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モンスター調査 その1

ピヨピヨと小鳥が囀ずる声が聞こえる。スタッドの町に朝がやって来た。今の時刻は午前5時である。カンナは布団から眠い眼を擦りながら目覚め起き上がった。体を伸ばし眠いから目覚めへと体を頭を切り替えた。朝のカンナはやることは決まっている。自分の寝ていた布団を仕舞い、同部屋の他の子を起こさないように冒険用の服装に着替え、忍び足で部屋を出る。そして、先生がいる台所へ行く。そこでまず先生に朝の挨拶をする。


「先生。おはようございます。」

「おはよう。カンナちゃん。」


穏やかな優しさに溢れる先生の笑顔にカンナはホッとする。先生はカンナの育ての親である。カンナは孤児でここ春の花院という孤児院で育った。カンナは経営がギリギリのこの孤児院を助けるために冒険者をやってクエストで得た報酬の殆どをここに入れている。ここの孤児院はカンナの活躍によっていくらか経営が楽になった。先生や他の孤児たちはカンナを尊敬し感謝している。健康的な食事や病気の際の薬代をギリギリだが捻出出来るようになった。


「今日も冒険かい?」

「はい。討伐系のクエストをしようかと考えています。」

「あまり危険なクエストはしないでくださいね。みんな心配してるのよ。」


そう言いながら先生は慣れた手つきで料理をしている。サラダを作っているようだ。以前は朝食はパンだけだったが、カンナの稼ぎでサラダも出せるようになったのである。


「カンナちゃんの分はもう作ってテーブルに置いてあるわ。」

「ありがとうございます。では先にいただきます。」


台所を出て食事部屋に行くとパンとサラダがテーブルに置いてあった。カンナはさっさとパンとサラダを食べた。そして、ミルクをごくごく飲んだ。食事を終えると鯨丸を取りに倉庫に向かった。施設の中に置いておくにはでかいのである。一応、用心のために鍵つきの倉庫にしまっている。倉庫から鯨丸を取り出すとカンナは手入れをした。これもいつもの日課である。この愛刀をカンナは大事にしているのである。この倉庫はカンナの冒険道具を入れて置く用のものである。カンナは冒険に必要な道具とこのまえのクエストで集めた売却用の道具も出しておいた。

仕度が出来たカンナは鯨丸と道具を玄関先に置き、再び先生のところに挨拶をしに行った。食事部屋に行くと先生の他に早起きの児童が何人か朝食を食べていた。


「カンナ姉ちゃんおはよう。」

「おはよう。」

「カンナ姉ちゃん今日も冒険?」

「そうだよ。一杯稼いでくるからね。」

「頑張ってね!」


他の児童たちに応援されると頑張ろうという気持ちが強くなる。カンナは春の花院のために死力を尽くそうと固い決意を新たにするのであった。


「じゃあ、行ってくるね。」


玄関に置いておいた鯨丸を肩で担ぎ見送りに来た子供たちに手を振った。ただ、先生は見送りに来ない。いつもそうだ。カンナはよくわからないが、きっと何か理由があるのだろう。


「先生の言うことは聞いてわがままを言っては駄目よ。」

「うん。カンナ姉ちゃんもクエスト頑張ってね。」


春の花院一の元気坊主が答える。

その坊主の頭を撫でてからカンナは春の花院を出た。新たな冒険への。

孤児院の春の花院を出てカンナはギルドへ向かう前に道具屋に向かった。いらない道具を金に代えるのだ。それは主に鉱石である。カンナは錬金術師でも鍛冶師でもないので鉱石は不要なのである。鉱石専門の道具屋へとやって来た。


「すみません。」

「はいよ。」


店の奥から店主が出てきた。


「おお!久しぶりだねカンナちゃん。」

「はい!お久しぶりです。」

「最近来ないからどうしたんだろうと思っていたんだ。」

「はは、のどかな里山での討伐クエストばかりやってましたからね。」


頬をかきながらカンナは言った。


「今日は何の用だい?」

「はい。この前、鉱山で野生モンスターの駆除をしたのでその報酬に鉱石をもらったんです。いらないので売りに来ました。」

「そうかい。で物は?」

「これです。」


担いでいた鯨丸を立て掛けてからそう言うと腰にくくりつけていた袋から鉱石を出した。手のひらサイズの鉄鉱石であった。

店主はいいかいとカンナに断ってから鉄鉱石を手に取った。


「ふむ。これなら100Gかな。」


真剣な目つきで店主は査定していた。査定が終わるとまた店主は優しい笑顔になった。


「そうですか。では言い値で売りますよ。」

「いいのか?もう少し高値で買い取ってもいいぞ。」

「いえ。私は店主のことを信頼していますから。」

「泣かせるねぇ。いい客だ。よし!今度来たら高値で買ってやる。」

「ありがとうございます!」


カンナの元気のよい返事に店主は相好を崩した。まだまだ幼いのにこんなにも人がいいというか応援したくなる。この店主はカンナが孤児だと知っている。だから、同情という面でも助けてやりたいと思うのである。


