モンスター調査 その3
「いっいつからそこにいた。」
本気でシンヤはびびっていた。何せ真後ろに立っていたからである。リリアはいつもこうである。ふっと突然側に立っている。ホラーみたいである。特にシンヤにはいつも気づかれずに側でボーっとしている。慕っているのだろうとカンナは思う。アルスや他のみんなもその話になるとにやにやしたり、親が子を思うような口調になったりする。今もアルスはにやにやしている。
リリアは14才の冒険者である。いつもボーっとしている。寒かろうが暑かろうがである。影が薄くて気づいたらそこにいるような人で、いつも驚かされる。職業は死霊使いである。大変珍しい職業でカンナが知る限り、リリアしか見たことない。死霊使いとはようはアンデッド系のモンスター専門のモンスター使いである。リリアはかなりの腕前らしくモンスター使いの大会でも大活躍しているそうだ。
「リリアも参加するの?」
「はい。シンヤの役に立てるのらどんな冒険でも頑張ります。」
リリアはアルスに言われると頬を染めていた。きっと、人助けするのにちょっと照れているのだろう。そうカンナは解釈した。
「そっそうか。」
シンヤは顔をひきつらせていた。
シンヤはリリアが苦手だと聞いたことがあるなぁとカンナは思い出していた。あんなに慕われて何でだろうとも思った。
「はは!相変わらずだねシンヤくん。」
「うるせえよ!」
怒鳴るようにシンヤはアルスの言うことに過敏に反応した。
「何をそんなに怒るのかね。」
「くっ、こいつ。」
「はは!」
アルスの挑発に歯ぎしりしてシンヤは怒っていた。シンヤは勉強はできるが、機転はあまりきかない。冒険者はよく挑発的なジョークを言うが、シンヤは真に受けて怒る。シンヤは強力な魔法が使え、怒ると打っ放すので軽い気持ちで挑発すると大変なことになる。大抵の冒険者はその辺よく知っているので、あまりシンヤに絡んだりしないが、アルスやさっき会ったカグヤなんかはよくからかっている。
「ふん!」
「怒ってるね。」
「怒ってねえよ。」
「シンヤさんをあまりいじめてはダメですよ。」
「そう、シンヤをいじめていいのは私だけ。」
「おい!リリア!余計なことを言うな!」
無表情でリリアは一歩後ろに下がる。一応、驚いているようだ。アルスはますますにやにやしている。
「リリアちゃんにそんな酷いこと言っちゃダメですよシンヤくん。もっと女の子には優しくしないと。」
「お前以外には優しくするけどな。」
そう言った直後、シンヤは不味いことを言ってしまったことに気づいた。アルスが増長する。アルスの方を見るとさぞ驚きましたというように両手を開いて仰け反るような姿勢になっていた。やってしまったとシンヤは思った。これでさらにからかわれる。
「ふふふ、リリアには優しくね。」
「シンヤ、その優しさありがとう。」
「シンヤさん。アルスさんも優しくしてあげてください。」
天然のカンナとリリアはまったく理解していなかった。ただ、アルスだけ楽しげである。シンヤはいらいらしていた。
「俺はクエストの手続きをしてくる!」
シンヤは勢いよく立ち上り受付に向かった。
「おお逃げるのか?情けねえな。」
「うるせえよ!」
アルスの挑発にシンヤは怒鳴り返していた。
ありゃ完全に機嫌を悪くしたわとカンナは思った。
しばらくするとシンヤが戻ってきた。
「おい。お前らなんかダルブ草原への行き方説明するらしからみんな来いってさ。」
「ダルブ草原って歩いて行くんじゃないんですか?」
「いやいや歩いて行ったら何日間も歩き通しよ。」
「そうなんですか?」
「ああ。マッドスという町に出てそこから行くんだ。」
マッドスの町まで歩いたら3、4日かかる。その町名を知っていたカンナは納得した。
カンナたち4人は受付に行った。
受付嬢はこう言う。
「ダルブ草原への行き方ですが、まずスタッドから出ている長距離バスに乗ってマッドスまで行きます。そこからダルブ草原へのシャトルバスに乗って行ってください。」
「へぇ、シャトルバスあるんだ。」
アルスは意外だなぁと思っていた。カンナも知らなかった。リリアはボーっとしている。
「あそこって観光地なんですか?」
「ええ。とはいってもここ数年ですけどね。」
「だからなんだろうな。」
「何がですかか?」
「だから、観光地として野生のモンスターを見物できるようにしたら数が減ってどうしようとなっているんだろう。」
「もしかして、原因が危険なモンスターだった場合のことを考えて自分たちではなく、冒険者を雇って調査させようということか。」
アルスが口を挟んできた。それにシンヤは相づちしていた。その通りであろう。多分、ダルブ草原の観光を運営している人たちの中には銃といった冒険者や軍人じゃなくても扱える武器を使える人もいるだろうが、上級のモンスターが相手になったら対抗できない。そこの点で冒険者に頼んだ方が無難であろうとなったのであろう。それは賢い判断であろう。上級モンスターの戦闘能力は生半可な冒険者では死ぬ。素人なら論外である。その点、カンナたちはシンヤを除いてみんな上級職である。シンヤも職業のランクとしてはそれほど高くないが、魔法が使え、かなりのレベルである。彼らなら上級モンスターが出てきても十分対抗できる。だから、ギルド側も許可をしたのだろう。
