森の主 その6
ペンペンを先頭にカンナ、ユーノ、ローが歩いていた。
森の住人でこの森に詳しいであろうペンペンの案内でカンナらは白狼捜しをしていた。とりあえず、泉を目指して進んでいる。道は森の住人が作った獣道のような道を歩んでいた。
「ペンペンさぁ。戦えるの?」
頭の後で手を組ながらユーノが素朴な質問をした。モンスター退治の道案内役をするのだから戦えるのかなと思ったようだ。
「僕は戦えないですね。」
「戦力とは考えないほうがいいね。」
「すいません。」
「ペンペンさん。気にしないで。戦うのは冒険者の私たちがするのが、道理ですから。」
カンナがフォローした。ペンペンはあくまで道案内役なのである。森の住人はあまり戦闘向きの種族ではない。他種族とはいざこざを起こさないように生活してきた歴史がある。そのためか、他種族が村に来るとかなりの警戒心を持って対応してくる。カンナたちがルナの森の彼らの縄張りに入ったときに警戒されたのもそのためである。戦闘能力が高くないのでそれは仕方のないことであった。
「ペンペンさん。」
「なんですか?」
ペンペンが先頭を歩きながら反応した。
「本当に泉こっちなんですか?」
「そうですよ。あと少しです。あっ!果物です。」
「うまそう!」
ユーノはよだれを滴らせて採ろうとした。ちょうどお腹が空いてきたところであった。その果物は赤々としていて熟しているのがよくわかる。カンナもローも食いたかった。ユーノは木に成っているその果物を採ろうとした。するとどこからか蔦が伸びてきた。慌ててユーノは逃げたので捕まることはなかった。カンナとローは伸びてきた蔦を切った。カンナらは間合いをとって臨戦態勢をとった。ところが、ペンペンが逃げられず蔦に絡めとられてしまった。カンナはすぐさま助けに行こうとしたが、蔦が次々と伸びてきて猛攻を防ぐので精一杯であった。ペンペンは足に蔦が絡まり逆さ釣りとなって、抵抗が出来ない。何か刃物を持っていれば何とかなるかもしれないが、持ち合わせてないようである。森の住人は戦闘能力が皆無なのである。
「こいつはヒトクイソウだ。」
ローが、間合いを取りながら言った。ヒトクイソウは世界的に森に棲息しているモンスターで、罠の果物で獲物を誘き寄せ食べる。危険なモンスターである。
ペンペンは泣き叫んでいた。
「カンナ!」
「はい!」
「私とユーノで気を引く。隙をついてペンペンを助けろ。」
「わかりました。」
「ユーノ!お前は右側から攻めろ。」
「了解!」
ユーノとローは側面から攻めた。ヒトクイソウの意識を分散させるためである。伸びてくる蔦にローは鋭い爪で切った。ユーノも上手く避けつつ、力一杯の拳で殴った。狙い通りヒトクイソウはユーノとローに意識を持っていった。
「今だ!」
カンナは正面のペンペンを絡めている蔦をその巨大な剣で切った。ペンペンは救出した。
「ローさん。ペンペンを助けました。」
「よくやったカンナ!このまま一気に方をつけるぞ。」
カンナらはユーノが蔦を惹き付けつつローとカンナでヒトクイソウの本体に接近した。
「食らえ!」
ローに茎の部分を切られたヒトクイソウは身動ぎした。その隙をついてカンナが周りの木ごとヒトクイソウを真っ二つに切った。ヒトクイソウは死んだ。
ヒトクイソウを倒したカンナらは少し休憩した。水を飲みながらユーノは言った。
「なぁなぁ本当にこっちなのか?」
「そのはずです。」
「でも、一向に水がある気配がないんだけど。」
「僕は間違えてません。」
「まぁまぁ二人とも。今、ローさんが大木の上から周りの様子を見てきてくれてますから。待ちましょう。」
口喧嘩するユーノとペンペンを宥めるカンナであった。
そのころローは見つけた大木を登っていた。周囲の木より一回り大きい木だった。この辺りの木の中で一番古い木なのだろうかと考えつつよじ登った。昔から木登りが好きなローはなんなく登っていた。猿人部のやつとも張り合ったものだ。360°周囲を見回すと西の方に開けた場所を見つけた。ルナの森は森林が鬱蒼と繁っている。開けた場所ということは泉の可能性が高い。するするとローは降りた。木の根本ではカンナらが座ってローが降りてくるのを待っていた。
「ローさん。何か分かりましたか?」
「うん。西の方に開けた場所があった。あそこが泉じゃないかな。」
「おい、ペンペン。言った方向と違うじゃないか。」
「いや、僕はこの大木に来て、そこから探すのが良いと思ったんだよ。」
「嘘つけこのこの。」
「痛い痛い!」
ユーノはペンペンをポカポカ殴った。ペンペンは痛そうである。ユーノにボコボコにされるとぶっ倒れた。
「ほらほら。ペンペンくん気絶しちゃったじゃないですか。」
「だって、こいつが。」
「こいつがじゃないです。」
ぺしぺし。
カンナに叩かれてユーノは涙目になっていた。頭を抑えうーと唸っていた。
「さっきのヒトクイソウとの戦いで体力が消耗しているからペンペンが気がつくまで休憩としよう。」
「「はーい。」」
