好きで魔人やってる訳じゃないからね?
「…スケッチブック…返却…」
“エナ。ありがとう。シャロル、ロット返してもらった”
「え…あ…感謝いたしますわ。」
「元に戻ったのか?」
腕どうしようか?いらないんだけど。
『関与する気がないなら放っておくのが一番だな。で、情報収集と言っていたが、酒場には殆ど誰も残っていないようだがな。』
あーだからこんなことしたくなかったのに。
『相手は魔族だ。お前やエナでなければ勝てまい。エナは全体魔法しか放てないのだろう?であればお前が戦うしかないだろう?』
全体魔法というより、数多魔法よ。一度に数百もの魔法を同時発砲するんだからあの子は。そんなことされたら酒場吹っ飛ぶでしょ?
“情報収集は諦めましょう”
「…同意…ターゲット無し…意味無…部屋…戻る…休む…」
それが一番ね。
「…返答…来ない…何故…」
確かに、普段ならシャロルあたりが何か言ってくるんだけど。
『お前の行動がぶっ刺さっただけだろ。ほら何か言いたげだぞ?』
「さ…サクラ様?移動しながらでも構いませんので、少々お話ししたいですわ。」
“平気”
「えっと…先程サクラ様…全くの別人に思えましたわ。まるで何もかも殺してしまいそうな殺人鬼でしたわ。あ…申し訳ありませんわ。伯爵令嬢への無礼な発言おゆるしくださいませ!」
『おいおい。完全に怯えてるぞ?どうするんだ?これでは会話になるまい。明日以降このような状態では却って危険だぞ?』
わ、わかってるわよ。でも元はと言えば貴方が抜けと言ったんでしょ?
『彼処で人生を終わらせたかったのか?』
うるさいわね。わかったわよ。
“気にしていないから。皆、夕食後一度私の部屋に集合。話すべきことあるから”
「お…おう。わかったぜ。」
“皆集まった?”
「…お腹…満腹…」
『アンドロイドの癖してちゃっかり飯を食えるあたりこいつの体はどうなっているんだか。』
「私はいますわ。」
「俺もだ。」
“了解。作戦会議の前に、伝えるべきことがある”
「先程の件のことですの?」
“そう。書けるスペースが余り無いから簡単に書くね”
「…エナ…少し…知ってる…サポート…可…」
ありがとう。
“結論で、私は魔人。エナはアンドロイド。誰にも言わないで”
「魔人?アンドロイド?なんだそれ?」
「私もそれ程専門ではありませんが、確か魔人は魔物の一種、アンドロイドは人型ロボットと聞いていますわ。」
『随分詳しいなこの子爵令嬢は。』
“大体正しい。魔人は人間に魔人の素を組み込んだもの、アンドロイドはその名の通りロボット”
「なんだと?じゃあエナはロボットなのか?」
「…エナ…戦闘魔法兵器…破壊するため…存在…」
「おいおいおいおい。マジかよ。どう聞いても危険じゃねえか!」
“エナは、兵器化されるのを恐れて逃げ出したロボット。だからそこまで危険では無い”
「サクラ様、とはいえ戦闘兵器ということは相当お強いと思いますわ。」
“もちろん。実際、彼女の魔力だけで転送アイテムが使える程度の魔力は有している”
「あ…ですから、エナさんだけで転送アイテムを動かすことが…納得いたしましたわ!」
「でもよ?授業中エナってそんな特化してたか?シャロル様の方が目立っていると思うぜ?少なくとも魔法に関してはな。」
「…普段…リミッター…起動中…」
「リミッター?」
“彼女はアンドロイドだから魔力の出力を変更できる。普段は学生に合わせるだけ。”
「そ、そうでしたの?それでは、私よりも強い魔術師はアマミさんだけでは無いということになりますわ。」
「そりゃ違くねえか?あれだろ、エナがアンドロイドなら名目上は魔術師だとしても実際はロボットじゃねえか。人間とロボットで比較してもしょうがないと思うぜ?」
