあ、最後の列。あ、織田さん休みだから代わりに私が引いちゃうね」
織田さんと聞いて俺は許嫁の偽名も織田であったことを思い出した。郁李って名前だけに気をとられて名字はノーマークだったな……まさかこの人じゃないだろうな。
織田さんの名前は郁李ではなく姫香。俺達の列の最後尾の席の人で入学式の日に続き、今日も席を外している。俺は見ていないが、みかんが保健室に行くところを目撃しているので、入学式の日は来ていたようだ。
みかんが織田さんのくじを引き終え、その後は、夏音、宇佐美の順でくじを引き、最後にみかんが引いたあと、残った席が俺に割り振られた。
席の移動を終えたあと、先生からの連絡が終わりあっという間に放課後、やっぱり授業がないと1日が早く感じる。
放課後になると、クラスメイトは部活動に入部しに行く人、部活を見学しに行く人、帰る人、と各々目的の場所へ向かうなか、俺とみかんは委員の仕事を頼まれたので居残り。
宇佐美と夏音にも「先に帰ってて」と伝えたので教室には、仕事を終えた俺とみかんの2人きりだ。
「で?説明してもらおうか?」
「説明って?」
とぼけても無駄だ。この状況はどう考えてもおかしい。
俺の席は窓側から3列目の後ろから2番目、同列最後尾がみかん、その右隣に宇佐美、そして俺の右隣に夏音という状態。どう考えても仕組まれてる。
「お前、席替えのくじ仕組んだだろ?あとでわかるって言ってたのはこれのことか?」
「あ、バレてましたか。アハハハハ」
アハハハハ、じゃないだろ。バレたのが俺だったから良かったが他のやつだったらどうなっていたことか。
「でも、タネはわからないでしょ?これなら他の人からとやかく言われる心配はないよ」
確かに、悔しいがタネはわからない。俺を委員に指名したのがこれのためなら俺以外が最後にくじを引いたら成立しないのだろうか,,,,,,
「はい、これが今日使ったおみくじ。とりあえず振ってみて」
そう言いながら、みかんは例のおみくじを俺の前に出してきた。
言われた通りに箱を逆さにして中身を出そうと振ってみるが、出てこない。というか、カランと中で棒が動いている音がしない。つまり空だ。
「空じゃないか」
俺は空のおみくじをみかんに返す。
「そう思うでしょ?」
そう言いながら、みかんはおみくじの箱の蓋を開ける。中を見てみるとそれぞれ14、15、19、20とかかれた棒が1本ずつ中に入っていた。これは俺達4人の引いたくじと同じだが、だからなんなんだ?全くタネがわからない。
「ダメだ。わからない。どうなってるんだ?」
「実はこの箱、宴会用の手品用品で電磁石が入ってるんだよ」
「電磁石?」
「つまり、あらかじめ磁石にくっつく棒にあたし達の引きたいくじの番号を書いて他のくじと一緒に入れる。そのあとあたし達が最後にくじを引けるように後ろの番号の人から引いてもらって、夏音の順番になったら電磁石の電源を切る。そうすると箱の側面にくっついてた棒が剥がれて出てくるってわけ」
「なるほどな。でも、それで俺達4人の場所は固定できるが、配置までは無理だろ?俺と夏音が隣になったのは偶然か?」
「実は、迅君にだけ種明かししててね夏音の隣の番号引いても違う番号言うようにしてもらった。まあ、あたしも迅君も夏音の隣の席は引かなかったから実質偶然みたいなもんだよ」
「な、ならこれはどうなんだ?磁石につかないくじを引く最後の方の人、具体的には出席番号5~8番くらいの人には中身の手応えが無いんじゃないか?」
「それも心配御無用、ちゃんと中でカラカラ音がするように穴の直径よりも大きいサイズのダミーのくじ入れてたから。いやー、しかし朝は家にこれ忘れて焦ったよー」
まるで手品師だな。そして、忘れ物ってこれかよ,,,
「ってわけでこれからご近所よろしくぅ、それじゃあさよなら」
笑いながら、みかんは教室から立ち去っていった。