モンスター調査 その4
「シンヤさんはまだ来てないですね。」
「きっと調査のための道具とかを準備しているから時間がかかるんだと思う。」
「シンヤくんは女子よりも準備がかかるなんて何を持ってこようとしているのかしら。」
「うーん。罠とか?」
カンナは考えてみたが、罠くらいしか思い付かなかった。基本的に大型モンスターの討伐していて時には罠を使った狩猟もするが、調査というのはしたことがなかった。だから何を持っていく必要があるのか今一イメージがわかなかった。結構な大荷物だったら運ぶのが大変だろうなと思った。絶対にシンヤはカンナたちにも荷物を持たせようとするだろうなとも思った。
「シンヤくんは絶対に荷物を持たせるわよね。あの人女性差別なんてしないから。」
「やはり、シンヤは男女平等主義の立派な人です。」
「いやいやそういう意味で言ったわけではないから。」
頬を染めているリリアにアルスが突込みを入れた。
「あんたも好きねえ。どこがいいの?あんな研究狂で人使いの荒い思いやりのまったくないやつよ?」
「シンヤは私の恩人ですから。何においてもシンヤのためにやりたいのです。」
「そういう風に思って生きれるのは幸せですね。」
「うん。私は今が一番幸せ。」
「純粋な子ね。」
リリアの純朴さにアルスは思わず笑みをこぼした。優しい気持ちになるのだろう。リリアといると心が温かくなるようである。カンナも感心したようににこにこしていた。
「ところで乗るバスはどれですか?」
今日乗るバスがどんなのか気になったカンナは聞いた。とんでもなくぼろぼろだったらどうしようかと思った。カンナたちが住むスタッドは魔法文明国家群の都市の一つで交通の整備が進んでいるとはいえ、科学文明国家群からのおさがりのおんぼろ機械を使ったりするので、バスが乗り心地最悪のおんぼろの時もあるのである。
「それならあれと同タイプのバスよ。」
カンナがアルスの指を指した方を見るとそこにはまだまだ綺麗な外装のバスがあった。テレビとかで首都圏の町を走るかんじのバスであった。
カンナは一安心した。中は見てないが外装の感じからは快適な旅になりそうであった。
「これ高かったんじゃないですか?」
「大丈夫だよ。なんか大型モンスターが道の途中で出没するとの情報があって、チケット代安くなってたから。」
「シンヤさんが文句言わなければいいですが。」
「カンナ、安心して。シンヤは私が守る。」
「あたしたちは助けてくれないの?」
「もちろん、カンナやアルスのことも守ります。」
「頼もしいわね。」
「微力ながら私もリリアさんの手伝いをします。」
「ありがとうカンナ。」
カンナとリリアは固い友情の握手を交わした。それを見てアルスは苦笑いしていた。
「中々来ないわねシンヤくん。」
「やっぱり荷物が多いんですよ。」
「大丈夫。カンナ、アルス。家からの距離的にもう時期来ると思う。」
「へぇ、リリアはシンヤくんの家知ってんだ。」
「はい。シンヤのことはよく知ってます。いつでも見てますから。そう、勉強中でも食事中でも入浴中でも。」
中々ストーカーなことを言うリリアにアルスとカンナは顔をひきつっていた。
「アルスさん。突込み入れた方がいいですか?」
「いや、この話には深く入らない方がいい。それにしてもシンヤくんには幽霊にとりつかれてるとの噂話があったけど、多分リリアのことね。」
「その噂話聞いたことあります。」
カンナとアルスはひたすら苦笑いして誤魔化すしか何も言えなかった。口達者なアルスには珍しいことであった。
そんな風にしてカンナたちは会話をしていた。そこにでかい荷物を携えたシンヤがやって来た。普段の運動不足が祟ったのか、すごく辛そうである。一応冒険者だがよく自室に籠ることが多く、あまり運動能力は高くない。
「はあはあ。」
息を切らしてシンヤはバスターミナルに到着した。リリアはすぐに立ち上り、ボーンとゴースト少女のチャチャを冒険者カードから出した。
「ボーン、チャチャ。シンヤの荷物を運ぶのを手伝いなさい。」
最近の冒険者カードはデジタル化しており、ネットや電話、メールができる。その他にも仲間のモンスターを呼び出したりできる。その場に応じたモンスターを使えるのである。
「わしは肉体派ではなく頭脳派なのだがな。」
ぶつぶつボーンは愚痴っていた。
「私は楽しいですよ。」
一方、チャチャは楽しげである。いわゆる幽霊のチャチャは人間だった頃から肉体労働に慣れており、忙しく働き回るのが好きなのである。
「まぁ、お主は人間だった頃からそういう風に生きていたかもしれんが、わしは人間だった頃は軍で参謀だったのじゃ。だから働くとはいっても、肉体労働ではなく知的労働なのだ。」
骸骨のボーンはそう言うと溜め息をして荷物を運び始めた。ボーンとチャチャが運んでいるとカンナが何だか悪い気がして一緒に荷物を運ぶと申し出た。
「ボーンさんとチャチャちゃんだけに任せるのは悪いわ。」
「いい子じゃのうカンナちゃんは。」
