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森の主 その5

森の中は割りと穏やかな雰囲気であった。何度かモンスターに遭遇するも、難なく倒していった。カンナは鯨丸で周囲の木ごと切っている。一見自然破壊にも見える。ローとユーノは得意の体術でモンスターを圧倒していた。ローもカンナもユーノも冒険者としての腕前は確かであった。ルナの森は生息するモンスターが外側と内側で別れる。ルナの森の外側は初心者向けの狩場である。スタッドのギルドでは町周辺でのクエストに慣れた初級冒険者にルナの森のクエストを勧める。もうすでに大分レベルの上がっている三人には散歩の延長線のようなものである。泉のある森の内側はモンスターのレベルが格段に上がる。でも、三人にはそれほど恐ろしいところでもなかった。その証左としてユーノがぼやいた。


「なんか退屈だなぁ。肩ならしにもならん。」

「気を緩めるな。これから森の奥に行くからもっと手強いモンスターが出てくるぞ。」


ローがユーノに注意する。ローの言うことがもっともである。ウリオウなどのスタッド近くの狩場であるのどかな里山ではボス級のモンスターがうようよいる。この辺りの町ではルナの森の内側で狩りして帰ってくるとそれはもう立派な冒険者となるという。それだけ危険な地帯でもある。ローはユーノなら問題ないだろうと今日のモンスターとの戦い見ていてもそう思うが、イレギュラーというのがある。年長者としてしっかりユーノ、カンナも手綱をしっかり持とうと考えていた。


「この辺りのモンスターはスタッドの町周辺でも見られるのが多いですね。」

「そうね。ツノナシジカもいるかしら。」

「昼食はそれがいいな。」

「ああ、そろそろ昼時ね。」

「ちょっと、休憩しませんか。」

「そうね。」


カンナの提案にローも賛同した。

ローは地面に這いつくばって臭いを探り始めた。中々シュールである。ユーノは蟻の巣を観察している。カンナは木の根元に腰を降ろし汗を拭いていた。陽は高く木の陰に入らないと倒れそうである。

臭いを探りながらローは森の奥に入って行った。


「ローさん。私たちはここで待ってますから。」

「大物を狩ってくるよ。」


這いつくばりつつ、手をあげて答えた。

ローが見えなくなるとカンナは立ち上り蟻の巣の観察をしているユーノに近づいて声をかけた。


「ユーノ。蟻の巣を観察するのは楽しい?」

「楽しいぞ。蟻がひたすら働き続けるのを見ていると冒険者なんて気楽な仕事だなと思えるよ。人間も蟻のようにそれぞれの役割をこなす生き物なんだよね。」

「詩人だね。」

「たまにはね。」

「ところでさ。」

「どうした。」

「やっぱり、町の家畜を襲った白狼って偽物かな。」

「うーんどうだろ。話を聞く限りは偽物何だろうなと思うけど。でも、確かルナの森のモンスターで変化するのいたっけかな。どちらにせよ白狼を見つけないことには話は動かないだろう。」


そう言うとユーノは木の陰に寝そべった。


「疲れたから少し寝るわ。」


そう言ってユーノは寝てしまった。目を瞑って寝る姿は年相応の可愛らしい少女である。起きている時は始まりの町スタッド屈指の問題児にも仏の顔があるようだ。

ユーノが昼寝を始めたのでカンナはユーノの横に座り、ぼーっとした。

ルナの森は穏やかな雰囲気である。森の感じは鬱蒼としているわけではない。適度に日の光が射し込んでくる。鳥の囀ずりと木の葉がすれる音が、心地よく風流な気分にさせる。こういう気分は森の中だから特別感じるのではなく、何か一人でポツンとしていると感じることのように思う。町でも公園などで一人でぼーっとしているとこういう気持ちになる。どうしてそういう気持ちになるのかはわからない。

一時間ほどカンナがぼーっとしているとローが戻ってきた。肩に獲物をかけて。そのワイルドさにはカンナは人一倍のかっこよさ、頼れる姐御といった感じを持つ。


「獲物を獲れたんですね。」

「ああ、ツノナシジカだ。」

「ご馳走ですね。」

「そうか?森に籠っていたころはよく食べてたけどな。一番狩りやすい。」


ローが食事の支度をするとのことで、カンナはユーノを起こしに行った。


「おーい。起きてユーノちゃん。」

「もう少し。」


何度か揺さぶってもユーノは起きなかった。もう、ユーノは昼食抜きでもいいかなと思っていたらいい臭いがしてきた。すると、ユーノは目を覚ました。


「飯か!」

「そうですよユーノちゃん。ローさんがツノナシジカを捕まえて来ましたから。」

「肉かぁ。いいね。」


目をうっすらと開け、遠くを見ている。

ユーノが起きたので、二人はローのところへと行った。昼食は出来ていた。丸焼きである。流石は人狼部である。食いかたが野生の肉食獣並みに豪快である。

三人で楽しく食事した後、出発した。

森の奥へと歩を進めていると視線を感じた。


「ローさん。」

「うん。」

「なんだどうした?」


わかってないのはユーノだけであった。ユーノはけっこう鈍感な奴で気配の察知が苦手である。以前、気づかなすぎてモンスターに囲まれたことがある。まぁ、囲んできたモンスターを一人で皆殺しにしたそうであるが。一応、職業は僧侶だが、クエストでは武闘家や戦士、ソードマスター並みの戦闘力で活躍する。カンナはそんなユーノを凄いやつ(けっして尊敬ということではない。)と一目置き、こうして一緒に冒険したりしている。