ユーノとカンナが揃って返事をした。その光景は引率する先生と生徒という感じであった。カンナらは大木の下に腰を下ろししばらく雑談していた。会話の内容はスタッドのギルドに出入りしている冒険者たちについてである。スタッドの町周辺はモンスターのレベルが低く、初心者向けであるし、町も大きく家賃が安く物価も安定していて住みやすい。そのため駆け出しの冒険者が多くいる。スタッドのギルドに出入りしている冒険者は癖の強い奴が多い。今回のクエスト前に情報を提供してもらったシンヤもその一人である。とにかく無愛想であるが、照れ屋でもある。そして、言葉の端端に友達がほしそうな感じが出ている。その他には昆虫人といった他人種や科学文明国家群からきた戦車乗りや戦闘機乗りがいる。色んな冒険者がいて毎日新鮮で楽しい場所である。
「そうそうカンナ。」
「なんですか?」
「最近さあ怪しげな魔道具を売っている奴がいるみたいなんだよ。」
「聞いたことあります。効果は絶大だけど高額で変な副作用がある魔道具ばかり売っているって。」
「そうそう。『今日もどこかで誰かが傷ついている。そんな彼にこのアイテムを』をキャッチコピーにしているらしいぞ。」
「ねえねえこのクエストをクリアしたらそこの魔道具屋にいってみませんか?」
「おっいいね!ローも行かないかい?」
「私はいい。」
「そんなあ、折角仲がよくなったのにぃ。」
本気で残念がるユーノにローはいたって落ち着きを払っていた。
「私もローさんと遊びたいです。」
「カンナにそう言われると弱いなぁ。」
「もう一押しようカンナ!」
「はい。ローさん。もっと人と付き合いましょうよ。冒険のためにも使えそうな魔道具がないか見るのも一興ですよ。」
「はぁ、しょうがないな私も行こう。」
「「いえーい。」」
カンナとユーノはハイタッチしていた。これで今回の冒険後にカンナたちは遊ぶ約束をしたのであった。こういう会話をすることで白狼との対決に過度な緊張を持たないようにしていた。戦時中には爆撃機のパイロットたちは下がどうなっているか話さないようにしていたらしい。戦うということはどんな些細なことでも辛いのだ。
「お前らは本当に仲良いな。」
「スタッドの町の冒険者はみんな仲良しですよ。」
誰からともなく三人は笑った。
ペンペンが目を覚ました。
「ペンペンくん。大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよカンナさん。」
「お前弱すぎだよ。」
「僕ら森の住人は平和を愛する人種。戦いには向いてないんですよ。」
「せめて気絶はするなよ。完全に足手まといだよ。」
「うっ、すみません。」
かなり気にしているようで、ペンペンは小さくなっていた。確かに道を間違えて危険な場所に行き、襲われて気絶していたら足手まといである。流石にカンナもフォローは出来なかった。ルナの森の森の住人たちよ人選を間違えただろう。カンナらはそう思っていた。
ペンペンも気づいたのでカンナらはローが大木の上から見つけた開けた場所、たぶん泉を目指して出発した。逆方向を案内していたペンペンは居心地悪そうであった。
「ペンペンくん。泉ってどんなモンスターがいるの?」
少しは役に立つと思ってもらえるようにカンナは声をかけた。するとペンペンは得意気に語りだした。結構、ちょろい奴だなとみんなは思った。
「あまり危険なモンスターはいませんよ。草食性のモンスターが水飲み場にしているくらいですよ。ツノナシジカの群れがいたりしますよ。あそこは白狼樣の縄張りですからあまり肉食性のモンスターは近寄りません。」
「でも、今はどうだか分からないんじゃないか?」
ローが落ち着き払った口調で言った。
「えっ!?」
「その白狼樣の様子がおかしいからモンスターたちの行動も変わるんじゃないか?」
「その泉に最近行った森の住人はいないの?」
カンナに言われペンペンは腕を組んで考えた。小さい森の住人が何かに考え込んでいる姿は何とも愛らしい。写真に撮りたいなとカンナが考えているとペンペンが何か思い出したようである。
「そういえば白狼樣の様子がおかしいという話が出てからフォレストゲーターを見かけるようになったという話を聞きました。」
フォレストゲーターとはまぁ、森に棲息するワニの一種でかなりの好戦的なのである。
「襲われたんですか?」
「いえ、その時は遠巻きで見ただけで、実害はなかったそうです。」
「ふむ。それはまずいな。」
「ローさんでも厳しいですか?」
「ああ。」
「水中戦はな。引きずり込まれたらどうしようもない。泉に着いたら警戒しながらなるべく泉には近づかずに探索しよう。」
「大丈夫だよ。僕がフォレストゲーターなんて倒してやる。」
シャドーボクシングのようなことをしながらユーノは言った。その好戦的な性格は冒険者の先輩の懸念にも負けない。そんなユーノがカンナは心強く好きで尊敬しているところである。
「頼もしいな。」
ローは微笑んだ。その顔は優しく子供を見守る大人のお姉さんといった趣きである。
「任せておけ。」
ユーノは胸を張る。
話しているうちにペンペンが声をあげた。
「泉が見えてきました!」