モンスター調査 その6
「いやあリリアのとこのモンスターは強いね。」
アルスは上機嫌に言った。何故上機嫌かというと、モンスターを倒したからではない。バスを守ってくれたのでお礼として報酬を貰ったからであった。金が大好きなアルスにとっては最高であった。アルスは戦闘に直接関わったわけではないが、戦闘終了後、傷を負った戦士二人の傷を治したのでそこが評価され報酬を貰ったのである。護衛の冒険者たちはカンナたちにとても感謝していた。カンナたちがいなければ負けてたかもしれないと言っていた。シンヤは興味なそうにしていた。
「リリアさんのアンデッドウィッチのスノーストームは強力でしたね。」
「私のモンスターならあれぐらい敵じゃない。」
「おうおう余裕だね。」
前の席から顔をアルスは出して言った。
「余裕というより信じている。モンスターたちのことを。」
「モンスターたちもリリアさんのこと信頼しているようですし、絆があっていいですね。」
カンナは素直に感心していた。それを話だけ聞いていたシンヤはふんとしていた。なんだか一人除け者で寂しいという感じがする。普段は強気に一人で大丈夫という態度だが、こうなると面白くないようである。それに気付いたのかアルスがにやにやし始めた。それにシンヤはかなり不快だという表情、そう苦虫を噛み潰したような顔であった。隙を見せてしまったとシンヤは思ったのだろう。
「シンヤくんも実力者なんだから参加すればいいのに。」
「あの程度のモンスターに全員で行くことはない。」
「そんなこと言ってみんなと一緒に戦って注目を浴びるのが恥ずかしかったんでしょう。ふふ。」
「断じて違う!」
つい、シンヤは語気を強めてしまった。
「そんな怒らないでよ。」
「怒ってない。否定しただけだ。」
「シンヤくんは可愛いわね。すぐに向きになる。そんなんじゃ友達はできないわよ。」
「友達はいらん。無駄だ。」
「ははは。」
アルスは爆笑していた。シンヤを弄るのが心底楽しいようである。そこにカンナとリリアが会話に加わった。
「シンヤさん。大丈夫です。私はシンヤさんのこと友達と思っていますから。」
「そう、私もシンヤと友達。」
「なんで友達と言われているのにこんなに悲しい気持ちになるんだ!俺は友達はいらんと言ってるだろうが!」
シンヤはここまで来てこのパーティーを組んだのは失敗だったと思わずにはいられなかった。
コモノドオオトカゲを狩ったカンナら一行を乗せたバスはその後はモンスターに遭遇することなくマッドスの町を目指して進んだ。その間、カンナとアルスは爆睡、シンヤは読書、リリアはシンヤを無表情で見つめていた。いや、少し頬を赤く染めていた。
「なぁ、ちょっとこっち見るのはやめてくれないか?」
リリアの視線に耐えられなくなったシンヤがリリアに言った。人に見られながらの読書は気が散って集中できない。それにリリアの視線はなんというか熱視線という感じですごく落ち着かない。
「何故です?」
何故かリリアは分からないようであった。天然な彼女にシンヤは溜め息をしてこう言った。
「いや、もういいや。」
バスは道の駅に止まった。休憩である。
シンヤはさっさとバスを降りてどこかへ行ってしまった。リリアはカンナとアルスを起こそうとした。
カンナはすぐに起きた。
「もう、ここまで来ましたか。」
移動の速さに驚いているようであった。まぁ、寝ていたから当然ではある。
「シンヤさんはもう出ていったんですね。」
「うん。きっとトイレ行って食べ物を物色している。」
「へえ、シンヤさんの行動がわかるんですね。」
「シンヤについてわからないことはない。」
リリアは胸を張るように断言した。ここにシンヤがいたら顔を青ざめていたであろう。幸ここには純真無垢のカンナしかいない。アルスはまだ寝ている。ツッコミが不在であった。
トイレに行っていたシンヤは小腹が空いたので何か食べようと考えた。土産物コーナーを抜けてフードコートにやって来た。広さは中規模程度でここら辺の休憩場所では大きい部類に入る。まったくリリアの予想通りシンヤは食べ物を物色していた。アイスでも食べようと思った時であった。後ろからリリアが黒蜜のかかったソフトクリームを持ってきた。黒蜜はシンヤの好物である。
「そ、それが何だ?」
「…これあげる。」
「あ、ありがとう。」
「やった。」
「ところでなんで黒蜜なんだ?」
「…シンヤの好物。」
「何故知っている。誰にも言ったことないぞ。」
「シンヤのことなら全てわかる。」
「お前いつか絶対に警察につきだしてやるからな。」
「怒ってる?」
「怒ってるというより、恐怖を覚えている。」
「大丈夫。私がいるから恐くない。」
「話が通じねぇ。」
左手で額を押さえてシンヤは溜め息した。もう、諦めの境地なのかもしれない。せっかく貰ったのでシンヤはソフトクリームを食べた。それをリリアが静かに見守る。リリアにとってこうしているのが何よりの幸せなのだろう。無表情の中にどこか優しい笑顔を垣間見背ているようであった。食べ終えたシンヤとリリアはバスへと戻っていった。戻るとカンナもいた。アルスはまだ爆睡中である。乗客が全員戻ったのを確認してからバスは再びマッドスの町へと向かって出発した。