「ユーノちゃん。誰かに見られているんですよ。」

「そうなのか?」

「こんなバレバレな気配に気づかないなんてユーノは本当に冒険者か?」


ローはユーノに呆れていた。

こういう人なんですとカンナは心のなかで言った。


「危険そうか?」


さすがにユーノも緊張した口調で言った。

ローはがぶりをふる。


「捕食者特有の殺気はないな。」

「よくわかるな。カンナも何か感じるのか?」

「私も見られている気はしますが、相手の感情まではわかりません。」

「とすると今、敵がわかるのはローだけか。流石は獣人族だな。」

「そうなのか。獣人族は自然の中で暮らしてきたから人間よりも本能的に察知する能力が高いのかもしれないな。」


やけに落ち着いた口調のローにユーノとカンナは頼もしく感じた。

沈黙が支配する数分間相手も自分たちも一歩も動かなかった。ローが言うには殺気はないようだが、それでも警戒は緩めない。わざと殺気を消しているのかもしれないからである。


「ふん!」


ローが木に隠れている何者かを襲った。相手は避けることも出来ずにローに捕まった。

ローに引き摺られ出てきたのは森の住人であった。

森の住人は世界的に森に住むモンスターである。知能はそこまで高くないが、独自の文化を築いている。昆虫人や獣人族などとは伝統的に友好関係にある。

戦闘能力はあまりなく、ゴブリンのようにこちらに危害を加えてくることもないので魔法文明国家群や科学文明国家群のどちらの陣営とも対立することもなく、戦時中も平和に過ごしていた。彼らもあまり外の人に関心がなく、森の奥でひっそりと暮らしている。どうやらカンナたちは森の住人の領域に入っていたようだ。森の住人は縄張り意識が高いのである。

ローは引き摺ってきた森の住人に詰め寄った。


「なんかようか?」


森の住人は怯えていた。まぁ、武器を持って自分たちのテリトリーに入ってきた他人種は怖いだろう。


「ローさんローさん。そんな風に言ったら怖いですよ。」


カンナがローを抑える。ローは中々目つきが悪く口調もきついので、初対面の人はびびる。カンナも初めはおっかないと思っていた。しかし、話してみると真面目で優しい人だとわかった。


「そうか。」

「ここは私が話します。」


愛刀の鯨丸をユーノに預けて怯える森の住人の前に屈んで優しい口調で自分たちのことを説明した。すると森の住人は少し落ち着いたようであった。


「何か最近白狼に関して違和感みたいなことはないですか?」


カンナの問に森の住人は少し考えてからこう言った。


「最近、森の奥から出てくることが増えて来ました。私たちも森の奥に住んでますが、白狼はもっと奥に住んでいる。ですが、最近私たちの領域に出てくる。みんな不吉だと言っている。」


やはり何かあったと考えるのが自然だとカンナは思った。狂獣病でなければよいがとも思った。


「お主らは何しに来たのだ。」


森の奥から森の住人がぞろぞろ出てきた。


「無用な争いは持ち込まれたくないのだがな。」


声の主は風格のある恐らくリーダー格の森の住人だった。木の杖をつきながら周りに付き人らしき多数の森の住人を引き連れていた。森の住人は腰蓑に体を草で覆っていて背丈は4、5才の人間くらいである。小さくちょこまかと歩き回るので町ではちょっとした人気がある。


「あのですね。クエストで白狼討伐の依頼を受けまして。」


そう話すカンナに森の住人たちは露骨に嫌そうな目つきをしていた。表情は草で見えないので目つきで判断するしかない。どうやら森の住人たちは外部のトラブルに巻き込まれるのが、心底嫌なようだ。とはいえ、森の住人たちから得る情報は貴重てあろうから、ここはなんとか交渉しよう。


「今回のクエストは白狼の討伐が目標ですが、私たちは本当に白狼がやったか疑問に思っているんです。」

「ほうなぜだ?」


カンナはそこら辺の説明をした。

一通り説明すると首領らしき森の住人は唸った。おそらく、彼らも白狼がそんなことをするとは思えないのだろう。そこら辺はルナの町の住人と一緒でルナの森の主である白狼を畏敬の念を持った崇拝をしているのだろう。


「そうか。何か事情があるかもしれないのか。確かに白狼様が不必要に外に出るのは考えにくい。その理由をお主らが調べてくれるのか。」

「はい。微力ながら。」

「よしわかった。我らも協力しよう。」

「本当ですか!?」


カンナらは驚いた。ただ、通してくれるだけでなく協力してくれるとは。森の住人たちはルナの森を熟知している。これほど心強いことはない。


「うむ。おい、ペンペン。」

「はい。」


森の住人の中から一人出てきた。見た目は他の森の住人と同じなので見分けがつかない。


「ペンペン。白狼のところまで彼女らを案内しなさい。」

「はい。」


リーダー格の森の住人はカンナらに振り向いた。


「若輩者だが、道案内役としては申し分ないはずだ。白狼様の潔白を証明してくれ。」


ルナの森の住人にとって白狼は特別であることがよくわかる。人間組織でもそうだが、トップが狂ってるほど恐怖ないのだろう。なんとか黒ではなく白にしてほしいのだろう。

カンナらはペンペンの案内の元白狼の捜しへと出発した。

カンナたちが見えなくなると森の住人の一人がぼそっと言った。


「ペンペンで大丈夫ですかね。」

「あっ!?」

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