「しかし、カンナちゃんの人の良さを見ているとこの前に来たカンナちゃんより少し年上という感じの女の子は酷かったなぁ。」

「どういう人だったんだすか?」

「いやな。上物の鉱石を持って来たんだが、相場の倍近くで買い取れとしつこくてな。」

「すごい人がいますね。」


この時、カンナは誰か大体わかっていた。


「たまに来るんだが、貴重な鉱石を持って来る時もあるが、いい迷惑だよ。」

「はは。」


カンナは苦笑いするしかなかった。

店を出たカンナは一路ギルドへ向かった。空は青々としており、天気がよい。絶好の冒険日和である。目抜通りを歩いていたら朝から冒険に出発する冒険者たちがギルドへと向かっていた。その中の一人にカンナがいる。空を見上げながらカンナが歩いていると東の空からプロペラ機が飛んできた。それを見てカンナはすぐにアミが来ているんだとわかった。アミはカンナの冒険者仲間で職業は航空機パイロットの飛航士である。黒ぶちメガネがトレードマークの先輩冒険者である。心優しい人である。プロペラ機から降りている時は。

ギルドに着くと喉が渇いたので、ジュースを注文して飲んだ。甘酸っぱいフルーツジュースである。ギルド内には冒険者が仲間を募集したり、クエストを吟味したりしていた。それを横目にカンナはこの前の冒険を思い返していた。

マネムシの住んでいたダルブ草原はある時期からモンスターの生息数が急減したそうだ。餌が少なくなり放浪しているうちにルナの森にたどり着いたそうだ。白狼の姿になっていたのはその方が天敵の肉食性のモンスターに襲われる心配がなくなると考えたかららしい。まぁ、その狙いは半分当たりである。事実、ルナの森のモンスターたちや人類は白狼がおかしくなったと怖れて近づかなくなり、一時的な安全は確保でき、食料も楽に入手ができた。しかし、もう半分ははずれである。ルナの森の近くの町の人間は危害が家畜だけでなく、自分たちにも及ぶことを怖れてギルドにクエストを依頼され討伐対象になったしまったことである。まぁ、結局白狼の取りなしでマネムシは討伐の憂いから助かったのだが。しかし、何故モンスターの数が急減したのだろうか。ローさんは自然のことだろうとのことだった。ユーノは…ただあっけらかんとしていた。杞憂で何もなければいいけどとカンナは思った。

そんなことを考えながらジュースを飲んでいると見知った集団がやって来た。カグヤたちである。その中にはユーノやさっき空を飛んでいたアミもいる。


「おーい。カンナ久しぶり!」

「お久しぶりですユーノちゃん。」


ユーノが手を振り、笑顔で小走りして来た。相変わらず元気一杯である。他の面子も元気がありあまっている。カグヤ、アミ、レシティアの三人もやって来た。カグヤは職業は砲術師でロケットランチャーを2丁使ってモンスターを粉砕する。ユーノに負けないくらいおてんば娘でタケトリ公国のお姫様である。アミはさっき言った通り職業は飛航士で科学文明国家群出身。黒ぶちメガネが似合うおしとやかな心優しい人である。プロペラ機に乗らなければ。ユーノは職業は僧侶でこの前も一緒に冒険した。快闊でいつも元気を周りに振り撒いている。一緒にいるとこっちまで元気になる。この中では一番仲がいい。最後の一人はレシティアで職業は操縦士である。彼女も科学文明国家群出身である。猪突猛進タイプな人で戦車を乗り回し、モンスターの集団を潰走させたことは数知れず、スタッド屈指の冒険者である。

四人はどうやらこれから冒険に行くようだった。


「カンナは今日クエストをうけるのか?」

「そのつもりだけど。」

「カンナちゃんは今日も討伐系?」

「うんそうだよアミさん。大型モンスターを討伐するクエストをやろうかなと思ってるよ。」

「今日、ありましたっけ。」

「なかったよ。」

「そうですよねカグヤちゃん。」

「そうですか。まぁ、適当に良さげなクエストを探すよ。」


ないなら採集クエストとかを受ければ良いだろうとそんな楽天的なことをカンナは考えていた。結構、何とかなるさという感じで前向きな性格なのである。そもそも大型モンスターを討伐したいのはただ報酬がいいからである。すべては孤児院春の花院のためである。


「ユーノちゃんたちは今日はどんなクエストを受けるの?」

「ゴブリン狩りだ。」

「ああ、ゴブリン狩りね。」


カンナは苦笑いした。以前にカグヤ、ユーノ、 レシティアと人間に危害を加えるゴブリンの村を討伐しに行ったことがあった。その時のゴブリンたちの光景は忘れられない。何せまずレシティアが操縦する自走砲で遠距離からの砲撃と、カグヤのロケットランチャーで村を壊滅させ、逃げ惑うゴブリンたちをユーノとカンナで一匹残らず駆除したのである。あの恐怖に怯えきったゴブリンたちの顔をカンナは忘れられない。ほとんど虐殺のような感じでちょっとしたトラウマである。


「頑張ってね。」


カンナのエールに素直に相槌を打つカグヤたちはそろそろ行くということでギルドから出ていった。それを見送り、カンナは溜め息した。ゴブリンたちの来世に幸あれと願わずにはいられなった。

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