「そんなことはありませんわ!それを言ったらアマミさんも魔女を名乗っていますわ。負けることなど出来ませんわ!」
『やれやれ、コヤツの戦闘心はどこからくるんだかな。』
「で、魔人って言われてもピンとこねえな。」
「私もそうですわ。最近ですと魔女や魔族という言葉も聞きますわ。よくわかりませんわ。」
“私も詳しくは知らない。両親の話だと、人間に魔人の素を組み込んだ状態らしい。”
「ということはサクラ様もその魔人の素が組み込まれているのですの?」
「…サクラ様…所持…漆黒剣…魔人…なる…」
「さっき抜いたその剣か?」
“この剣は魔人剣。これに取り憑かれている限り私は魔人。既に引き離すことは出来ない”
「外すことは出来ませんの?」
“不可能。遠くに置いても、破壊しても暫くすれば必ず戻ってくる”
「…一種の呪い…」
「そんなものどこで手に入れたんだ?」
“非公開。ただ、予測で明日行くダンジョンの目的はわかっている”
「『死の鉱山』でしたわね。…もしかして、その魔人の素があったりするのですか、ですわ?」
『ほう、これだけの情報でこの答えを導くとはな。どこぞの伯爵令嬢とは大違いだ。』
いちいちうるさい!
“おそらく”
「てことは、もしかしたら魔人とやりあうなんてことないよな?」
「…可能性…高…生存率…0%…説明…付く…」
「マジかよ。」
それは、覚悟の上なんだよね。でも厄介なのは、私みたいに意識が保てる魔人が少ないこと。大抵は魔物の一種と言われるくらい、ただ攻撃してくる生き物になっちゃうことだし。
『残念だがその話は我以外には聞こえていないな。』
本当に面倒くさいわね。この体質!
「魔人は強いものですの?私達が戦う敵がそのような強さでは対応しきれませんわ!私達は全員Dランク冒険者ですわ。危険な敵とは戦えませんわ!」
「…最悪…場合のみ…大抵…エナ…サクラ様…対処…」
「大丈夫か?やはり不安で仕方がないが。」
「…危険…わかる…来ない…安定…」
「そ、それはわかっていますわ!ですが、冒険者として挑むのは当然の結果ですわ!」
「…エナ…理解…不能…どっち…したい…」
“エナ?人間はやりたいものをやるの。心があるから。理論で○×つけちゃダメ”
「…了解…従う…」
『まあ、相手のことを考えれるあたり魔人としては未熟だと思うがな。』
私は好きで魔人になったわけじゃないから!心ぐらい人間でもいいでしょ?
『好きにしたまえ。お前が死ななければ我は関係ない。』
“じゃあ、この話は終わり。解散”
「おいおいおいおい。情報収集の成果発表しないのかよ!」
あ、そういえばそういうのあったわね。
『自己中はお嬢様気質か?』
うるさいわね!ミスよミス!
「では私から報告いたしますわ!」
「…記録…任せる…エナ…得意…」
『皆、自室に行ったな。』
みんなから情報もらったけど、危険地域ということとその場所ぐらいしかいいものはなかったわね。
『行き方も結構明確だったな。どうやら観光スポット化しつつある部分もあるらしいな。』
まあ、不幸中の幸いということで…電車に乗って現地乗り込み且つ攻略かしら。
『行くのは簡単だがどこから乗り込む?立入禁止区域化されている可能性もある。監視の目があるかもしれないぞ?』
その時は強行突破かしらね。
『伯爵令嬢の癖してそのやり方は如何なものか。まさか、ロボットに任せれば問題なしとか考えてはいないだろうな?』
強行突破っていうのは何も力技だけじゃないからね!
『まあ、勝手にしたまえ。実質、我以外の魔人に会うのは毎度恒例楽しみなのだ。』
本当に魔人だとしても、違ったとしても容赦なく殺す貴方はなんなのとは言いたいけど。
『とにかく明日に備え寝て置いたほうがいいぞ?』
はいはい寝ますよ。




