魔人に拒否権はありません
「すげーな。ここがモーレン伯爵家の実家か。」
そんなに凄くはないと思うけど。王家の方がもっと凄いわよ?
『お前、一般の民家全く知らないだろ。』
知ってるわよ。帰り際いつも見ているじゃない。
「私の実家よりも広い庭とお屋敷ですわ。流石伯爵家ですわ。」
「…シャロル様…実家…行きたい…」
「それでしたら今度招待しますわ!それより早くサクラ様のご両親様にお会いしたいですわ。」
うーん。魔人研究バカには合わせたくないんだけど。
『聞こえないからと言って、両親を侮辱して良いわけではないはずだが。なんなら我からその旨伝えるのもありだぞ。』
貴方の声こそ私以外には聞こえていないでしょ。
“こっち。客間に案内するね”
「おう。すまないな。」
「…エナ…どうする…」
貴女は私と一緒に来て!
『だから聞こえていないぞ。』
あー、どうして声が出ないの。魔人剣、どうにかしてよ!
『我に言われても困る。我を手に入れる際、そのことは考えなかったのか?』
あれは事故だから!当時めっちゃ怖かったんだからね。
『アンドロイドが止まっているぞ。』
“一緒に来て”
「…了解した…」
「私達はそちらの部屋でお待ちしていますわ!」
「…モーレン伯爵様…モーレン伯爵夫人…戻った…」
エナ。名前で呼んでもいいよ。エナは確かに拾った子だけど、既に家族として住んでいるんだし。
『あのアンドロイドは敬語を知らなそうだな。』
機械なんだからそこまで対応していないんじゃないの?
「うん?ああ、戻ったのか。」
「おかえり。今日は学校で班決めだったんだってね。組みたい子と組めた?」
“シャロルは当たり。エナも当たり。アマミは外れ”
「…代わり…ゴンペイさん…」
「まあそういうこともあるさ。そういえば、どうして拘ったんだい?」
どうして拘ったの?
『魔人剣として強いものには非常に興味がある。先生らも冒険者としてベテランかもしれんがクラスとして動く以上、学生内に絞ったわけだ。』
“魔人剣曰く、強いらしい”
「そうなの。まあ確かにオラクル子爵令嬢となれば魔法は強そうよね。確かあそこは魔法の育成と研究に力を入れていると聞いたことがあるわ。」
「エナも納得だな。詳しいことはよくわからないが、魔人研究の素材探しに一躍買えるとなると相当のものだしな。」
「アマミはどう言った子なの?」
「…詳細不明…当時サクラ様…エナ…依頼の為…休暇中…噂…シャロル様…倒した…」
“シャロルの魔法をアマミが結界で弾いたんだって”
「オラクル子爵令嬢の魔法をか?確かにそれは凄いな。」
『全く、普段は学校など興味などないが…その日だけはお前には授業出てもらいたかったな。』
お父様とお母様の依頼があったから無理だったの。貴方も知ってるでしょ?
『それはそうだが。』
「…お客様…来てる…」
「あら、誰かしら。」
“私のチームメンバーよ”
「…旦那様…奥様…依頼…受けたいらしい…」
「なんだと。ということは強者なのか?わかっているとは思うが、魔人研究に必要となる素材は生半端な力では採取出来ないぞ。
お前だって、魔人になったから依頼をしているのであって素の力では対応できないだろ。」
お父様。私は伯爵令嬢です。冒険者じゃないのでそういう依頼を私に預けないでください。
『諦めろ。お前の両親は魔人の強さを目にしている。』
貴方が剣を振れと言ったから振ったのにそれが原因でしょ、こうなったのは。こんな力を手に入れちゃったら流石に断れないじゃない!
「…お客様…来てる…客間…いる…」
「あ、そうだったな。ちょっと待ってろ。今メイドにお持て成す様に伝えておく。」
「依頼の件ということは私達も立ち入った方が良いのかしら。」
“お願いします。私も今回の依頼聞いていない”
「戻って来ましたわ。」
“遅くなりました”
「気にしていませんわ。それより依頼内容をお聞きしたいですわ。」
「君達が、娘が話していたクラスでもチームメンバーか?」
「ああ、そうだ。俺がゴンペイでこちらがシャロル様だ。」
「わかった。私がモーレン伯爵だ。話しではサクラと共に依頼を受けてくれるとのこと。感謝する。」
「伯爵様?1つ聞きたいことがありますわ。冒険者の依頼というものは本来冒険者ギルドを通すものですわ。依頼を直接冒険者に伝えたりすると揉め事の原因になりますわ。」
「それなら問題ありません。私達の依頼は特殊裏で行っていまして、親密な方にしか公開していませんの。今回の依頼も娘とエナに行ってもらう予定だったので揉めることはありません。」
「…わかりましたわ。それで、依頼内容を教えて欲しいですわ。」
「依頼内容だが…今回は魔族が住む土地にあるダンジョンに行ってもらいたい。採取するものはそのダンジョンのボスが持つドロップアイテムだ。」
「ただ、少々問題がありまして…場所は後ほど地図でご案内いたしますが、ボスが何者なのか…はたまたドロップアイテムが何であるのか全くわかっていないのです。そのため、危険度等も一切不明です。」
「…いつも…同じ…気にしない…」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。そんな未知数だらけの仕事無茶苦茶だろ。」
「そ、そうですわ!私達はまだ全員がDランク冒険者ですわ。あまり危険な場所にはいけませんわ。」
「無理して依頼を受ける必要はないから安心してくれ。ただ、お前たちは行くよな?」
「…いつもの…こと…気にしない…」
“選択肢ないじゃん。いつも”
『まあ、いつものことなら所詮雑魚の溜まり場だからな。』