1-14 お弁当
月曜日、まだ入学してから3日しか経っていないがずいぶん長かったように感じる。昨日みかんから、『名前呼びの件に関しては上手くいったから安心して』とのことで『了解』と返事をしておいた。
「ゆ、裕太君、おはよう」
「ん?あぁ、夏音か、おはよう」
俺の席まで挨拶しに来た夏音は、俺のことを、確かに名前で呼んでいたので俺も返事をしておく。
「みかんは一緒じゃないのか?」
夏音とは幼馴染みらしいので当然家も近く、一緒に来ると思っていたのだが
「みかんちゃんなら、いつもは最寄り駅で待ち合わせしてるんだけど、『忘れ物したから先行ってて』って連絡が来たから先に来たの」
あいつ、見かけによらず以外としっかり者だと思ってたが、気のせいだったか。
しばらくして、チャイムと同時にみかんが教室に駆け込んできた。すぐに担任が来て、HRが始まり、今日の日程が伝えられる。
今日は、まだ授業がなく、役員決めや、学校案内、席替えなどを行うようだ。
1限目、先生が黒板に係の名前をずらーっと書き、学級委員を男女で1名ずつ募ってきた。案の定、誰もやりたがらないのか、だんまりした空気の中、「はいはい。あたしやるっ」と、俺の後ろでみかんが言い出した。教室の中は謎の拍手で賑やかになり、先生が「えーと、じゃあ男子の方はー」と言い出したところで再び静かになる。
静かになったところで、みかんが俺の席の脇まで来て、肩に手を置くやいなや
「じゃあ裕太君が男子の委員ってことで」
はぁ?と俺は目を見開き、「どういうことだ?」と小さな声でみかんに聞くと、小さな紙切れを渡してきた。
『本当は夏音と裕太君をくっつけるつもりだったけど夏音が無理無理って言うから私が代わった』
ふざけんな、それじゃあ俺が委員になる意味ないじゃん。
しかし、既に教室の中は再び謎の拍手で賑やかになった。こうなると逃げられない。しょうがないか。
夏音、それでいいのか?とチラッと夏音の方を見ると夏音も拍手している。
その後は、みかんが円滑に役員決めの進行を進めてくれたので、先生からの連絡を終えても、少し時間があまり、席替えの話になった。
「じゃあ、席替えはくじ引きで、くじは放課後までにあたしたちで作っておくからHRのときにちゃちゃっとやる感じでいいよねぇ?」
クラスのみんなも異論はないらしく即決。これ、俺要らなくね?
ちょうどいいタイミングでチャイムが鳴り、昼休みになったので俺はみかんを問い詰めるために食堂へ呼び出そうと声をかけた。
「ちょっと話がある。昼は一緒に食堂でいいか?」
「おっけー。夏音と迅君も一緒でいいよね?」
若干、夏音がいるのは向こう側にとって都合の悪そうな話なので、良くはないが、ここで2人きりになる方が不味そうなので、「あぁ」と返した。
食堂で各々メニューを受け取り、席につく。俺と夏音はお弁当だ。
「裕太君もお弁当なんだね」
「あぁ、涼葉が毎日作ってくれてる」
「涼葉って裕太君の妹さん?」
「あぁ、夏音のは自分で作ってるのか?」
「うん、そうだよ。よかったら一口食べる?」
と、唐揚げを俺の口元に近づけてきたので、遠慮なくいただいておく。
「お、旨い。夏音って料理上手なんだな」
唐揚げはサクッとしていて冷めてはいるが、まるで揚げたてのような食感だった。
「よかったら、俺のも一口食べるか?っていっても涼葉の作ったやつだけど」
「いいの?」
「あぁ、さっきのお返しってことで」
さっき夏音がやって来たように俺も、エビフライを夏音の口元に近づけた。
「うん、おいしい。妹さん料理上手なんだね」
確かに、涼葉の作ったものは何でも旨い。夏音にもこの美味しさがわかってもらえて何よりだ。
「お二人さん」「お熱いですなー」
俺の向かい側に座っている宇佐美とみかんがニヤニヤとからかってきた。俺の隣で夏音が真っ赤になって「ちょ、ちょっと2人ともー」とあわあわしている。
今思えば、さっきのは間接なんとやらってやつだったのだろうか。俺も少し顔が赤くなっている気がする。
食事が終わり、帰り際にみかんになぜ俺を委員に指名したかを聞いたが「あとでわかるよー」と誤魔化されてしまった。