入国早々投獄は頂けません
「…何…あった…」
「うん?嬢ちゃん?今外は危険だから早く家に帰りな。」
「何かあったのか?」
「ああ、先ほど森の方で異常な魔力を検知したってな。で、徴収されたわけだが…うん?ちょっと待て。」
「…待つ…」
「私の顔に何かついているのか、ですわ?」
「待て待て、お前ら人族か?」
人族?
『人間のことだ。』
“人間だけど”
『お前は魔人だ。』
人間です。
「なぜ人間がいる!ここは人間が立ち入って…」
「お前らまさかあっちの森から来たとか言わないよな?」
「あちらですの?確かにそちらの方向から来ましたわ。」
「…おい、こいつらが原因の可能性があるぞ?」
「お前達。悪いが捉えらせてもらう。抵抗しなければ何もせん。」
なになにどういうこと?!
『そのままだろ。』
「ちょっと、サクラ様?話が違うぞ!どうするんだよ!殺されるぞ!」
「こうなったら捕まる前に逃げた方がよろしいですわ!相手が多すぎますわ!」
「…サクラ様…案…必要…危険…歯向かう…あり…可能…」
『やるなら一瞬だが?』
うーん。
“抵抗しないとどうなりますか?”
「尋問部屋に来てもらう。安心したまえ、あくまで事情徴収だ。異常魔力の原因にお前らが関わったと考えられるからな。」
「まあ、原因さえ分かればそれで良いからそこまで怯える必要はない。もっとも、森を害した等なれば話は変わるが。」
どう思う?個人的だけど、歯向かうより従った方が安全に見えるわ。
『そうだな。異常魔力など転送に使った時に利用したエナの莫大な魔力か、案内人が利用した魔法石か何かだろう。魔族の住処や近傍を傷つけた訳では無い以上、こちらが罰を受ける理由はない。』
じゃあ、その方針でいきましょう。万一があれば…その時は貴方に任せるわ。
“付いて行きます。その代わり私の仲間に手を出さないでください”
「おい、サクラ様?良いのか?」
「ほう。お前がリーダー格か?話が早くて助かる。付いて来てくれ。歯向かわない限り手は出さん。」
ま、何かあったら魔人剣よろしく。
『扱いが雑だな。』
「ど、どうするんだよ。ここどうみても牢屋じゃねえか。」
「…脱獄…検討…」
「冒険者の胡椒味ですわ!」
「呑気すぎるだろシャロル様。」
「…脱獄…実施…どうする…」
“待つ。下手に動くと危険”
『万一があれば皆殺しすれば問題ないしな。』
だから、物騒な話はやめてくれない?
「まったくの。どうして面倒ごとが起きるとわしに声がかかるのじゃ。」
「リボン様の立場的にそれは逃れられないのでは?」
「…誰…来た…」
「柵の外から聞こえますわ。」
「で、お主らが森の奥から来た人族かえ?」
『お迎えか?にしては随分若い奴だな。』
若すぎじゃない?どうみても5歳児の幼女よ?
「話は傭兵の方々から伺っております。それで、先程の魔法の痕跡ですが、貴方達が原因ということで間違えはありませんか?」
『こいつは執事の魔族か?見た目は30歳ぐらいの男といったところか?』
「…知らない…」
「私達は知りませんわ。ただ、森の方から来たとお伝えしただけですわ。」
「往生際が悪いですね。我々はつい先程本来では到底考えられない様な魔力を捉えたのです。それも貴方達が言っている森の奥から。言い逃れが出来るとお思いですか。」
「ディビルよ。わしらは情報を集めているだけじゃ。拷問しに来たわけではないぞ?」
「しかしですね。」
「まあ、はっきりいうが確かに森で起きた魔法の痕跡は大きな物じゃったが少なくともわしにとってはそれほど危険ではなかったの。」
「リボン様は我々とは違います。そこいらに魔王様や四天王様がいらっしゃるわけではありません。」
「なんか揉め始めたな。」
「…ドングリ…背比べ…」
「エナさん?どういうことですの?私、本で読んだことがありますが、魔族は人間より数が少ないとはいえ各々の個体は人間より強いと聞いていますわ。それゆえ大昔起きた人間と魔族の全面戦争ではかなりの犠牲者が出たとかどうとか。今ここで戦闘が始まるなんてことが起きたら絶望的ですわ!」
『まあそうだろうな。一瞬で全て滅ぶだけだ。』
だから物騒な話しないでくれない?
「リボン様、このもの達は如何いたしますか?」
「どうにもこうにも証拠も糞もない中で誰が投獄しろと言ったのじゃ!わしが努力して他の種族との交流を円滑にしておるのに冒涜にも程があるわい。見た所人族じゃが…とにかく連れて行くのじゃ。」
「かしこまりました。お前達、ついて来たまえ。」
「ここはどこですの?」
「わしの事務室じゃ。おっと、それとも魔族の国というのが答えじゃったかの?」
「…どちらでも…誰…」
「エナさん?初対面相手にその対応はありませんわ。第一相手は魔族ですわ。私達では敵いませんわ。」
「なんじゃなんじゃ?わしとやりあうというのかの?」
「いやいややらないから。勝てるわけねえじゃん。」
「…ビビりすぎ…相手…子供…」
「子供ではありませんよ。リボン様はこれでも4013歳。魔族の中でも四天王に分類される強者でございます。」
「これでも、とはどういうことじゃ」
そんなに強いの?
『さあな。少なくとも魔人の手にかかれば瞬殺だろうな。』
だから私はモーレン伯爵令嬢だからね。戦闘機じゃないから。
『どの口が言っているんだか。』
“エナ。冒涜は止めて。喧嘩しに来たわけじゃない”
「…承知…」
「さてと…わしとて仕事じゃ。少々話に付き合ってもらうぞい。」
「構いませんわ。」
「俺らの身は保障されているのか?」
「お前達が不届きな行動を起こさない限りだが。これは失礼。私はディビル。リボン様の直属の部下に当たる。」
「…リボン…ディビル…記録完了…」
「おい。リボン様を呼び捨てとは…」
「リボン様にディビルさんですね。わかりましたわ。」
『見事に誤魔化したな。』
シャロルはここら辺得意だからね。
職場が辛すぎます。相手は「良かれ」とか「甘やかすな」とか言っていますが私自身このままでは壊れます…。