1-1 高校生デビュー
俺は天野裕太。今日から高校生デビューだ。入学式を終え、教室に戻ると、担任の先生の話が始まる。
昔からこういった先生の話は苦手だ。どの先生も軽く自己紹介を終えると自分の過去の経験談を語り始める。だが、今回はそうではなかった。名乗り終えた先生がまず最初にこういった。
「えー、今日はこのあと順番に自己紹介をしてもらう。そのあとはグループに別れて自由にレクリエーションだ。急に言われても困るだろうから一応ここにトランプなどは用意してある。校庭で遊んでも構わないから、グループ内で親睦を深めるように。それじゃあ、1番から順番に自己紹介を始めてくれ」
「あ、はい。天野裕太です。よろしくお願いします」
出席番号1番の俺は、先生の短すぎる話に戸惑いながらも、言われた通りに自己紹介をした。
この学校の出席番号は、あいうえお順なので『天野裕太』なら大抵1、2番になるだろう。
しかし、この学校が変わっているのか俺の常識が間違っているのか、入学式直後にグループでレクリエーションですか……
ちなみにグループは出席番号を若い順から5人ずつ分けたメンバー。このクラスは30人で縦5人の横6列の席配置である。座席は窓側から出席番号順なので、俺の席は窓側の最前列で、同じグループのメンバーは俺の後ろに座っている4人ということになる。
クラス全員の自己紹介が終わり、レクリエーションの時間になると俺に1人のクラスメイトが――――
「なぁ、天野はレクリエーションなんかやりたいことあるか?」
話しかけてきたのは、俺の2つ後ろの席の人で、確か名前は……ヤバい、自己紹介聞いてなかった。
「えーと、どちら様?」
「宇佐美!宇佐美 迅!!さっき自己紹介したばかりだよね?」
「悪い、ちょっと考え事しててな。で、レクリエーションだっけか?俺は何でもいいぞ」
「だったら、学校内でかくれんぼしないか?1度広い敷地でやってみたかったんだよ」
こいつ高校生にもなってかくれんぼかよ……と、ツッコミをいれそうになったが、「何でもいい」と、いってしまったので「俺は構わないよ」と、答えておいた。
すると、それを聞いていたのか後ろの席の生徒が
「いいね、やろうよ、かくれんぼ。夏音もいいよね?」
「うん、私はいいよ」
と、かくれんぼに賛成してきた。
「自己紹介を聞いてなかった天野君のために、もう1度だけ言うね。あたしは伊須 みかん、よろしく。で、こっちが尾栗 夏音。ちょっと人見知りだけど仲良くしてあげてね」
伊須の紹介に尾栗が「よろしくね……」と、小さな声で続けた。
明るく、積極的な伊須は金髪のロングヘアー。さらに、学校指定のカーディガンを腰に巻いて、制服を着崩している。人当たりはよさそうで、仲良くなれそうではあるが、入学初日から制服を着崩して大丈夫ですか?伊須さん……
一方、尾栗は伊須の2度目の自己紹介の時から、彼女の背中に隠れて顔だけを除かせ、こちらを見つめている。ちょっと人見知りとか言ってたが、これはちょっとどころではないのでは?
「えーと、後ろの人は居ないのか?」
俺の言葉に3人は窓側の1番後ろの席に目を向けた。そこには誰も座っていない。確か入学式の前は全員いる。と、先生が出席をとっていた気がするのだが……
「あー、確か具合が悪いって言って、入学式終わったら保健室に行ったよ。だから今日はあたし達4人だけだね。てか、天野君?自分の自己紹介が終わったからってぼーっとしてたらダメだよ」
確かに、ぼーっとしてた俺も悪いが、人に注意する前に自分の服装をどうにかしたらどうですか?伊須さん……なんて言ってないし思ってもいない。