「それとほら遺跡の調査もできるじゃないですか。あそこはほとんど人が入ったことがなくて、もしも魔王軍残党の基地だったら大変ですからそういったことからも冒険者に依頼したいみたいですよ。」
「中々大変そうなクエストですね。」
「ふん!カンナ、ダルブ草原のモンスターの生態を知るいい機会だ。これぐらいの危険大したことない。」
「いやぁ、魔王軍残党がいるかもしれないよ。」
「アルス。嫌なら帰っていいぞ。」
「帰りたいわけでは。」
「シンヤ。私が守りますからご安心を。」
「そっそうだな。」
シンヤはリリアにはたじたじであった。
出発の時間までにはまだ余裕があるので、シンヤは必要な物を取ってくると言い一旦帰って行った。リリアが手伝うと言ってついていこうとしたが、シンヤは逃げるように走っていった。シンヤのことになると積極的になるリリアをシンヤは苦手にしていた。
「ねぇ、カンナちゃん。鯨丸持ってくの?」
「やっぱ邪魔ですかね。」
「バスに入れるの大変だし、ダルブ草原って大型モンスターいないからもっと小型モンスター向けの小回りの利く片手剣の方がいいんじゃない?」
リリアも頷いていた。
「そうですね。」
いつも一緒に冒険していた愛刀を置いていくのはなんだか寂しく悩んでしまう。でも、カンナはわかっている。なので、置いていくことにした。
「じゃあ、ちょっと鯨丸を置いてきます。アルスさんとリリアちゃんは先にバスターミナルに行って座席を買っといてください。」
「りょ~か~い。」
「わかった。」
アルスとリリアはバスターミナルの方へと歩いていった。それを見送りカンナは春の花院に一旦帰って行った。
春の花院に帰ると先生が昼食の支度をしていた。子供たちは学校へと行っているようであった。春の花院の子供たちが学校に通えるのはカンナの支援によるとこが多い。初めてカンナが先生や子供たちにお金を出すから学校に通うといいと言った時、子供たちは喜び、先生は泣いていた。それを見たときカンナは冒険者になってお金を稼いできて良かったと心の底から喜びは湧き出てきた。
「先生ただいま。」
「あら、今日は冒険に行かないの?」
「これから数日ダルブ草原に行ってきます。」
「何のクエストなの?」
「モンスターの生態調査。」
「気を付けてね。」
「大丈夫ですよ。腕の立つ人たちのパーティーで行くから。」
「頼もしいわね。」
先生は微笑んでいた。それを見るとカンナも自然と笑顔になる。包まれるような優しさを感じるのだ。
「あんまり無理してはダメよ。何かあったら子供たちも悲しみますからね。」
「はい。春の花院のためにも無事に帰ってきます。」
「そうですか。」
まだ、心配そうに先生はしていた。カンナはいつも心配かけてすまないなぁと感じた。でも、春の花院の子供たちのために危険でもクエストを頑張るしかない。そういう固い決意をカンナは持っていた。
「そうだ。昼食はどうするの?」
「出発前にギルドで食べようかと。」
「それなら今から野菜炒め作るから持っていきなさい。」
「そんな悪いですよ。」
「いいのよ。いつもカンナが世話になっているのだから。」
「うーんでも。」
「お言葉に甘えるのも礼儀よ。」
「わかりました。ありがとうございます先生。」
先生に半ば押しきられる形でカンナは先生特製の野菜炒めを持っていくことにした。
鯨丸をいつもの場所に立て掛けるとカンナは倉庫から片手剣を取りだし腰にさし、必要な道具を巾着に入れて腰に着けた。野菜炒めを入れたケースを手に持った。準備は整ったのでカンナは先生に挨拶し、再びギルドへと向かった。シンヤにデジタル化した冒険者カードでシンヤにギルドで待つと連絡した。わかったと返事が来た。
カンナがギルドに戻ってくるとまだシンヤは居なかった。出発までまだ時間があるが、バスターミナルに行くことにした。アルスとリリアの所へ一足先に行くことにした。先に行っているとの連絡しておいた。
バスターミナルに着くとリリアとアルスがベンチに座っていた。
「おーい。アルスさん、リリアちゃん。」
「おう。カンナ。」
アルスが元気よく手を振っていた。リリアも慎ましく手を振る。あの様子だとバスのチケット購入は恙無く済んだようである。問題が起きてなくて良かった。何かあればシンヤの小言がうるさいのである。まぁ、アルスさんにそれやると返しを喰らってシンヤは凄まじく不愉快になる羽目になるのである。カンナからしてみるともっと気を使って仲良くやってほしいと思うのである。ちなみにリリアに対してシンヤが小言を言うと神妙な顔をして真剣に話を聞く。嫌な顔一つしないので心が痛みシンヤの方が根を上げてしまう。
カンナは自分もベンチに座ろうと思いアルスの隣に座った。