「そんなに気にしなくていいのに。」
ボーンは骨を動かして笑みを作った。目玉はないがその目は笑っているような気がカンナはしていた。一方、チャチャはカンナの好意に対して素直に喜んでいた。
「まぁ、頑張んなさい。」
いつの間に買ったのかジュースを片手にベンチでアルスは寛いでいた。何様だろうとカンナは思った。シンヤの方を見るとシンヤは荷物に寄っ掛かり休んでいた。大荷物を背負って来たので疲れたのだろう。
カンナたちが荷物を運んでいるとリリアも手伝った。四人で分担して運ぶとバスへとあっという間に積み終えた。
「シンヤさん。」
「なっなんだカンナ。」
「こんなにたくさんの荷物を何に使うんですか?」
「観察用の機材だよ。体温で形をとらえるカメラとか虫を誘き寄せるための道具とかそういうのだ。」
「本格的ですね。」
「おいおいいいか。調査期間は数日だがモンスター調査は昼間ぶらぶらするだけじゃねえぞ。夜も見回りしてモンスターたちの様子を探るんだぞ。」
「ええ!そんなに大変なの!?」
何故かアルスが驚いていた。カンナが思うに多分アルスはモンスター調査もそこそこに遺跡で宝漁りをしようと目論んでいたのだろう。
「はあ。」
「帰ろうかな。」
シンヤの溜め息にアルスは落胆していた。
「帰るのは勝手だが、遺跡の調査は許可なく入れないから次いつ入れるかわからんぞ。」
「くそ!」
しぶしぶといった感じでアルスは納得したようである。
「そろそろ乗りましょうよ。アルスさん。チケットください。」
「あいよ。」
アルスがカンナ、リリア、シンヤにチケットを渡した。そして、四人はバスに乗車した。バスは一つの列に通路を挟んで四席あった。カンナたちは前と後ろに二人ずつ座った。
「ちょっと待て。」
座ろうとした時、シンヤが顔をしかめて止めた。
「ねえねえカンナ!私は窓側ね。」
「はっはい。」
「無視すんな!」
何事もないように喋るアルスにシンヤが突込みを入れた。カンナは一波乱ありそうだなと思った。リリアは頬を染めて静かにカンナたちの前の窓側の席に座っていた。
「なんでこの席順なんだ?」
「おお熱いね。」
「わざとか?わざとだな。」
シンヤは眼光鋭くアルスを睨み付けた。カンナはまたアルスさんは騒ぐの好きな人だなぁと思っていた。
「何にそんなに意識してるの?」
「そ、それはぁ。」
急にシンヤは俯いた。それを見てアルスはにやにやしている。からかう気満々である。
「口は悪くても性根は純情なんだから。」
「そんなことはない。」
「そういう風に言うことがもう純情さを感じさせるのよ。」
「何を言ってもからかいやがる。」
シンヤは憤慨していた。アルスのおちょくり方は見事である。カンナもアルスの口八丁はすごいと思っている。また、その餌食にならぬように細心の注意が必要だとも思っていた。一度、餌食になったことがあり、まあ、可愛がられた。カンナはあまり口を挟まない方が良いなと考えた。アルスのからかいが自分にも降りかからないようにしたいのである。
「本日はバスのご利用ありがとうございます。」
「ほらほらシンヤさん。バスが出発しますよ。座ってください。」
「ふふふバスの旅をお楽しみください。」
「お前が言うと腹が立つんだよ!黙ってろ!」
「嫌ですう。」
「くっこいつは。」
まったく悪びれないアルスにシンヤはいらいらした。この二人が仲良くなる日はあるのだろうか。
「出発しますのでお座りください。」
「ほら、座ってくださいだって。」
「覚えてろ。」
「何かなそんな負け役の捨てゼリフみたいなのわ。」
「なんだと!」
「出発しますのでお座りください!」
運転士に怒られた。
バスは出発した。乗り心地は良かった。景色はのどかな里山を見ながらコンクリートで整備された道路を進む。スタッドの町からマッドスの町までには高速道路はない。高速道路は科学文明国家群の地域に整備されており、魔法文明国家群の地域にはまだ整備されていない場所が多い。時間がかかるが、コンクリートで整備されている分にはまだましである。僻地に行くと砂利道や一応道路となっている未舗装の道路なんかがあり、乗り物は揺れに揺れて大変である。車酔いしてしまう。
しばらく乗っているとアルスは寝てしまった。出発する時はハイテンションだったのに少し黙っていただけで眠気に負けて寝てしまったようだ。
「やっと静かになるな。」
「ずっとからかわれていたですもんね。」
「腹が減ったな。昼めしはあるか?」
「シンヤこちらに。」
「サンドイッチか。」
「はい。シンヤの好きな卵です。」
「なんで知っている。」
シンヤは驚いていた。リリアは何事もなく理由を述べた。
「私はシンヤの好みなら何でも知ってます。いつも見てますから。」
「お前って幽霊か?」
「シンヤは冗談が上手です。私は幽霊を使う側の死霊使いです。幽霊ではありません。」
「そうだよな。ははは。」
シンヤが苦笑いするなんて珍しいことだとカンナは思った。バスは目的地へと進む。