道中、たまにモンスターが出てくるくらいで問題なくマッドスの町に到着した。もう太陽が西に沈んで行こうとする宵の口の時間となっていた。
「腹減ったわ。」
「そうですね。夕食を食べたいです。」
「その前に今日の宿屋に行くぞ。」
「おお、ちゃんと予約していたのか偉いぞシンヤくん。」
「お前らは絶対に行き当たりばったりの行動すると思ってな。」
「シンヤくんにしては気を使ったな。」
「シンヤさんにしてわね。」
「なんか貶されている気がする。」
「そんなことないよ。ね、リリア。」
「はい。シンヤにしてははシンヤのすることで一番人のためになった時の最高の形容です。」
「くそ、絶対に馬鹿にされてるのに反論できん。」
と無駄話しつつカンナ一行は今日泊まるシンヤが予約した宿屋へと向かった。
宿屋に到着するとカンナたちは一旦それぞれの部屋に入った。
カンナは荷物を置くとベッドに寝そべった。
「なんでモンスターの数が激減したんだろう。」
カンナの知識では答えは出ないが、考えずにはいられなかった。何か人類側の過失なのだろうか。聞いた話ではダルブ草原は観光地になったらしい。観光地化していく過程で何かあったのだろうか。マネムシさんは原因はわからないが、餌になるモンスターが激減したことで故郷を離れることになり、討伐対象となってしまった。他の地域でも同じことが起こっているかもしれない。それは悲しいことである。今回の調査で何か分かればいいとカンナは思った。
そろそろ集合時間なのでカンナは部屋を出た。宿屋のロビーに行くとシンヤたちはすでに集合していた。
「遅いぞカンナ。」
「すみませんシンヤさん。」
「さぁ早く夕食を食べに行こう。もう、お腹が減って仕方ないよ。」
「何を食べましょう。」
「…ならシンヤの好きな。」
「よし、適当に歩いて良さげな店に入ろう。」
リリアの発言を遮りシンヤが提案した。
「まぁいいんじゃない。」
「その方が楽しそうですしね。」
カンナとアルスも賛成した。
「…。」
リリアは不服そうであるが、みんなの意見にあえて反対するような人間ではなかった。
「じゃあ行くか。」
カンナたちは町へと繰り出した。
町の様子は観光客らしき人達がちらほらいるくらいであまり栄えている感じはしない。町の規模自体スタッドに比べると小さいのである。小さな田舎町といった風情である。そう見るとそれはそれでよい雰囲気のある郷愁を感じる。この懐かしい感じはスタッドやその周辺の町では味わえない。カンナにとっては知らない町であるが、懐かしいとはこういうことかと感じさせた。飲食店や土産物の店はあるにはあった。カンナたちも土産物の店の中を見た。お菓子とかキーホルダーとか定番のものしかない。
「なんか故郷に帰ってきた気分だなぁ。」
アルスがしみじみと言った。
「アルスさんの実家ってこんな感じなんですか?」
「うーん。別に観光地じゃないけど町の規模はこんな感じかなぁ。」
「アルスさんの故郷見てみたいです。」
「そのうち連れて行ってあげるよ。」
「それは楽しみです。私には故郷がないのでなんだか羨ましいです。」
「何を言ってるの。カンナの故郷はスタッドの町でしょ。」
「えっ?故郷って昔住んでいた所ですよね。」
「いやいや住んでいても故郷よ。」
「肉親のいない私にも故郷があるのですね。」
「そうよ。」
アルスとカンナが何だかいい話しているとリリアは少し暗い顔をした。その様子に気づいたカンナが慌てた。
「何かすいません。」
「…いや気にしなくていいわ。」
「そういえばリリアにとってはスタッドが第2の故郷ね。」
アルスがそう言うとリリアは無表情ながら嬉しそうな雰囲気を醸し出した。
「故郷って二つ目もあるんですか?」
「あるよ。」
にかっとアルスは笑顔を見せた。リリアへのフォローにカンナはアルスの大人っぽさを感じた。4つ違うだけでこうも違うのかと自分の未熟さを改めて感じたのであった。
「なぁ、ここにしようぜ。」
「えー。可愛い女の子たちを連れてここはないでしょ。」
そこは少し古びた食堂だった。近所の常連さんが多そうな昔ながらといった感じの佇まいであった。
「私はここでもいいですよ。」
「シンヤが言うなら。」
純真無垢のカンナとシンヤ絶対のリリアは賛成した。
「二人がそう言うなら多数決ということでいいわ。」
まだアルスは不服そうだったが、みんなが言うならということで賛成した。
店に入ると外観通りの店だった。みんなでラーメンを食べた。お代はもちろん割り勘。シンヤが奢るなど有り得ないことであった。
「あー旨かった。」
アルスは体を伸ばした。リリアやカンナも満足そうであった。シンヤは。
「たく、アルスの野郎奢れとか何様だ。せっかくのラーメンが不味くなった。」
「そう怒るなよ。冗談だよ。」
アルスに悪態を吐いていた。
その日はみんな宿屋に戻り解散となった。